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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第三十六色 無理解者


「はぁ!?『覇者』って……んなわけないだろ」

「いえ、貴方が速さの座『疾風』で間違いありません」

「……っつてもなぁー」


ルシィの断固とした言い分に男性は頭を抱えて俯いた。右手でグラスを取ると苛立ったように勢いよく煽った。ガンッ!と勢いよく置かれたグラスにサグラモールがビクッと驚き、軽く咳き込んでしまう。男性が慌てたように彼女の背を擦るとサグラモールは申し訳なさそうに男性を見上げた。背を擦るその様子はまるで父親のように優しくて暖かかった。だがそれでも手は動揺で震えていた。彼らが感じている以上に男性は混乱しているようだ。それもそうか。大昔の戦争で活躍した『覇者』の後継人が貴方ですと突然言われているのなのだから、驚くのも混乱するのも無理はない。


「……証拠は」

「証拠、証は貴方の左肩の紋様です。しかし……」


男性の問いにルシィは困ったように視線をアーサーに向ける。そこではアーサーがルシィから貰った紙に男性が持つ紋様、速さの座の紋様を思い出しながら書き出していた。一応で叩き込んで正解だった。紙に書き出し終わるとよしっと意気込み、一応でグリフレットにも見てもらう。彼がうんと頷いたことに安心するとアーサーは男性の前に書き出した紙を差し出した。男性は怪訝そうにその紙に書かれた紋様を凝視すると左肩を見た。肩部分しか残っておらず、二の腕はほぼ半分以下になった左腕。そこに本当に紋様などあったのだろうかと疑問に思ってしまうほどに失われた左腕。しかし、その左肩には紋様の頭の部分がしっかりと残っている。緑と云うか、自然の色とでも言うのだろうか、そんな優しい色で刻まれた頭部分だけの紋様はまさしく『覇者』を示す物で間違いなかった。だが男性はそれでも納得が行かないのか、「はぁあ」と大きくため息をつくと椅子に寄りかかった。


「……オレは元は孤児で、それから今の名字を持つ親父と養子縁組をしてこうなったんだ。物心ついた頃にこんな紋様があった記憶はねぇし、人違いじゃないのか?」

「その可能性はほぼないのぅ。妾もアーサーやルシィに言われなかったら右目の紋様の意味に気づかんかったじゃろう。先代にも幼少期はあった記憶がないのに指摘されて気づいたと言う者もおるしのぅ」

「そりゃあ嬢ちゃん、先代は神々から力の欠片を与えられたって言う話もあんだからそうだろう?だが、オレは違う」


トントン、と紙を指先で弾きながら男性が言う。男性の言うことももっともかもしれない。先代は神々より力の破片を与えられたという逸話がある。気づかずにいても不思議ではない。しかし、今は違う。その神々は既に死んだ。


「でも体に刻まれている紋様は成長と共に大きくなる。気づかなかっただけということも考えられるよ。実際にノアさ……おっと」

「ん?なんだって?」

「気にしていないで」


アーサーは咄嗟にペリノアの名前を出しそうになり、慌てて口をグラスで塞いだ。塞いだのは他の『覇者』についてはサグラモールとグリフレット以外は説明していないので、むやみやたらに帝国の皇子を出してはいけないと思ったからだ。まぁどうせ他の説明で言うのだろうが、今はまだ良いだろう。証は『覇者』の体に刻まれた紋様は場所によっては成長しないと分からない場所にあったり、物によってはぶつかって出来たと思われてしまうものも中にはある。または紋様が正式に分かっていなかったために気づかなかったということも考えられる。男性の年齢を見た目だけで推測すれば、その可能性も否定は出来ない。男性は孤児から養子縁組と言うことなので元々あったということに気づかなかった可能性も考えられる。男性の右腕や頬には昔の切り傷であろう傷が多く窺える。幼い頃から包帯を巻いていたと仮定するなら分からなかったことも理解出来る。もしかするとアーサーの考え通り、成長するにつれて頭角を露にしたのかもしれない。


「それにオレが生まれ育った場所は刺青がオーケーなところだ。もし、ちっさい頃入っていたとしたら、それかもしんないじゃねぇか」

「いいえ。違います。速さの座の紋様で間違いありません」


再び断固として言い放つルシィに男性は再び「はぁあ」とため息をついた。なかなか手強い男性だ。長年傭兵をしてきたためか、的確に自分達の穴に疑問と反論をぶつけてくる。『覇者』と証に関しては世代がまだ二世代しかないために明らかになっていない点が多い。また血筋で受け継がれるわけではないため、全然違う場所から『覇者』が見つかる場合もある。まだこれはないが、『覇者』を捜している最中に既に寿命で死亡したなんてこともあるであろうとも今後言われている。


