第四十五色 続く洞窟、続く緊迫
「探知魔法が場所をやっと割り出したぞ!」
カラドックの興奮したような言葉と共に希望が生み出される。自警団の団長が指示を出していたであろう人物がいつの間にテーブルのところにおり、慌てて扉を見れば勢いよく開けられたのか半開きになっていた。どうやら大急ぎで探知魔法を成し遂げて大急ぎでやって来たらしい。扉が半開きになるくらいの早さで。騒然となった周囲にその証拠を叩きつけるように新たな資料を手にした人物が資料を掲げながら叫ぶ。
「探知魔法で居場所が分かりました!町の近くの森の、洞窟です!以前、盗賊のアジトとして使われていたところで、今探索部隊が確認に行っています!正確な場所までは魔法が跳ね返ったりするので微妙ですが、場所は確かです!」
「よし。すぐに討伐部隊を編成!洞窟に関しての情報は!?」
一斉に再び動き出す人々。一刻を争いながらも慎重に、正確に相手を仕留め、子供達を救出するため動き出す。同時にテーブルに広げられたのは巨大な地図。この町を中心に周囲の地形や森が描かれており、作戦会議にはぴったりだ。アーサー達もその地図を覗き込むと先程の人物が「此処です」と黒く塗り潰された場所を示した。そこには「盗賊の森」と云う異名染みたものが書かれており、大きく目立つように件の洞窟が描かれている。
「洞窟は今から数百年前、盗賊が使っていました。いくつも入り口があり、それで侵入者や敵を惑わせていたようです」
「じゃあ、いくつかは偽物ってことかな」
グリフレットが問いかければ、書類をテーブルにぶちまけながらその人は告げる。バサリと放り投げられた資料は地図の片側にまとまって広がっていた。
「いえ、全て中で繋がっているとのことです。昔の文献資料になりますが、盗賊を討伐する際、中に入ったところ敵だと思って攻撃したら味方だったとの話があります。暗闇で分からなかったと云う理由もありますが、のちに確認したところ全て繋がっていたようです」
ぶちまけられた書類にはつい先程人物が言ったことがそのまま書かれており、記載名には昔の人の名前が書かれていた。しかし、洞窟全体と内部の地図はないらしく、文字だけの資料が散らばっていた。
「じゃあ中で合流も出来るってことか……洞窟に近づいたら魔物に気づかれる可能性もあるな」
「でも昔の人が盗賊じゃなくて味方とぶつかったんでしょ?抜け道もあると考えた方が良いよ」
カラドックの言葉にアーサーも口元を押さえて云う。手元の資料に目を移すと洞窟の入り口は計四つと記されている。そのうち盗賊が出てきたのは入らなかった残り二つ。しかし、全員討伐、捕縛出来なかったことから抜け道があると見られている。魔物がその抜け道を知っていても知らなくても全てを討伐するためにはその抜け道さえも潰さなくてはならない。また、洞窟の中央には大きな空洞があり、そこで盗賊が寝泊まりしていたとされると書かれている。牢屋のようなものはないらしく、いくつかある行き止まりをそのような用途として使用していたようだ。ならば、子供達は行き止まりがある何処かに連れ去られたのだろうか。洞窟内は恐らく暗いだろう。突然誘拐されて暗いところに放り出されたと考えると、どれだけ恐ろしい思いをしているのかと考えてしまう。自分が持っていた資料を覗き込んで来ていたルシィに渡し、アーサーは作戦会議に口を挟む。
「入り口が四つあるらしいから、全部を防いでからの突入が良いよね」
「それか誘き寄せるか。僕達もやられたんだしやり返しても良い感じだけど、魔物の量によるだろうね」
「自警団は町の警備にも何人か割る予定だ。その分を傭兵達で補ってはいるが、怪我人……死傷者の関係だな」
「そこも計画的、ってか」
壁の修繕と死傷者の関係で自警団も傭兵も多くは出せない。壁の破壊からの侵入で多大な被害を被っているのだ。子供達の救出も大事だが防御面もこれ以上、被害を出すわけには行かない。クッと唇を噛み締めたのは魔法に弄ばれているような感覚と未練半ばで死んでしまった仲間を思った悔しさと悲しみからだった。と、その時、探索部隊から情報が来たのか、担当しているであろう団員の一人が片耳を塞いでぶつぶつと呟いた。連絡魔法を使っているらしく、邪魔な音をシャットダウンしている。すると自分達が団員を見ていることに気づいたのか大声でこちらに情報を投げた。
