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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第九十七色 空前の夢


エーヴァ防衛城は本日も晴天のもと、平和なり。


数々の策をもとに『覇者』を殺そうと目論んでいたリーセイは吸血の城にて返り討ちに遭い死亡。残すはエーヴァ防衛戦となった。だが、主犯の一人とも言うべき魔牙がいなくなったためか、魔物の大規模な侵攻は鳴りを潜め、侵攻場所から動かなくなった。いや、動いているには動いているのだがなにかを待っているとでもいうように統率の取れた動きでジリジリと動いている。また戦いは当初の予定を大幅に過ぎていた。それでもこちらと激突するのは四日後と考えられた。ゆっくりとした動きではあったが魔物の群れは誰かの差し金を受けたように決戦の地、戦闘場所になる地を目指している。その報告に誰もが警戒を強めていた。また、リーセイと同じような人間に成り代わった魔牙がもういないとも限らないため、全員が魔法による身体検査を受けた。結果はもちろんシロ、安心だ。だが防御壁を外側から、もしくはなんらかの方法で破壊されるとも限らないため警戒と緊張は続いている。防御壁に至っては「張り直すではなく新たに頑丈に作り直した方がよいのではないか」との指摘もあったため、急遽新たな防御壁が展開された。まぁそれもまだ試作段階であり、内側は充分な強度で魔法を跳ね返せる威力を持つがリーセイのように強大な敵が現れた場合はどうなるか不明だ。外側も()()()魔物、将軍、魔牙ならば完全に防げる。しかし、アーサーが気絶する前に聞いたリーセイの負け惜しみとも捉えられる言葉からはまだ他にも強敵がいると捉えることも出来、侵攻に関わっていると考えられる。そのような敵がもういないことを願いたいものだが、不明なものはしょうがない。警備を強める他ない。


そんな厳重警備が敷かれるエーヴァ防衛城の中庭にアーサーはいた。仲間達が来る戦いに備え訓練をし、以前の襲撃を教訓に新たな防御壁を主体に警備体制を整えている。数日前までは魔物に蹂躙されそうになっていたが、今はその面影は何処にもなく、防衛城という異名を欲しいままにしている。だが中庭には数日前の襲撃を物語るように魔物の血と人間の紅い血が混ざり合いドロドロの泥と化した水溜まりがいくつも散乱している。その水溜まりをディナダンが無邪気に大斧の切っ先で怖いもの知らずで突っつけば、近くにいたフローレンスが「やめなよっ!」と腕を引いていた。何処か不気味な水溜まりにフローレンスは気味悪がっているが、ディナダンはその逆らしく圧倒的な力で彼の抵抗を無に返している。しかしフローレンスも負けてはいない。


「ハハ、さすがディナダン」

「それ、フローレンスの前ではあまり言わない方が良いかと」


大斧に付着したネバッとした液体をディナダンが腕に引っ付くフローレンスに向けると、彼は瞬時にディナダンと距離を取り、扇に水属性を付与させると液体を浄化させる。そうして透明感がある液体が大斧を伝って太陽の光にキラリと反射すれば、ディナダンが楽しそうに笑いフローレンスもニッコリと笑う。案じていた事態にならず、アーサーの隣に座っていたルシィがホッと息を吐いた。二人の仲睦まじい様子を見てアーサーはほっこりと笑うとルシィも嬉しそうに笑っていた。二人は壁際に背中を預けて立っている。数日前ーー一昨日(おととい)、完全復活を果たしたアーサーは毒の後遺症などもないことからグリフレットと医療チームより退院許可を頂いた。ので、体感時間数日ぶりの外の空気にありついていた。と言っても訓練する音や野太い声や咆哮が飛び交っているので新鮮というには何処か程遠い。動かないと体が鈍りそうなため一応剣も持ってきたアーサーだったが、不気味な水溜まりの多さに少し気が滅入ってしまう。それでもその水溜まりに足を取られぬようやることも訓練の一つになるだろう。そうアーサーが考えたように中庭の中央辺りではガヘリスとカラドックが模擬戦をしていた。なんだがあまり見ない組み合わせなだけに周囲からも目を集めていた。なかなかの接戦でお互い風属性を主に使用するためほぼ優劣がない。まるで流れを読み舞うように戦うガヘリスと速さを重視し疾風の如く戦うカラドックの動きは見ていて楽しくなり観戦しているこちらをハラハラさせてくる。二人の野次馬の中にはマーハウスとドラゴネットもおり、二人して挑戦的な視線を交わしている。獲物を狙う肉食獣のような視線の交差線上にいた仲間数人がビクッと怯えていた。


