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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第十九色 桜を纏った『覇者』


さて、サグラモールを入れて三人で神殿をあとにすることになったのだが、おそらく神殿が魔法で視覚的に見えなくされていたこともあり、サグラモールにはもう三人分の転移魔法を使う魔力は残っていなかった。集団十二人をアーサーとルシィが困っていたので送ることくらいしか出来なかったのだ。まぁ一気に十二人も送れば魔力が枯渇するのは当然だった。それにサグラモールの要望でもあった。意識を失っていたが自分がどういうところに連れて行かれ、どんな儀式に生け贄として殺されそうになったのか気になり、出入り口まで歩きたいと云うのだ。それよりも先にどうやって仕掛けによって転落した天井から上に戻るかが問題だったが。そこに関してはルシィとサグラモールの魔法使いコンビが大活躍となった。風属性の魔法で体を浮き上がらせ、落ちたところであろう場所で風を巡回させ上昇。おそらく地下から脱出と相成った。「さすが二人共」と無邪気に素直にアーサーが二人を褒め称えれば、褒められ慣れていないのかサグラモールは頬を紅くそれこそ桜のように染めて照れていた。ルシィに至っては無言で照れた頬を袖口で隠していた。


どうやらアーサーが触れた仕掛けは魔法で出来た床を開閉するものらしく、三人が脱出した頃には本来の床が出現していた。ので、ギリギリ閉じ込められるところだった。「もし閉じ込められたら妾が想属性でおおっぴらに広げよう!」とサグラモールが胸を張っていたので、もうなにも言わない。

広間に戻ると倒した魔物は既に完全に消滅しており、吹き抜けになった天井からは森の魔物であろうか、野太い雄叫びが反響して神殿に潜り込んで来ていた。


「早く行こっか。別の魔物が来たら面倒だし」

「アーサーさん」

「サグラモール、気楽で良いよ」

「うぬ……そうかのぅ。それではお言葉に甘えて……アーサー、それはフラグというものじゃよ」

「やめてくださいよサグラモールさん……嘘ですよね?」


サグラモールの笑っていない目にルシィは目を逸らすように片手に炎を灯すと、さっさと次なる道へと歩いて行く。その様子にサグラモールはクスクスと笑い、アーサーを見上げた。


「妾達も行くとしようかのぅ」

「そうだね」


二人はクスクスと笑い合ってルシィのあとを追った。サグラモールが言ったように魔物がこれ以上出ない事を願って。無理な気もするが、一応アーサーは胸の中で祈っておくことにした。再び暗闇を歩きながら三人は死体の罠を通りすぎて行く。死体の罠はあまりサグラモールの興味を注ぐものではなかったらしい。逆にサグラモールは少女らしい悲鳴を上げてルシィにしがみついていた。怖かったようだ。死体の罠については言っていたがその詳細までは言っていなかったのだ。必死に彼女に謝り通したのは云うまでもない。


「ヤオヨロズ共和国ではサグラモールみたいな服装が多いの?」


怖さを紛らわすようにアーサーがサグラモールに服装について問いかければ、彼女は少しだけ落ち着きを取り戻したようでスカートを摘まんでチョコンと可愛らしくお辞儀してみせた。その片手は今だにルシィの服を掴んでおり、ディナダンに褒め殺しされたことを思い出したのか、アーサーに「どうすれば良いのですか!?」と助けを求める視線を投げ掛けていた。もちろん、あとで助けると云う意向を視線で示しておいた。


「いや、ヤオヨロズ共和国は様々な人々が集まる国じゃて。だが、妾が着ているような東洋系が主流での。巫女というのもそこから来ておるんじゃよ」

「へぇ。自分達と違うところだと色々違うんだねぇ。ちょっと楽しみ……で、落ち着いた?」

「嗚呼。すまんかったのぅ、ルシィさんありがとう」

「いえ……」


怖さを落ち着きで克服したサグラモールはルシィの服から手を放す。それにルシィはほぼ無意識で彼女の頭を優しく撫でていた。サグラモールが驚きキョトンとするとルシィも気づいたようで慌てて手を引っ込めた。


