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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第四十二色 もう一つの目覚め


壁の外側にいた魔物も内側に侵入した魔物も全て討伐し終わった。だがまだ倒し損ねた魔物がいるかもしれないということで待機が言い渡された。傭兵の中に紛れ込んだアーサー達も一応ということで待機となり、あまり大きな怪我をしていない自警団の何人かが劇場と町に繰り出して行った。町の様子と共に魔物や壁の具合を見るためと云うのもある。彼らが戻るか風属性の連絡魔法で連絡が来るまで門付近から動くことが出来なくなった。その間、傭兵達は自分達を見守ってくれた見るも無惨な姿になった警備員やバラバラに食い千切られてしまった元仲間の亡骸に布をかけて簡易的な供養をしたり、怪我人に治療を施したり一時的だった壁を直したりと各々の行動に移っていた。サグラモールとグリフレットは回復魔法を使えるので率先的に怪我人の治療を請け負い、二人して声のする方へ行ったり来たりと大忙しだ。ルシィも少しだけ回復魔法が使えるが大怪我を治した直後のため、大事を取って休むことにした。門近くの建物の前に別の警備員が怪我人が休む用にと出してくれた椅子に横になったルシィの隣の椅子には同じく怪我を治してもらったアーサーが座っている。一応すぐに動ける者もいた方が良いと云うこととルシィが庇ってくれたが、攻撃が微かに当たっていた可能性も否定出来ないと云うことでサグラモールとグリフレットにほとんど無理矢理のように休んでいるよう言われ、今に至る。それをカラドックは笑いながら見ていたが。アーサーは剣を傍らに立て掛けて怪我をしていた片腕をさする。そうして壁を見上げ、門までの道のりを見た。


血と硝煙の匂いと、多くの亡骸が横たわり血で真っ赤に染まった地面。欠けた壁と修繕されかけた壁。そしてところかしこで仲間の死を悲しみ悼み、死を惜しんで涙を堪える声が響いている。中には限界だったのか布がかけられた亡骸を抱き締めながら泣き叫ぶ者もいる。壊れた壁から魔物の侵入を阻んでいた警備員の亡骸だ。泣き叫んでいるのは警備員の友人なのだろうか。共にいた傭兵が友人であろう人物の背を慰めるように擦っていた。至るところで悲惨で無惨な光景が広がっている。しかしその元凶である魔物はすでに消滅してしまっており、跡形もない。だがこんな状況を見ると魔物の襲来はあちらにとっては大きな功績だったのかもしれない。だってこの町は将軍か魔牙の入れ知恵であろう攻撃と云う襲来に以前以上の大きな被害を受けたのだしかも壁も少しとは言え、突破を許した。魔物にとっては負けたかもしれないが実質の勝利と言っても良かった。魔物にとっては消滅しても裏で糸を引いているであろう魔物が勝っているようなものだ。もし、いなかったとしても今度侵略してくる魔物にとっては有益な情報だ。

アーサーは自分が見たいつしかの戦場の悲惨な光景を思い出し、咄嗟に口を手で覆った。腹当たりがムカムカするような、吐き気がして気持ちが悪くて不快感が体を支配する。胃から食べたものが逆流してくるかと思った。嫌と云うほどに見ているが、やはり慣れるわけないのだろう。いや、慣れるわけにはいかないのかもしれない。込み上げてきた気持ち悪さをどうにか押し込むとアーサーは悲惨な、魔物に蹂躙されている現実から目を一瞬でも逸らしたくなって傍らに置いた剣を一瞥した。自分がこうも感情的になっているのはあの時、怒りに任せて魔物を叩き切ったからだろうか。けれど


「(あの時、いつも以上に体が軽かった)」


意識していたわけではない。だがあの時、確かにいつも以上に体が軽かったのだ。まるで踊るように体が勝手に動いた。風に乗るように、それこそガヘリスやカラドックが風属性の魔法を操っているかのように、足取りが軽かった。それに自分の攻撃もいつも以上に重かったように思う。自分でもよくわかっていないのは何故かで動揺していたからかもしれないし、怒りに支配されたからかもしれない。悪夢と重なったからと云うのが理由ではない気がした。ルシィが怪我をする以前にもあったこの()()。友人達の前でもあったような気がするが、この頃の怒涛の展開にその記憶は脳の反対側に追いやられてしまい、全然思い出せない。ただ、似ていると云うことはアーサーでも分かっていて。体験したことのある感覚で。何処か……()()()()()?何故だろう?

