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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第三十八色 侵入者防衛魔法システム


アーサーは目の前に広がった光景に唖然とした。そこに広がっていたのは逃げ惑う人々と阿鼻叫喚を響かせる人々だった。そしてそこに響き渡る甲高い金切り音は人々を余計に混乱させるだけで、落ち着かせる効果など一切ない。絶対的防御力を持つ町であるにも関わらず、先程の襲撃では顔色一つ変えなかったリーナル公国民でさえ、この状況は知らないのか、他国民と共に悲鳴を上げ、自警団が困惑した表情で大声を上げる。しかし、その大声は金切り音に消えてしまい、誘導の声さえ届かない。魔法を使って聞こえるようにすれば良いのにそれさえも思い付かないのはこれが思ってもみなかった状況だったからだろう。アーサーはそんなある意味戦場とも言える阿鼻叫喚から視線を逸らすと門の方へ目を向けた。壁の向こう側から立ち上る無数の黒い煙と此処まで漂う焼け焦げたような悪臭。そうしてそこから漂う異様な気配。間違いない、二度目の魔物の襲来だ。だが、襲来はつい数時間前にあったはず。連続で襲来があることは稀にあるが、それでも十数時間ほどの時間差があることが多い。その場合は侵攻度が軽度で煙が立ち上るほどの衝撃も地響きのような衝撃もない。統計に当てはまらない攻撃も侵攻も魔物がすることは分かっている。だが、相手が無能と云うことでは決してない。つまり、人類の「ないだろう」と云う裏をかかれたのだ。ならば、こうして大規模な襲来があっても可笑しくはない。もしかすると、まだその裏になにかあるかもしれないが、この動揺具合を見るに世界一の防御力を持つリーナル公国を潰そうとしての作戦なのだろう。と云うことは魔物側に将軍か魔牙がいる可能性が高い。いつ傭兵達が出撃したのか分からないが、カラドックがつい数分前に出て行ったことを考えるに襲撃はその数分前と考えて良いだろう。つまり、あの衝撃は開戦の合図ということでもある。けれど、それでも此処まで動揺するだろうか?リーナル公国は侵攻が難しいと言われているがゆえに全てではないが、結構な頻度の襲来がある。ならばこういうことは日常茶飯事ではないのだろうか?壁が破壊されていないならば避難誘導らしいものはいらない。しかしそれがありこうも動揺するのを見るに本気で潰そうとしてきたかもしくは


「……なにか起きた?」


そう考える方が容易い。避難誘導は壁関連、金切り音はこの町にとって聞き覚えのあるもの、よく知っているものと仮定すれば、動揺するのも頷ける。だって、魔物にとって脅威であったものが壊され自分達が逆に危険に曝されているのだ。混乱し、動揺しない方が可笑しい。グラッと足元が揺れ、アーサーは咄嗟に建物付近にあった道標の柱を掴み倒れるのを防ぐ。地響きはいまだに続き、大きな揺れは立つことさえままならない。クッとアーサーは歯を食い縛って耐え、腰の剣に視線を向ける。もしもの時は行くしかない、いや行くか。


「アーサーさん!」


その声にアーサーが振り返れば、入り口にルシィ達が駆け込んで来ていた。揺れが収まった一瞬の隙をついて来たらしい。そうして外の様子を見て息を飲んだ。彼らもこの現状から状況を読み取ったらしい。


「魔物?」

「にしては変じゃないかな。こんなに動揺するのは可笑しいし、それにこの金切り音は魔物が出す超音波じゃない」


グリフレットの言葉に全員が振り返る。確かに魔物の放つ超音波とは違う。魔物の超音波は主に仲間を呼ぶものか相手を足止めするものが大部分を占める。しかも何処か恐怖を煽るため、こんな風にただただキィキィと喚くようなものではない。じゃあやっぱり。そう思った彼らを今度こそちゃんとした、金切り音ではない音が答えとして町中に響き渡った。


〈緊急連絡!緊急連絡!自警団は住民を中央エルナ劇場に避難させ、他戦闘員は壁にて防衛戦を行ってください。侵入者防衛魔法に危険信号が出ています。繰り返します。緊急連絡!緊急連絡!〉


風属性の魔法を使った連絡魔法。それを聞き、阿鼻叫喚は一瞬シン……と静まり返った。冷静になりこの状況を全員が理解したのかと思いきや、再び町中は阿鼻叫喚に包まれた。それに他国民もこれはヤバイと感じたのか自警団の指示に従い始めるが、多少は慣れているはずのリーナル公国民は壁と云う防御力と門の危険に悲鳴を上げて逃げ惑う。自警団が腹から大声を上げながら避難誘導をする。その間にも地響きが足元を揺らし、人々の逃げる足を奪う。逃げ惑う人々を横目にアーサーはもう一度門の方を振り返った。黒い煙が立ち上っている以上、戦闘は苛烈さを増しているのだろう。しかも、此処の要が微妙なりとも悲鳴を上げている状況。気になったのは野次馬精神かそれとも正義感か。ただ単に引き寄せられたのかもしれない、『覇者』という意志に。失うべきではないものに。壁を壊されたら多くを失う。なら、この剣を取り、戦うべきか。


