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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
112/130

第百五色 開戦の鐘



『「この戦場において正義はない」


と、誰かが言った。


「あるのは勝利と敗北、そして己の意志のみだ」


と。だから、と声を上げ、誰かが告げる。血塗れの戦場に声を響かせる。


「だから、勝つのは己の意志のみと思え。相手の実力、恐怖、感情に押し流されてはならない。この戦争は多くの思念により生まれている。ある者は王を生もうとし、ある者は愛する誰かのために武器を取り、ある者は囚われた誰かのために戦う。そこに悪も正義もない。あるのは、意志のみ」


カァン!と甲高い音が戦場に響き渡る。敵側に気づかれてしまうのではないかと勘繰ってしまうほどにその音は清らかで美しく、洗礼されていた。誰かは言う。


「『覇者』なんて者は神々から力の欠片を与えられているとはいえ、ただの人間。意志が弱ければすぐに死ぬ木偶の棒と同じ。それでも此処に私達は集った。守りたい者のために、守りたい世界のために。だから」

「死ぬ気で戦うんじゃない。此処に集った貴方方は()()()()()()()()んだ。だから、覚悟を決めなさい。破滅を呼ぶか、希望を()()呼ぶか」


血生臭い鼻をつく臭いを充分に含んだ風が前髪を弄んでいく。そんな風にも屈せず臆せず、旗が揺れ動く。まるで鼓舞しているような、双神がその場に、十二星座の神々がそこにいるかのような錯覚に陥らせてくれる。それはきっと、幻で戦場の空気につつまれて高揚して興奮しただけなのだろうが、この時ばかりは心強かった。強き意志を持ち、未来を見据える『覇者』が吠える。


「さあ、集いなさい」

「発揮しろ」

「覚悟して」

「胸を張って!」

「恐れずに」

「自信を持ってください」

「前を見据えてっ」

「集中」

「願って」

「望んで」

「欲しろ」

「そうすれば、道は開ける。さあ、『覇者(我ら)』の司令官()の合図を待て。言葉を待て。武器を持て。『色無き王』の実力を見よ!」


足元に大きく広がる十二の紋様。それらは十二人の『覇者』に刻まれた証で。バサバサと大きく空に広がる旗に描かれているのは金色の糸で刻まれた巨大な双神を示す紋様と、それを取り囲む十二の紋様。太陽の、月の双眼を見開き言う。


「この戦いが終わった時、貴方方は己の意志を……誰かの平和を願い、誰かを守ることを望むことの意味を知る。そして鎮魂と罪悪感も……さあ、行こう。憎しみを断ち切れ!!」


掲げられた武器の数々が太陽と月を恋い焦がれて雄叫びを上げ、最期の戦場へと駆けて行く。これでようやっと終わると知っているかのように。


「……己の意志を糧に、未来を信じなさい」


呟くように言われたその言葉を背に、その言葉に背を押されながら彼らは目指した。自らが求めた平和を、幸せを、未来を描き、知るために。』


最終決戦の地となる地域、エーアジェス地域。かつて世界戦争の一つに数えられる戦場の跡地。森に囲まれた自然の円形闘技場。所々には世界戦争に破壊された廃墟が静かに佇み、戦場跡地に来る好奇心だけの者共を蹴散らしている。その一つの廃墟には『覇者』十二人を加えた部隊が配備され、隊を成していた。彼らの視線の先、エーアジェス地域の反対側ーー荒れ地となり身を隠す場所もない場所では多くの魔物がギラギラと目を殺気に輝かせながら仁王立ちしていた。もっとも四足歩行やら一足歩行の魔物、将軍、魔牙がいるため仁王立ちと言えば良いのか些か疑問だが。魔物の群れの上空には空は我らのものだと威張り散らさんばかりに飛行タイプの魔物が配置され、余裕綽々とこちらを見下ろしている。多分、彼らが廃墟に移動し身を潜めていることさえ気づかれているのだろうが、敵にとってはそんなことどうでも良いのだ。だからこそ、読み合いは緊張感を増す。魔物の群れの前方には盾役なのか屈強な体を持った魔物が控えているが、気になるのはその中央。まるでそこだけ特別だと言わんばかりにぽっかりと空いた空洞。その空洞がエディアスの立ち位置であり、魔物の支配者であり魔物が彼の支配下にあることを痛感に突きつけてくる。すると夜明けを迎え暫く経ち快晴だった空が曇り始めた。ゴロゴロと雷を唸り声のように鳴り響かせ、太陽を覆い隠していく。太陽が雲に覆われれば、気温はグッと下がり、仲間があまりの気温の変動にくしゃみをかます。


