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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第百九色 合戦


第三部隊は魔物の中央を横断することに成功した。あとは状況に応じて後方支援に指示を求んだり、陽動作戦を実行するだけだ。アーサー達はエディアスを囲んでいた防御である魔物を仲間達に任せ、エディアス本人に戦いを挑みにかかる。アーサー達を狙って大きく跳躍し、牙を剥く魔物が後方支援によって空中から叩き落とされては地面で待機していた仲間に狩り取られていく。それを横目に彼らは進んでいく。魔物が一体一体確実に狩られて行くのを見るとこちら側が優勢と勘違いしてしまいそうになるが、本音を言えば、優勢よりの劣勢である。数で言えば魔物側が多く、しかも疲労しなければ大きく負傷したとしても動きが鈍くなるだけで撤退することはない。世界を滅ぼす、殺すことをただただ盲目的に機械的に繰り返すだけの生き物。エディアスに言わせれば実験道具の玩具。魔物と違って人間は傷を負えば治療しなくては死んでしまうし、もちろん死にたくないから逃げ出す。ペリノアが許可しているだけあって死ぬまで此処にいる強制力はない。それでも彼らは大切なもののために、意志を燃やして戦う。だが、それでも無限の体力を持つ魔物と比べてしまうと人類側こちらが劣勢になるのは当然だ。だからこそ、負傷者は後方支援のもと一時撤退しその分、後方支援が攻撃を叩き込むことでなんとかバランスを保っている。しかしそれもおそらく魔力が尽きないという前提のもとに成り立っている。魔物ーー特に魔牙に魔力が尽きるという現象があって欲しいものだが、根拠もなく正解もない。また物資はあると云っても廃墟が多く見晴らしの良い荒れ地が広がる此処では籠城戦はどっちみち不利だ。相手は夜目が効く可能性がある。


「(……嗚呼、考えてたってしょうがない)」


エディアスとの戦いを前に多くの可能性がアーサーの脳裏を横切る。けれどもその可能性、仮定は必ずしも全てが現実になることはなくて。現実になるのはその中のたった一つだけ。そう思えば、今自分が()()()()()()を考えているのがなんとも馬鹿らしく思えてくる。アーサーに向けて風刃を放った魔物がガヘリスとカラドックの風属性の魔法とナイフに切り裂かれる。足元を蠢いていた蛇状の魔物がドラゴネットとディナダンによって木っ端微塵に切り裂かれる。嗚呼、そう、迷うことも考えることもない。ただ、進めば良い。「歴史書『伝説の物語』」の物語のようにただ前に進んで掴めば良い。自分達が望むものを。

バッとアーサーはエディアスを睨み付ける。それほど距離はないはずなのに彼から溢れる殺気と何処までも残虐な思考が彼らを容赦なく覆い隠してくる。空中浮遊する傍らなのかアーサー達をじっと、しかし何処か狂喜的に見つめている。そうしてなにも言わずに彼らは対峙する。戦場に木霊する雄叫びが両者の心情を表すように響いていて煩わしくもあって応援歌のようでもあった。なにも言わずに対峙する。双神が助言した『覇者』と全て否定され復讐を決意し全てを実験道具としか思っていない破壊者。その正義とも悪とも分からない意志を自分だけが気づいていて。ねぇ、だから終わらせてしまえ、全て。かつて、感情と思惑が呼んだ世界戦争(悲劇)のように!


スッとエディアスが模様が刻まれた左腕を挙げる。彼の意志で実験で望み、否定され、怒り憎み、その果ての復讐を表す左腕の模様が微かに動いたように見えたのはただの錯覚ではきっとないのだろう。エディアスが左腕を挙げたことでなにかが起こることは大方察しがついている。だからこそ全員が警戒した面持ちで身構えていた。と次の瞬間、エディアスの左腕に刻まれた模様が実体化し、数匹の蛇となって彼らに襲いかかった。蛇はクネリクネリと青黒い鱗を毒々しく見せびらかしながら空を滑る。かと思いきや蛇は今度は一瞬にして青黒いドラゴンへと姿を変える。大きさは先程の蛇と同じくらいでいささかドラゴンとしては迫力に欠けるが、それでも無数のドラゴンが牙を見せながら迫る異様な光景は恐怖でしかなかった。それはエディアスの攻撃に身構えていたはずの全員が数秒間でも恐怖で動きを封じられたくらいには。そしてその色にーーいや蛇にアーサーは不吉な予感がした。