「す、すみません!」

「ん~妾は子供じゃし、撫でられるのは好きじゃ。だから、撫でておくれ?」

「サグラモールってディナダンとガヘリスと気が合うよね絶対」


悪戯っ子の笑みを浮かべてルシィにサグラモールが言えば、カッとルシィの頬に熱が灯る。そうして恐る恐ると言った様子で彼女のサラサラとした頭を撫でれば、サグラモールは嬉しそうに頭を擦り付ける。まるで警戒心の強い猫の警戒心を解いて手懐けているようで、なんていうか和む。きっと妹と弟のように可愛がっているディナダンとガヘリスと仲良くなるだろう。ルシィもなんと云うか急激に仲良くなれて嬉しいのか、顔が綻んでおりサグラモールも嬉しそうに顔を綻んでいる。いつまでも見ていたいと思うような光景ではあるがアーサーは名残惜しげに二人に声をかけることにした。


「二人共~そろそろ行くよ~」

「「あっ」」


そんなこんな神殿の廊下を進み、ようやっと外に出た。神殿内は何処か湿気があったのか肌に張り付いたようだった空気が一瞬にして瑞々しい空気に変わり、「よく頑張った」と言わんばかりに前髪を撫でていく。鼻腔を擽る緑の匂いが数時間ぶりであるにも関わらず、まるで初めて嗅いだかのような錯覚に陥る。うーんと眩しい太陽の光に目を細め、背伸びをするアーサーの隣でサグラモールが自身が連れ込まれた神殿を見上げている。そうしてスパッと勢いよく切られた縄を見て、一瞬にして顔面蒼白になる。自分がどれほど危険だったのか本当の意味で理解したようでルシィが心配そうに彼女を覗き込んでいた。


「……妾、本当に危なかったんじゃなぁ」

「なにか知っているのですか?」

「知っておるもなにもヤオヨロズ共和国の神話にある一つ、『七龍』じゃ。絡み合っておったじゃろう?ヤオヨロズ共和国が建国されると云う時、近くの森から侵略を企てた七体の龍の兄弟。それを封印しその力で森を形成したのがこの神殿じゃ……」

「それは……本当に危なかったですねサグラモールさん」


サグラモールの説明に二人が息を飲む。確かに壁に描かれていた絵では龍七体が絡み合っていた。つまり、侵略を企てた龍を封じたと云うことだろう。集団はなにを刷り込まれたのか守り龍だと思い込んでいたようだが。壁画を思い出し、アーサーはブルリと体を震わせた。もしそんな龍が七体もサグラモールを生け贄に復活していたらと思うと……世界の滅亡へのカウントダウンが一気に加速してしまう。想像したくもない。


「危なーじゃあ、あの集団はヤオヨロズ共和国関連かな?」

「おそらく、じゃの。詳しいことは言えんが、森全体が龍七体の力と連動しておる。魔物の出現で弱り、それで見つかったのかもしれんのぅ。報告が増えたぁ……」

「お疲れ」


「はぁあああ」と大きなため息をつきながら脱力するサグラモールをアーサーがドンマイと慰める。その時、三人を覆う異様な気配と殺気。瞬時に警戒体制に入った彼らを嘲笑うかのように周囲の茂みから魔物が飛び出してくる。森に溶け込むためだろうか、鹿や此処に来る前に戦った兎のような魔物が異形な姿でご登場した。数が結構多い。倒した魔物の気配で寄ってきたのか、はたまた自分達の戦力になると踏んで侵入しようとしてきたか。どちらにしろ倒す必要性がある。こちらも殺気と警戒のオーラを放つが魔物にはあまり効いていないようだ。いや、辛うじて効いているようで数体の足が後退していた。まぁ魔物にとっては弱者も強者も関係ないのだろう。目的が最優先と云うことだ。倒すことには変わりない。剣を抜き放ったアーサーと魔法を展開させようとするルシィをスッと差し出されたサグラモールの腕が制した。どうしたと彼女を振り返ればサグラモールはニィと口角を上げて悪戯っ子のように笑った。


