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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第三十七色 手の上の時刻


彼らが止めるのも聞かずに行ってしまったカラドックの背をアーサーはぼんやりと眺めつつ、グラスを手に取った。入っていたはずの氷は既に溶け、飲み物に含まれてしまっている。一口含むと先程よりもぬるく、味が薄かった。それがまるで理解も納得もしつつも出来ていないカラドックと自分達との溝を示しているような気がして、アーサーは苦笑をこぼした。


「全く、律儀な人だね」

「ん~難しいのぅ」


カラドックが置いて行った代金を手繰り寄せながらグリフレットが言えば、テーブルに身を乗り出すようにしてサグラモールが項垂れる。すぐにこの二人が理解と納得を示してしまった分、あれが普通の反応なのだと突きつけられた気がする。ルシィが一口飲み物を飲んで一息つくと言う。


「もうこれと言った証拠もないのですがねぇ」

「ルシィの嗅覚と半分以下の紋様じゃあねぇ。他に確かめる方法は聞いてないの?」


アーサーがルシィに問えば、ルシィは困ったように首を横に振った。それもそうか。双神だって『覇者』の存在は分かっていてもどんな人物までか把握など出来やしない。うーん、と首を捻る一同。そこでサグラモールが思い付いたようにグリフレットを振り返った。


「師匠、歴史書ではどうやって『覇者』を集めたんじゃ?」

「え?」

「じゃから今みたいに集めた人がおったじゃろ?『覇者』に力の破片を与えたとされる神々の神託があったわけじゃなかろうし、どうなんじゃ?」


サグラモールが言いたいのは歴史書からヒントを貰おうということらしい。歴史書の中身を把握しているルシィとグリフレット二人がいるのだからなにかしら一つは方法が見出だせるだろうと考えたらしい。しかし、歴史書はエルフが書き記したとは言え、全てが史実通りに記入されているわけではない。見て聞いたことが中心であるため、間違った情報やエルフ同士で違う情報を載せたりしている。けれども歴史書はほぼ同じエルフが担当しており、間違いは極力ないとされる。そこも考えてのことだったらしいが、ルシィとグリフレットの困惑と云うかそんな表情に彼女の儚い希望は見るも無惨に砕け散った。


「どうしたのじゃ?」

「んーごめんサグラモール。歴史書だと集めた人が()()()()『覇者』だったらしいから……多分、その人の勘だと思う」

「私はその時代に生まれてはいませんが、その方は『覇者』を自ら探し当てたようです。幼馴染がのちに『覇者』と判明したように神託があったわけでも今のように(捜す手段)があったわけでもありません」

「……そりゃあ納得するわ~~!!」


二人のごめんねと云う気を遣った模範解答にサグラモールがさらにテーブルに突っ伏した。そんな彼女の頭をグリフレットが優しく撫でて慰めるが、問題は解決もしなければマイナスに傾きかけている。そりゃあ、集めた人達が強くて共通の紋様やらがあったら嫌でも納得する。歴史書には集まった際に紋様の謎が双神によって生み出された神々によって明らかになっており、そこから座や『覇者』になったとも言われている。双神も彼らを把握してはいたが手を出せなかったための処置であると見られており、いつしか生まれる可能性があった十二人であるとも言える。だが詳しいことは歴史書以外不明、双神に直接聞くしかない。その場合はダイヤ魔導国しかないが、行っている時間さえ惜しいので歴史書とルシィだけが頼りだ。

実際、歴史書は物語形式なため視点はあっちこっちに飛んでいる。しかし、集め方は色々だが、集めた人の実力によるものだった。集めた人に関しては色々あって疑惑が持たれているが『覇者』を世に知らしめた人物であることは間違いようがない。が、そんな人は今は居ないし、昔よりも遥かに優秀な手段がある。明らかに有利なのはこちらなのに、説得手段がない。いや、あるにはあるけど、うん。アーサーとルシィの「どうしようか」と云う視線が合う。これ以上、カラドックを追い詰めるようなことをして迷わせるのはいけない。あとは彼自身の問題だ。分かっている、分かっているのだが機密事項である世界情勢を考えるにうかうかしてもいられないのだ。


「明日またカラドックさんに会って話してみる?もしかすると変わるかもしれないし」

「そうですね、それしかありません。光属性や想属性で肩の紋様を浮き上がらせることも出来ますが……」

「それはやらなくても大丈夫だと思うよ」


アーサーの言い切ったその答えにルシィはキョトンとすると、「何故?」と問いかける。


「多分、彼は気づいてるよ。サグラモールみたいに紋様を示されたことで。でも、まだ自分の中で理解が追い付いていない。だから、待てばきっと納得してくれる、自覚してくれる。ルシィ、『覇者』は自覚するとどうなるの?」