「っ!〈全てから守りたまえ(オール・ディフェンス)〉!」

「〈毒からの解放(デトックス)〉!」


正気に戻ったサグラモールとボールスが叫ぶ。彼らを薄紫色の膜が包み込み、さらにキィン!となにかが張られる音がすれば、ドラゴンと化した蛇が彼らを狙って突っ込んでくる。がサグラモールの魔法のお陰で目の前で弾かれ、地面に叩き落とされる。それでもなお暴れる小型のドラゴンから紫と黄緑色の粘着性がある液体を吐き出されるがそれもボールスがかけてくれた魔法のお陰で彼らの指一本にも当たらず、見えない壁に衝突して跳ね返る。自分のところに戻ってきた液体はやはり毒のようでドラゴンは焼け焦げた臭いを発しながら自爆し溶けていく。みるみるうちに毒で見るも無残な姿、肉も骨もなにもかも感覚があるなかで溶かされ焼かれる光景にフローレンスとディナダンが「ヒィ!」と軽く身を寄せ合っていた。


「あっぶな!?さっきの〈毒あり蛇(ポイズン・スネーク)〉だよね!?左腕に飼ってたの!?」


ユーウェインが足元に落ち溶けていくドラゴン……もはや蛇の形をした液体を見ながら声高に叫ぶ。そこには()()()()()()()という狂気染みたことに関する恐怖が滲んでいた。()()()()()というのはそのままの意味を示す。生命力を魔法に全て吸い付くされ、その代償に無詠唱による魔法の実現を容易とする。エディアスは無詠唱だった。そしていまだに左腕では蛇が蠢いている。体内に魔法を飼っている魔術師と云っても過言ではなかった。


「いんやぁ、多分ちげぇな。多分あれは〈毒呑み龍(ポイズン・ドラゴン)〉だ。ユーウェイン(嬢ちゃん)の言う〈毒あり蛇(ポイズン・スネーク)〉の上級魔法だ」

「そして一番飼いやすい魔法でもある」


カラドックとグリフレットの切説明に彼らは気を引き締めた。一番飼いやすいと云うことは他にもある可能性を示唆している。地面に溶けていく蛇の残骸をアーサーは足で拭い、全てなくすとエディアスを見上げる。案の定、彼は変わらず空中で浮遊しており余裕綽々とこちらを見下している。魔法を飼っているであろう左腕は彼の心情を表すように蠢いては威嚇してくる。次に放たれる魔法は一体何か?挑発するようにペリノアがエディアスに笑いかければ、彼もペリノアに笑いかける。此処が戦場ではなくて殺気もなければ二人の邂逅かいこうは親しいものだっただろう。いや、実際、今も親しみが含まれているようには見えるが単なる錯覚だしその証拠に笑いあった二人の目は恐ろしいほどに冷えている。気温が数度ほど下がった気がするのは気のせいでは多分ない。と、ペリノアが組んでいる右手の指先をエディアスに見えないように動かした。その右手の指先の指示の先にいるのはディナダンとガヘリス、マーハウスだ。三人はすぐさまその意味を理解し、エディアスに気づかれないようジリジリと後退していく。その後ろ手でアーサーもペリノアの指示を受け、助言を出す。アーサーの後ろにいるのはルシィとフローレンス、ドラゴネットだ。三人もアーサーの指示を正確に読み取るとゆっくりと作戦を開始する。


「(まぁ、それもバレてるんだろうなぁ)ノア様」


余裕をかますエディアスを見上げながらアーサーはペリノアの耳元で耳打ちすると、彼は背後で浮遊している大太刀の切っ先を少しだけ上げてみせた。本の少し、数ミリ動いただけで凝視しなければ分からないくらいの差であり合図。ペリノアからの合図にアーサーは小さく微笑み、パロミデスとカラドックと共に駆け出した。途端にエディアスも左腕から新たな毒龍を放ち、三人の行く手を阻むが、サグラモールとグリフレット、ボールスが魔法で援護し毒龍を地面に叩き落としてはエディアスにお返しだと言わんばかりに魔法で弾き返している。それをエディアスは前方に防御魔法を張っているらしく、左腕を軽く払っただけで消滅させてしまう。一瞬、エディアスの顔が自らの腕に覆われたその瞬間を狙い、アーサーは大きく跳躍し剣を振り下ろす。だが案の定、防御魔法が発動しアーサーの攻撃は防がれてしまう。だがその両脇を固めるようにパロミデスとグリフレットが風属性の魔法を付与した安定した足場を伴い襲いかかる。しかしエディアスは用意周到に自分の左右にも防御魔法を張っていたらしく、二人が攻撃したと同時に地雷が爆発する。後方に勢いよく吹っ飛ぶ三人を横目に背後にルシィ達が迫る。おそらく背後にも防御魔法を張っているだろうが知ったことか。フローレンスが水属性をさらに付与した扇でエディアスの首筋目掛けて振り下ろし、ドラゴネットもまた鈍く光る刀身をエディアスの首筋に向けて狙いを定めている。ルシィはエディアスの心臓、左胸を魔法で狙っている。一斉にやればどれか一つは当たる、例え防御魔法を張っていたとしても隙間なく全てを防ぐなんて芸当はできやしない。三人が一斉に攻撃を仕掛ければ耳元で金切り音が響き、脳裏を木霊し揺さぶっていく。フローレンスとドラゴネットの攻撃は大きく弾かれ彼らの体は空中に落とされる。しかし、左胸をねらったルシィの一撃だけは違った。指先に付与した魔法の武器は熱で熱されたように歪み、折れ曲がっていた。それだけではない。ルシィが狙った左の背中の防御魔法が微かに剥がれ落ちているのだ。そこだけ魔法を薄くした感も拭えなかったが攻撃を滑り込ませるならそこしかなかった。


