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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第十一色 古代の神殿


「止まってください」

「?どうかした?」


森を歩いている最中、突然ルシィに言われアーサーは驚いたように立ち止まった。どうしたのだろうとルシィを見ると鼻を犬のようにピクピクと動かし、匂いを嗅いでいる。ルシィがこのような行動を取るということはつまり、『覇者』が近くにいるということでしかない。しかし、いるとしても何故こんな森の中に?頭にはてなを浮かべるアーサーなんて知ったことかとルシィは自分にしかわからない匂いを辿って森の中を進んでいく。慌ててルシィを追いかける。森の奥に進んでいるように感じてしまうほどに木々が増えてくる。何処に行こうとしているのか、前を歩くルシィに問うても良いが、邪魔をしたくはなかった。一、二分ほど歩いて突然、ルシィは立ち止まった。本当に突然だったため、ルシィの背中にぶりかりそうになりアーサーが急ブレーキをかける。今度こそどうしたのだと問おうとしてアーサーはルシィの前方を覗き込んだ。そして息を飲んだ。そこにあったのは古びた神殿だった。森の奥、木々に囲まれてひっそりと存在する、いつ壊れても可笑しくはないほどに古い神殿。所々に長い時が過ぎたことを示すように幾多ものヒビが入り、そこを強い力で突けばバラバラと壊れて行ってしまいそうだ。そんな神殿の扉は誰かが開けたのか、開かれており、老朽化に伴い立ち入り禁止にしていたのであろう縄は見るも無惨な姿へと変わり果ててしまっている。遠目から見ても明らかに魔法で切ったと分かる切り方と切り口が晒されている。こんなところに『覇者』がいるとでも言うのだろうか?怪訝そうにルシィを見上げれば、ルシィも怪訝そうに神殿を見ていた。どうやら本当に匂いだけを頼りに来たらしい。まさか神殿が出るとは思っても見なかった、と顔に書いてある。


「この森に神殿ってあるのですか?」

「さあ?そこまでは俺もわかんないけど……『覇者』?」


アーサーが問うとルシィを首を傾げつつ、返答した。


「ええ。確かにこちらの方でした「伏せて」?!」


と、ルシィの言葉を遮ってアーサーはルシィの頭を掴むとしゃがめと押し込んだ。それに素直に従い、二人して茂みにしゃがみこむ。するとその数秒後、数十人の如何にも怪しい風貌をした集団が歩いてきた。頭からすっぽりとフードをかぶり、こちらからでは顔は分からない。誰かが足を引き摺っているのか、ズルズルという音が鈍く森に反響している。その集団は一心不乱に神殿を目指しており、森の小鳥やリスには目もくれない。普通に考えて怪しさマックスで関わらない方が良いと思うのだが、集団の最後の人物が担ぐ大きな袋にアーサーは違和感を持った。クッタリとしたその袋のシワには人の指のようなものが浮かび上がっており、一瞬嫌な想像をしたのは無理もない。死体か?もし死体なら運ばなくとも此処は森だ、自然が処理してくれるのを待ったって良い。運ぶ理由が他にあればの話だが。と、ピクッと袋が肩の上で痙攣した。まるで浜に打ち上げられた活きの良い魚のように、何度もピクッ、ピクッと痙攣する。驚き、「あっ」と声を上げそうになった自分の口をアーサーは手で押さえるとルシィを振り返る。いつの間にかルシィがアーサーの近くに寄っていた。どうやら声を聞かれない方が良いと判断したらしい。小声で、耳元で囁くようにしてルシィは言う。


「恐らくですが、あの袋の中身、人ですよ」

「……それってさぁ、生きてる?」

「生きてるもなにも、魔法の座を司る『覇者』です」


まさかの事実にまた声を上げそうになるが、懸命に声を押し込み堪える。あの痙攣の仕方からして生きているのは確実だったが、何処か現実味がなかった。けれど、ルシィに言われて唐突に視界が晴れたかのように現実味が湧く。恐る恐る頭だけを出して集団を覗けば、神殿に入っていくところだった。集団はこんな森に自分達以外誰もいないと思っているのか、堂々とした足取りと態度で神殿の中に消えて行った。集団が視界から消えると張り付けていた緊張の糸がプツリと切れた。アーサーは茂みに寄りかかるようにして肩から力を抜いた。


