表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
26/130

第二十四色 透明な気配を追う


また火花がバチバチと散っている。けれど今回は脳内ではなく、()だという確信があった。理由?分からないが、そうとでしか考えられなかった。だってこんなにも鮮明で、悲惨で残酷で恐怖に溢れているんだから。血塗れになった地面に、地面に突き刺さった紅く染まった剣。誰かの悲痛な雄叫び。此処はある意味地獄だ。何度も見て聞いて、時には行った戦場。絶望に支配された戦場。その悲痛な姿を見るだけで恐怖を感じそうになって、敗けだと実感してしまいそうになって。けれど、空を舞うその()は幻想的で美しかった。そして、いまだに戦意に溢れていた。状況は見る限り絶望的なのに、諦めることなく、輝きを放っている。嗚呼、これはあの時見たのと同じで違う。けれど、恐怖もあるのは此処が本来そういうものだからだろうか。その時響いた悲鳴にも似た雄叫びに後方を振り返れば……()()()()()?嗚呼、夢だと自覚しているのに体の感覚があるだなんて、変な気分。でも、これは夢。脳内に散った火花と同じ。そうして今度こそ後方を振り返れば、広がったのは、今度こそ地獄で。先程まで見たのはなんだったのかと思ってしまうほどの、血に愛された、絶望が広がる地獄。思わず手を伸ばせば、切れたのは、誰のものではない、自分のものだった。


「っっ!?」


暗がりの中、アーサーは勢いよく飛び起きた。目の前で血が噴き出していたあの地獄のような光景が脳裏に焼き付いていて気持ち悪い。あの夢は一体、何?自分でも分からない。けれど、あの()を知っている。血の色じゃなくて、希望に満ち溢れたあの()。空に星のように輝いていた()。けれど、血塗れになった誰かと自分に向かって来た恐怖がそれを覆い隠す。


「……後味悪」


前髪を掻き上げて、憎らしげに呟く。今はまだ夜中で、カーテン越しの外は仄かに明るくなってさえいない。隣のベッドでは疲れたのだろうルシィが爆睡をかましている。もしかするとアーサーも疲れであんな夢を見たのかもしれない。神殿でも頭を打ったらしいし、そうかもしれない。まさかこの後の予知夢とかなわけは絶対にないだろう。あんな光景は嫌と言うほどに見飽きているのだから。


「寝よ」


アーサーは飛び起きた際に吹っ飛ばした布団を引き寄せると頭まで被り、ベッドに身を委ねた。スプリングがギィと鈍い音を上げていたが気にしない。明日ーー多分もう今日ーーはたくさん歩くのだ。早く寝て体力を回復しなければ。しかし……


「(……似てたな)」


夢というか悪夢というか、それに出てきた人々は顔が分からずとも何故か友人達に似ている気がした。


……*……


翌朝。酒場での出来事からアーサー達三人はあの男性客を捜すため、第三都市の中心部である広場にやって来ていた。オーナー兼主人によるとフードを目深に被ったあの男性客は三人と同じように観光客らしく、職業を聞かれた時は旅人だと答えていたと云う。ということは。あの髪質から考えてもエルフの末裔かクォーターの確率が高い。ルシィが知識の座だと嗅ぎ分けた以上、『覇者』であることは間違いようがない事実だ。なんとしても接触を試みなければならない。オーナー兼主人によるとあの男性客は本日行われる大会を観戦しに出掛けたらしく、ならばとアーサー達も追うように広場にやって来た次第だ。しかし、困った事に男性客はフードを目深に被っている。ルシィ曰く、溶け込んでいる物の正体であろうということでフードから少しでも顔か頭を出してもらわないとルシィの嗅覚は反応しない。つまり、彼を捜し出すにはフードをどうにかして外さなければいけない。また昨夜の暴漢が「覚えておけ」と言っていたのを考えるにまた男性客に突っ掛かってくる可能性も否定出来ない。


「ねぇ、サグラモール。今日やる大会ってなに?」


大勢の人波から逃れるため、壁際に避難していた三人は、右へ左へと流れていく人波を眺めつつ、昨夜の男性客らしきフードの人物を捜していた。あのまま広場にいてはこの人波に巻き込まれると判断したので緊急退避である。行ったり来たりする人々を眺めながらアーサーはサグラモールに訊く。彼女は宿屋を出る前に転移魔法で帰宅し、荷物を取ったので枚数が増えた腰の式の数を確認していた。視線を手元と腰に注ぎながらサグラモールは答える。


「武術大会じゃ。あとは魔法大会もあったかのぅ。妾は参加したこともないからそこまでしか分からん」

「観戦は?」

「したこともない。タイミング悪く、機関の試験日じゃったからのぅ。これでも人は少ない方じゃ」


サグラモールの説明にアーサーとルシィは目の前の人波を見て何処かげんなりし、唖然とした。サグラモールのように機関の試験で人がいなくてこれでも少ない方だと言われても実感もなければ、そうだとも思えない。これで少ない?多いの間違いじゃ?三人の目の前では人が絶え間なく入り乱れるように進み、大会に熱気を燃やしている。武器を持って歩いていく者達はおそらく大会出場者なのだろう。腰に下がる剣を一瞥し、アーサーは軽く息を吐いた。


