Colour0.5 不透明
アルヴァナ帝国には騎士団が駐在している。城下町と宮殿を守るため、壁内の中で多くの騎士が生活をしている。中には城下町にある実家で暮らす者もいるが、その場合は城下町の警備に回る事が多く、大勢いる隊員全員の状況を把握して部隊が組まれている。これは各部隊の隊長による長い話し合いの賜物である。さて、そんな彼らの住居は宮殿の外にある。宮殿内部を専門に守る隊もあるため、結構大きめな建物となっており、質素な造りだ。また庭園に埋もれるようにして建っているため、宮殿内に魔物が侵入してきても分からないようになっている。通称、寮。女性は二人部屋、男性は四人部屋で、既婚者は二人部屋。基本的に同性との相部屋となっている。ちなみにまだ結婚していないユーウェインとパロミデスは別々の部屋で、アーサーは半分実家、半分寮暮らしである。休暇日が実家のため半々となる仲間は結構いる。また此処には他の国から来た戦士なども泊まることが出来る。まぁ、個人で主人の近くで守りながら寝るか、場を弁えて寝るか判断することになる。高確率で隊員達の住居を選ぶ。理由としては宮殿内専門の部隊が長時間交代で警備に当たっているからである。しかも、客人が来ている場合は時と場合により連絡魔法で教えてくれる。完全とはいかないが凄まじいセキュリティである。
閑話休題。
そんな建物の食堂。そこでは多くの仲間達が訓練や任務終わりの憩いの時間を過ごしている。そのテーブルの一つには髪を解いたディナダンが座っている。テーブルを挟んだ反対側の席には同じように髪を解いたユーウェインがおり、彼女の後ろにはパロミデスがブラシ片手に立っている。テーブルには多くの道具が篭に入れられて鎮座している。そのほとんどがお風呂道具で三人共に風呂上がりらしく、微かに湯気が立っている。ちなみに今は夜である。この建物の屋上からは美しいほどの星空と暖かい灯りに包まれている城下町が見下ろせる。そんな心暖まる光景を一日の終わりに眺めるのが最近のお気に入りらしく、ガヘリスはいない。マーハウスは疲れたらしく、数分前に眠ってしまった。そんな彼女を起こしては悪いとディナダンは有り余る体力と明るさを消費しようとしていたところで風呂上がりの二人に出会い、今に至る。風呂は共同である。
「パロミデスさんパロミデスさん、ユーウェインさんの次はウチの髪やって!」
「ダーメ。パロミデスはアタシ専用なんだから、ダメ~」
「えぇー?!」
身を乗り出して抗議するディナダンにユーウェインがクスクスと楽しそうに笑う。そんな二人を見てパロミデスも笑い、彼女の言う通りだというように愛しいと云うようにユーウェインの髪に口づけを落とした。もうそのやりとりもラブラブっぷりも何度も見たと言わんばかりに仲間達はその光景に和みさを感じながら自分達の時間を過ごしている。ユーウェインに駄目だと言われてディナダンはプクゥと頬を膨らますと突然、なにか思い付いたのか二人の元に回った。
「邪魔はすんなよ?」
「むぅ!ウチそんなことしないもん!駄目ならユーウェインさんの前に座ってやってもらおうと思っただけだもん!」
「あ、それ良い!パロミデスは終わっちゃったから手持ちぶさただったんだよね。ディナダンおいで」
ディナダンが「まさに名案!」とドヤ顔を決めれば、ユーウェインの許可がおり、軽やかな足取りで彼女の前に座る。パロミデスはしょうがないと云うように苦笑しながら後ろ手に櫛を要求するユーウェインに櫛を渡す。まるで仲良く洗いあっているような何処か和む光景に女性陣から小さく「可愛い~」と言う声が漏れる。まるで友人ではなく家族のようだと、パロミデスはユーウェインのブロンドの髪に指を絡ませながら思った。前方では楽しそうに鼻歌を歌いながらディナダンの髪をとかすユーウェインと気持ち良さそうに鼻歌を歌うディナダンがいる。二人して同じ鼻歌を歌って合唱しているのだから姉妹と言われても否定なんて出来やしない。微笑ましい様子にパロミデスは小さく笑い、彼女の肩にかかったタオルを手に取った。解かれた髪を優しく包むようにして髪とタオルを折り畳めば完成である。終わった、と二人の合唱を邪魔しないようにユーウェインの肩を叩けば、「ありがとう」と彼女がディナダンの髪を弄びながら言う。当分、そっちに意識が行くだろうなとパロミデスは椅子に座り直した。そうしてふと、いつもの連絡が最近ないことに気づく。
「ユーウェイン」
「ん?なぁに?」
「ノア様からアーサーらのこと、最近聞いたか?」
「……そう言えば聞いてない」
パロミデスの問いにハタッとユーウェインの動きが止まり、彼女の右耳の証が不安を示すように大きく揺れ動いた。毎日連絡するよう言われているわけではないだろうが、こうも数日ほど連絡がないとさすがに不安になる。櫛の動きが止まったユーウェインをディナダンが「どうしたの?」と無邪気に振り返るが「なんでもないよ」と無理矢理前を向かせる。そうして何事もなかったかのようにディナダンの明るい髪をとかす。
