第三十二色 リーナル公国検問所
リーナル公国はヤオヨロズ共和国の斜め上に位置するリーナル大公が治める国だ。かつての戦争である国から独立し、誕生した国とされている。リーナル公国は町や都全体を囲うように強大な壁が作られており、他の国よりも頑丈で丈夫と有名だ。魔物の侵入も許さず、壁の外側に現れた途端、各自警団や雇った傭兵で狩り取ると云う手法を取っている。魔牙の侵入にも警戒を分けており、町や都に入るには全て魔法を施した検問所を通らねばならない。そんな絶対防御を誇るリーナル公国だが、貴族と平民の貧富の差が激しいと言われている。町や都には必ずと言っても良いほどに一つか小さいスラム街があるとされる。しかし、それは壁に力を入れる金の回り方に偏りがあるためにそうなっているとされ、いるだけで魔物から守られるならば、生きていける。まぁ激しいと言ってもそれぞれの町を確立しており、リーナル大公の血筋である「リ」がつく貴族が領主としてスラム街をなくそうとはしているが、近々始めたばかりの政策なために道のりはまだまだ険しいと見られている。そんな道のりが長いリーナル公国に見切りをつけて亡命せず、定住し続ける国民が多い理由はリーナル公国が多くの芸術と特産品の賞と云うか、位を貰っているからだ。これは毎年世界各国の重鎮達が厳しく審査し決まる、誉れ高き位で『覇者』をモデルにされたとも言われている。この審査には双神の意見も多少反映されるとの噂だ。特産品は国の町や都単位、芸術は個人に与えられる。その中でも多く賜っているのが芸術の中にある歌や躍りを中心とした位『歌姫』である。これは毎年のようにリーナル公国の国民が賜っており、賜った数日後にはその人物の歌声が風魔法と想魔法によって披露される。他の国では劇場でしか聞けないのが無料で聞けるとあって国民は誇りを持っており、出ない者が少ないのだ。
結果、そんなリーナル公国を目指していたアーサー達一行だが、ヤオヨロズ共和国から数日かかった。サグラモールもグリフレットも転移魔法はあるものの、転移先に目的地のリーナル公国の町が入ってなかったため徒歩での移動となった。目的地は貴族と平民の貧富の差が比較的少ない町だ。多くの旅人や他国民が訪れるリーナル公国の門のような町だ。まずは此処で情報を収集しつつ、『覇者』であろう人物に狙いを定める。そうしてその人物と接触し、ルシィに確認すると云う手法を取ることにした。サグラモールやグリフレットのようにひょっこりと遭遇する可能性もあるが、一応で情報を集めることにした。その情報によってもしかすると世界情勢の変化や魔物の動向も分かるかもしれない。そんな思惑もあった。と云うことでこの町に入ろうとしている彼らだが、案の定、検問所に引っ掛かっていた。いや、凄まじい防御を誇るのだから当たり前なのだが。しかも前に旅の一座がいるので検査に時間がかかっている。立ちっぱなしの足を屈伸で解しながらアーサーが前を見るとまだまだ一座の順番で一行に来ない。するとサグラモールがルシィの袖を掴んで言う。
「次、宿屋で泊まる際、二部屋取るじゃろ?ルシィを譲ってくれんかのぅ」
「え?なんで?」
驚いてアーサーが問えば、サグラモールはルシィの腕にすがり付くようにして答える。
「ルシィは擬人化故、中性的じゃしどちらにも見えるじゃろう?三体一の割合も微妙じゃし、ルシィをおくれ」
「まぁサグラモールは女性だからどっちにしろ一人になっちゃうからね。一人は心細いか」
「そういう事じゃ!」
グリフレットの納得の言葉にサグラモールが大きく頷く。なるほど。魔法の龍の擬人化であるルシィは見た目的にも中性でどちらと言うわけでもない。今回は四人だし、分けるならそうなるか。あとは当の本人次第だが。ルシィを「どうじゃ?」と見上げるサグラモールにルシィは言う。
「良いですよ、サグラモールさんのお邪魔じゃなければ。私はどちらでもあってどちらでもないようなものですし」
「邪魔ではないに決まっておろう?!まぁ。ルシィの見方によって変わると思うがのぅ」
わーい、とルシィの腕に両腕を巻き付けるようにしてサグラモールが抱きつき、そんな彼女の頭をルシィが優しく撫でる。その様子は何処か仲の良い姉妹や兄弟に見えて、恋仲のようにも見えた。ユーウェインとパロミデスを思い出したのはアーサーにとってはすでに見慣れた恋仲以上熟年夫婦になっているからだろうか。
「じゃあアーサー、同室よろしく」
「よろしくおじいちゃん」
「……んー年齢的には合ってるから否定出来ない」
クスクスとアーサーとグリフレットが顔を見合わせて笑えば、ルシィとサグラモールも笑い、待っている間、彼らは思い思いの会話に花を咲かせていた。暫くして旅の一座の検査が終わったらしく馬車を引いて町の中に入って行く。いよいよ自分達の番だ。町へのたった一つの入り口には目には見えない魔法が張られている。ルシィ達によれば合体属性らしいが、グリフレットによれば魔法以外にも別の物が組み込まれているらしいが詳しくは極秘情報だと言って教えてもらえなかった。検問所に施された魔法は魔牙を通さないために常に最新の情報を組み込んでいる。魔牙が使う魔法は詠唱なしが多く、人類によって数秒の差が命取りとなる。詠唱なしで出来る理由としては魔法属性をその体に刻み込んでいるからだと言われているが、詳しい事は分かっていない。検問所は体に刻み込んでいる魔法属性を検知する仕組みになっており、今まで人に化けて侵入してこようとした魔牙を幾度なく討伐してきた実績がある。そのため、魔物もリーナル公国攻略に躍起になっている。
