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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
34/130

Colour0.5 知識の座


ワァワァと雄叫びのような掛け声や怒声が響く。多くの声に混じって交差しては弾く刃音がまるで音楽のように反響している。それはまるで合唱のようでいて、平和を求めるための行動だった。様々思いと声が交差する訓練所の隅。そこには汗まみれになったディナダンとガヘリス、マーハウスが休憩を入れていた。訓練、ということでか三人の格好は鎧姿ではなくラフな私服である。この間、自国から生活用品を持って来たので着替えたのだが……訓練してしまえば変わりなかったかもしれない。結局着替えなくてはなるまい。大剣を担いだマーハウスにディナダンが汗まみれになった上着を剥ぐようにして脱ぎながら言う。


「マーハウスさんマーハウスさん、水属性のなにかちょうだい!頭から被るの!」

「ディナダン、私は火属性だよ。使えない属性だ」


ニッコニコで言ったディナダンはマーハウスの申し訳なさそうな表情と言葉にハッと我に返ったらしく、今度はこちらが申し訳ない表情になる。ガヘリスはまたか……と二人の後方で項垂れている。


「あ、あ、ごめんなさいマーハウスさん!ウチ、すっかり忘れてた……」

「ふふ、大丈夫だ。私が使えなくてもガヘリスが使える可能性もあるからね」

「え、そうなの!?」

「んなわけないでしょ俺だって使えないし!」


突然自分の方にやって来た話題にガヘリスが驚いた様子で叫ぶとディナダンはそんな彼なんてお構い無しと言うように「どうなのどうなの?」と詰め寄る。詰め寄られてガヘリスは困ったような表情を浮かべていたが、戸惑うように彼女の頭に手を置いて撫でれば、水属性の魔法はもう良いのか、ディナダンは気持ち良さそうにフニャリと表情を綻ばせた。まるで喉を触られてゴロゴロと鳴く猫のよう。ゴロゴロと云う気持ち良さそうな音が聞こえてきそうだ。そんな二人を見て微笑ましそうにマーハウスは笑うと近くに置いていたタオルを取り、二人分を二人に投げ渡した。片手でキャッチしたガヘリスだが、ディナダンはキャッチ出来なかったらしく、胴で受け止める形になった。慌てて胴で取ったタオルを奪い取り、バッと顔に当てる。乾かし立ての良い匂いと太陽の仄かな暖かさに包まれ、ディナダンの頬が再びフワリフワリと綻んでいく。そんなディナダンをガヘリスは我慢出来ずと言った様子でタオルで汗を拭いながら撫でる。二重の心地よさにディナダンは満面の笑みだ。


「水が入ったバケツならそこにあるから、それをかぶっても良いんじゃないかい?」

「それっていつから置いてるか分からないバケツでしょ?しかも雨水ですよ」

「雨水はさすがにイヤ!キッタナーイ!多分?」

「多分じゃなくて水属性使った方が良いよディナダン」

「うん!そうするー!」


クスクスと二人の答えにマーハウスはまるで母親のような優しい笑みを浮かべる。そうして汗を拭きつつ、マーハウスはふと「疑問に思っていたんだが」と言うようにガヘリスに視線を向ける。


「ガヘリスと私は同じ爵位だろう?敬語はいらないよ?」

「んーそうですけど、俺的にはマーハウスさんは同じ爵位でも敬意に値するんです」

「ケイイ?」


ガヘリスの言葉にディナダンが「なにそれ美味しいの?」とお腹が減ったのか、そう言う。それに二人が噴き出したのは言うまでもない。

パール王国でのマーハウスの家、レオネス家は由緒正しき戦士一家だ。ほとんど全員が戦士であり、そこの長女であるマーハウスは王国一の騎士だ。だからこそ二人共に爵位で言えば同じだがガヘリス的には敬意を示したかったのだろう。あとは年齢?かもしれない。一応というか、二人よりも年上だし。戦士団では敬語は常時ではないし。まぁ此処は割愛で。色々考えて年齢からだと、気になってはいたのに聞けなかったマーハウスはようやっと納得しつつ、嬉しいのだが少しだけくすぐったかった。ガヘリスからはアーサーの言う通り弟のような憧れの眼差しだしくすぐったいと言うような、嬉しいような。つまりは嬉しい。


「それは、ありがとうガヘリス。長年の謎が解明出来た」

「ええっ、マーハウスさんを悩ませてました?」

「ふふ、いいや。可愛らしいと思っただけさ」

「っ、か、可愛いって……」

「ガヘリスさんはカッコいいだよマーハウスさん」


マーハウスに笑って言われてしまい、ガヘリスは頬を赤く染めた。嬉しいんだけどなんか恥ずかしい。そう言うようにマーハウスを軽く睨むようにして見れば、彼女はディナダンと共に可愛らしいだがカッコいいだかで言い合っていた。それにクスリとガヘリスは笑い、マーハウスも笑う。