「でもこの頃、ノア様忙しいし。アタシたちに連絡してないだけじゃない?」
ユーウェインは自分で言っておいてそれはないかと内心納得した。ペリノアは何があろうと絶対に連絡してくる。『覇者』関係と言うのもひっくるめて心配であろう友人達の無事を伝えてくれる、教えてくれる。既に自分達もアーサーもルシィもペリノアの身内に入っている。大事な友人、仲間として。そんな彼が連絡を怠るのは筋違いにもほどがあった。『妖術』が見つかった時だってあんなに急がせたのに。
「ていうか、今日だってノア様、マーハウスと鍛練してただろ」
「引き分け!」
「ハイハイ、ディナダンは前向く!」
昼の鍛練を思い出したのか何処か興奮したように振り返るディナダンの両頬を摘むようにして掴んで再び前を向かせる。
「あれはもう二人の独壇場でしょ~アタシだって止めるのイヤだったもん」
「僕も同じに決まってんだろ。てかあそこにいた全員そうだろ……じゃなくて!」
ドンッとあらぬ方向に飛んでいく会話のボールにパロミデスが痺れを切らし、テーブルを叩けば、ケラケラとユーウェインが笑う。
「ん~でも、本当に連絡がないだけじゃないかな?……魔物による被害と事件が多発してるから余計に不安になるけど」
「巻き込まれる可能性はあっても死ぬなんてねぇだろ。強いし……油断は禁物だってわかってんけどなぁ」
ガシガシとパロミデスが納得出来ない表情で、不機嫌そうに頭をかく。最近、魔物による被害や事件が隣国のみならず世界中で頻発している。まるで『覇者』が見つかる前に殺ってやると言わんばかりで。だがその真相は全く持って検討違いが多く、突然の魔物の猛攻撃に驚いていた。数日前はパール王国のある町で大きく壁が破壊されたと云うし、ダイヤ魔導国では魔牙がより強い魔物を作ろうと多くの人々を誘拐したと聞く。そろそろ相手も本気を出してきたと考えて可笑しくはない。アーサー達が巻き込まれる可能性は奇しくも高いが、油断は禁物だ。『覇者』に匹敵すると自分達が思うほどの実力だが、相手の魔物がそこで終わるとも限らない。
「大丈夫だよ!」
その時、嫌な空気になってしまった二人を元気付けるようにディナダンがユーウェインに遊ばれて三つ編みになった髪を可愛らしく靡かせながら振り返ると、ニッコリと笑った。
「アーサーさんやルシィさんは強いもんっ!それにさ会ったことないけどサグラモールさんとグリフレット、さん?も強いんだから大丈夫!信じるの!無事だよ!」
ニッコリとわかってるでしょ?と云うようにディナダンは言う。それに二人は顔を見合わせるとクスッと笑う。さすが光の座に恥じない『覇者』と言うべきだろうか。その笑みと思考に重苦しかった空気は四散し、救われる。
「でねっ、聞きたいことがあるんだけど!」
「オマエ、それが目的か」
「うん!」
満面の笑みで頷いたディナダンにガクッと躓いたようなオーバーリアクションを取ったパロミデスは悪くない。そんな二人にユーウェインは笑うだけである。
「あのね、ウチらの先代についてなんだケド」
ピクッとパロミデスの眉が不機嫌そうに動いたがディナダンは気づいていないらしく、続ける。その後の彼女の言葉でパロミデスの機嫌は一気に元に戻る。
「先代、サマ?って歴史書でもすっごーい力持ってたんでしょ?あれ、ウチらにもあるのかなーって」
「……ん~どうだろ?先代も不明が多いし……最期の戦いで全勢力を出したらしいからね。パロミデス、どう思う?」
「僕が知ってるわけねぇだろ」
その話題は終わりだと言うようにきっぱりと一刀両断するパロミデスだったが、彼も気になっているらしく、考え込んでいる。確かに歴史書にもあるように先代の『覇者』としての力は不透明が多い。力を引き出された話はあるがそれが最大と言われれば微妙だ。周囲の被害から見て最大だと言われているのは先代・光の座と先代・知識の座だけだ。他十の座は威力と歴史書の基準から「まだあったのではないか」と予測されている。ユーウェインの言う最期の戦いで全勢力とは言うものの、明らかに数名は全勢力ではないともされる。先代・地の座や先代・想の座がその一例だ。けれどもその戦いを見届けた人物はもう誰一人として残っていない。分かるはずもなかった。
「まっ、そのうちわかんだろ」
ノア様が全部、解き明かす勢いで、な。
ニヤリと嗤ったパロミデスの表情はなにか企んでいるようなものだったがユーウェインはポゥと頬を乙女のように染め上げ、意味が分からないディナダンは首を傾げていた。
こんな不透明な中で。
今日は二つで、仲良しこよしです!次回は金曜日です……結構ペースが早い気がする……




