表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
106/130

第九十九色 侵入者の復讐


ペリノアの言い放った一言にグリフレットは愚かアーサー達も一瞬呆けてしまった。長い間、双神との交渉を蹴り、その結果対立することとなった魔物の頂点らしき人影と世界。今まで吐かれた言葉から考えれば、この世界に否定されたことへの復讐に聞こえる。実際、破壊を望んでいるのだからそうだろう。そのため、双神も想定外を交渉で覆そうとしたのだろうが、どちらにせよ言葉も感情も状況も悪い方向に向かってしまったとしか言いようがない。しかし、ペリノアの言い分は違った。人影の、魔物の目的が破壊だけではないというのはどういう事なのだろう?困惑するアーサー達を放置し、人影はニヤァとチシャ猫のように口元を歪ませて、微笑んだ。今までの嘲笑ではなく心の底から喜んでいるのが分かるいびつな笑みだった。その笑みは話を聞いているだけのアーサー達は愚か、直接見たグリフレットにも同じ感情を与える。それは底知れぬ恐怖と殺意、敵意。そして、そこに埋もれぬように光輝く狂喜と歓喜。冷気が外であるにも関わらず体を包み、手足に冷気の刃物を突き刺してくる。異様な空気と敵意にアーサーは咄嗟にリーセイを思い出してしまい、自身の体を両腕で抱き締めた。そうしないと震えてしまいそうで、あの拷問を思い出して発狂してしまいそうだった。恐怖に顔を強張らせるアーサーに気付き、ルシィとサグラモールが「大丈夫大丈夫」と腕や背を身を乗り出して擦り、落ち着かせてくれる。その行為が今のアーサーにとって何よりの支えだった。一方、様々な感情を称えた笑みを間近で見たペリノアはしっかりと立ち、人影を睨み付けていた。時折、防御壁に爪先が触れるのか微かに動く人影。些細な動きで人影のこめかみに角らしき物を確認することが出来る。微かに痙攣しているのは笑みを隠すためだろう。だからこそ、煽るようにペリノアは言ってやる。


「破壊だけが目的ではないのだろう?破壊が目的なら、双神を殺してしまえば済む話だ」


そう、人影が「世界を破壊する」と言うのなら人影を否定した直接的な原因を叩けば全てが終わる。なのにそれをせず、侵攻を繰り返す。そこにもうひとつの目的があるとペリノアは踏んだ。新種でも神でもない完全に想定外で異物である人影がそこに辿りつかないはずはない。一文字一文字噛み締めるように告げたペリノアにグリフレットも納得を示し、人影の動きを伺いながらペリノアの前に歩み出る。エーヴァ防衛戦の最高責任者及び皇子をみすみす死なせないためだろう。彼がそのような行動を取ることで屋上の出入口から小さく頭を覗かせていたサグラモールには十分だった。人影は嘲笑し、言う。


「嗚呼、普通ならな。でも、オレは普通じゃない」


それは神だからか、それとも狂っているからか。


「外の世界も此処も全部、塵も残らず破壊したいのは最も。だが、愉しくなっちゃったんだよなぁ、この世界がどれほどオレに耐えられるのか」


逆光で見栄ない瞳を三日月に歪め、クスクス、クスクスと子供のように嗤う人影に恐怖と怒りを感じない訳がなかった。人影の発言にアーサーは「嗚呼、同じだ」と体の奥から沸き上がる吐き気を押さえ込みながら思った。リーセイも、途中から自分を殺し『覇者』が絶望するのを楽しんでいた。殺すのを、殺戮を愉しんでいた。こいつらは同類だ。魔物と同じ。『世界戦争信仰者ヴェグス』と、ラヴェイラと同じに見えて違う。ラヴェイラ達は先祖の考えが正しいという正義感のもと動いていた。その果てに殺戮と復讐が生まれたが、こいつらは違う。復讐を狂喜として変換し、正当化した。身震いがした、背中を悪寒が駆け抜けて行った。此処はもはやの時代、いくつもの思惑や策略が複雑に絡み合いその果てに世界戦争を引き起こした先代の時代と言っても過言ではなかった。また外の世界と言うように他にも世界があるという考え方がある。だって、いつも双神は()()され、魔法も()()される。死後の世界が、神のみの世界が存在していたって可笑しくはない。まぁそれを誰も神以外は知らないし証明出来やしないのだから、所詮人間の空想でしかないのだが。だが、人影という異物が現れて全ては現実となる。ブルリと恐怖を訴える体をもう一度抱きしめるアーサーを心配そうにルシィが背中を擦る。その手に双神からの助言を思い出し、咀嚼しては理解を深めながら。