「まぁ、私的には友人のように話して欲しいなと思っただけさ。無理強いはしないけれどね。ガヘリスの気持ちは伝わったさ」

「えーと、考えておきます」


ニッコリと笑い合う二人にディナダンは除け者にされたとでも思ったのか、ドーンと二人に抱きついた。訓練後で汗だくで臭いかもしれないのにそんなこと気にせず、ディナダンにつられて抱き合って笑う。暫く笑って訓練の声が楽しさを良い塩梅に静めてくれた頃、「そう言えば」とマーハウスが前置きと共に言う。


「そう言えば、知識の座が見つかったようだね」

「えっ!そうなの?!」

「ノア様から聞いたんですか?」


二人の問いにマーハウスは頷く事で答えとする。するとディナダンは『覇者』が増えた事が嬉しいのか、「わーい」と言いながらタオルを振り回す。危ないからやめなさいとタオルを鷲掴みにするガヘリスを横目にマーハウスはペリノアから貰った情報を提示する。


「先代にもいたようにエルフの末裔らしい。確か『叡智』だったかな」

「エイチ?エイチってなに?」

「後で調べなさい。知識の座だから当たり前って言っちゃえば当たり前かぁ。先代は座違ったけど、やっぱり入るんだなぁ。次は誰が見つかりますかね」


タオルをディナダンに返しながらガヘリスが言えば、マーハウスは「うーん」とくうを一瞬眺めて考える。


「さぁねぇ、ルシィ殿の嗅覚の赴くまま、かな」

「無事に帰って来てくれば、まずは良いもんね!」

「そうだね」


えっへんと胸を張るディナダンの頭を撫で、マーハウスが笑う。全員、無事に帰って来てくれさえすれば、ディナダンにとってもみんなにとっても良い。そのあとに待ち受ける戦いなど目にもくれずに今はいたかった。ガヘリスが「いつ聞いたんですか?」と他の情報を渇望すると、マーハウスはタオルを首にかけて大剣を片手に取りながら言う。


「ついさっき、此処に来る前に聞いてね。ちょうど連絡があったらしいのさ、それでね。確か……男性でグリフレットと言ったかな。先程も言ったように知識の座『叡智』を司る『覇者』だ。アーサーとルシィ殿によると博識で優しい人だと言うことだ。年齢はお爺さんだがな」

「その情報いる!?相変わらずセンスが変!」

「博識、ウチ知ってるよ!頭良いってことでしょ!?最初に頭良い人ら揃うって幸先?イイね!」


ディナダンの嬉しそうな言葉にマーハウスは「そうだね」と笑う。その時、彼らの後方から「ディナダンちゃーん」と言う優しくも暖かい、女子特有の華やかさと云うかそんな声色が漂う声がした。一斉に振り返れば、アルヴァナ帝国の騎士団の女性陣数人がこちらに向かって手を振っていた。どうやら休憩時間になったので同じく休憩中のディナダンで癒されようと云うことらしい。ディナダンがいつも甘やかしてくれる仲の良い女性陣のもとへ行きたくてウズウズしていると、それにガヘリスが気付き「行ってきな」と優しく背中を押す。すると彼女は意気揚々と無邪気に太陽のような笑みを浮かべて、両腕を広げながら休憩中の女性陣へと突撃して行った。そんなディナダンに彼女達も両腕を広げてお出迎えする。なんだかじゃれる犬にも見えて忙しい。ディナダンの何処か子供っぽくて明るくて素直な性格に皆、癒されるのだろう。自分で頭がよくないと理解していることもあって努力するその姿も妹のように可愛がる要因の一つなのだろう。そんなディナダンと一緒にいるガヘリスも生真面目ながら子供らしい表情を見せ、面倒見が良いところが慕われる要因だ。真面目だからこそルシィと初対面の時、あんなにも動揺したのだろう。そんな二人をマーハウスはいつもいつも友人として仲間として愛しく思う。ずっと一緒が良い、なんて、無謀な望みだろうか。マーハウスもその強さと男らしい姿勢と正義感に多くの仲間が憧れているが……閑話休題。

じゃれ合うディナダンを見て、微笑ましそうに頬を綻ばせるガヘリスをマーハウスが真剣な仕事へと引きずり込む。


「話を変えてしまうんだがね。近頃、魔牙が出現しているらしい」

「……本当に変えましたね」


せっかく和んでたのに突然かと言わんばかりの低い、何処か恨めしいと言うようにガヘリスが言う。先程言っていた敬意は何処へやら、である。まぁ変えたのはマーハウスだし、しょうがないと言えばしょうがないか。そんな表情が何処か子供っぽくてマーハウスはコロコロと笑うと大剣を担ぎ直す。


「『妖術』と『叡智』が言っていたよ。()()()()()、とね」

「……()()に気を付けろって言うんですか。話からすれば魔牙ですけど、違う感じですし」

「ふふ。まぁ、気を付けていようじゃないか」


その()()()に、ね。


次回は金曜日です!そしてウチの妄想と偏見(以下略)

あと、この三人についてきちんと書いておきたかったんですぅううう!!!

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