「同じ属性同士だと優劣ないから、戦略が広がるね」

「私達もやってみます?」

「良いね。まぁその前にやる場所ないけど」


そう言ってアーサーが笑えば、ルシィもそうですねと笑う。実際、中庭は訓練中の仲間とその訓練もしくは模擬戦を観戦する野次馬が作る円形観客席サークルだらけであとは不気味な水溜まりを避けているためほとんどやる場所がない。裏庭もあるにはあるが、防御壁の調整の影響でただいま立ち入り禁止中だ。もう一度言う、やる場所がない。ケラケラと笑いながらアーサーは腕を組み、傍らに立て掛けてあった剣を腰に下げる。カチャカチャという些細な音を拾ったらしく、ディナダンとフローレンスが楽しげにこちらに手を振ってくる。それにルシィと共に振り返せば二人はまるで兄妹のようにガヘリスとカラドックの模擬戦の観戦へと駆けて行く。彼らが仲良くなっていくのはやはり友人としてとても嬉しい。もしかすると先代もこんな風に思っていたのかもしれないと思うと、ちょっとだけアルトゥーロ()がその選択を選んだのかも分かった気がした。


「(……なんで父さんに似てたんだろ)」


些細な疑問。アルトゥーロの容姿を正確に記録したものはない。一切ない。アルトゥーロとアーサーの血筋はほぼ無関係と言っても良い。彼の言う通り、神様のイタズラか輪廻のことわりかか……釈然としないが彼自身、否定とも取れることを言っているのだ、間違いないだろう。自分が『覇者』を支える器たる人材であり力があるということに偶然なのにちょっと縁を感じている。彼は『色無き()』と呼ばれるに相応しい人物だった、あの空間で初めて会話しただけでも分かった。だからこそ、俺と彼は違うと理解した。だからこそ俺は役に立てる事が嬉しかった。


「アーサー、薄笑いですかそれとも思い出し笑いですか」


ニヨニヨと頬が歪みまくっている相棒にルシィがそう苦笑して言えば、アーサーは小さく笑う。それが何処までも純粋で友人思いなのだと教えてくる。


「んー両方かな。役に立てるのが嬉しくて」

「それ、昨日も言ってましたね」

「はは、うん。騎士になったのも半分はそれだしね」


照れたようにアーサーが頬をかきながら言えば、ルシィもクスリと笑う。彼がそうして支えてくれようとするからこちらも支えたくなる。きっとそれが『覇者』の本当の姿なのだろう。だから、双神は『覇者』を要として選んだ。


「先代もそうだったのでしょうね、推測ですが」

「そうだね。改めてよろしくねルシィ」

「よろしく、アーサー」


例え、遠い存在となろうとも目的が、意志が同じならば。二人は頼りにしていると云うように相手を信頼仕切った笑みを浮かべて笑い合うと訓練をする仲間達を静かに眺める。この時間が永遠に続けば良いなんていつも思ってしまう。すると、アーサーは服を誰かに引っ張られた。誰だと思って視線を下に下げると水差しを持ったボールスがいた。フードを目深に被っているため、表情は口元しか分からない。


「大、丈夫……?」


どうやら模擬戦中の友人にと持ってきたようだが、アーサーが飲まず食わずを数時間分拷問と共にされたため、不安になったらしい。昨日も脱水症状があるのではないかと不安視されていたが、この通りアーサーはピンピンしている。回魔法をかけてくれたお陰だ。だがその気遣いがアーサーにはなんとも有り難かった。昨日は全員にもみくちゃにされたし。ちなみにエーヴァ防衛城にいる全員である。アーサーはボールスのフード越しの頭を優しく撫でながら言う。


「うん、大丈夫だよ。ありがとうボールス」

「ん……模擬、戦……誰?」

「今やってるのはガヘリスとカラドックさんだけど」

「アーサー、ボールス、追加です。マーハウスとドラゴネットも始めました」


え、とアーサーとボールスがルシィの指し示す方向を見れば、本当だ、大剣と刀を構えて今まさに戦わんと爛々とした瞳を相手に向けている。野次馬のなかにはいつの間にディナダンとフローレンスも紛れており、ボールスを見つけてディナダンが跳び跳ねている。兎のようにピョンピョンと跳び跳ねていて周囲の仲間が優しい眼差しを向けていた。行きたそうに何処かウズウズとするボールスの背をアーサーが軽く押してやれば、彼女はスキップを踏むような無邪気な足取りで駆け出していく。駆けて行く直前、アーサー達二人を振り返って手を振ってくれたのでこちらも手を振り返しておいた。フードの中から貸すかに見えた以前は見なかった肌色に彼女の決意を感じる。