「破壊はオレの目的だがな?苦しめなくては意味がないし。なら、復讐ついでにどれだけ抵抗出来るか試しても良いだろ?」

「僕達を実験体みたいにしないでくれるかな?」

「嗚呼、魔物も魔牙も元はオレの実験道具だ。破壊を手助けする力。問題ない」


なにが問題ないだ!と叫びそうになったのは全員だろう。その実験道具に何人もの命が脅かされ、奪われたか。それさえも人影にとっては復讐で遊びで実験で破壊行為なのだろう。理解し難い。いや、理解など出来やしない。相手の意味合いを読み違え、道を踏み外した挙げ句、手を断ち切ったのだから。


「というわけだ。『覇者』たるお前らも気になってな、抵抗して殺させろ」

「そんな簡単に殺されて堪るか」

「だろうな。だからこそあの神は最善策として欠片を受け継いだお前ら『覇者』を選んだ。神には神をぶつける、ということだな」


ハッと鼻で嗤い人影が言う。『覇者』は十二柱の神々の力の欠片を与えられているが、神ではなく人間だ。ただちょっと他の人間よりも強いだけの。外の世界、所謂異界の誰かと同等に戦えるのはある意味、『覇者』しかいなかった。何処かで、いや、助言を受けた時から気づいていた。『覇者』にしか頼めない敵が普通の敵なわけがない。人影とペリノア、グリフレットの視線が交差する。かつて魔法と共に戦場の空を駆け巡ったという銃弾が見える。錯覚だとわかってはいるが両者の相手を睨むその目は明らかに戦意と敵意を秘めていた。


「まぁオレは全て破壊する。それくらいの、それ以上の力を持っている。だから此処に来たと言っても良い」

「双神が悪いとでも言うのかな?発言自体は可能性もあるけど、攻撃を仕掛けたのはそっちだよね?」

「グリフレット、やめた方が良い。ただの揚げ足取りと水掛け論だ」


刃物の如く殺意と敵意を漲らせながら人影とグリフレットが言えば、それをペリノアが肩を叩いて止める。もはやこれは水掛け論でしかない。嗚呼、まるで世界戦争の二の舞だ。それぞれの思惑を含めた負の感情はもう止まらない。人影が、異界の神と言うならば俺達はただ止めよう、倒そう。否定されたという復讐と実験という愉悦のために世界を破壊されてはたまらない。そんな事、絶対にさせない。


「まぁ、オレにとってはもう双神はもうどうでも良いんだ……目的はただ一つ。オレが愉しめるかどうか!そのための復讐だし道具だし世界でしかない!だから、そう、だから、全部壊してやるよ」


ハハハ!と豪快に嗤い、人影は太陽を包み込むように片腕を振る。人影の目的は復讐から快楽と愉悦へと成り下がった。それが世界と敵対する真の理由。双神でさえ手放した答えの一つ。それはまるで、いくつも未来を刈り取り、無理矢理一つにぐちゃぐちゃに纏めたよう。人影が全て望み、感情を取ったのは云うまでもなかった。全てが真実で虚像でしかない。ニヤニヤと嗤い、見下し、如何にも勝者だと言わんばかりに空中に佇む人影を睨み付け、ペリノアは低く声を発する。


「貴様の好き勝手にはさせん。此処にいるのは幾多なる戦を潜り抜け、平和を望む多くの者達だ。私達の味方を侮辱しないでもらおうか?」

「ほほぅ?それは失礼。侮辱なんて、大いにしたが。勝てるとも敗けるとも思っていない。魔物も魔牙も単なる遊具で実験道具でしかない。だから結末は一つに等しい」

「傲慢も過ぎればただの戯れ言だ」

「言い得て妙」


二人の笑いがシンクロする。その笑いは親しみを込めたわけでも心の底から同意したわけでもない。ただ相手を詰る心理戦。ニッコリと笑っていない笑みが交差する。しばらくすると人影が笑みを潜め、憐れみのような何処か悦に入った瞳をし、言う。


