表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
3/130

第二色 図書室勉強会Ⅱ


アーサーは本を読むのを諦め、ルシィの傍らに行くと書き写していた地図を指差した。ちゃんと覚えているか確認しようと言うことらしい。と云うかよりも悪戯に近い。ルシィはクスリと口元を押さえて笑うと指差された場所を見る。アーサーが指差したのは青色に塗られた海に面する国で丁寧な文字で「パール王国」と記されている。


「パール王国は海産物が有名な国で自覚ありの『覇者』が三人もいる国です。その右隣はアルヴァナ帝国。多くの領地を持ち膨大な軍事力を持つ豊かな国です」

「まだ指差してないのに」

「指すつもりだったでしょう?」

「まぁそうだけど」


そうアーサーが膨れるとルシィが楽しそうに笑う。それにアーサーも楽しくなって「アルヴァナ帝国」の隣を指差す。


「ヤオヨロズ共和国、様々な人々が共存する国ですね。次はリーナル公国、リーナル大公が治める国です。カラルス聖王国は魔法戦士などの育成等に力を入れており聖王と聖女が作った国とされています……此処は……」


最期の一つ、中央の国を指差した途端、今までスラスラと答えていたルシィの言葉が詰まった。アーサーがチラリと紙を見ると国名は書いてある。しかしそれは正式名称ではない。しかもそこにはこの世界でもっとも重要な建物がある。「うーんとうーんと」と悩むルシィだったが思い出したのか、パンッ!と陽気に手を叩いた。


「思い出しました!ダイカレッドヤード魔導国です!私が召喚された場所ですよね」

「そう。よく思い出したね」

「はい。忘れてはいけませんからね。神聖な儀式場がある場所ですから」

「そのわりには出てこなかったよね」


アーサーが笑えば、ルシィは「たまたまです」と不貞腐れたようにそっぽを向いた。図星なのは自分が一番分かっているらしく耳が赤い。それを見てアーサーはクスリと無邪気に笑った。

この世界は六カ国で成り立っている。パール王国、アルヴァナ帝国、リーナル公国、カラルス聖王国、そしてダイカレッドヤード魔導国・通称ダイヤ魔導国だ。ダイヤ魔導国で双神に関する儀式が行われているため、世界の中央に位置している。アーサーとルシィがいるのはダイヤ魔導国のほぼ真下に位置するアルヴァナ帝国だ。そしてこの図書室はアルヴァナ帝国の宮殿図書室であり、アーサーはアルヴァナ帝国騎士団に所属する生粋のアルヴァナ帝国民である。此処で生じるのは何故アルヴァナ帝国(此処)かと言う事である。簡潔に言えば、世界情勢がよく分かる国であるからだ。多くの書物を所蔵する地下書庫があるため、ほぼ生まれたばかりであり双神よりもあまり世界の常識を知らないルシィのため、出発前に常識を植え付けようと言うのだ。また自覚ありの『覇者』が隣国パール王国におりすぐに呼べる距離にいるためだ。他はまだ『覇者』がおらず『覇者』事情に齟齬が生じる可能性があったため両面に詳しく高い信頼性を持つアルヴァナ帝国が選ばれた、と言うわけだ。その帝国でアーサーが選ばれたわけでもある。ちなみに帝国内ではルシィについても『覇者』についても極秘となっており、限られた人数しか詳しいこともその正体を知らず、箝口令が全世界に敷かれている。まぁ、それも気休めに過ぎないのだろうが。


「魔法属性は?」

「それに関しては大丈夫です。私、全属性使えますのでなにかあったら全体攻撃連続です」

「それやったらこっちにも被害が来るからね?!ちゃんと見てやってよ!?」

「きちんと見てやりますよ。ところでアーサーさんの魔法属性は?」


ルシィに問われ、アーサーは困ったように笑う。それにルシィは意味を捉えきれなかったらしく、首を傾げる。


「……俺、無属性っぽいんだよ」

「……無属性?!」


アーサーの苦笑に気づかずルシィが驚愕に叫ぶ。この世界には魔法がある。つまり属性もある。火、水、風、地、光、闇、想の七つ。無属性と言うのは珍しい魔法属性であり他の属性に優劣もなければ、主要属性に組み込まれない。また無属性の魔法が存在しない故に魔法が使えないという珍しい存在だ。使えないと言っても魔力は他の者同様存在すると云われる。ただし無属性故か、他の属性に適合がないので使えないと云うのはある意味、言い得て妙である。まぁ、魔力はあるが魔法がからっきしとか使わない人もいるので属性を抜かしてしまえばそんなに珍しくはない。だが、無属性自体は前述にもあるようにその特性から珍しいことこの上なく、結構不明な点が多い属性だ。確認されているだけでも一人か二人しかいないほど。だからこそ今まで楽しげに笑っていたルシィが驚愕し興奮したように叫んだのだ。それにアーサーはキョトンとしつつ、「そんなに?」と訊く。