「では次の方、一人ずつお通りください」
検問所の魔法がかかった入り口である、門を一人ずつ通るよう警備員に言われる。フードを外したグリフレットが一番乗りで通る。フードを外しているのでエルフの末裔だと分かられるがアーサー達がいるから大丈夫と開き直ったらしい。少しだけ自信を持ったグリフレットの透明なほどに美しい髪と瞳に後ろの方で感嘆の声が漏れる。門に反応はなく、なにも問題はないようだ。続いてサグラモールが興味津々と云った様子で門を通る。反応はなし。続いてアーサーが通り、反応がなかったのでルシィも通る。全員が検問所の魔法を通り、反応なし。大丈夫そうだ。と後方を振り返ったアーサーは魔法の門の微かな歪みに気がついた。微かな、と言っても風が当たって波打ったようなものだったがふとルシィが魔法の龍の擬人化だと気付き、まさか……と彼らを振り返ると警備員がちょっと困ったような表情でやって来た。
「すみません、最後に通った方、魔法などを只今使用中ですか?」
最後に通った方、とはルシィのことだ。全員がルシィを見てルシィ自体はいいえと首を横に振りかけ、「あ」と声をあげた。まさかルシィ自体が検問の魔法に引っ掛かるとは思ってもみなかったのだろう。実際、全員がそうである。ルシィはあちこち視線をさ迷わせると、アーサーに視線を向けた。どう弁解したら良いか分からないようだ。「自分は魔法の龍の擬人化で」なんて正体を安易に言えるわけもない。警備員はルシィの様子に言いづらいことだったかと不安そうにしつつ、警戒しているようだった。
「……あの、えっと「なにをしておるんじゃ姉様」……姉、様?」
その時、どうにかこの状況を乗り越えようと声をあげたルシィを遮るようにサグラモールがルシィの腕に抱きつきながら言う。
「警備員に言うても良かろうて。そのように動揺して隠し立てすることじゃあるまい。ということで、説明するから何処か個室に案内してくれんかのぅ。少々訳ありでの♪」
「そうでしたか。それは失礼しました。姉妹でお話を聞いても宜しいでしょうか?」
「嗚呼、そうしておくれ」
あれよあれよとサグラモールに押されてルシィは警備員と共に個室へと二人で行ってしまった。呆気に取られていたルシィ同様、アーサーとグリフレットも驚愕していたが、二人が消えて行った先を見て「なるほど」と頷いた。
「え、あ……なに?……グリフレット、分かった?」
「うん、分かったっちゃあ分かったけど」
クスクスと愉快げに笑うグリフレットに「どう言うこと?」とアーサーが詰め寄れば、グリフレットは彼をまぁまぁと宥める。
「ほら、さっきサグラモールとルシィは同室になるって話してたでしょ?それで姉妹なんて言ったんじゃないかな。ほら、ルシィってどっちにも見えるって自分で言ってたし」
小声で内緒話をするようにグリフレットが言えば、アーサーは納得した。ルシィの正体が言えないなら、病気などの事情だと偽ってしまえば良い。騙すことになり良心が痛むが、極秘だし混乱を避けるために『覇者』以外には口外しないように言われているのだ。箝口令もあるし。だったら二人を仲の良いなにかに偽装してしまえば良い。なるほどなぁとアーサーが納得しているとルシィとサグラモールが帰って来た。ものの数分だったがその後ろでは警備員が深く頭を下げている。サグラモールが二人を見るなり、グッと親指を立てた。
「乗り越えたぞ!」
「どう言って乗り越えたの?」
「ルシィと妾が従姉妹でルシィは難病を患っており魔法で強化して歩いておる設定にしたっ!」
「バレないかヒヤヒヤしました……」
ホッと胸を撫で下ろすルシィにアーサーがお疲れと肩を叩く。サグラモールの自信満々な態度にグリフレットが彼女の頭を撫でて誉める。
「バレそうになったらどうするつもりだったの?サグラモール」
「ん?色仕掛け」
「え」
サグラモールの答えにん?と聞き返すアーサーとグリフレット。ルシィが何処か遠い目をしながら明後日の方向を向く。
「色仕掛け」
「聞こえてる聞こえてるから……」
聞こえなかったと思ったらしいサグラモールがもう一度言えば、グリフレットが軽く手を振る。サグラモールの目がまん丸で、何処か真顔に見えて本当に無理だったらやる気だったのだろうと云う執念というか、そういうのを感じる。騙されて良かったと言えば良いのか否や。アーサーはもう一度ポン、とルシィの肩を叩くとルシィは困ったように苦笑した。まぁ何はともあれ、リーナル公国の町へ入国である。
新しい場所です!そしてなんか出来そうだったんだ……まぁやりませんけどね!最近連続投稿してますが気にしない!溜まってるんです!