「でも、オレもそこまで急いでいるわけじゃない。だから、四日。四日間の猶予をやる。それで破壊を受け入れるか殺されるか、はっきり選べ。嬉しいだろう?」

「貴様を倒す以外の道はないだろうな……話し合いは、不要か?」


四日後に迫った戦に驚愕と恐れが全員を支配する。そんな中、ポツリとペリノアが告げた言葉に一瞬空気が消えた。音が消えた。彼なりに止めようとしているのは百も承知だった。話し合いで解決出来れば、全てではないが武器を持たずとも犠牲を生まずとも済む。しかし、相手は話し合い(交渉)などすでに終わったことだと顔をひきつらせ、忌避し蛇蝎だかつした。それだけで人影がどれほど怒りと憎しみを募らせ感情を優先してきたのかが分かる。人影の過去を知らない自分達にとってみれば人影のが感じた感情は、失望。ただ一つ。


「はぁ?それはすでに過ぎ去り終わりを迎えた。どちらもだなんて欲張りだな。話し合いが出来ないからこうして殺ってるのに」


おちょくるように挑発気味に言う。話し合いはとっくの昔に決裂した、交渉の時に。人影の「絶対に嫌だ」と駄々を捏ねるかのような反応にペリノアはフッと笑った。まぁ出来ていたらこうはなっていない。


「まぁ良い。今日から四日後、『覇者』を殺し、本格的な破滅を与えてやるからーーせいぜい抗え」


クスクスと笑って人影がパチンと指を鳴らせば、防御壁から魔力を奪ったのか、微かに光輝く粒子が人影の足元から舞い上がり、徐々に包んでいく。グリフレットが慌てた様子で防御壁の補修に動こうとするが、足元から消え行く敵が攻撃してこないとも限らないため身動きが取れない。それでもいつの間にペリノアは背後に大太刀を数振り浮かせ、「変な動きしたら此処で殺す」と人影に無言の脅迫をしていた。人影は無言の脅迫に屈したわけではないのだろうが、ニコリと深淵より深く何処かドロドロと泥のように瞳を曇らせ歪ませ、弧を描かせる。ゾワリと体を駆け巡ったのは殺意か、それとも実態なき力か。……いや、確実に分かるのは世界に与えられた悪意だ。その悪意を振り払うようにアーサーは立ち上がる。と同時にルシィとサグラモールも立ち上がり、次なる準備が刻一刻と進んでいく。出入口の壁からアーサーが顔を覗かせて確認すると人影の体は粒子に包まれて半分が消えていた。


「そう言えば言っていなかったなぁ。『覇者』の情報も部隊の人数などの情報は入っているが、他は無知だ。これだけは真実だ。知らないのを破壊するのも良いが。面白くない」

「そりゃ、どうも……っていうことかな」

「これはどうも?……それに『覇者』や人類のように固有名詞がオレにはある。名前がないと不便だろ。エディアス、それが此処での名前」


ニヤリと宣戦布告と言うように人影、エディアスはニンマリと嗤い、粒子に包まれて完全に消えた。残ったのはレィアスの悪意とも戦意とも言うべき粒子の欠片。しかしその欠片も風に吹かれて遠く彼方へと消えていく。吹かれて消えていくその方向は確か魔物の大行進が待つ場所だったか。人影という強大な敵が消え、張り付けていた緊迫の糸が切れ、ところかしこで一時の安全に安堵の声が漏れる。それを聞き流しながらアーサーはルシィとサグラモールを伴ってペリノアとグリフレットのもとに駆け寄る。ペリノアは大太刀を土に片手間に戻しながらもディアスがいた防御壁を、そしてその彼方を睨み付けていた。グリフレットは彼らを見つけると一瞬怒ったように目を見開いたが、次第に知ってたと言わんばかりにしょうがないと呆れを含んだ笑いをされる。破って来たのは自分達なのでなにも言うまい。アーサーはペリノアを振り返り、小さく会釈する。


「ノア様」

「嗚呼。早急に作戦を立てなくてはならない。此処に来て元凶が宣戦布告とは……本格的になって来たなぁ」


クスリと何処か威圧的で恐ろしげな、戦闘狂のような笑みを浮かべるペリノアに「ノア様」とアーサーは呆れを含んだ声色を示す。彼も彼なりに既に脳内で作戦を組み立てているのだから仕方ない。それに突然の出現ーー挨拶とも言うーーに混乱しない方が可笑しいのだから。次々に屋上に出入りする仲間を一瞥し、アーサーは新たな防御壁の上に現れた新たな脅威の影を何時までも睨み付けていた。チクリと、心を刺したのはきっと、不安だ。多分。

ウチ(作者)が設定する敵の思考。

続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