「中に戻ろうかな。訓練出来そうにもないし」


うーんと背伸びをしながらアーサーは言う。とタイミング良くマーハウスとドラゴネットの模擬戦が始まり、ガヘリスとカラドックの模擬戦に区切りがついた。二つの場所で同時に歓声が上がる。まるで闘技場だ。模擬戦終わりの二人に水差しを持ったボールスといつの間にかコップを持参していたフローレンスが歩み寄っているのが見える。それらを横目にアーサーはエーヴァ防衛城の中へと歩き始めるとルシィも行くらしく彼の後を着いてくる。と思いきや彼の隣に並ぶとこう提案してくる。


「娯楽室はどうでしょう?ユーウェインとパロミデスがチェスをすると言っていました」

「ルシィ、チェス出来るの?」

双神(主人)が遊戯好きで、様々なものに手を出していたので多少は。こっちに来てからはやっていないので少し不安ですが」


カラカラと笑い合いながら開け放たれた扉を潜り、二階の娯楽室を目指す。城内部には襲撃の爪痕が痛々しく残っているが、適切な対処の成果もあり、次に襲撃された際は大丈夫だろう安心させてくれる。血塗れになった鉄格子や割れた破片をそのまま罠に再利用した廊下をるとと共にお喋りをしつつ歩く。多くの仲間が警備へと屋上へと駆け上がっていくのを横目に娯楽室に入ると案の定、ユーウェインとパロミデスがチェスを交わしていた。白を使うパロミデスが優勢のようで劣勢を強いられているユーウェインが「ん~」と唸り声を上げながら白黒の盤上を睨み付けている。一方優勢のパロミデスは余裕綽々と椅子にふんぞり返っている。扉が開かれた音に救世主を求めて視線を向けたユーウェインの表情が「救世主来たっ!」と言わんばかりに輝いた。


「ナイスタイミングー!ちょっとパロミデスボコって!」

「おいおいボコるって。たかがチェスだろ」

「チェスだけどね!?パロミデスに負けるのなんか悔しいの!」


牙と爪を剥き出しに襲いかかるようにユーウェインが身を乗り出して叫べば、パロミデスはその頭を愛おしげに撫でるのだ。そしてユーウェインも嬉しそうに頬を染める。いつもながらにラブラブである。そんな通常運転の二人にアーサーとルシィが救世主の仕事を果たすべく近寄るとルシィが「あっ」と声を上げる。


「ユーウェイン、此処、移動させれば互角です」


「えいっ、と」とルシィの指先が白の駒を摘まみ、一つ前へと動かせば「げっ」とパロミデスの不機嫌と驚愕を通り越した声が響く。


「凄っ!?ありがとうルシィ!」

「どういたしまして」


パチパチと手を叩いてユーウェインが礼を言うとルシィも嬉しそうに笑う。どうやらルシィはユーウェイン側につくらしい。だったらとアーサーは優勢から一気に互角に追い込まれたパロミデス側につくことにした。あまりチェスは得意ではないが策を与えることは出来る。


「んじゃ俺はパロミデスに知恵貸す」

「よっしゃっ!アーサーいれば百人力だなぁ!」

「過度な期待はしないでねー」


ニヤリと意地悪げに笑うパロミデスにアーサーも同じように笑い返し、彼が座る椅子の背凭れに両手をつく。ルシィとユーウェインは顔を見合せて笑い、ルシィもアーサーと同じように彼女の後ろに回れば攻撃者と指導者の完成だ。はてさて、次はどういこうか。


「アーサー、次どうする?」


パロミデスがアーサーを見上げ、問いかければアーサーは盤上を一瞥し少し考え込むとある黒の駒を指差した。それだけでパロミデスはアーサーが言わんとしている事が理解したらしく、駒を動かす。今度はルシィとユーウェインペアが悩む番だ。さてどう出るのだろうか?うーんと悩む二人をパロミデスと共に意地悪く笑いながら次なる一手を待つ。けれども些細な平和を敵は意図も簡単に壊していくのだ。警戒も緊張も幸福も歓喜も疲労も全てをかっさらって、新たな絶望を与えてくる。


〈防御壁上空に敵の姿あり!〉

〈攻撃はするな警戒しろ!屋上に誰も近寄るな!〉


緊迫したペリノア達の声を聞くまでは。

一応の後編、スタートです!

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