「探索部隊からです!入り口四つのうち三つに魔物の姿を確認。魔物が出入りしているのも確認が取れました」
「じゃあ此処で正解ですね。サグラモールさん、様子は?」
その情報を聞き、ルシィが自身に寄りかかるようにしてすがり付いていたサグラモールに問う。自らの魔力を使用してはいないとは言え、式に微妙に意識が持っていかれるらしい。何も知らない者から見れば、具合が悪いのかと思われるが実際は違った。軽く重い息を吐くサグラモールにアーサーとルシィの心配そうな視線が向けられるが、サグラモールは大丈夫だと笑ってみせる。
「様子、と言ってものぅ。魔物がいないことだけは確かじゃな。数は少ない。外を重点的に攻めているようじゃな。確信はないが」
「探索部隊より通達。彼女の云う通り、外に魔物が集中しているとのこと」
「洞窟内は警備が薄いのかはたまた戦略か……嬢ちゃんーじゃなくてサグラモール、移動って」
「やっておる」
カラドックの問いにサグラモールがズバッと断言した途端、フラッとルシィに倒れかけた。慌ててルシィが彼女を受け止め、一瞬協力者の気絶に場は騒然となる。しかし、ルシィの安心させるような優しい笑みに全員大丈夫だと察したらしく、ホッと胸を撫で下ろした。アーサーも安心しつつ、ルシィに抱き止められたサグラモールの前髪を掻き上げると彼女の瞳は何処か虚ろになっていた。心、此処にあらずと言った感じだ。サグラモールが飛ばした式の効果を正確には知らないが、どうやら無事のようだ。
「そう言えば、サグラモールが飛ばした式って?分かる範囲でも良いから知りたいんだけど……一応で魔法かけて確認して良い?」
唐突に疑問をグリフレットが口に出せば、あらかじめ説明を受けていたのかルシィが「かけなくても大丈夫です」と前置きと共に答える。
「サグラモールさんによると意識を違う場所、この場合は式がある場所へ意識を飛ばすらしいです。違う場所で式が破れなければ動くことも喋ることも攻撃することも可能らしいです。あちらとこちら、両方に半々で意識を飛ばしている場合は先程のようになるようですが、今はあちらに全て飛ばしていますね」
「嗚呼、だからそんな目してんのか。ならそのままサグラモールに何処かの入り口、魔物が集中していない場所に移動して貰おうぜ。動けんならもしもの場合でも対応出来る。だが……意識ないんじゃわかんねぇかぁ」
「大丈夫じゃないかな。僕が保障するよ」
「今、意識ないから無理だなぁ」と言わんばかりのカラドックの疑問と言うか言葉にグリフレットがクスクス笑って答える。二人の関係性を知らないカラドックは「はぁ?」と怪訝そうに首を傾げていたが、『覇者』だからこそなにか確信があるのだろうと納得する。まぁ此処で『覇者』だと告げることは出来ないので関係と云うよりも事情を知っているアーサーは口を押さえて笑うしかない。それを見たカラドックが仲間外れに感じたのかアーサーの首元に右腕を絡ませて「なんだよ~おっさんにも教えてくれぇ」と絡んでくる。そんなカラドックをさりげなくかわしながらアーサーは言う。
「とりあえず子供達関連はサグラモールから聞くとして、俺達は突入の方に集中しよう……カラドックさん離れてー」
「そうだね。ハイハイ、カラドックはアーサーから離れようね~」
「オレは仲間外れかよぉ」
「サグラモールが僕を師匠って呼ぶから、弟子は大丈夫って意味。これで満足でしょ」
「ほらぁ」とアーサーからカラドックを引き離しつつグリフレットが言えば、彼は少しだけ噛った歴史書からその答えを見つけたらしく、本当は興味があるのに如何にも興味なさそうな声を上げながら離れた。そんな彼をしょうがなさそうにグリフレットが笑う。こんな状況だが仲良いなぁとアーサーは嬉しく感じつつ、意識を洞窟内に飛ばしたサグラモールを横抱きにして多少オロオロと困った様子のルシィを振り返った。その様子がいつしかのユーウェインとパロミデスに見えてアーサーはクスリと笑った。
