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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第九十六色 十三人目と十二人


誰かが呼んでいる。切羽詰まったように、困惑したように。優しく安心させるように。まるでたくさんの人が一斉に歌う合唱のように。暗闇の中、仄かに輝く光が合唱を奏でるように何度も何度も瞬く。それはとても幻想的で、あの悪夢ーーといえば良いのか夢と形容して良いのか分からない空間に似ていた。酷く、とても酷く似ていた。写し取ったかのようによく似たその光景をずっと眺めていたい衝動に刈られるが、嗚呼、駄目だ。目を覚まさなければ。きっとそこに


「(……求めていた答えが、あるはずだから)」


スゥと眠りから覚めるかの如く、ゆっくりと瞳を開けたアーサーの視界に入ったのはクリーム色の天井だった。石畳で出来ているにも関わらず、安心出来るようにと塗り直されたクリーム色の天井は所々色が剥がれており、古びた灰色を露にしている。アーサーはぼんやりとする思考から意識を取り戻そうと目だけを周囲に配る。体中が痛くて、首も痛い。上手い具合に云うことを聞かない体を懸命に動かし、辺りを見渡すとそこは天井のように見たことがある光景が広がっていた。サイドテーブルに置かれた水差しに、古びた窓枠から見える青い空。部屋の隅にはタンスが置かれ、サイドテーブルの近くにはよく見ると剣が置かれている。ふと、アーサーは水差しと一緒に置いていたコップは二つだったかと疑問に思い、鈍く重たい体を動かそうとする。そこでようやっと額に濡れたタオルが置かれていることに気づき、動いたアーサーによってタオルが目元まで雪崩を起こして来る。アーサーが慌てて片手でタオルを掴むと、近くに気配を感じた。安心するその気配にアーサーは我知らず口元を綻ばせて笑っていた。


「嗚呼、起きたか。おはようアーサー」


安心して嬉しくなって笑うアーサーの顔を上から覗き込むペリノア。気がついたアーサーに安心したようにペリノアも笑う。


「大丈夫ですか?」


ペリノアに笑い返すことで挨拶とすると、彼の横にルシィも顔を覗かせた。不安そうなルシィの表情にアーサーは同じように笑い返すと起き上がろうとする。ルシィが慌ててアーサーの背に手を当て介助する隣でペリノアは手に持っていた書類をサイドテーブルに置くと水差しとコップと入れ換える。手に握りしめたタオルをどうしようかとアーサーが視線をおろすとルシィが気づき、枕を背もたれに出来るよう調整しながらアーサーの手からタオルを受け取った。それと同時にペリノアが水がたっぷり入ったコップを渡して来る。ペリノアからありがたくコップをアーサーは受け取ると手のひらに伝わる冷たさに改めて安堵を覚え、小さく息を吐いた。そうしてゆっくりと水を飲み干す。ツンと冷たい水がなにも飲まず食わずだったアーサーの喉から体に染み渡り、正常な思考を呼び覚ましていく。一気に水を飲み干したアーサーにペリノアが「お代わりは?」と優しく笑いながら水差しを持ち上げる。アーサーは軽く会釈し、ありがたくもう一杯お代わりを貰うことにした。それにペリノアが父親のような微笑を浮かべていた。


「何処か、痛いところとかありませんか?サグラモールとグリフレットが回復魔法をかけましたが、まだ毒が抜けきっていない可能性もあるので……」

「寝てたから体中痛いかな」

「それは治療のほどは出来かねないな」


心配してルシィが言えば、アーサーはそう答える。つまりは回復魔法が正常に機能して傷を治したということにペリノアがクスクス笑って言う。それにルシィはホッと胸を撫で下ろし、椅子に座り込んだ。カクカクと首や肩回りを回しながら異常がないことを確認するアーサーからペリノアがコップを奪い取り、しばし安心感を満喫したあと神妙な声色で問う。


