第四十色 魔物討伐物理システム
一斉にやってきたように見える魔物の攻撃にアーサーは剣を大きく振り回し、一旦後退させる。がそれで簡単に諦めてくれるような敵ではないことくらい、よく分かっている。上段から鋭い爪を振り下ろされ、右からも敵の攻撃がアーサーに向かって振り回される。アーサーは剣を上にかざして爪を防ぐと右からの攻撃を蹴りで防ぐ。と上空にいる魔物の攻撃を弾き、右から来る攻撃を足を振り切って弾くと剣を振り回して二体同時に攻撃する。その攻撃で一旦後退する二体に接近し、剣を振り回す。魔物一体の胴体に剣を突き刺せば、先程の魔物が再び後方から接近してくる。それを横目に確認し、アーサーは胴体に突き刺した剣を上へ振り上げ、顔ごと切断するとその勢いで円を描くように背後へと攻撃の矛先を向ければ、タイミング良くとでも云うようにガキンッと甲高い音が響き渡る。その音に一瞬敵が怯んだのをアーサーは見逃さず、剣を持つ手を捻り、隙間を作り出すとその隙間から一気に敵の懐に潜り込み、剣の切っ先を顔面に突きつけた。それに魔物はもう片方の爪を振り回し、アーサーを撤退させようとするが、首を傾げる要領でかわされてしまえば、あとは容赦なんていらない。顔面に突きつけた剣を容赦なく斜め下に振り切れば、魔物の顔が斜めに切り落とされ、ベロンと顔の皮膚が剥がれ落ちる。それが不気味でアーサーは顔を軽くしかめたが、そこで回転切りを放ち胴体を粉々に切り裂いていく。切り裂き終わるとそのままの勢いで攻撃し、吹っ飛ばす。と足元に切り損ねた魔物の足があることに気がついた。まぁ足と言っても四足歩行に近かったので腕と言っても過言ではないが。その腕はアーサーを見つけるとまるで目があるかのように突然、彼に襲いかかり、その鋭い爪を振りかざした。一瞬、対応が遅れてしまいかわしきれなかったアーサーの片腕に数本の線が浮かび上がる。浅めでがあるが油断は禁物だ。腕にしがみつき襲いかかってきた爪を無理矢理引き剥がし、先程魔物が飛んで行った方に投げればタイミング良く、誰かさんの流れ弾が当たり四散した。御愁傷様である。アーサーは四散状況を見送ると次なる敵に備えて構えた。その時、左右から漂う殺気にアーサーは身構え、剣を構えたがすでに距離が近すぎた。跳躍するにしてもどちらかに当たってしまう。しゃがんでかわそうとすれば、鼻先を通った微かな自然の爽やかな香りにアーサーは無意識に口角を上げた。魔物の驚く声と気配がする。その方向を見れば、そこには緑色の風を纏ったカラドックが姿がいた。気配などなかったのにいつの間に!?と驚く魔物なんぞ知ったことかとカラドックは魔物の手中で弄ぶようにナイフを動かし、魔物の視線を惑わせると次の瞬間、一体の魔物の刃物を足を振り上げて弾いた。空中に飛ぶ刃物を追いかける魔物にナイフを振って攻撃し、もう片方に持つ刃物を弾こうとする。が魔物もそれに気付き、慌てたように刃物を振ってカラドックを追い返す。アーサーも中腰で魔物の一撃を防ぐと腕を捻って弾き、クルリと剣を回し柄で腹を殴る。一旦後退する魔物は円を描くようにして二人を中心に回る。それと同時に二人も背中合わせで死角を生み出さないようにゆっくりと動く。
「ったく、多いなぁ。肩凝っちまう」
「それが仕事でしょ?」
「まっ、そうなんだがな!」
カラドックの疲れたというような言い分にアーサーがそう言えば、彼は疲れなんてないと云うように豪快に笑った。その軽快な笑いにフッと緊張感が解れていく。チラリと自分達を囲む魔物を見れば、様子を伺っていた。獣型と人型。武器は両腕と片腕。自分達の方が強いとでも思っているのか、その口元は勝利に歪んでいる。嗚呼、けれどもそれは俺達も同じでしかない。
「カラドックさん」
「ん~?おっさんになんだ?」
「どっち行けそう?」
アーサーの問いの意図に気づいたカラドックはニヤァと笑い、ナイフを彼に見えるように弄んだ。その答えはきっと「どっちも」。だがそれを魔物は彼らの合図だと勘違いしたらしく、周囲を回っていた魔物が魔法を付与させて襲いかかってくる。付与した魔法は水らしく、魔物の体を覆う衣のような粒子がキラキラと輝きつつも風に触れるたびに鋭い刃と化して相手の戦意を奪うように立ち塞がる。そして地面を滑るように一斉に接近してくる。まるで足場が凍っているかのように速度が速く、二人を惑わすようにジグザグに接近する。ジグザグに、左右に動いて惑わせる魔物を一瞥するとアーサーはクルリと下半身を捻り、片膝をカラドックの前に押し出す。するとカラドックはその膝を足場に上空へと跳躍し、自らも魔法を唱える。
「水属性の弱点は地属性だったなぁ?!〈大地の恵みを思い知れ〉!」