「ルシィ、サグラモール、そこのソファーに寝かせてたら?」
そう言ってアーサーが指差したのは窓際にある二人用のソファーだ。だんだんと暗くなる、オレンジと黒のグラデーションに彩られたまるで絵のような窓の近くにあるソファーは空のグラデーションと同じ色合いを持っており、緊迫したこの空間には何処か不似合いのようにみえる。
「そうですね。そうします、また起きるかもしれませんし」
「サグラモールの姉様なんだから一緒にいてあげな。そこからでも情報は聞こえるだろうし」
「そうですね……って、からかわないでください」
クスクスと愉快げに笑うアーサーにルシィが頬を膨らませて抗議するが怖くはない。次第にこの緊迫した空気を緩和させようとしたのだと気付き、ルシィは軽く頭を下げるとアーサーの優しさに甘える事にした。なんだか周囲の視線が生暖かい気がするのは気のせいか。そんな空気を手を振って掻き消すとアーサーは地図をもう一度見た。出入口は四つ。そのうち三つを魔物が使用。使用していない出入口にサグラモールの式が誘導出来れば良いが、相手は将来有望と言っても子供だ。まだ実戦すらやったことがない彼らを無理に引き出すのは気が引ける。サグラモールは使っていない入り口に向けて動き出すだろうが、確実にその場所のみを狙っての誘導は難しいだろう。なら
「魔物が使っている入り口三つにも部隊を送り、敵の意識をそちらに向けさせよう。その間に子供達を救出する」
「中に魔物がいる可能性も否定できねぇからな。どっかの入り口では魔物を引き寄せつつ、中に突入しても良いんじゃねぇ?」
団長の提案にカラドックが別の案をかぶせる。確かに数が少ないとは言え、決していないと云うわけではない。カラドックの提案にグリフレットも先程アーサーが見ていた資料を見ながらかぶせる。
「カラドックの案もそうだね。洞窟内には空洞があるらしいからそこで他も討伐した方が被害は最小限になる。子供達は実戦向きじゃない。悪い言い方だけど戦力外と考えた方が良いよ。子供達が脱出する入り口で魔物が全て討伐出来ていない可能性だってある。何処から逃げるか、僕達にはわかりっこないんだからね」
「それも一理あります。団長、部隊を六つ編成し、四つ全てに部隊を向かわせましょう。そこで魔物の出入口が確認されていなかったところの部隊を二つにわけ、一つは突入、もう一つは監視にするのは?」
「もう一つは後方支援、か」
グリフレットの提案を聞き、団員の一人が進言する。そうすれば、何処から子供達が脱出しても挟み撃ちになるのは魔物なため、子供達を優先して救出出来る。何処か引き付けている場所であっても後方支援と内部から突入した部隊があるため、手は足りている。つまり、今考えられる作戦で一番良いと言えるだろう。アーサーは洞窟が描かれた地図を見る。描かれている入り口は一つだが、実際は四つ。多分……
「魔物が使ってないのは裏口、森の奥の方だね」
「?どうしてそう思うんだ?」
唐突に呟いたアーサーにカラドックが疑問をぶつければ、アーサーは自分なりの持論を唱える。
「魔物は俺達が出入口が四つあるなんて知らないでしょ。もしわかったとしても今のこの時間、分かるのは月光が届く範囲。洞窟の裏にまでは意識も光も届かない。だからこそ使用していない」
アーサーの言葉にカラドックは「はー」と感心したように声を荒げると嬉しそうに彼の頭を撫でた。まるで褒めるような手付きに少々困惑するアーサーだったが、なんとなくカラドックが刺客を狩っていたのか、傭兵仲間が率先として撹乱していたのか納得出来た。一方アーサーの考えにグリフレットも納得し、感心したように目を丸くしていた。これでも副隊長ですしぃ?と小さく胸を張っておく。それに気づいたのはサグラモールを介護しているルシィくらいだろうが。アーサーの案も取り入れ、作戦は着々と進んで行った。気づけば外では夕陽が消えていた。
色々進みます(言うことが一時なくなった模様)
次回は金曜日です!