「何処まで覚えている?アーサー」

「……何処までとは」

「そのままの意味だ」


神妙な顔つきのペリノアにアーサーも真剣な表情で返す。彼が何をしようとしているのかは知らないが、それはアーサーにとっても求めていた答えになる。アーサーは深呼吸をし、意識を失う前の記憶に思いを馳せる。自分はリーセイに連れ去られ、拷問を受けた。リーセイが求めていたのは『覇者』の情報。つまり、彼らを消す手段。その手段としてアーサーが狙われた。結果、ルシィ達がリーセイの根城を突き止め襲撃。襲撃直後、リーセイはアーサーに再び交渉を迫った。自分が死ぬか『覇者』が死ぬか、どちらかが死ねばどちらかが生きる絶望と希望の交渉を。しかしアーサーはそのどちらも否定し、全員を殺すという選択肢も退けた。それを後押ししてくれたのは頻繁になって来ていた悪夢のような夢、夢のような悪夢に現れる人物アルトゥーロ。アーサーの父親の幼少期に似た姿をした彼は不思議な存在だった。その後、気がついた時にはリーセイの洗脳魔法を利用して急所を外し、立ち上がっていた。ルシィ達がボロボロになりながらも来てくれたことはとても嬉しかったし安心した。だからこそ、リーセイが強大な魔法で全員を殺ろうとしているのが許せなかった。失いたくなかった、奪われたくなかった。その時、まるで自分ではないような錯覚に、感覚に陥った。『覇者』の名前を無意識のうちに呼んでいた。……後の記憶はない。リーセイにトドメを刺した時、毒の効果を増幅され負け惜しみのように言葉を吐き出された事までは覚えている。それをかいつまんで二人に云うと二人は顔を見合せ、確信を得たように頷いた。その表情が真実を物語っていてアーサーは少しだけ居心地が悪くなり、位置を訂正した。


「二人共どうしたの?リーセイ(魔牙)に連れ去られたのは相手の力量もあれど俺の責任でもあ」

「いや、それはこちらにも非がある。敵はその境を巧妙に利用してきた。今後の課題だ。だが、私達が言いたいのはそちらではないんだ」


アーサーの言葉を遮りペリノアは云う。え?と首を傾げるアーサーにペリノアは真剣な眼差しを向け、サイドテーブルに置いた書類を持つ。それは書類に見えた古い手帳だった。古すぎるあまり壊れないよう魔法が施されている。しかしそれよりもアーサーが気になったのは手帳の表紙だった。表紙の片隅に小さく目印のように刻まれた名前の頭文字。それは先代・速さの座を司った『覇者』の名前を示す。アーサーの視線にペリノアが気づき、彼の前で見せびらかすように手帳を振る。


「これはパロミデスの義父の遺品だ。この中に『覇者』と、ある人物についての関係が記載されている」

「それが……?」


分からないと言いたげな表情でアーサーが首をもう一度傾げれば、ルシィが言う。何処かで()と出会った時から気づいていた気がする。


「歴史書に記された『覇者』を集めた人物と先代・地の座を司ったアグラヴェインさんが葬式の際、証をわけた人物が同一人物なんです。そして、歴史書は一度『覇者』に一番近い存在である名もなき一般人を隠すためにバラされていたんです。その人物の愛称は、『()()』」

「……え?」


簡潔に、淡々と語られた先代の謎のお話。先代『覇者』を集めた名もなき一般人。その一般人は先代・地の座『地震』を司ったアグラヴェインの幼馴染み。おそらく、最後に描かれた会議中に死亡したと見られること。一般人とアグラヴェインがいた時に『覇者』としての力が()()()解放されたこと。それを証拠付けるように他の『覇者』の所にもその一般人がいたこと。一度だけ示された『色無き王』の異名は無属性から来ている可能性があること。神の力の欠片を与えられているとはいえ意図も簡単に『覇者』が本気を出せないであろうこと、そこから導き出されたのは一般人が『覇者』の力を支える器であった可能性。『色無き王』=一般人=『アル』。それは先代と名もなき一般人との間に芽生えた強い絆の物語。きっと名もなき一般人は『覇者』を思い選び、『覇者』も『色無き王(一般人)』の人生を守るために選んだ。その結果が二人の先代『覇者』と一人の執筆者が残した書物に記され、こうして『覇者』によって読み解かれた。その事実を聞かされたアーサーは目をぱちくりとさせて驚きを示す。だがそれらの何処かが嘘と言う証拠もなければ実感もなかった。つまりそれは現実と云うこと。