「出たいですか?」

「えっ」


突然ルシィに顔を覗き込むようにして言われ、アーサーはポカンと驚愕と意味が読み取れないと言った不思議そうな声と表情をした。それにルシィはクスクスと微笑ましげに笑う。


「武術大会。武器を持った人を羨ましそうに見ていたので。違いました?」

「え……いや……マジで?」

「妾からもそう見えたぞ」

「……うわーマジかー」


顔を覆いながらアーサーは恥ずかしいと頬を染めた。確かに訓練的な感じで鍛練で出たいなーとは思っていたが、そんなに顔に出ていただろうか?出ていないと思っていたのに気づかれてしまいちょっと恥ずかしい。しかも、サグラモールに至っては楽しそうに笑っているため、余計に恥ずかしくなる。恥ずかしさで身を縮めるアーサーにサグラモールがツンツンと突っつきながらニヤニヤ笑う。


「飛び入り参加歓迎じゃぞ~」

「ルシィとサグラモールは魔法でほぼ一発じゃん」

「威力を下げれば問題ありません」


自信満々に親指を立てて云うルシィになんだがアーサーは脱力した。自分もそうだがルシィもサグラモールも気になっている事が丸分かりなのだ。それが何処か可笑しくてアーサーは口元を押さえて笑った。それにルシィとサグラモールは不思議そうに顔を見合わせて首を傾げていた。


「とにかく、『覇者』捜そ。大会はそのあと!」

「出たいことは否定しないんじゃのぅ?」


ニヤニヤと笑うサグラモールを手で払うと彼女はクスクス笑いながら人々の群れに目を向けた。ルシィも笑いながら視線を向け、三人で例の男性を捜しにかかる。だが、さっきからこの道を行き来するのは大会の関係者や観客のみで目立ちそうなフードの人物は一切見当たらない。もう通りすぎたか、広間に行ってしまったのだろうか。それとも多すぎる人通りに自分達がまだ見つけていないだけであろうか。凝視していたので目が痛くなってきた。アーサーは目頭を揉みほぐしてもう一度見る。と次の瞬間、目と鼻の先を通りすぎた人物に目を疑った。昨夜見たフードが目の前で風に揺れながら通り過ぎて行く。彼だ。慌てて呼び止めようとするが人の波には逆らえず、声を上げる間もなくアーサーの前を通り過ぎて行ってしまう。アーサーは両隣で同じように人々の頭を睨み付けるように凝視している二人を呼んだ。


「ルシィ!サグラモール!いた!」

「!?何処じゃ!?」

「あそこ!今、露店の前!」


アーサーが指差すその先、昨夜見た男性客がフードを揺らして歩いている。が、此処からではどう頑張ったって騒音で声も聞こえないし、走って行くにも人が多すぎる。また、フードをしているのはなにも彼だけではない。


「ルシィ!フード一瞬でも外れれば、あの人か分かる!?」


ルシィを振り返り、周囲の喧騒に負けるかと叫ぶアーサーの言葉の意図を読み取り、ルシィは頷いた。気配を溶け込ませ、捜索を阻んでいるのはあのフードだ。つまり、フードが一瞬でも外れればこちらのもの。ルシィの答えにアーサーはサグラモールを見る。自分達二人よりも小柄で身軽な彼女ならば、この人混みを突破し、男性客のもとに行けるかもしれない。間違えていたらそれまでだが、だが、アーサーにはあの人だと云う確信があった。何故だか分からない。近くにも同じフードの人がいないわけではないのに。……多分、ルシィといたから残り香的なのが分かるようになったのかもしれない。そう思うと何処か嬉しかった。


「サグラモール、合図したらあの人のところまで行って!」

「え、あ、うん!」

「行きます!〈そよ風よ吹け(リトル・ウィンド)〉!」


何がなんだかわかっていないサグラモールを放置し、ルシィが片手を挙げ小さなそよ風を起こす。狙いは、露店の前にいるフードの人物。男性客を狙い、涼しくも心地よい風が彼のフードを優しくはずすように撫でるように、それでいて無邪気な子供のようにフードを少しだけ浮かす。その一瞬、フードを慌てて押さえた男性客のフードから除いたのはあの透明なほどに綺麗な白と空。嗚呼、間違いない。彼だ!


「サグラモール!」

「〈速度上昇(スピード・アップ)〉!」


アーサーがサグラモールの背中を押せば、ようやっと分かったのか、サグラモールは自身の足に風属性を付与し、露店の前にいる男性客目掛けて人混みの中に突っ込む。右へ左へとまるで押し寄せる波のような人々を押し退け突き進み、ようやく見慣れた物がサグラモールの視界に入った。翼のようにはためくローブの隅に見えた紋様はこの際一切無視し、サグラモールはその男性客に向かって抱きついた。


「見つけたぞ!」

「!?『覇者』……?」

「……アーサー!ルシィ!やっぱり知っておるぞ!」



そして見つかるもう一人の『覇者』となにやら不思議な夢……?

次回は月曜日です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