「二人はさっきから連戦続きじゃろう?じゃからのぅ、どうか休んでいておくれ」


どうやら戦った二人に気を使っているらしい。しかし魔法の座を司る『覇者』とは言え、サグラモールだけに任せるのは気が引けた。


「しかし、三人で殺った方が効率が良いのでは?」


ルシィの不安そうな表情にサグラモールはそれを一蹴するようにケラケラ笑う。


「少し間を置いたから魔力は大分回復したしのぅ。もう一つの礼をさせてくれぬか?そして、実力を見てくれぬかのぅ」


顔だけで振り返り、「ね?」と首を傾げるサグラモールの両手にはいつの間にか魔法が展開されていた。それでもう答えは決まっていた。アーサーはルシィと顔を見合わせると小さく頷き、剣を納める。そうして言い放った。


「サグラモール、頼むね」


力強い、鼓舞するかのごとく背中を押すアーサーの声に、言葉に、サグラモールはオッドアイにも見える瞳を輝かせると両手を胸元に掲げ、叫んだ。その声は何処までも響く強い意志を持っていた。


「お安いご用じゃて!」


サグラモールのその言葉を合図に彼らを囲んでいた魔物が一斉に跳躍し、一歩前に出たサグラモールに向かって襲いかかる。空を覆うように大きく飛ぶ魔物にサグラモールは臆することなく、言葉を紡ぐ。回復した魔力を魔法に乗せて、声に乗せて。


「〈夜闇に浮かぶ月よ、我が敵を討ち滅ぼせ。これは月の乙女の(ルナーズ・)鉄槌なりて(テスラ)〉!」


サグラモールが両手を胸元から天に向けて掲げれば両手と両腕を黒い粒子が螺旋を描いて包み込む。その手の上に現れたのは美しい月。昼にも関わらず、仄かな優しい光を放つ月は次の瞬間、無数の黒い肌をした目元が辛うじて空洞になった不気味な女性と変貌し、魔物に容赦なく襲いかかる。黒い粒子と共に魔物を優しく包み込む、かと思いきや突然黒い女性が言い表せないような奇声を発しながら地面に無理矢理引きずり込み引き裂いていく。魔物の阿鼻叫喚が響き渡り、血肉が散乱する。その光景は誰がどう見ても地獄絵図。が、そんな恐ろしくも強大な魔法を何体かは果敢にも通り抜け、彼らに少しでも攻撃しようと接近する。咄嗟に剣を抜く体勢になったアーサーを大丈夫だと制しながらその場で一回転しつつ腰の式を引きちぎるように取り、零れた魔物に向けて投げる。


「〈式術・桜吹雪〉!」


彼女が投げた式、紙は勢いよく空中に舞い、魔物の頭上に舞い上がる。と、単なる紙に見えていた式が突如として巨大な桜の花へと変貌し残っていた魔物に向かってまるで蔓のように桜の花びらを打ち付け、花びらを刃物と変化させて魔物に容赦なく突き刺して行く。雨の如く降り注ぐ花びらと蔦に魔物は攻撃できずに逃げ惑うしかない。そのうち魔物は全て二種類の魔法ー一種類は式ーによって倒された。一瞬のうちに圧倒的力によって一面泥の沼を形成し、無情にも消滅していく魔物にアーサーもルシィも唖然とした様子でサグラモールを見る。さすが魔法の座を司る『覇者』だと感心というか、感服するアーサーにサグラモールはニッコリと笑い振り返った。


「これが妾である」


その表情は何処か自信とこれから始まる新たな旅に胸を踊らせる少女らしい無邪気さに満ち溢れていた。


名前からして和風ってなったらこうですよね!

次回は月曜日です!

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