「じゃあ、俺が夢……で会ったのは」

「はい、おそらく『色無き王』の異名を持っていたとされる一般人の方かと。手記等の愛称も一致しますしね……って、え」


アーサーが確認するように呟いた事をルシィが付け足すように言い、あっと気づいた。アーサーの夢のような空間に出てきたというアルトゥーロという人物。ルシィには不思議な悪夢というか夢について言っているがペリノアは知らない。しかし、今確認すべきはその内容と意味ではなく。「え、え」とルシィとペリノアが顔を見合せて頷き合ったままなにも言わないのでアーサーは困惑した様子で二人を見やる。するとペリノアが腕を組み、考え込みながら言った。


「リーセイに攻撃されそうになった時、私達には変化があった」

「足元に紋様が浮かび上がった時ですね」

「え、そんなことあった……無意識の時か」


そこだなと頷くペリノアはその時を思い出すように視線を窓の外の空に向けつつ言う。


「あの時、私達は手にしたこともない力の高鳴りを、高まりを感じた。そして放ったのは、今までに感じたことも扱ったこともない力だった……嗚呼、これが先代も体験した力なのかと静かに感じ取った」


自身の手を見下ろし、ギュッと拳を握りしめるとペリノアは再び腕を組む。そう、あの時恐ろしいほどに視界がクリアになって何処までも見えた。敵の動きが、指先や口の動きまで繊細に見えた。普通ならばあり得ない現状に誰もが困惑しつつも受け入れていた。まるで待ち望んでいたように。ようやっと()()()()()()()と云うように心地好かった。その感情も意志も色も全てアーサーが意識を失う前まで続いていた。背中を守られているからこそ発揮出来たとでも云うような新たな、いやもともと持っていたのに使い方がわからなかった力。それを双神の臣下であるルシィも感じていた。神の力を感じていた。十二柱の神々が与えたという力の欠片だと言っても過言ではなかった。

ならばその時近くにいたのは?

先代の時、力を発揮した時に近くにいたのは?全ての事実を知る名前と思わしき名を知っていたのは?

敵が劣勢に立たされようとも殺そうとしたのは?

導き出された事実の中で、一般人()が指し示していたのは?

ーーそう、アーサーだ。


その事実にアーサーもゆっくりではあるが辿り着き驚愕に目を見開き、口元を押さえる。押さえないと自虐の言葉が溢れて来そうだから、別の可能性を探ってしまいそうだから。嗚呼、でも、名前を呼んだ時、自分も感じていた。優しくも穏やかな力の流れを。その流れを自分は知っているように操り、支えていた。初めてで知らないはずなのに……嗚呼、もしかして。そこまで彼は読んでいたのだろうか?だとしたら、凄まじいとしか言えない。


「……だから、ノア様は俺に『覇者』捜しを、与えたんですね?……一番、近くにいたから」


口元を押さえたまま睨み付けるようにアーサーがペリノアを見れば、彼は肩を竦めるだけだ。その些細な仕草が「どうだかな」とはぐらかされているようで少し腹が立つ。けれどこれではっきりとした。多分、ペリノアは知らなかった。だが、確信があったのだろう。『覇者』として、友人として。のちに多くの知識を『妖術サグラモール』と『叡智グリフレット』と共に築いた彼だからこそ。一般人アルトゥーロと幼馴染みであったというアグラヴェインのように。地に足を付け、指し示した。