「……来た」


既に窓としての機能を失った一階の壁から顔を覗かせていたアーサーが呟けば、ピリッと空気が痺れる。途端、魔物が作っていた空洞にどんよりとした空より黒い粒子が舞い降りる。その粒子は何処か妖しい雰囲気だったが見た瞬間に背筋を駆け巡ったのは殺意と敵意だけだった。その粒子が一つ、地面に触れる。と次の瞬間、大量の魔力、それとも魔力で作り上げられた風が吹き荒れ始める。風は黒い粒子を巻き込みながら人の形を作り上げ、雲からは雷や雨を容赦なく略奪していく。そうして現れた人影は廃墟に身を潜める彼らを水晶のような右目で一瞥し嘲笑った。空を覆っていた厚い雲がお役目御免と言うように疾風の如く吹き飛ばされれば、太陽が顔を出し、人影と魔物の殺気を露にする。誰かが息を飲んだのは魔物の多さからではなかった。はっきりと真の敵を目の当たりにしたからだ。


人影ーーエディアスはリーセイと似た髪色をしていた。赤茶の髪に黒と白のメッシュが入った珍しい髪色と水晶のように無色透明でありながら何処か濁りを写す瞳は何処までも世界を憎み嘲り笑っていて。こめかみから生えた二本の角も顔の左半分を覆う涙のような模様がついた仮面もまるで蛇が這っているかのような左腕の模様もきっと全て彼の意志で実験で望み。冷たい風がエディアスの着るロングコートをはためかせ、それがエディアスの本気を表している。否定され、怒り憎み、その果ての復讐。もはや引き返せないと言っていたのは誰だったか?嗚呼、それさえも忘れてしまった。だから、道具でもなくて破壊も望んでいない我らは戦いましょう。求めたもののために。


「殿下、後方支援部隊の準備が整いました。後方の廃墟にて待機中です」


仲間の一人がペリノアに報告すれば、彼はエディアスを一瞥しゆっくりと立ち上がった。立ってしまえば敵に此処だと教えるようなものだが既に飛行型がいる時点で気づかれているのだ。隠れていたって意味はない。それにエディアスは傲慢でありながら真面目な魔牙だ。いつでも襲撃出来たのに自分が提示した四日をきちんと守った。つまり、戦いが始まるのは両者の準備が整った時。それが彼なりの最期の流儀であり慈悲だと言うように。アーサーは仲間が言う後方の廃墟に素早く目を向ける。もとは五階建てだったのだろう廃墟は上半分が消えており、三階の壊れた窓からは仲間の言う通り、杖などを構えた仲間が見えた。準備万端、と言うように視界の隅で腕を軽く掲げる仲間の姿を捉える。


「グリフレット、敵の数は」


ペリノアの視線がサグラモールとカラドックに挟まれているグリフレットに注がれる。グリフレットは軽く肩を竦めながらよく通る声で答える。


「ざっと一万は行ってるかな。それに引き換えこっちは五千。圧倒的に不利な状況だよね()()()()()


クスクスと笑うグリフレットの声色には状況を悲観している様子も諦めている様子もない。それは此処にいる全員がそうだった。


「数で押して勝てる相手なんて誰も思ってないでしょ?それで勝てたらせっかくみんながやった頭脳戦の意味もないもんねぇ」


ドラゴネットがこめかみに人差し指と親指を立てた片手を当て、おちょくるように笑う。エディアスも分かっている。数でこちらの戦意が削がれることなんてないと。


「読み合いの頭脳戦は既に始まっておるし、現段階で進行中じゃ」


任せろと言わんばかりにサグラモールが笑って言う。なんとも頼もしい言葉と表情に至るところから安堵にも似た声が漏れる。


「私達は死ぬために戦場に行くのは決してない。未来を勝ち取るために行くんだ。だから、死にそうになったら遠慮なく逃げろ」

「よく逃げてたオレが保障するぜぇ」

「カラドックさん……誇るところじゃ、ないと思います」


ペリノアが力強く告げれば、カラドックも言う。傭兵として仲間のバックアップを請け負っていた過程から端から見れば逃げにも見えていたであろうが、その実態を仲間達は全て知っている。彼が傭兵仲間のために逃げ(道化)を演じた事を。つまりそれは必ずしも逃げではない。計画的撤退、生きるための手段。苦笑混じりにフローレンスがカラドックを見上げれば、彼はニカッと笑い、フローレンスの頭を大丈夫だと少々乱暴に撫でた。