ナイフを天に向かって掲げれば、カラドックの右腕を包むように蔦が巻き付く。かと思いきやそれらは眼下にいるアーサーを狙って飛びかかった魔物二体を意図も簡単に地面に縫い付けてしまう。バッと突然縫い付けられてしまった魔物は無我夢中で暴れるがその蔦はカラドックが操る限り朽ちることもなく魔物から体力のみを奪い取る。属性の相性もあって身動きが取れない魔物に剣を振れば、蔦を巻き込んで魔物が切り刻まれていく。しかしそれと共に拘束の蔦も切れてしまい、意気揚々と魔物が脱出する。かと思いきや、カラドックが蔦を操り再び地面に叩きつければ、無防備なその背にナイフを突き刺す。と左から別の魔物が牙を向く。大きく回転しながらナイフを振り回すが、ナイフは牙と牙の間に挟まってしまい押しても引いても動かない。片手ではまだ蔦がピンッと張り付けており、どちらにも動かない八方塞がり状態である。魔物はそれを狙っていたのか容赦なくカラドックの溝尾を蹴り上げ、カラドックを二つ折りにさせる。溝尾に来た痺れるような痛みに軽く呻き声を上げつつ魔物を瞬時に確認すれば、またもや魔法を付与した膝が目に入った。無防備な背中に膝落としを食らわせようとする魔物から間一髪で逃れるが、痛みに動きが鈍ってしまう。それを魔物は見逃すはずもなく、大振りになってしまうカラドックの左側を狙って牙を振りかざす。それと同時に手にする武器も振りませば、片方は防げてももう片方は防げない。絶体絶命だろう?そう濁った目の魔物がにっこりと嗤う。迫り来る二つの攻撃にカラドックは蔦を外した。それに魔物が再びニヤリと笑った。
「ハッ」
はずだった。魔物の二つの攻撃はカラドックに当たることなく空振りに終わった。魔物の耳にカラドックの嘲笑う声が響く。その方向は魔物の背後。クロスした両腕と牙さえ届かない真後ろ。いつの間に背後に!?魔物が驚きながら振り返り様に武器を振り回すがカラドックはその攻撃を予測したとでも云うように、魔物の背後からついて離れない。それに苛立ったかのように大きく武器を振り回せば、それは彼にとって最高の餌食でしかない。低い体勢を保ちながらカラドックは魔物の足元に接近し、千鳥足になるように足元をちょこまかと動く。と脇を通りすぎ、敵にこっちだと促す。しかしそれはカラドック流の罠だ。ちょこまかと動くことにより、相手に気配を読み取りずらくする。異様な殺気を漂わせながら魔物はカラドックが移動した場所に武器と牙を向けるが、案の定当たるわけがない。イライライライラと募っていく怒りに魔物が大きく武器をカラドックがいる方向に振る。ガキンッ!とようやっと当たったことに魔物が安堵しつつ、武器を振り切ればパキッと云うなにかが折れる音と共に魔物の視界がズルッと横にずれ動く。は?と思ったのは云うまでもなかったが、なにか叫ぶことは魔物に許されるはずがなかった。だって魔物でも怯えるほどの殺気が背後で揺らめいていたのだから。
「片腕がないからって、舐めてかかってもらっちゃあ困るんだなぁこれが」
クスクスと愉快げにカラドックが笑えば、目の前で顔と胴体を縦と横に真っ二つ、計四つに切断された魔物がバラバラと崩れて行く。魔物が最期の抵抗とでも云うように振り返ろうとするがその腕は見るも無惨に切り落とされる。カラドックが切り落としたわけではなく、当の本人もキョトンとしていた。そうして近くで感じた気配に横を向けば、剣を振り下ろした状態のアーサーがそこにいた。アーサーは切り落とした魔物の腕を冷たい眼差しで見下ろす。とその背後に魔物が迫る。カラドックが声を荒げそうになったその時、アーサーは素早く背後を振り返り、魔物を切り伏せる。その行動の素早さにカラドックは感嘆の声を吐きながら彼と入れ違いになって魔物に跳躍した。
気配もなく近寄り、敵に気づかれずにトドメを刺したカラドックにアーサーはさすが速さの座を司る『覇者』だと感嘆し、その興奮を魔物にぶつけていた。あの時、彼の足元には風魔法が付与されていた。あれはガヘリスがよく使う風魔法の上級魔法だ。気配を相手に悟られないようにし、相手を苛つかせ隙を作る。数体を相手にしていた場合は変わるかもしれないが、あの目が通常のように二個しかなく油断していた魔物にとってはまさに打ってつけだった。アーサーは魔物に突き刺した剣を軸に回転し、横から襲ってきた魔物の攻撃をかわす。剣の下で下敷きになった魔物が悲鳴を上げる。しかし、そんなこと気にしない。別の魔物の攻撃は剣の下敷きになった魔物の頭部を貫き、絶命させる。唖然とする敵に剣を抜き放ち、勢いよく振り下ろさせば敵は慌てたように武器を構える。だがアーサーはそんな魔物の脇を通りすぎながら剣を横に構え、肩を切断するように切り伏せる。それに気づいた魔物が慌てて振り返るが、そうすればするほど魔物の体に傷が増え、切り刻まれていく。魔物はそれに気づいているのか否やだが。魔物の大振りの攻撃を滑り込むようにしてかわし、頭上に後ろから振り下ろされた武器を見ずに防ぎ剣を捻る。捻った途端、力が変な方向に向かったらしく、魔物の体勢が崩れる。その隙を逃すなんてないでしょう?
「よっ、と」
下半身を捻ってその場に手を付くとバク転して魔物に向き直り、武器を大きく弾く。後方に仰け反った魔物に足元を捻って跳躍し、蹴りを放てば後方に簡単に倒れ込む。そこにすぐさま剣を持ち直し、逆手持ちにすると魔物の顔に足を置いて地面に叩きつけながら剣を振り下ろした。
4月ですね……最近一つなんで、今日は二つ行きます!




