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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第三色 アルヴァナ帝国騎士団


「もっと肘上げろ肘!」

「弱気になるな!死ぬぞ!」

「そう!その調子!」

「腕痛い!」

「頑張れとしか言えません!」

「おらぁ行くぞ!」

「「隊長、それ魔法です!!」」


アルヴァナ帝国騎士団訓練所には多くの雄叫びにも似た怒声、悲鳴にも似た返事と返答、怒声にも似た助言と云うか一声が響き渡り反響し、空気が暑苦しい。宮殿内にあるにも関わらず、空気は暑苦しく、熱気に包まれている。此処だけが戦場に取り残されているかのような緊迫感に思わずルシィが後方に一歩後退りしたのがアーサーの視界に入った。アーサーにとってこれは日常茶飯事だが、やはりルシィには新鮮に映るらしく、後退りしたにも関わらず、その目は初めて見るものに興味津々である。


「此処では武術、物理が多いのですね」

「嗚呼、魔法使える奴は奥で訓練してるから物理が多く見えるんだろうね。ほらあっちが魔法」


アーサーが示した訓練所の奥、壁際では周囲に魔法が飛び火しないようにか移動して訓練をしている集団がいる。一人が赤く熱した火の玉を手のひらに浮かび上がらせると武器を構えた若者に放った。若者は火の玉を防ぐことも切ることも出来ずに腹に直撃してしまい、吹っ飛んだ。……結構勢いよく吹っ飛んだが、あの若者は無事だろうか?近くの壁に激突したようにも見えたが……気のせいだうん。そんな魔法訓練から目を二人して離し、あちこちで行われている訓練に目を移す。此処にいると自分も自然とやりたくなってアーサーは自然と腰の剣に伸ばしかけた手に苦笑した。その時、


「あ、アーサー!」


明るく元気な、少女の声がアーサーの名を呼んだ。そこら中で雄叫びやら怒号が響いているので何処から呼ばれたものか分かったもんじゃない。本当に呼ばれたのかと疑ってしまいそうになる。ルシィも誰が呼んだのかと周囲を見渡していたが、呼ばれた本人は誰が自分を呼んだのか分かりきっていた。それを示すようにアーサーがルシィの肩をつつき「あっち」と指し示せば、ちょうどこちらに向かって三人の人物がやってくるところだった。その一人、少女はこちらに向かって元気に手を振り、また二人もよく知る男性の一人は愉快そうに笑っている。三人の声も顔も分かるくらいまでの距離になるとアーサーはルシィを一歩前に歩み出させつつ、頭を垂れる。ルシィも紹介されるのが分かったらしく、キリッとした緊張気味の表情になる。そんなに緊張しなくても大丈夫だと声をかけようとして、無理かとアーサーはすぐに考え直した。だって、あの中には有名人もいるのだから。その証拠に悪戯が成功した子供のように愉快げに笑っているのだから、分からないわけがない。と一瞬、ルシィの鼻がピクピクと動いた。なにかを感じ取ったと云うように動き、視線でアーサーに問いかけていたが彼はニヤリと笑うだけだった。アーサーは男性の合図に気付き、ルシィに言う。


「紹介するよ、友人で上司のペリノア・ルイ・アルヴァナ様とユーウェインとパロミデス夫婦」

「初めまして、よろしくお願いします」

「まだ夫婦じゃないよ、婚約者!」

「どの口が言うんだか」

「本当になぁ。熟年夫婦」


気を取り直して仰々しく頭を下げるルシィに男性が片手で制止ながら歩み寄る横で少女がアーサーに言う。アーサーが笑いながら言えば、少女はもう一人のー中性的な顔で女性のような姿をしている、服装から見て男性よりの青年を振り返りニッコリと笑う。もう一人の青年もニヤニヤと笑えば、二人は相手を愛おしそうに眺める。それにルシィは察したようで微笑ましそうに少女ともう一人の青年を見た。


「さっきぶりですね……じゃなかった、だなルシィ殿」

「そうですねペリノア・ルイ・アルヴァナさん……様の方が良いですかね」

「だからルシィ、フルネームじゃなくて彼の場合はノア、で良いんだよ……長いでしょいちいち」

「「フルネーム」」

「そう頼んでるしなぁー」


男性がそう言えば、ルシィが再びフルネームで返す。それに二人が楽しそうにそれでいて小さく笑いながら顔を見合わせる。青年に至ってはツボにはまりそうになったらしく少女に介護されていた。どうやら本当に人名はフルネーム覚えらしい。逆にフルネームを一発で覚えるのも凄い気がする。特に男性。長いでしょ名前。アーサーはルシィに男性はノアで良いと伝えるとルシィは素直に頷いた。


「てか、なんでアーサー此処に来たんだ?籠るって言ってなかったか?今日、アンタの苦手な武器変え訓練あんのに。籠ってばっかで頭狂ったかぁ?」

「そんなわけないでしょパロミデス。ルシィの記憶(お勉強)が終わったから紹介に来たの。この人、ルシィ」


「こんにちは」と頭を軽く下げつつ、やはり青年だとルシィは確信した。そうして言う。


「『大地』に『金獅子』と『銀獅子』……凄いラインナップですね。綺麗な方です」

「……うっそぉ。パロミデス、聞いた?」

「聞いた。アンタ、よく分かったな?」


ルシィの何気なく言ったような言葉に男性とアーサーを抜かす二人が唖然とする。彼らのところだけ嵐が通りすぎたようにシンと静まり返っており、周囲の音がまるで音楽のように聞こえる。何故分かった?そこまで言っていないのに。そういうように警戒し驚く少女と青年にルシィはニッコリと笑った。