「それに私らは死ぬために行くのではない。だからこそ、恐怖もあるし逃げたくもなる……それが普通だろう。『覇者』でさえ変わりない」

「マーハウスさんの言う通りです。誰かは誰かのために生きようとし、誰かは愛する者を守るために……死ぬ事はない。いや、出来ないからこそ、意志は全てを上回る」


クスリと笑ってマーハウスは言い、ガヘリスも付け加える。その会話はまるで先代『覇者』が最期の戦いに挑む時に仲間に与えた鼓舞のように聞こえる。背中を叩き、背中を預けられる声に我知らずアーサーとルシィは笑みを溢すと互いに顔を見合わせて笑い合った。


「つまりこれは相手の実験、破壊を阻止するための意志と意志の殴り合いってこと!」

「勝つのは誰であっても誰でもねぇ。生きてりゃどう考えたって勝ちだ」


ユーウェインがパロミデスの片腕に両腕を絡め、こんな状況にも関わらず甘々な雰囲気を二人して醸し出す。それがいつも通り過ぎて何処か安心してしまうのはこの長らく緊迫した状況にいすぎたせいだろうか。


「やりたい事、まだまだたくさんあるから!」

「そ、れ……だけ、で……も……良い……これは、そういうもの」


ディナダンが両腕を振り上げて万歳をして今後の未来を楽しげに思い描き、その隣でボールスが両手で杖を握り締めて言う。嗚呼、此処には強き意志を持つ者達が集っている。それこそ、全てを投げ出さんばかりに、偽善でも良いと言わんばかりに。


「求めていた事実と未来を奪われないために、守るために……救い受け入れるために双神(主人)は接触し、その末に災厄がもたらされた……双神(主人)が仰っていましたがこれは決して救いではない、交渉決裂後の話だそうです……この戦いは。きっと、誰もが望んだわけではない、と」


両手を組み、双神に祈りを捧げるようにしつつルシィは言う。その表情は双神を敬い愛す十二柱の神々と同じでありながらも自身の判断に自信を持っていた。おそらく、十二柱もそうだったのだろう。自ら考えて力の欠片を渡した。だからこそ、『覇者』が生まれ、双神は存在を把握出来ない事があった。ただそれだけ。そう、これは新たな物語。人間が紡ぐ数百年にも及ぶ第二幕。


「……大丈夫、みんな強いから」


まるで誰かに言うようにしてアーサーは自分にもう一度言う。心臓が破裂しそうなほどにバクバクと五月蝿い。アーサーが左胸に手を当てれば、鼓動が伝わってくる。それを糧にして立ち上がっても良いでしょう?パチンッと小さな破裂音が響き、アーサーは顔を上げるとペリノアが〈武器装備セット〉で無数の大太刀を作り上げ浮遊させていた。よく見れば周囲の仲間達は全員武器を手に「いつでもどうぞ」と頷いている。


「総員、配置につけ。一分後に戦闘を開始する」


戦場に響くペリノアの低く緊張した声に全員が声も上げずに自らの配置に動く。もう中腰で移動しても無意味だと言うように我先にと動きつつも何処か隊を成して動いていく。アーサーは移動する仲間達とエディアス、そして魔物の群れを一瞥し、立ち上がる。そうして剣を抜きいつでも飛び出せるように準備する。ペリノアとグリフレット、サグラモールの作戦では第三部隊がエディアスに突撃することは相手にとっても予測済みであると考えられるため、自分達は魔物の群れの中央を縦断する。そしてその周辺を他の部隊と後方支援で固め、魔物を討伐する。またこれはもしもの場合の陽動作戦も兼ねている。まぁ、エディアスの最終的な目的は破壊だ。実験と称して先に『覇者』をなぶり殺す可能性も否定出来ないが、エディアスもこちらも大将の力量を完全に完璧に把握出来ていない。偵察はしたが多くの魔牙やリーセイという洗脳魔法の使い手の頂点であることを考えるに捏造の可能性もある。それはエディアス()も同じこと。ということで最初は状況を探る。力量を探りつつエディアスのもとへと向かい、倒す。それが()()()()()の最善策。()()()()()がどこからどこまでか分からない以上、『覇者』とて無理は禁物だった。アーサーは左手を二、三回握り締め深呼吸する。『色無き王』だろうとなかろうと自分は使命を果たすだけだ。


「(……大丈夫、俺は選んでいる)」


もう一度アーサーが誓い直せば、そのタイミングを見計らったかのようにペリノアがバッと腕を上げる。途端、エディアスも同じように腕を振り上げる。それが合図だ。両者が一斉に、同時に腕を振り下ろせば、戦いの始まりだ。隊も魔物も青空のもと、戦場に駆け出す。破壊か未来か、明日は彼らに委ねられた。

次回は月曜日です!入れたかったんですよね先代の物語!

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