第十六色 銀の剣
バシャバシャと水を弾き飛ばしながら集団のうち六人がアーサーに向かって跳躍する。一人がアーサーに魔法を放つ。バリバリッと凄まじい音を立ててアーサーの頭上から雷が落下する。それを横に転がるようにしてかわし、続いてやって来たナイフを防ぐ。片膝を相手の腹に食い込ませ、前のめりにするとその背に肘落としを食らわす。そのまま倒れいく相手の首筋に片手で手刀を落とし、気絶させる。これであと五人。そう思ったアーサーの視界の隅から別の相手が侵入する。どうやら壁を蹴って大きく跳躍したらしく、恐ろしいほどの飛距離を叩き出しながら、アーサーの頭上より剣を振り下ろす。ガンッと剣で防ぎ、弾き返すと相手の懐に一気に攻め込む。ガッと剣の柄で顎を殴り飛ばせば相手は後方にヨロヨロと大きな音を立てながらよろめく。そのまま追撃を加えようとアーサーが水面を叩けば、背後から気配を感じた。慌てて飛び退こうとすれば、水が足元に絡み付き、跳躍のタイミングがずれてしまう。バシャン!と音がして後方に転んでしまったアーサーを別の武器を持った相手が大きく武器を振り下ろす。それは頭を狙っていた。ヤバッ!と思い、下半身を捻り、起き上がるついでに相手の顔を蹴り飛ばす。そのまま水のない場所へと這い上がれば、そこには魔法を詠唱中の相手と杖を持った二人がいた。一人はアーサーに気付き、持っていた杖を大きく振り回し振りかぶる。それを右に左にとかわすと剣を振り回す。杖と剣が勢いよく交差し、相手の腕が交差の衝撃で痙攣する。アーサーは相手の杖を大きく弾き飛ばすとその腹に回し蹴りを放つ。脇腹に突き刺さるように炸裂した一撃に相手が横に吹っ飛び、壁に叩きつけられる。と、次の瞬間、
「!おっと!?」
アーサーに向かって放たれた霧状になった無数の炎。咄嗟に横に飛び退き、剣にまで巻き付こうとする霧を剣を振って拭おうとするが粘着力が強すぎて霧は一向に離れてくれない。しかも刀身を伝って柄へと到達しそうな勢いだ。このまま放置していれば腕にまで到達し、骨が焼けるような痛みと共に戦うことになる。それだけは避けなくてはいけない。ただでさえ儀式用であろう水辺でびしょ濡れだと云うのに。アーサーは軽くため息をつくと視界に捉えた別の相手に蹴りを放ち、足場とすると跳躍し、壁に着地。近くには先程吹っ飛ばした相手が壁に寄りかかって伸びていた。あと四人。そんな相手を横目に壁を走り出す。魔法も武器も上手い具合にかわしていきながら、水辺に移動するとそこに剣を突っ込み、水を切るようにして霧を追い払う。そうしてまた水辺が途切れるところで後方を振り返り、水切りの要領で背後に迫っていた相手の顔に水をかけた。
「うわっ?!」
突然の水に驚く相手に壁の上でステップを踏んで大きく跳躍し、相手の肩に片手でバランスを取って着地する。とアーサーの重みに相手の体勢がガクッと崩れる。ブンッとアーサーに振られる武器に彼は相手の肩の上から勢いよく飛んで飛び退き、その背中に蹴りを放てばアーサーに向けて魔法を放ったはずの技が位置がずれたことで仲間に落ちる。どうやら雷だったようで頭から雷撃を受けて痺れに痙攣しつつ水辺に勢いよく倒れ込む。水死しないように素早く仰向けにしておけば、アーサーの体に微かな痺れと痛みが走る。なんだと痛みが走った剣を持っていない片手を見れば、先程消したはずの霧が微かに腕に付着していた。全て消したと思っていたがいつの間にか剣から片腕に移動していたらしい。魔法を唱えたであろう人物ー二人残っていたがーを見れば二人してニヤァと意地悪げに口角を上げて笑っていた。濁った瞳と目が合い、背筋に水を浴びたせいだけではないだろう悪寒が走る。嗚呼、来るな。そうアーサーが感付いた次の瞬間、横に武器が振り回された。剣を横にし、防ぐ。勢いよくやってきた一撃に腕が震え、乾いていない前髪から水滴が落ちる。相手の手にあるのは斧で刃先は錆びていたが何故か切れ味が抜群と言っても過言ではないほどの威力を伴っていた。魔法で強化しているのだろう。相手が大きく剣を弾き、アーサーに斧を振り回す。それらを剣を盾に必死に防ぐが、相手の強化魔法が異様に効いているらしく、防戦一方になってしまう。
「〈風よ吹け〉!」
「!しまっ」
紡がれた言葉に気づいた時は遅かった。目の前の相手が撤退した途端、アーサーを刃のような風が包み攻撃する。体中に走る痛みに歯を食い縛ると剣を一線。そして、風を利用して背後に接近していた相手に剣を振り回す。片腕に刻まれた傷が衝撃に耐えきれず、痛みを催す。それに思わず顔をしかめつつ、一瞬だけルシィの方へと視線と意識を向ける。廊下の方で残り六人とドンパチやっているらしく、カァン!という刃物が壁に打ち付けられたような甲高い音が響いた。その時、相手に武器を振り回し、魔法で防がれた時、アーサーの視界に先程斧を持っていた相手が少女に斧を振り上げているのが目に入った。自分達に邪魔されて儀式が出来なくなるくらいなら必要だと云う少女を殺してしまえと云う考えか。道連れになんて、