「左腕って前まで包帯とかしてたかな?」

「嗚呼、してたけど。腕失くす前も兵士つっーかやってたから傷が酷くてなぁーあ、そん時くらいか?刺青っぽいのあったの」


グリフレットの問いにほぼ確定した。気づいていなかっただけで紋様は存在したのだ。左肩の上辺りなので全容までは見えなかったのだろう。男性は気まずそうに頭をかく。自分で自分に引導を少なからず渡したようなものなのだから当たり前か。しかし、それでも男性は完全に納得はしない。ただでさえ『覇者』のことで驚いているのに理解なんて追い付くはずもない。サグラモールとグリフレットが簡単に納得したのは世界情勢も『覇者』も正確に理解していたからだ。またはルシィのあり得ない存在も加わっているのかもしれない。なにしろ、そんな早くに咀嚼し納得するわけは多分ないのだ。アーサーはふと気になり、男性の左肩を見た。このご時世、回復魔法があり些細な傷なら治せるが切断された場合はそうはいかない。切断されて一定時間が経つ前に切断部分と部位両方に上級回復魔法をかけなければならない。回復魔法は光属性だが上級になっていくにつれて想属性に変化する。回復魔法使用者は多いが時間の関係で間に合わなかったケースは多い。男性も多分そのケースだろう。自分も大怪我を負ったことはあるが切断まで至っていないことを考えると、自分はまだまだなのだと考える。アーサーの視線に男性は不思議そうに首を傾げており、それに気づいたアーサーは言う。


「魔物にやられたの?」


男性の驚いた表情には気づいていたのかと云う何処か安心した感情が紛れていた。それにアーサーは一瞬考え込んだが、自分の口からポロリと出たのだと実感すると共に言っても良いだろうと把握していたことを正直に言う。


「サグラモールを助けた時にルシィが気づいたんだよ。だから俺達はカラドックさんに接触した」

「……よく分かったな?」

「分かったって云うか、見えた?感じかな。もっとも、ちゃんと会うまで君みたいに納得も理解もしてたわけじゃないよ」


そう言ってアーサーは小さく笑った。その笑みが何処か儚く感じたのか男性は小さく唇を噛んだ。


「みんな、きちんと理解したなんて分からないよ。この世界が危ない、生きるためだよ俺達も」


アーサーの言葉に男性、カラドックは小さく「はっ」と笑った。分かる、と言われているような、少しでも近づいたような感じがアーサーはした。男性、カラドック・アールは茶色のショートをオールバックにしていて少しだけ白が混じっておりー本当に少し、ちょっとくらいー、瞳は深めの青緑色。首にプレートがついたネックレスをし、指先が出る黒の手袋をしている。白の短めのネックウォーマーに黒の袖無しジャケットを着、左腕の袖はなく、右腕は二の腕辺りで捲っている。腰には小道具や武器を入れたウエストポーチを下げ、青の長ズボンに紺色のベルトの装飾がついたブーツ。

笑ったカラドックだったがそれでも完全に納得したわけでは決してなかった。


「オレは他の傭兵仲間よりも足が速いしな。これでも世話焼きなんだよ。それで左腕を失ったが、後悔してない」


クスクスと笑いながらカラドックが言う。それは心からその結果に納得している表情だった。それにルシィが不思議そうに言う。


「しかし……それで良いのですか?狩っていることを公表しなくても。片腕のみとい「良いって?」……」


ピリッとした稲妻のようなものにルシィはカラドックの琴線に触れたと分かった。彼もルシィが自分を心配しての言葉だと分かっていた。分かっていたが、ルシィの言葉を遮ると左肩を一瞥し言う。


「オレはこれで良い。()()()んだからな。だから、勲章でもあんだよ」

「それは……失礼しました」


力強いカラドックの言いようにルシィは素直に頭を下げて謝罪した。これ以上言っては、触れてはいけない。さもなくはそのオーラに切り殺されてしまう。カラドックは()()()()()()()()()()()()()ようだが、それは彼の意志であり勲章だった。嗚呼、やっぱり気づいている、そう思ったアーサーは小さく口角を上げた。多分、きっとみんな気づいていると思う。


「カラドックさん!ルシィをいじめるでない!」

「え、あ、いじめてた?ごめんな」

「いえ、大丈夫です。私も無神経なことを言ってしまったようですし」


少し震えていたルシィを庇うようにサグラモールが言えば、オロオロとカラドックが言う。『覇者』だなと実感してそれを噛み締めているだけだったのだが、ルシィはカラドックに申し訳なさそうに会釈した。それにカラドックも会釈し返すものだから、アーサーとグリフレットが小さく笑えば全員が一瞬の険悪と緊張の雰囲気から一変し笑い出す。暫し笑い合った後、カラドックは右手首を見る。そこには時計などがあるはずないのだがなにか魔法を付与しているらしい。彼が右手首を見るとただいまの時刻が浮かび上がった。時刻は彼が指定した時間になってはいないが、なにか用事があるらしくカラドックは「よっこいしょ」と年寄りのような掛け声を上げながら立ち上がった。


「んじゃオレは行くわ。納得も理解もして欲しいならもっとちゃんとした証拠持ってこい」

「……やっぱり、これじゃあ納得は」

「ん~微妙だな。多分、オレじゃない」


立ち上がったカラドックにアーサーがそう言えば、そう返ってくる。カラドックは飲み物の代金をテーブルに置くと「じゃ」と彼らが断るよりも早く立ち去ってしまった。

ウチが調べたら「蛇に噛まれて萎えた(要約)」ってあったんで隻腕にしちゃいました。この設定がのちに作者の間違いを呼ぶぅ……チートだから大丈夫!多分!

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