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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第一色 図書室勉強会

暖かな日差しが差し込む廊下。真っ赤なカーペットが何処までも続く廊下に敷かれ、足を乗せればふかふかの感触に夢へと飛んでいってしまいそうだ。そんなカーペットが敷かれた廊下に面した一つの部屋。豪華な彫刻が施されつつもそこまで主張せずに静かに鎮座している。その扉のドアノブには「立ち入り禁止」と云う札がかけられている。普段ならば此処は誰でも入室可能なのだが、今日に限っては誰も入れない。ある二人を除いて。そんなこの部屋は図書室だ。図書室の真下には地下書庫があり、多くの歴史書や古書が所蔵されており、簡単には持ち出せないようになっている。それもそのはず、書庫には大切な書物が所蔵されているのだから。まぁそんなこんな。

そんな図書室は本日はガランとしているが相変わらずとでも云うように多くの本棚には多くの書籍が並び、自分がいつ使われても良いようにとでも云うように静かにその時を待っている。その図書室の閲覧室には複数のテーブルと椅子が置かれており、調べ物や書き物には最適な場所となっている。日差しも良い具合に差し込み、昼過ぎに此処にいて日差しにさらされていたら眠ってしまいそうになる。その一つのテーブルには一人の人物が座って本を読んでいた。読んでいると云うよりも手元の紙に書き写していると表現した方が良いだろう。その人物は中性的で女性か男性かは分からない。が不思議な雰囲気が漂っている。人物の近くには多くの本が山のように積み重なっており、今にも雪崩を起こして倒れてしまいそうだ。しかし、人物は気づいていない。と、本の山が揺れた。数秒の間を置いて山が人物の頭に向かって雪崩を起こした。


「……お気付きなら止めないと危ないのは自分ですよ」


だが、本の角は人物の頭に届くことはなかった。青年が雪崩を片手で止めたからだ。青年は脇に挟んでいる本を落とさないように気をつけながら本を整理してテーブルに置く。窓辺から差し込む日差しで彼の白銀の髪がキラキラ輝く。まるで湖のようだと言っていたのは誰だっけ?そう考えながら呆れたように言えば、本に齧りつくようにしていた人物が青年を見上げていた。


「アーサー・ロイさん」

「何故フルネーム」

「そのまま覚えているので」

「……そのまま?」

「はい」


ほぼ無表情で淡々と答える人物の声は低くもあって高くもある。ハスキーな声、とも少し違う気がするしそんな感じもする。中性的な声だ。青年は少し高いがどちらかと云うと低い声だ。青年は軽くため息をつきながら人物の向かい側の席に座ると持っていた本を開く。人物が紙に書き写しているのが世界地図だと気付き、興味深そうに身を乗り出した。


「地図ですか。国名だけでも良いと思いますが」

「いえ、私は()()()()()のは知っていますがきちんとした名前は知らないので一応で。ところでアーサー・ロイさん」

「アーサーで良いですよ」


青年の言葉に人物は一瞬戸惑ったように口ごもると小さく「アーサー、さん」と口に出した。どうやら名前を呼べるのが嬉しいらしく、頬が仄かに紅く染まった。その様子はまるで恋する乙女のようで可憐でいて美しい。


「アーサーさん、貴方も私には敬語でなく普段通りでお願いします。私は()()()()()()()()し、それに私と貴方は共に旅をする者同士ですしね」


ニッコリと楽しそうに笑いつつも真剣な瞳で云う人物に青年は一瞬躊躇い、そうもそうだと頷いた。ただ、本人も言っているようにまだ少しだけ受け入れて理解出来ていないだけなのだろう。自分が、俺が十二の座を司る『覇者』捜しの片割れに選ばれるなんて。


今から数十年前。異形な化け物が世界に現れた。「神」と名乗った化け物はこの世界の創造神・双神により「神ではない」と否定される。この世界、また神は神同士ならばその存在をすぐに認識出来るとされる。またこの世界では双神が神を生み出す。双神以外()の神が新たな神を生み出すことはできず、実質双神が全ての頂点だ。それに現在、双神以外の神は存在せず、双神が生み出さなければ存在はあり得ない。そして神と云う証拠がない。それでも双神は化け物を受け入れようと交渉を開始。しかし交渉は数分間のうちに決裂。双神が召喚されていた国に襲撃を許す結果となった。化け物は世界を滅ぼすことを決め、侵攻と侵略を繰り返し始める。世界、人類は簡単に滅ぼされてなるものかと抵抗を開始。化け物はその異形な形態から魔物と呼ばれ、魔物の上官・上級格を将軍または魔法を使うとして魔牙マガと呼ばれた。