アーサーが不思議そうに剣を眺めながら考え込んでいることに横になっていたルシィが気付き、まだ治していない怪我があったのかと気にしているのかと不安になって声をかけようと起き上がった。


「大丈夫ですか?」

「うん。て、あーあールシィは寝てなさい」

「しかし……」

「良いから!グリフレットが言ってたけど少しずれてたら危なかったんだよ?ルシィが俺に危険を教えてくれようとしたのは有り難いけど、心臓止まるかと思ったんだからね!?」

「アーサー、は心臓を止められるのですか?」

「言葉の綾!」


クスクスと元気そうに、楽しそうに笑うルシィの両肩をアーサーは押してもう一度横たわらせると「寝てなさい」と額にデコピンをかます。それにルシィは痛いと云うよりもアーサーが元気そうで良かったと云うようにニッコリと笑った。その笑みにアーサーもルシィの無事を再認識して笑い返す。魔物が人類に殺気を向け、侵略を繰り返しているのが刹那だけでも嘘のように感じた。まぁ、鼻をつく匂いも視界の隅に映る光景もそんなことを許してはくれないが。


「ご苦労さん坊主共っ!」

「っわ」

「お疲れ様です」


その時、横になったルシィを覗き込むようにしてカラドックが突然現れた。気配もなく突然現れたのでアーサーは驚いて腰を僅かに浮かしてしまった。それにルシィが楽しげに笑うのでアーサーはちょっと不機嫌そうに眉をひそめた。カラドックは二人の仲睦まじいやりとりに優しい眼差しを向けると、「よっこいしょ」とアーサーの隣の椅子に腰かけた。勢いが良すぎて椅子が後方に倒れかけたが、カラドックは気にしない様子で足を組むと隣のアーサーを覗き込むようにして問う。


「『覇者』ってのは、少ししか噛ってない歴史書でも分かるが、大変なんだろ?」

「それは人によるでしょうね。今と昔は違います。捉え方は異なります」


カラドックの問いにルシィが答える。いつしかアーサーがグリフレットに言った事に似た台詞にアーサーは口元を軽く抑えて笑いを堪える。そうしてカラドックに僅かながらに生まれた『覇者』としての自覚に仲間としての喜びを感じる。確実に自ら『覇者』として認め始めている。それが何処か嬉しかった。


「んーでも、いや、さ。アーサーや他の坊主共の戦いを見て、嘘でも認めてなくてもやってみんのも良いかなって、そう思ってさ」

「カラドックさんが速さの座を司っているのは事実だよ」

「わぁかってる!けどな、オレはそんなの関係なしに行きてぇと思ったんだ。認めたくなったんだ。半分しかない『覇者』としてなぁ」


カラドックの決意の、意志の色に少しでも自分が関わっていることにアーサーは何処か照れ臭くて頬をかきながらそっぽを向いた。その先でニヤニヤと笑うサグラモールと目が合ったので完全に逃亡出来たわけでは決してなかった。動き回っていたはずなのに目が合うなんて、なんて偶然。そんな一瞬の現実逃避をしつつ、アーサーはカラドックに手を差し出した。これからよろしく、と云う意味。世界の命運に身を投げ出す決意。それを暗示させる手。全てを守り抗うその手を眩しそうに深めの青緑色の瞳を細めて眺めるとカラドックは右手でその手を握り返した。「オレも行こう」そう言っているのは言わずとも分かった。嬉しそうに笑うアーサーの隣でルシィも嬉しそうにパチパチと小さく手を叩く。


「確認だがな、グリフレットって奴はエルフの末裔だろ?……二人の座は?」

「サグラモールが魔法の座『妖術』、グリフレットが知識の座『叡智』。カラドックさんは速さの座『疾風』だよ」

「あー……うん、納得だわ」


握手を解きながらカラドックが納得の声を上げる。サグラモールとグリフレットが『覇者』だと説明してはいたが細かいところまでは言っていなかったようだ。説明時に冷静に伝えているつもりだったが、こちらも少々テンパっていたらしい。先程のアーサーを『覇者』だと勘違いするのも無理はないかもしれない。ルシィは早々に正体を「言うなよ?」と口止めしてから告げたため大丈夫そうだが。


「あとよ、先代の速さの座って」

「『竜巻』を持ったトリスタンさんですね。それがどうしました?」

「結構最近まで生きてたんだろ?なんか知らねぇかなーって。ただの興味本位だけど」


続けて問われた質問にルシィが言えば、あっとアーサーは一瞬冷や汗をかいた。先代・速さの座『竜巻』を司ったトリスタンは実質上のエルフの末裔故に長寿であった。そのため十一人の『覇者』が病気や寿命で死したあと、数百年ほど生きた。まさに生きる歴史と言われる人物であったが、数十年前に寿命で死亡した。魔物が出現する前に死亡したため、死亡を狙ったと云う見方も取られているが事実は不明だ。歴史書に関する()()()()について頑なに口を閉ざし、知識と魔法をもって自らの力に蓋をした。そこまではアーサーも分かる。いや、()()()()も知っている。口伝なため、確証はないが……うん、あれはどうなんだろうなぁ。