「行きます?」

「行くしかないのではないかのぅ」


ルシィとサグラモールがそう呟く。グリフレットも行くつもりだったのかいつの間にかその手には薙刀が握られている。逃げ惑う人々の群れを縫うように自警団ではない、傭兵が駆けていく。その動きがまるで風のようで目を見張り、その正体にアーサーは声を上げそうになる。だが阿鼻叫喚の海の中、彼の声は悲鳴に簡単に掻き消されてしまう。


「出来ることならやりたいけどね、様子も見て行こう。此処で死んじゃ元も子もない」


グリフレットがそう笑って言えば、タイミング良くか悪くか、ドカン!と壁の方で破裂音がした。どうやら思っている以上にヤバイ状況らしい。彼らは視線で頷き合うと人々の波を逆走し、門の方に向けて走り出した。


……*……


壁に辿り着いた彼らはその現状に息を飲んだ。先程の町中なんてまだ良い方ではないかと全力で叫びたくなるような現状がそこには広がっていた。壁の内側と外側で違う戦場はさながら地獄と天国か?いや、天国なんて表現は合っていない。だってそこは天国でさえないのだから。天国はきっとこの町の奥深く、中央にしかない。壁に開いた大きな穴は内側と外側を繋ぐもう一つの扉だ。自分達が入ってきた門のようでいて何処か違い、頑丈で丈夫だと云う壁はそこにはなかった。穴の前には血塗れになった警備員らしき肉片が仁王立ちするように残っており、それを壁を破壊したであろう魔物が意図も簡単に凪ぎ払っていく。ベチャッと音がしてかつて人の形を保っていたソレは真っ赤な血溜まりと共に地面に染み込み、何処を向いているのかさえ分からない目玉を向ける。ソレから目を背けようとしても壁には誰の血か想像もしたくないような濁った色がまるで無邪気に絵を描くようにぶちまけられており、事実を認めろと脅迫してくる。それにもめげずに傭兵達は自らの平和のために壁の内側、外側で魔物を切り倒していく。そんな彼らの間には怪我をした傭兵や既に息切れた傭兵、見るも無惨な姿になった傭兵が散乱していた。それは魔物も同じなのだが、倒されて消滅する以上、圧倒的に視覚にくるのは先程のソレだった。開いた穴から魔物が侵入し、傭兵が出入りする。壁の上で別の警備員や自警団が外側の魔物を追い払おうとしているようだが、この瞬間を逃すまいと魔物は侵略を繰り返す。それを傭兵達が決死の表情で食い止める。しかし、ヤオヨロズ共和国の第三都市部ほどではないが、どう見たって数的にはこちらが圧倒的に不利だった。しかも、外側には絶え間なく魔物がいる。外側をどうにか捌き切らない限り、一向に終わるわけはない。


「うっ……う゛ええええええ」


足元に「見ろ」とでも云うように吹き飛ばされた元人間の残骸にサグラモールが胃から込み上げる物を堪えきれずに出してしまう。ヤオヨロズ共和国では一点に集中していたがために気づかなかった、いや気付いても気づいていなくてもこの光景には誰もが戦き、吐き気を催してしまうに違いなかった。しかも、そこに溢れているのは魔物ではなく人間なのだ。慣れていても慣れていなくても気持ち悪さが込み上げてくる。此処にまで漂う悪臭にアーサーは鼻を腕で多い、ルシィは心配そうに吐いてしまったサグラモールの背を擦る。グリフレットもこれほどまでとは思ってもみなかったらしく、思わず片眼鏡を外そうとまでしていた。


「なに、これ……」

「壁が……!」


アーサーとルシィの驚愕の声が無惨な惨状に響き渡る。世界でも有名な壁が一ヶ所ではあるが破壊されている。普通の魔物がこんな大それたかつ大胆な事が出来るはずがない。魔物なら壊れるまでずっと壁を叩き続けるはず。それが意図も簡単に壊される、ということは