「くっそ!させないよ!」
剣を振り回して相手を後退させると相手の足を足場に跳躍し、バク転しつつ相手の武器を弾き剣を逆手にし、相手の溝尾に柄を食い込ませる。着地、振り返り様に逆手持ちのまま剣を振り気絶させる。素早く床を蹴り、少女と斧を持った相手へと駆ける。相手はアーサーを一瞥し、遅いと嗤った。瞬間、もう一人が魔法で氷を生み出すとアーサーに向けてナイフ投げのようにして放つ。それを飛んでかわし空中で体勢を崩しながら剣で弾く。飛ばされる氷のナイフを足場に跳躍しながらかわし、結構高かったはずの天井に肩が当たる。アーサーは体を捻り、片手と片足に力を籠めると押し出した。押し出した衝撃を利用し、魔法が止んだ僅かな隙を狙い斧を持った相手に一気に迫る。少女と相手の間に間一髪で滑り込むと上段から振り下ろされた攻撃を防ぐ。体中に響く痛みと目の前で散った火花に目が眩む。斧に魔法でも組み込まれているのかと一瞬勘繰ってしまうが違うらしい。目の前の相手の実力だった。徐々に痛みを抉るように追い込まれていき、背中に少女の鼻先がつきそうになる。懸命に耐えるがズルズルと足はアーサーの意思とは裏腹に後退していく。今膝蹴りでもしようものならすぐさま少女と共に力技で切り伏せられてしまう。もう一人はまた魔法を放とうとしているし……どうする?そこでアーサーの視界に水が入った。嗚呼、そうだ此処は儀式の場で、今いる場所は水辺。足首につくかつかないくらいの少量の水。また水を使えば良い。使える物はなんでも使え。そう言っていたのは、確かペリノアだっただろうか?アーサーはニィと口角を上げると片足を軽く上げれば、案の定待ってましたと言わんばかりに相手が斧を力任せに押し込む。がそこにアーサーは爪先で水を掬い上げ、相手の顔にかけた。一瞬、相手が水をかわすために目を閉じた。今だ!思わず叫びそうになった声を押さえ込み、アーサーは残った片足を軸に半回転すると少女が寄りかかる石像に蹴り上げた足を当て強く押した。一瞬だけ力が抜けた相手に力を入れたアーサーの突進にも似た攻撃に相手が後方によろめく。バシャンと音を立てながら着地すると剣で相手の手首から斧を弾く。
「チッ」
相手は舌打ちをかましながらアーサーに向けて拳を振るうがそれをアーサーは軽々とかわす。そして剣を横に振った。剣を振った風圧がまるで魔法のように目にも止まらぬスピードで相手に迫る。それを相手はかわそうとするが武器もなく、足元まであるローブが水を吸って重くなっていたらしく千鳥足になった相手を捉えるのは簡単だった。そんな相手の腹に斬撃が当たり、壁に軽く頭を打ち付けて気絶した。残り一人。ふぅと息を吐く、その時、背後に感じた気配にアーサーは瞬時に振り返り目の前に迫っていた大岩を剣で砕き落とす。バラバラと散った小岩が水辺にパシャパシャと心地よい音を立てながら落下する。少女を一瞥すると運良く小岩は当たらなかったらしく、アーサーは胸を撫で下ろした。そして、最後の一人を空色の瞳に捉える。最後の一人は魔法。手に持った杖は明らかに殺傷力は高くないが、油断は禁物だ。水辺をかわすように、滑るように跳躍したアーサーに相手がいくつもの魔法を放つ。全て攻撃魔法で早くアーサーを殺してさっさと儀式をやってしまいたいと云う焦りが見える。もしくは生け贄を少女から変更する気だろうか?まぁ、どちらだとしてもアーサーにとってもルシィにとっても関係ない。自分に向けて放たれる攻撃魔法の群れを踊るようにかわしながらアーサーは相手に接近する。足元の床を一蹴りし、飛距離を伸ばすと一気に相手の懐に迫る。相手が一瞬の出来事に動揺するが、一番驚いたのはアーサーの瞳であったことを彼は知らない。濁り淀んだ瞳と間近で目が合う。魔法で洗脳されているとは言え、情けは無用。アーサーは勢いよく近距離から剣を振る。相手は後方に仰け反ってかわすと続いてくるであろう攻撃を予測し、横にずれる。案の定、アーサーの一撃は硬い床にぶつかり、痺れをもたらす。
「〈|光よ瞬「させないからね二回はもうないっ!」」
床にぶつけた剣を軸に大きく回転し、壁を蹴って逃亡する相手に再び一気に迫る。低い姿勢で接近したアーサーに相手は彼を見失ったようで一瞬怯んだ。そんな相手に剣を突き上げるように振り、後方によろめいた瞬間に回し蹴りを放った。相手が魔法を放つよりも早く、一瞬の出来事だった。それに対応できず、相手は円形になった部屋で地団駄を踏みながら後方によろめき、頭を軽く打った。そうしてズルズルと座り込み動かなくなってしまった。気絶したようだ。アーサーは聞こえなくなった音に今度こそホッと胸を撫で下ろすと剣を納めた。
数人vs一人って結構大変ですよね。ですがそれを軽々とやってのけるぅーう!