ちなみに神は奇跡を起こすことは出来るが魔法は使えず、人類には知恵と助言を与える。双神は創造神であるためにその後の世界に関することは傍観を決めている。理由としては奇跡のみでは戦う事が出来ないからだ。奇跡とは人成らざる力を与えることや魔法では決して出来ない現象を指し、双神は創造と破壊を行えば全てが消えてしまう可能性があるからだ。例を上げれば魔法では死人を生き還らせることは出来ないが奇跡なら死人の最盛期まで生き還らせることが出来る違いだ。だからこそ新たな神を生み出すことが出来る。つまり、簡単に言えば役割分担をしているとも言える。もちろん知恵と助言は貸し、様子を見には来るが「その後は彼らの人生」だとし世界が本当に滅亡の危機にさらされた時に真の姿と力を表すとされ、頻繁には現れない。

そんな抗いを続ける世界に双神が知恵と助言を与えた。


「十二の座を司る十二人の『覇者』が必要」

「世界に散らばった彼らなら、食い止めることが出来る」


『覇者』、かつていたと言う神々から力の欠片を与えられたと言われる強大な力を持った十二の座を司る十二人。十二人と云うようにそれぞれ座ごとに力が異なるとされる。歴史書には先代が記されており、一人で一部隊を担うほどの力を持っていた者もいたと云う。先代についても力についても詳しいことは不明だが、『覇者』にはそれ相応の証が体もしくは小物に存在する。小物、アクセサリーの場合は生まれる際に手もしくは身につけた状態で誕生する。

双神が今までその『覇者』について助言しなかったわけは数個あり、その一つが『覇者』の一人が出身国にて未成年扱いであったため。もう一つが数年前まででは『覇者』全員の力が将軍や魔牙より若干弱く、寸でのところで負けてしまう可能性があるため力が増幅するタイミングを狙ったため。きちんと準備していない状態で挑んでも敵にこてんぱんにされてしまえばもとも子もない。最終兵器は温存するに限る。最期の大まかな理由として上級格である将軍や魔牙が大規模な侵攻を企てているとの情報があったためだ。しかしその半分は自らが『覇者』という自覚がなく、なにも知らぬまま巻き込むべきではないとの考えから招集するに至った。敵に悟られぬようこちらも準備を進める必要がある。そのため敵が現れた数年間を敵の実力調べとし、確実に反撃するタイミングを待った。静かに進めたその結果、反撃のチャンスはすぐ近くにまで来たのだ。自覚がある六人は将軍や魔牙との戦い、大規模な侵攻にも了承しており、集まるまで待つことになっている。反撃の狼煙が今、上がろうとしていた。

その『覇者』捜しに青年は選ばれた。大勢で移動しては気づかれるとのことで選ばれたのは彼だけだったが、だが……


「……なんで俺が選ばれたんだろ……」

「『大地』の推薦と聞きましたよ」


人物の淡々と云う言葉に青年は「ノア様な」と訂正すれば、人物は「そうでした」とあっけらかんと言う。彼が推薦したのは知っているが何故……そんな問いだったのだが、人物にわかるはずもない。

青年、アーサー・ロイ。白銀のショートに空色の瞳をし、もみあげが少しだけ長い。両耳に瞳の色と同じピアスをしている。服は正装でもある白い軍服で白い長ズボンに紺のロングブーツ、ネクタイを締めている。その腰には剣を下げている。


アーサーは軽くため息をつくと目の前の人物を見据えた。突然見られて人物は驚いていたが「なんでしょう?」と不思議そうに首を傾げただけだった。自分の髪とよく似た色の、銀色の瞳がアーサーを探るように射ぬく。けれどもその色は暖かみと優しさを持っていて初対面の時からアーサーは好感が持てた。何故か同僚は「少し怖い」と言っていたがそれもそうだ。


「……龍神ね」

「龍神と云っても所詮は魔法の方の擬人化です。敬語で話す必要はないのですがねぇ」

「そうもいかないでしょ、ルシィ」


人物、ルシィはアーサーに名を呼ばれ、嬉しそうにその銀色の瞳を細めた。翡翠色のセミロングにハーフアップ。結び目には白い結い紐が揺れ、マリンブルー色のチャイナ服に身を包み白いズボン、黒のヒールが高いブーツを履いている。両手と腰には青と翡翠色のビーズで彩られたブレスレットと腰巻きをし、服の裾には双神を示す太陽と月が描かれている。


双神は『覇者』を捜す手段としてある人物を遣わした。『覇者』が司る座を嗅ぎ分け、『覇者』自身を捜すことのできる嗅覚を持った擬人化、それがルシィだ。魔法に存在する龍の擬人化であり本人が云うように神ではない。しかし双神が生み出したのは事実であり、頼みの綱でもあった。いわゆる半神だ。双神自身も「神様じゃないから気軽に」と言っていたがそうなるには時間がかかる。また擬人化なので姿は中性、性別は不明である。女性らしくて男性らしいと言うのが同僚含め全員の意見である。


「頑張って双神(主人)の役に立たなくては。アーサーさんのためにも」

「それよりも覚えたんですか?」

「敬語」

「……勘弁して」


アーサーがニッコリと笑っていない笑みのルシィから距離を取るように両手を挙げれば、ルシィはクスクスと笑った。それにアーサーはなんだか気が抜けてしまい、肩を落とした。

もう一個行きます!

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