「とりあえず、アーサーが『色無き王』……今回の一般人の役割であることは間違いありませんね。一般人……アルトゥーロと、アーサーが出会った人物は名乗ったようですが司令官のような役割も持っていたのでしょうか?」

「さぁねぇ、そこは各々だろうな。ただ、アーサーも無属性だし、今回のことも考えてほぼ間違いないだろう」


二人の言葉がアーサーの脳内に染み込んでいく。自分がアルトゥーロという隠された一般人えいゆうと同じ存在。『覇者』を支える器の存在。自らにも感じた力の威力。それらが真実だとアーサーに突きつけるように教えてくえる。それでも、アーサーは分からずともまだ理解出来ずとも嬉しかった。みんなの役に立てると。黙りこくってしまったアーサーを理解出来ていないがために黙ってしまったとルシィは思ったようで心配そうな表情を浮かべている。


「焦らずとも良いですよ?まだ確定したわけでは」

「違うんだよ、ルシィ」

「え?」


驚いた声を上げるルシィがアーサーを見れば、彼は心臓辺りの服を握りしめて視線を下げていた。それが何処か決心をしたような真剣な表情で目が離せなかった。一つ間違えば違う選択肢を取ってしまいそうなほどに危なっかしくて、一つの選択肢を確立しようとする執念にも似たなにか。アーサーの中でせめぎ合っているようで違うこの感情はきっと、知っている。顔を上げた彼の瞳に映っていたのはよく見る空色。


「俺は、みんなの役に立てるのが嬉しいんだ。『覇者』と言われたみんなの役に少しでも立てる事が。みんなが大変なのは知っているしそれを俺が肩代わりとかは絶対に出来ない。だから、彼らの隣に立ちたくて、役に立ちたかった……それで俺は充分だよ」


そう、俺は『覇者』だからみんなの近くにいたんじゃない。友人だから、仲間だから支えたかった。その願いが、決意がどうあれ叶えられたのだからそれで良かった。一応納得した様子を示すアーサーだが、彼自身自分の本当の力には気づいていなかった。パフッと手帳を口元に当てペリノアは「そうか」と柔らかく笑う。口元のにやけが止まらない。それは『色無き王』であろうアルトゥーロも同じだろうと思うとやはり同じなのだと思う。特にルシィから連絡を受けて扉の前で悶えているであろう友人達にとっても嬉しい事だろう。その意志が『覇者』を支える()()()()()たる証拠なのだろう。


「まぁ、そういうことだ。無理に理解しなくても良い。私達も理解しようとしている最中だ。慌てなくて良い」

「はい」

「まぁでも」


突然言葉を途切れさせたペリノアにアーサーはどうしたのだろうと首を傾げれば、ルシィがクスクスと口元を袖口で隠して笑う。なんだが除け者になった気分だ。「なんです?」とアーサーが急かせば、ペリノアは慈悲深げにいつも友人達との戯れを見る時の優しい笑みを浮かべると言った。


「友人達の抱擁に耐えられたらな」

「アーサーさぁあああああああんん!!??」

「ちょっ!?……ディナダン止まりなさい!」

「回復促進の飲み物持ってきたよー」

「ついでに本もな」

「大丈、夫……?みん、な……落ち、着、いて」

「お水とタオルも替えようね」


ペリノアの言葉と共に盛大な音を立てて扉が開けれ友人達が雪崩のように駆け込んできた。アーサーを心配していたらしく、色んな手土産と安堵の言葉をかけてくる。それにアーサーはキョトンとしていたが、クスクスと笑うルシィの腕を掴み、下に下ろすとペリノア同様知っていたらしく、笑顔を咲かせていた。嗚呼、もう。アーサーは笑みを浮かべつつもこちらにやってくる友人達を振り返りつつ、ルシィとハイタッチをかわすと笑顔で言った。


「ただいま、みんな!」


一応の前編終了です!次回は一応の後編(多分書かない)です!月曜日です!

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