そんなアーサーの心中など知らないルシィは「そういえば」と続ける。


「そういえば、その方についてはパロミデスさんの方が「ルシィ、ダメ」……はい?」


ルシィが言おうとしていることにアーサーが待ったをかける。はぁとため息をつき、顔半分を手で覆いながら云う。


「パロミデスにその先代について聞くのはお薦めしないかな……パロミデスの地雷だし」

「「は?」」


怪訝そうな声を出す二人にだよねとアーサーは苦笑する。ルシィにもあまり言っていないし、聞けば良いと提案が出てきたのはまだわかる。……何処かでパロミデスがくしゃみしてそれをユーウェインが介護するまでが何故かアーサーには見えた。いや、あの二人のラブラブっぷりを知っている友人からしてみれば、そこまで考えつくのも容易か。


「……俺達の友人に『覇者』がいて、その人がさっきのパロミデスなんだけど、先代の養子でさぁ」

「え、あ、あーそうか。長生きしてりゃそうなるよな」

「けど」

「けど?」

「……色々あってさぁ……」


大きく肩を落としなにも言わずに遠い目をしたアーサーに二人は辛うじてその意味を読み取ったらしく、「「嗚呼……」」と微妙な納得の声を上げた。これ以上聞いてはいけない、と分かったのだろう。聞かれても答えられるには答えられるが、実際に本人に聞いた方が良いだろう。パロミデスは先代・速さの座『竜巻』を司ったトリスタンの養子である。幼い彼を先代が引き取ったらしいが、詳しいことは聞いていない。いや、聞けない。パロミデスはトリスタン(義父)を嫌い、憎んでいる。先代とたまたま交流があったユーウェインによると死ぬ前に色々とパロミデスに押し付けた結果せいだと云うが、はっきりとはわかっていない。ユーウェインは詳しく知っているようだが。エルフの末裔であり多くの知識を保持していた彼が何故死ぬ間際に()()()()()をしたのか。もう誰にも分かりっこない。先代は、もう誰もいない。

少し暗くなってしまった空気を打ち破るようにしてカラドックの傭兵仲間が数人やって来た。一人は両側の仲間に支えられており、まだ本調子ではないのだと分かる。カラドックはアーサー達と行くことを告げるために立ち上がった。彼と合う前に傭兵仲間から聞いた悪口を思い出したのかルシィが不安そうに起き上がる。もう大丈夫だろうが、ルシィを心配そうに見るアーサーの前でカラドックは言う。


「オレ、独り立ちするわ」

「やっと自分の実力に気づいたのかよー!」

「……え?」


カラドックの肩や背中をバンバンと叩きながら傭兵仲間が嬉しそうに口々に叫ぶ。サグラモールが聞いた時のように悪口が飛んで来るかと身構えていたアーサーとルシィは唖然とした様子で二人して顔を見合わせる。険悪な雰囲気になるかと思ったが……あれ、もしかして、


「……仲、良い感じ……?」

「嗚呼、お前さんたちは知らなかったか」

「あれ、あの時の奴らじゃねーかぁ!」

「ごめんなー混乱しただろ?」


そう言うなら最初から説明してくれ。と言わんばかりに謝った傭兵を見たのは言うまでもない。愉快そうに笑う傭兵を押し退けて別の傭兵が言う。


「カラドック……アールさんって足速いだろ?刺客を狩ってこっちがやり易いようにしてたのは前々から知ってたからな」

「そんで!オレ達がコイツの悪口言やぁ誰だって油断して狙うだろ?!魔物でもオレ達を邪魔に思う奴でも敵でもな!それすらオレ達の作戦のうちよ!」


ゲラゲラと笑う傭兵をカラドックが「怪我人は黙れなー」と肩を叩いて黙らせる。つまり、カラドックの仲間である傭兵達は彼の仕事にも足にも気づいていて、自ら敵を撹乱させるために悪口を言ったと言うことだ。カラドックも気づいていて臆病者だと(そう)思わせるように振る舞ったのだろう。これは彼らに一杯食わされた。あの時、アーサーが感じた違和感と言うか、()()()()()()のは誰か分かって彼は安心したように小さく笑った。


「(なんだ、もう認めてるじゃん)」


仲間のために、世界のために抗うことを。

彼らの説明にルシィは少し困惑していたようだが次第に仲良く「頑張れよ!」やら「寂しくなるな」と言葉をかわす彼らに納得したらしく、うんと小さく頷いていた。悩みの種?気味だったものがなくなり、安心したその時、


「助けてください!」

「登録人数が合いません!」


悲痛な二つの事実を告げる声が響き渡った。


残り、三人。

ハッハッハ、「あ、面白い」ってウチの妄想が囁いたんですよ……あとはいつも通り作者の想像。

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