「そんなに驚くことかな?」

「驚くことですよ!無属性は珍しいです。世界で確認されている人数は少ないんですよ?『何者にも染まる事が出来ない者』と言うのを聞いてから無属性ではないかと思っていましたが、やはりそうでしたか!私は後方支援型ですの「え!?それ誰から聞いた!?」……『大地』……ペリノア・ルイ・アルヴァナさんですね」

「……要らない情報は言うなって言ったのに!」


またあの皇子は!親切心からなのは分かっている。分かっているが絶対にあの二人も加担してるだろ!頭を抱えるアーサーにルシィは先程のアーサーと同じようにキョトン顔をすると「嗚呼」となんとなく理解した。『何者にも染まる事が出来ない者』という異名とも言うべきものを聞かれたくなかったのだろう。その証拠にアーサーの頬が紅く染まっていて少しルシィは彼の新しい一面を見た気がして嬉しくなった。アーサーのルシィから見た第一印象は真面目で勤勉。何処か冗談も通じなさそうな感じだった。それもきっと二人共に未知の存在に緊張していたからなのだろう。そう思うとルシィには可笑しくて仕方がなかった。笑うルシィが自分の異名で笑っていると考えたアーサーは顔を紅くしたまま言う。


「あーうん、気にしないで……」

「強者であるアーサーさんが一緒で心強いです」

「嗚呼もうっ!」


先程の仕返しだと言わんばかりにルシィが言えば、アーサーは顔を両手で覆った。合っているのだから余計に否定しずらい。アーサーは無属性で魔法が使えない故に凄まじい努力をし、結果、騎士団でも実力は上を維持している。ルシィは全属性使用可能の後方支援型なためバランスが良い旅になりそうだ。と云うか!


「覚えたいことは覚えたのかな!?出発は四日後だけど!」

「まぁお陰様で大分覚えました。あとは人名ですね」

「そりゃあ今朝から籠りっきりだったからね」


「じゃあこれは良いか」とアーサーは持ってきた本を名残惜しそうに眺める。ルシィはまだかかると思ったが見当違いだったようだ。結構記憶力が良い。書き写した紙を慣れた手付きで四つ折りにしブレスレットのアクセサリーに魔法で変化させて収納する。今朝もアーサーは見たが、便利だなぁと云うしかない。アーサーは持ってきた本に手を伸ばすとふと、ルシィが窓の外を眺めていることに気がついた。宮殿図書室の近くにはアーサーが所属する騎士団の訓練所がある。いつも雄叫びを上げながら訓練をしている者が多いので遠くからでも声がよく通りよく聞こえる。図書室の外は庭園だが、訓練の声が大合唱で聞こえる範囲なために庭園には人っ子一人いない。今日も今日とて終わったタイミングを見計らったかのように微かに野太い雄叫びが響き始めているのを聞くに訓練が始まったようだ。ルシィは花が咲き誇る庭園ではなく庭園の向こう側に目を向けていた。


「どうかした?」


不安になってアーサーが聞けば、ルシィは手元の本を片手間に片付けつつ窓の外を眺める。


「いえ……気になっただけです」

「ふぅん……」


気になった、というのは上から見ていた時のことかそれとも違う意味か。アーサーには分からなかったが、ずっと籠っていても悪いと考えたのは事実だ。近くの本棚に本を戻しながらアーサーが言う。


「行ってみる?」

「え?」

「訓練所。ルシィにとってはむさ苦しいかもしれないけど。友人もいるし、紹介するよ。今まで会ったのって儀式関係者とかでしょ?」

「そう、ですが……良いんですか?」

「俺がしたいんだから良いもなにもないでしょ」


ケラケラ笑って言えば、ルシィは嬉しそうにパンと手を叩いた。どうやら合っていたようだ。早く行きたくて仕方がない!と言った様子のルシィを宥めながら図書室から出るために二人は閲覧室のテーブル上に積み重なった山を片付け始めた。


本日は此処まで!次回は月曜日です!

よくある説明会中なうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