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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
47/130

第四十三色 黒く染まった裏の手


火花がバチバチと散る。いつもの()。悪夢にも似た()

暗いその空間に浮かぶはいくつもの色で。まるで星々ように美しく幻想的で。夢であって現実。悪夢であって幻。嗚呼、けれどもその色の結末をはからずも知ってしまっていて。黒とでも言うのか、紅とでも言うのか、そんな悪夢()に飲み込まれていく美しくも残酷な色。そう、それ意志の色。悪夢にも負けなかった()()の意志の色。世界に伝わる無限の可能性。世界に与えられたもう一つの希望の光。()()には強すぎる歴史の物語。


「ねぇ、()はどうして逝ってしまったの?まだやりたいことがあったのに。運命、だなんて、()が一番わかっていたことだろうに」


けれども、答える声は遥か遠く。既にない。何度も云うように彼らはもうこの世にはいない。あるのは、彼らが遺した意志のみ。その意志を紡ぐ色のみ。世界を守るために、自らを守るために、仲間を守るために儚くもその身を捧げ、そうして散った哀れな、物語の語り部(エルフ)が紡ぐ物語。それは、長い時を巡り、こうして前に訪れる。世界の命運と共に。真実を突きつけて。


「ねぇ、教えてよ。この()の意味をっ!」


泣き叫ぶ人、仲間を庇う人、雄叫びをあげる人、剣を掲げる人、力を放つ人、魔法を唱える人、腕を振るう人、駆け出す人、目を閉じる人、手を伸ばす人、目を開ける人、恐れない人、そして決意する人。そこにいる全員が()()()()()()()()()()()!見えない顔が友人達と重なって、似ていて。嗚呼、なんて気味の悪い。何度も繰り返した血塗れの戦場。鼻に残った硝煙と、腐った匂い。手に、体に、顔に、剣に、こびりついた真っ赤な血!これを、地獄と言わずしてなんて表せば良い?これ以上の地獄(戦場)なんて、この世にありはしない!絶望を愛し愛された此処には、絶望以外きっとない!そう思ってしまえば、どんなに楽だろう。どんなに嬉しいだろう。しかし、そんなこと、夢なのに許してくれるはずもなく、戦場は回る。

頭を抱えてもう見たくないと踞れば、誰かが近寄って来て、手を取られた。それに思わず顔を上げれば、手を取った人物は聞こえない声でいつも告げるのだ。


「********」


悲しげな顔で、その胸元に真っ赤な華を咲かせながら。


そこで、今日の悪夢()は終わった。


……*……


十七時半。カッコ、カッコと壁にかけられた時計が静かに時刻を告げてくる。ダイヤ魔導国が普及させた時計。普及させたが故に何処か上品なその音が異様に聞こえてアーサーは両腕で自身の体を掻き抱いた。それにグリフレットが不安そうに顔を覗き込んで来るが大丈夫と微笑めば、グリフレットは「そう?」と前を向く。そこにあるのは巨大なテーブル。多くの紙や魔法がまるで星々のように展示され、テーブルを囲むようにして多くの人々がやれこうだ、いや違うなどと意見を交わしている。壁際にはサグラモールが回復魔法の使いすぎで疲れたらしく、寄りかかっている。その近くにはルシィがおり、周囲は二人を姉妹と見て、微笑ましそうに眺めて癒しをいただいている。この緊迫した状況では癒しを求めたくはなるが、全く持って違う。声高らかに言う勇気など今のアーサーは持ってはいないが。そんな壁際には質素なテーブルと大量の荷物、大勢の人々には少々不似合いなほどの肖像画や絵画が飾られており、床にはレッドカーペット。……不似合いなのはもしかするとこちらなのかもしれない。

待機していたアーサー達に告げられた二つの事実。一つ、門によって登録された人数が合わないこと。一つ、劇場に避難したはずの子供の数が合わないこと。門には出入りで町の人数を把握する魔法もかけられている。死亡者も合わせてもその数に足りず、そして何処を探し回ってもいない数十人規模の子供。


「魔物の襲撃は囮だったってわけか」

「可能性としてはそうだろうね。壁の破壊に気を取らせて目的である子供を拐う。あの破壊された壁から何体敵が入ったかなんて分かるはずないしねぇ」


アーサーの隣でカラドックとグリフレットが言う。テーブルに広げられた無数の紙。いなくなった子供の情報がびっしりと書かれた紙にアーサーは何気なく視線を落とした。魔物の襲撃から結構時間が経っている。最近、隣国で魔物による事件や被害が多発している以上、早急な行動が要求される。しかし、こんなにも多くの子供を拐って相手は何をする気だ?