()()()()()()長けていますからね。パロミデス、さんでしたっけ?私と同じですね」


ニコニコと笑うルシィに少女と男性が呆気にとられて顔を見合わせれば、案の定男性は爆笑寸前である。それにアーサーは呆れ顔で彼の背を擦って成り行きを伺っていた。


「同じってなにがだ?」

「髪。私も結んでいるのでお揃いです」

「駄目だよ!?パロミデスはアタシの旦那さんなんだから駄目だよ!?」

「まだ結婚してないって言ったのユーウェインだよね?!」


とられる!と思ったのか少女が青年に抱きつけば、アーサーのツッコミが飛ぶ。そうして男性のツボが崩壊した。


「ハハッ、ハハハッ!本当に……君達は面白いよな!」

「ノア様笑ってる場合じゃねぇ!」

「……えーと?」

「待ってもしかしてルシィ天然だったの!?」

「アーサー、そこじゃない!」


良い意味での阿鼻叫喚、である。男性の笑いにつられてルシィを警戒していた少女が笑い出せば、青年も笑い、アーサーとルシィも楽しそうに笑った。


「っていうか本当に分かるんだねぇ!びっくり!」

「だから言っただろう?一発で地の座を持つ自分のことも分かったし」


少女が青年を落ち着かせるように腕を絡めながら言えば、男性がようやっと笑いを納めて言った。一方青年は満更でもない様子で少女の髪を愛おしげに弄んでいる。このおしどり通りすぎた夫婦め、とアーサーはのほほんとするルシィを横目に悪態にもならない苦言と云うよりも誉め言葉を内心吐いた。アーサーとルシィの目の前にいる三人、アルヴァナ帝国の誉れ高き『覇者』である。

男性、ペリノア・ルイ・アルヴァナ。名前の通りアルヴァナ帝国第二皇子である。ノアと言うのは彼の愛称であり家族以外は愛称呼びをしてもらっている、次期皇帝である兄のために自ら臣下に下ることを決めた騎士団第三部隊隊長であり地の座『大地』を司る『覇者』である。淡い栗色のショートにエメラルド色の瞳。服はアーサーと同じ白い軍服を着用しているが右肩から紺色のマントが伸び、ペリノアの瞳と同じ色でアルヴァナ帝国の国章が描かれている。


少女、ユーウェインはブロンドで首根っこ辺りで二つに結んでおりホリゾンブルーの瞳。右耳にのみ金色で獅子を象ったイヤリングをしている。服も同じように白い軍服だが、上着の裾が長めでスカート風になっており、長ズボンではなくハーフパンツとなっている。

青年、パロミデスは女性のような見た目と云うか中性的な顔つきでネイビーブルーの長髪でポニーテールにモーブ色の瞳。左耳にのみユーウェインと同じ獅子を象った銀色のイヤリングをしている。服は男性陣と同じ軍服。

二人共に似たようなイヤリングをしていることからもルシィのことからも分かるようにユーウェインが攻撃の座『金獅子』を、パロミデスが防御の座『銀獅子』を司る『覇者』だ。また『覇者』の証は体に刻まれる者もいれば生まれた時から身に付けているまたは持つアクセサリーと云う者もいると追記しておく。


「攻撃と防御が揃っているなんて、この帝国は安泰ですね」

「それはどうも。匂いなんてするの?」

「私にしか分からないのでノーコメントです」

「ありゃ」


アーサーの問いにルシィは人差し指を口元に当て「内緒」とウインクをかます。その様子が妖艶で思わず感嘆の声が漏れる。『覇者』に匂いなんてあるのかと疑問だが、こうしてルシィが当てているのだから事実だ。パロミデスがアーサーの首元に腕を巻き付け、「で?」と低い声で言う。ユーウェインはそんな愛しの旦那様ーただしまだ結婚していないーの思惑が分かったようで彼の腕を掴みながらアーサーの腕を掴む。


「で?アーサー。訓練してくんだよなぁ?」

「これから会えなくなるんだし、やるよね?」

「僕じゃ不満ってか?ユーウェイン」

「違うよパロミデス。分かってて言うんじゃないの」

「そういうユーウェインも分かっててノってるの知ってるんだからね?!ノア様助けてください!」


両脇から挟まれ、逃げ場を失ったアーサーがペリノアとルシィに助けを求めれば、ペリノアはニヤァと笑いルシィは意気揚々と頬を染めた。あ、助けを求める人間違えた……そう思っても時すでに遅く。


「ユーウェイン、パロミデス、相手してやりな」

「あー!」

「「さすがノア様!!」」


うんと満足げに頷くペリノアにユーウェインとパロミデスが嬉しそうに笑う。アーサーも既に分かっていただけに逃げ出すことはしない。四日後には此処から一時的とは言えいなくなるのだ。友人と過ごしたいと言うのもあったし、訓練をしたいと言うのもあった。これから厳しい死地に行く友人。それを誰が奪えるか。だてに長い間友人と仲間をしているわけではない。「やった♪」「こてんぱんにしてやる」と二人に揉みくちゃにされるアーサーを見てペリノアはクスリと優しい笑みを浮かべた。アーサーもしょうがなさそうに、それでいて嬉しそうに笑っている。と、ルシィの物寂しげな雰囲気と云うか表情に気付いた。


「ルシィ殿もやるか?」

「え……私!?」


自分に来るとは思っていなかったのだろうルシィが自らを指差して叫べば、ペリノアは素直にうん、と頷く。


「さすがに魔法は無理だが」

「……そう、ですね。もしもの場合もありますし。ぜひお願いします」

「よしじゃあ決定ー」


模擬戦、訓練開始である。

今回は文字数が多い話もあるので覚悟していてくださいね……?そして夫婦未満恋仲以上の二人とノア様は結構好きなキャラクターです。

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