「自覚、ですか。個人にもよりますが他人よりも多くの力を発揮出来るようになったりすると聞きます。というか、そういうのはアーサーさんの方が詳しいのでは?」


ルシィがアーサーに意味ありげに云うと彼は小さく苦笑をもらした。ルシィが言っているのはペリノアやユーウェイン、パロミデスのことだろう。確かに何人かはアーサーと騎士団に所属した時期が重なっている。けれども、彼らの()()()()を目にしたことは一度もない。ただ、彼らと出会って、「嗚呼、負けたくない」「彼らのようになりたい」と努力してきたに過ぎない。友人となった時から、『覇者』と知る以前から彼らは自然体だった。そこに『覇者』だと云う威力はなかった。そこにいたのは強者で、『覇者』だと告げられて「嗚呼」とストンと落ちて来たように納得してしまうくらいには自然だった。おそらく前から自覚し、その力を制御していたのだろう。だから、ルシィの云うような事は分からない。そう、ルシィに笑って告げればアーサーの意図を読み取ったらしく、ルシィは目を逸らした。


「サグラモールさんと会って、その力を見て嗚呼『覇者』だと驚いたくらいですし、もしかすると日常的に使用しているために自覚自体が薄れているのかもしれません。自覚と言っても『()()()()()()()ですし、力までは分かりませんよね」

「座ごとに異なる時点で、それが本当に『覇者』の最大級の攻撃や力なんて分からないからね。もしかすると、まだ成長段階ということもあるし」


ルシィの言葉にグリフレットが付け足すように言えば、「え?」とサグラモールが怪訝そうな声を上げる。


「成長段階とは、どういうことじゃ?」

「歴史書の幾つかに『覇者』の力が不明瞭ながらに書いてあるんだけど、成長、進化しているってのもあって」

「へぇ、さすが師匠じゃ!」


キラキラと尊敬の眼差しを向けるサグラモールにグリフレットは安心したように微笑む。どうやらだいぶ復活したらしい。ゴクゴクと勢いよく飲み物を煽るサグラモールにまだ少し不安も残るが。とりあえずカラドックに関しては彼待ちに決定しそうだ。『覇者』はいまだ歴史が薄い。明確になっていない部分もあるためしょうがないと言えば、しょうがない。ただ……アーサーは唐突に甦ったいつの日かの悪夢を遥か彼方に放り投げるとカウンター近くに目をやる。此処は昼間からやっている酒場でカウンター付近には小さな舞台がある。そこで夜になると芸などを披露するのだろうが、今は誰も居ない。だがその近くに一人の人影があることにアーサーは気づいた。オロオロとしながらカウンターと舞台を行き来する店員に困惑した視線を送っている。舞台に上がる子だろうか?それとも練習か。カラドックが指定した時間までまだまだ時間はあるとは言え、午後初めほどからずっと此処にいるため、結構時間が経っている。説明部分が異様に長いんだ……


「よく覚えておるよなぁ。妾は物語部分しか覚えておらん」

「はは、それはしょうがないよ。ほら僕は色々長い間読んでたし」

「少しくらいその脳を分けて欲しいものじゃ」

「あ、それ良い。俺達にもその頭脳寄越せー」


笑いながらアーサーとサグラモールがカラドックにじゃれるように寄りかかれば、カラドックが慌てたように二人を支え、ルシィがクスクス笑う。とその時、ルシィがふいに再び鼻を動かした。視界の隅でそれを捉えたアーサーはまさかと周囲を見渡すがカラドックが戻ってきた気配はない、と云うことは。


「ルシィ、もしかして」


しかし、アーサーの言葉は全てを紡ぐよりも先に遮られてしまった。誰かの声でもなければ気配でもない。足元から響いてきた地響きだった。地響きはガタガタと物を立てて大きく揺らし、立つことさえ困難になるほどの表現を与え、身動きを取れなくする。グリフレットは足に力を入れてサグラモールとテーブルを押さえ、ルシィは頭を抱えて揺れから逃れるように体を縮ませる。多くの人が悲鳴を上げ、ガシャンガシャン!と音を立ててガラスが床に叩きつけられる。不協和音が奏でられる酒場の外からも悲鳴や逃げ惑い困惑の声が響く。これで異常事態ではないと誰が言えようか。アーサーは倒れ込みそうになる衝撃をクッと歯を食い縛って耐えると弾かれるように椅子を蹴って立ち上がると脇目も振らずに酒場の扉に向かって跳躍した。耳元で響く不協和音と云う名の耳鳴りから早く逃れたかった。逃れたくて、現状を見たかった。アーサーの心中を覆う違和感と云う名の不安感。嗚呼、これはよく感じた事のある空気。感じた事のある気配。そうこの異様な気配は、


「(魔物!?)」


バンッ!と扉を蹴破った先に広がっていたのはよく知る阿鼻叫喚の嵐と大混乱の大合唱だった。視界の隅に写った壁にかかった時計は三を示していた。それはカラドックの手首に浮かび上がっていた時刻と同じ、十五時だ。

次回は金曜日です!さぁて!新しいハプニングです!

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