「(裏に、将軍か魔牙がいる!?)」


将軍か魔牙が裏で糸を引き、この状況を楽しんでいるかもしれない。頑丈で丈夫な壁を破壊させるくらいの頭脳を持つ可能性は高いし、合体属性を複数回使用して破壊した可能性も考えられる。魔物だって『覇者』と同じように解明されていない部分もある。考えれば分かることかもだった。と、すぐさま開いた穴を誰かが修繕し始めたらしく侵入しようとしていた魔物を弾き返した。どうやら門にかけられている魔法と同じ物らしく、ドンドンと魔物が魔法を壊そうと叩く。しかし、壊れるはずもなかった。応急措置である魔法に一瞬戦場に安堵の雰囲気が流れる。相手にとっては一時しのぎで良かったのだろうが、こちらにしてみれば全然意味合いが違う。


「加勢した方が良さそうですね……!」

「だね!……サグラモール、大丈夫?」


ルシィがそう言えば、グリフレットがサグラモールを振り返る。彼女は口を男らしく拭いながら「嗚呼!」と手元に魔法を展開させる。アーサーも剣を抜き、魔物にその切っ先を向ける。その時だった。


「っ、お前さんたち!なにしてる!?」


緑色の、美しいほどに優雅さを持った風を纏ったカラドックが突然目の前に現れた。魔物を撹乱、もしくは狩ろうとしていたところでアーサー達が目に入ったのだろう。『覇者』については話していてもその実力は知らない。だからこそ、世間知らずにも魔物との戦いに身を投げようとしているとでも思ったのだろう。


「カラドックさん!俺達も参戦する!」

「参戦するって……子供の遊びじゃねぇんだぞ?!」

「そんなの、俺が一番わかってる!」


アーサーの言葉に遊びではないと確信し、全員の真剣な表情に本気と理解したらしくガシガシと頭をかいた。


「無理はすんじゃないぞ?坊主ども?」

「んー僕は坊主って年齢じゃないけどね」

グリフレット(お前さん)はなぁ!」


グリフレットの呟きにケラケラと笑うカラドック。それだけで少しでもこの凄惨な現状が緩和された気がした。が、次の瞬間、カラドックはなにかに気付き、跳躍した。その方向にいたのは魔物に攻撃されかけた傭兵で、どうやら怪我をしているらしい。それに気づいたアーサーも考えるより先に動いていた。地面を蹴り、カラドックと共にその傭兵の前に飛び出ると攻撃を剣で防いだ。防がれた魔物の懐にカラドックが潜り込み、ナイフを振り回せばその攻撃に魔物が一旦後退する。敵が後退したのを確認し、傭兵を振り返る。


「大丈夫?!」

「おい、大丈夫か?無理なら下がってろ!」


アーサーとカラドックの心配と不安の声に傭兵は「ハッ」と自らを嘲笑った。その腕からはおびただしいほどの血が流れており、少しでも動けば傷が開くことを示していた。


「っ、これじゃ動かすのは困難なんじゃないの?」

「嗚呼、そいつの云う通りだ。俺は魔法が使えない。この魔物との乱戦からどうやって逃げろってんだよ!?こんな怪我!」


傭兵の悲痛な、恐怖を孕んだ声にアーサーは一度、ルシィ達を振り返ったがいつの間にか魔物に攻撃され、戦闘に入っていた。彼らに救援を求めるのは無理そうだ。嗚呼、なら、どうする?どうやって救出する?止めなく流れる紅い血にどうすれば良いか分からない。と、その時、カラドックが何か思い付いたらしく傭兵に「良いか」と詰め寄る。


「今からオレが魔法をかける。だから、回復が出来る仲間のところまで走れ。良いな?」

「お前は?カラドックはどうすんだよ?お前の()()()()()()()()()よ」

「心配すんな。〈風が消えたその先で(ウィンド・ナイーシィ)〉」


カラドックはそう言って傭兵仲間に風属性の魔法をかける。傭兵仲間を緑色の風が包み込み、そうして巻き上げたかと思うとその姿を掻き消して行く。気配が薄まっていくのだ。傭兵仲間はカラドックに申し訳なさそうに会釈すると腕を庇いながら魔物との戦闘の合間を縫って撤退していく。先程まで傭兵仲間を狙っていた魔物がまるで見えていないかのように彼を素通りしていく。気配遮断魔法。それにアーサーは驚きつつも実感する。嗚呼、彼だ。カラドックは撤退した仲間を見送ると右手のナイフを持ち直し、アーサーを振り返った。


「さってと、アーサー、つったっけ。手伝ってくれるか?」


ニィと笑うカラドックにアーサーも笑い返した。試されている。嗚呼、なら『覇者』にその力、示しましょう。剣を握り締め、アーサーは自信満々に、力強く告げた。


「アルヴァナ帝国騎士団第三部隊の実力、見せてあげよう」

「ハハッ!頼もしいこったなぁ坊主!」


はい、恒例のスランプ入ってまーす(報告)スランプから抜け出したい……文才が欲しい!……ただそれだけですはい。

次回は月曜日となります!

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