「(サグラモールの時みたいに儀式?俺達が認知してないだけでその可能性は否定できない)」


じゃあ、その背後で糸を引いている敵の目的は?本来なら襲撃だけで良いようなものを誘拐にまで手を出す理由が分からない。


「そういやぁ、何処だっけな。人拐って強い魔物作ろうとしたのって」

「ダイヤ魔導国のかな、それ。魔牙が誘拐を企てたっていう……あ」


カラドックの問いで気づいたらしく、二人が顔を見合わせる。バンッ!と右手をテーブルに叩きつけて騒音にも似たざわめきを静めると大声で叫んだ。ちなみに此処は大声を出しても良いように作られている。だからこそ此処に傭兵や自警団が集められたと言っても良い。


「おいっ!誘拐された坊主共の魔力や実力は!?」

「え、えーと……」


鬼気迫るカラドックの気迫に自警団の一人が慌てて手前の魔法を操る。そこに浮かぶ情報の中から彼が求めている情報をピックアップすると、「あった!」と嬉しそうに告げる。


「あ、結構高めが多いですね。成長次第では自警団に……ん!?」

「気づくのおせぇぞ!」

「カラドックも人のこと言えないけどね」


空中に浮かぶ情報に誰もが目を疑う。魔力も実力も数値化出来ないが使える魔法属性などによってどれくらいの実力なのか完全ではないが、把握する事が出来る。誘拐された子供の多くは早くも中級魔法を使いこなす事が出来るようになった逸材ばかり。上手くコントロール出来れば上級魔法を扱える日も夢ではないだろう。魔物属性は一つが多いがそれでも成長力は計り知れないものがある。中には想属性の貴重な魔法を持つ子供までいる。つまり、誘拐されたのは魔法使いの卵達。魔物が人類を殺さずに誘拐するのは二つの理由があるとされる。それは人質と、魔物を生み出す生け贄にするため。ということは、


「あいつら、生け贄が目的だぞ!」


カラドックの言葉に再び周囲が騒然となる。最近、隣国で起きている事件を考えれば分かることだった。しかも今回は襲撃による目眩まし付き。計画的犯行すぎる。最初から狙いは生け贄だと言うことだろう。生け贄にする理由としては多々あるが、魔物の場合、生み出す際に媒体となる者の力が強ければ強いほど強い魔物が生み出される。魔物は多くいるため全てがそうやって生み出された訳では決してないが、何分まだ情報も少ない。それは人類を生け贄に取った場合でも変わらない。儀式と似ている。儀式は魔力を使う。この場合、多くの魔力があればあるほど良いとされる。


「し、至急探索部隊を編成!」

「いや、それよりも先に魔物が何処から来たのか突き止めなければ!」

「だから今それをやろうって言ってんだろ!?」

「誘拐された子供達の情報を至急!上手くいけば魔力で探知できる!」

「早くしないと!」

「壁は!?壁を修繕しないとまた来るんじゃないの?!」

「周囲の森に探知魔法を張って、それで……!」


一斉に動き出そうとする人々だがなにからやれば良いのか見当もつかない。こんな大がかりな事件など滅多にないのだから。その証拠に傭兵達もこの空気に飲まれたのかてんやわんやしている。時刻は既に誘拐されたと思わしき時間から二時間半も経過している。早く動いた方が懸命だが、この混乱ではただの無駄な地団駄にしかならない。そんな大混乱をどうにか落ち着かせようと奮闘するグリフレットとカラドックを横目にアーサーは眼下の紙に視線を移す。子供達の情報の中で一際輝く「重要!」の文字が書かれた紙。その紙に書かれた顔にアーサーは目を見開いた。だってそこに書かれていたのは酒場にいた……!


「ルシィ」


壁際に固まっていたルシィとサグラモールにその紙を見せるように掲げれば、ルシィは驚いたように目を見開いた。それだけで自分が見た者が正解か否かが判別出来る。やはり、自分の勘もルシィの鼻も当たっていた。アーサーは手にした紙を裏返し、内容を見る。紙に書かれた名前。それは明らかにリーナル大公の血を引く者と言うことを示していた。門の登録情報は個人情報も読み取るらしいが、この情報を見る限り名前と実力のみを読み取るらしい。先程の自警団の慌てようから見てもそうだろう。ならば、おそらくこの騒動の首謀者は気づいて襲撃を行った可能性もある。


「(……まさか、サグラモールを拐った魔物……)」


洗脳魔法を使う首謀者が今回の首謀者だとも限らない。次から次へと来る出来事に目が回る。そしてその先にある()()()に一瞬身震いすると、いまだ騒がしい大混乱の中にある彼らを見下ろした。此処にはカラドックの付き添い、いわば次なる仲間として、援軍としてきている。ならば、それを発揮させてもらおうじゃないか。ニヤリとアーサーがそう笑えば、一度ルシィとサグラモールを一瞥し、パンッッッ!!!と大きく手を叩いた。その甲高い破裂音に全員が何事だとアーサーを見る。が一瞬にして静まり返った大混乱に、何故彼がそうしたのかようやっと理解した。


「とにかく落ち着いてください。俺達が落ち着かないとなにも出来ませんよ。まずは先程言っていた探知魔法で誘拐された子供達を探知し、その間に捜索部隊を編成した方が良いと思うけど」


淡々とした、落ち着いたアーサーの助言染みた指示に誰もが一瞬静まり返った後、我先にと自らの力を持って動き出した。先程までの混乱は何処へやら。グリフレットでもカラドックでも止められなった大混乱からのそれぞれの行動に二人が唖然としてその周囲を見渡す。


「……アーサー、お前さん、何者なにもんだ?」


困惑したようなカラドックの問いにアーサーは答えず、その代わりに人差し指を口元に当てた。そんな二人の困惑にルシィはクスクスと愉快そうに笑っていた。

新しい『覇者』のお話です!

そしてアーサーは副隊長ですよカラドックさん。

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