「〈魔法強制解除(キャンセル)〉!」

「っ」


パリンッッ!とガラスが割れたような甲高い音が響く。エディアスを守っていた防御魔法がピキピキと亀裂を刻みながら崩れていく。慌てたのか顔をゆがめるエディアスと表情がマーハウスの瞳に大きく写り込んだ。上段から振り下ろされると思いエディアスがマーハウスの方へ体を向け、右腕で顔を防ぐ。その傍ら左腕の模様を動かし、魔法を発動させる。がマーハウスは上段からではなく斜め上から大剣を振り下ろし、二人の間を縫ってガヘリスのレイピアがエディアスの脇腹を貫く。微かな痛みにエディアスの左の指先があらぬ方向を向き、魔法の発動を阻害する。そこにマーハウスは大剣を振り下ろし、風圧で彼を無理やり撤退させれば、エディアスは風圧に押されて地面に着地し好機と言わんばかりにディナダンの大斧が大きく弧を描いてエディアスをかっさらう。


「〈風の波動(ウィンド・ウェーブ)〉」


パチンとエディアスの手の中で指が鳴せば、一瞬だけ彼を包み込んだ鮮やか緑色の波動が左右に動けば、エディアスはすかさず勢いをつけて〈風に乗って空(フライ・)を飛びましょう(ジャンプ)〉を付与し再び空中に舞い戻ろうとする。エディアスの左腕に飼われている魔法は特定の魔法のみのようだ。少しだけ地面から足が浮いたエディアスに左右から素晴らしいほどのコンビネーションでユーウェインとパロミデスが刃物を振るう。


「〈月光よ照らせ(ムーンラーナ)〉!」

「〈狂い踊る炎夢バーサーク・ファイアー〉!」


二人が攻撃を仕掛けた途端、エディアスの視界を月光が覆い、視界を妨げ麻痺させる。そこにサグラモールが躍り狂う炎を放てば、案の定エディアスの魔法は消え、地面に逆戻り。しかし、エディアスはニィと口角を口裂け女の如く歪ませて笑いユーウェインとパロミデスの攻撃を踊るようにかわすと続いて二人の合間を縫ってやって来たアーサーとカラドックの刃を両手の指先で挟んで止める。突然のことに動揺し、武器を引く二人だが捕らえられた武器はびくともしない。巨大な力で押さえ込まれたように動かない。カラドックが〈速度上昇(スピード・アップ)〉を使い、脱出を試みようとした次の瞬間、両手を押さえられ無防備になっていたエディアスの背にペリノアが放った無数の大太刀が迫る。エディアスは大太刀を一瞥すると頭上へ勢いよく飛び上がる。飛び上がった拍子にアーサーはカラドックにぶつかりそうになったがカラドックが寸でのところで受け止めてくれた。エディアスを追って無数の大太刀が空中を滑る。勢いよく跳躍したエディアスは空中で一回転すると大太刀の群れに踵落としを食らわせ、左腕ではなく右腕を振り上げた。エディアスの余裕綽々とした、悠々自適としたこちらを見下す笑みにアーサーの背筋に嫌な悪寒が駆け巡る。剣を振って全員に教えようとするも、誰かが気付き叫ぼうとするも、それら全てをエディアスは一蹴して嗤うのだ。


「遅い」


次回は月曜日です!12人vsラスボスはあまりやったことないので少し不安がありつつ楽しんでおります……

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