「……初っぱなから誘拐事件かよ……」


思わず出たその言葉には驚愕が溢れんばかりに滲んでいた。最初に魔物、その次は恐らく誘拐事件?旅初日に見つけたことに喜べば良いのか、事件らしきものを目撃したことにおののけば良いのか……もうなんて言ったら良いのか分からない。大きくため息をつくとルシィの心配そうな顔が視界に入った。どうするべきかルシィも悩んでいるようだ。ルシィの嗅覚が間違うはずは決してない。だがこれは自ら危険に突っ込むようなもので……


「(……この旅に同行するって承諾した時点でもう飛び込んでるか)」


クスッともれた苦笑は嘲笑ったのではなく、可笑しくて笑ったものだった。既に飛び込んでいる危険と云う穴に、新しい危険の穴が出来てそのまま通りすぎるようなものだ。ずっと続く穴、危険の連続なのは承知済み。ルシィは何故アーサーが笑ったのか検討もつかず、不思議そうな表情を浮かべている。


「行きます?」

「『覇者』捜しが俺達の仕事でしょ。なにかあったか知らないけど、『覇者』が関係してるなら行くしかない」


しょうがないというような、真剣なアーサーの表情にルシィは小さく笑い、力強く頷いた。自分達の使命を考えれば、早くに越したことはない。アーサーは今朝も見た地図を取り出すと地面にルシィにも見えるように広げた。やはり、今いる場所に地図には神殿らしきものは書かれていない。ということは地図が古いか神殿が新しく建てられたかの二択になるのだが、明らかにあの神殿は古代と言っても良いほどに古めかしい。あれが最近作られたとは考えにくい。それに古めかしい神殿に似合わぬ真新しい縄。あれに関しては最近と見て間違いない。怪しさ全開の集団が切ったと見て良いだろう。ならあの神殿は一体……?もしかして魔法?アーサーがルシィを見るとどうやら同じことを考えていたらしく、力なく首を振られた。


「しかしあの神殿からは魔法の気配がします。視覚的に見えなくしていた可能性も否定出来ません」

「幻……想属性か闇属性の使い手か。あの神殿がなんなのか分からないけど、集団の格好に統一性があった。だから多分」

「儀式、なにかしらの、ということですね」


アーサーの言葉を受け継ぎ、ルシィは言う。それに彼がうんと頷く。この世界では全ての儀式で使う者、人物の服装など統一性が多ければ多いほど効果が高いと言われている。双神を召喚する儀式では少し事情が異なるが、魔法関連ではそのようにすると良いとされる。そこと神殿から考えるに儀式関連である可能性は高い。『覇者』が何故か袋詰めにされている以上、危険度は相変わらず高い。


「でも、儀式って言ったって種類は限られてるでしょ?なんだって云うんだ……」

「さあ。それは中に入らないことには分からないかと」

「だよなぁ」


儀式の種類がなんなのか、それさえ分かればどう対策すれば良いか多少は分かったのだがそうも行かないようだ。アーサーは剣を少しだけ抜き、先程戦った魔物との後遺症がないか確認する。恐らく、中にはいれば誰かしらと戦うことになる。ああいう怪しい連中に限って魔物が近くにいる事が多い。偏見だろうか。ルシィも手元で自身の調子を確認している。うん、大丈夫。シャッと剣を納め、続いて地図もしまう。そしてゆっくりと神殿を伺うように腰を上げる。中から誰も出てこないことを確認し、立ち上がるとガサガサと茂みを掻き分けて行く。そのあとにルシィも続き、二人で入り口近くまで素早く移動する。壁に背をつけ、中を覗き込む。中はまるで夜のように真っ暗で深い深い闇が海のように何処までも広がっていた。


「これ、灯り必要だな」

「やはり、縄は魔法で切られてます。結構強いですよ」

「そこも注意ポイントかなぁ。ルシィ」


縄を観察していたルシィを振り返れば、バトッと無造作に縄を投げ出しルシィは片手に灯りの代わりの火の球体を作り出す。敵が突然出現した時、すぐさま攻撃出来るようにとの配慮付きだ。アーサーは柄に手を当てながら、ルシィに頷くとルシィも頷き返す。そうして二人は暗闇に滑り込んだ。

最初から事件なんて、当たり前でしょー!?あれ?違うか?

次回は月曜日です!

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