表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
102/130

第九十五色 目覚めた意志



体が熱かった。まるで証が熱を放ち、その熱が血液を通じて全体に行き渡っているような。怒りで血液が沸騰しているような。よく分からなくてよく分かっている不思議な感覚。聴覚が恐ろしいほどに冴え渡って空気が微かに揺れる音も拾い。触覚が恐ろしいほどに敏感になって傷の痛み以外にも気配と殺気を感じ取ってはそれを自らの力として陽炎の如く放出していく。この感覚は一体、なんだ?()()()()()()()()感覚と感情をきっと自分達は知っている。ずっと待ち望んでいた気がする。貴方が現れるのを。貴方が見つけてくれるのを。貴方が手を差し伸べてくれるのを。自分達は、生まれた瞬間から探していた


「ディナダン、ボールス」


誰かが二人の名前を叫んだ。途端、ディナダンとボールスは力強く瞳を開き足を踏ん張る。彼女達の足元に各々が持つ座の紋様が黄色と黒の光と粒子を伴って描かれていく。二色の色が混ざり合うその光景は美しくも儚げで妖艶で、まるで妖精が舞い降りたかのようだった。その光景にペリノアは我知らず口角を歓喜のあまり上げていたが、誰も気づくはずなくて。耳の奥で木霊する声が「力を放て」と囁く。


「〈消滅暗黒の渦(ブラックホール)〉!」

「〈光の妖精のダンス(フェアリーサークル)〉!」

「〈均衡を崩せブレイクダウンバランス〉!」


三つの魔法が天高い天井で衝突する。全てを飲み込む黒い渦が美しくも微小な光の妖精が描くサークルを飲み込みながら白い亀裂を作っていく。光の妖精は螺旋を描きながら鱗粉を撒き散らし、リーセイを攻撃していく。リーセイは頭上から舞い落ちる鱗粉を煩わしそうに片腕で払うがその間にもボールスの杖から放たれた白い稲妻は底知れぬ渦にビキビキと亀裂をいれていく。三者の魔法が魔力の続く限りせめぎ合う。バチバチと火花が散り、まるで花火のように天井で洗脳魔法を吸い込んでは吐き出すを繰り返していく。


「ガヘリス、カラドック」


ポツリと呟かれたその言葉。その言葉を聞くよりも速くガヘリスとカラドックの足は〈超速度上昇(ハイ・スピードアップ)〉を付与したかの如く操り人形(マリオネット)と魔物を突風で覆い尽くし、縛り上げていた。二人の姿は瞬きをした瞬間、消えてしまい残っているのは残像とも言うべき風の残り香だけ。三者の魔法攻撃に気を取られていたがために隙だらけだったのが功を奏したと言っても過言ではなかった。ただ、敵を翻弄し、床に足を着けた二人は驚いたように顔を見合わせていたが。


「フローレンス、ドラゴネット」

「〈水の華(スイレンのオト)〉!」

「〈月よ輝きたまえ(ムーン・ヴナルス)〉!」


突風に巻かれた敵を瞬時に可憐な睡蓮が覆い込み、大きく口を開けて噛み砕く。逃げようとする敵を嘲笑うかの如く暗闇にて対象者の魔力を上昇させる丸い月が睡蓮を巨大化させ、鋭利な牙を無数に生み出す。敵を噛み砕き、飲み干すその姿は可憐でもなんでもなく、ただの醜悪な魔物食い花でしかない。次々に消えていく魔物にリーセイのこめかみに亀裂が入る。度重なる魔力の消耗で彼自身動きが鈍り始めているのだ。それを知りつつもリーセイはディナダンとボールスの魔法を弾こうとする。だが、驚愕しつつも凛として立ち魔法を放つ二人はリーセイのように困窮せず、余裕綽々と言った風にも見えた。なんで、さっきまで優勢だったのはこちらなのに。何故、何故、


「何故わかった!?」

「サグラモール、グリフレット」


口調を荒げ、憎しみを吐き出すリーセイ。掲げられた両腕はもはや痙攣し、いつ下ろされても可笑しくなかった。全てを飲み込まんとする渦にはいくつも亀裂が走り、優位に立っているのはこちらだと教えてくる。そして聞こえた声に二人の脳裏で答えが瞬く。


「……嗚呼、そうか。フェイクか」

「そうじゃな師匠」

「どういうことです?サグラモールもグリフレットも」


荒れ狂う嵐のように怒りを露にするリーセイを睨み付けグリフレットとサグラモールが呟けば、この状況に驚いて身動きが取れなくなっていたルシィが不思議そうに問う。問っていて気づいていた。()()の足元に浮かび上がる力の源に、それぞれの(意志)を模した紋様がその答えを物語っていたから。聞くまでもなくて。お伽噺よりも遠い伝説が目の前を通りすぎていく。


「リーセイは、想属性の〈無空間再現デッドエンドバーサーク〉を使おうと見せかけて〈消滅暗黒の渦(ブラックホール)〉を使った。洗脳魔法がこの空間内に充満している以上、逆を取れば思い込ませることも容易。サグラモール」

「あい、師匠」


ビッと腰の札を一枚破り取るとサグラモールはグリフレットの説明に納得しつつも警戒する仲間達に笑顔を送ると札に軽く口づけた。そしてピッと中指と人差し指に挟んだ札を裏返せばそこには赤と緑のインクで魔法陣が描かれていた。つまりは合体属性だ。


「〈一つに交われ二つの力よ。その威力を知らしめろ。不死鳥が舞う風フェニックス・ハリケーン〉!」


サグラモールが札を三つの魔法が衝突する中心に投げ込めば、火属性は不死鳥フェニックスを作り上げ、赤く燃える偉大なる炎で突風を作り出す。そしてその炎に自らも焼かれながら拮抗した中心に侵入し、三つの魔法を爆発音と共に消滅させる。硝煙漂う煙が洗脳魔法を掻き消し、視界を覆い尽くしていく。とリーセイの耳元で耳鳴りがした。胸元を押さえたまま動かなかったアーサーが攻撃を仕掛けたのかと思ったが違った。力強くも凛々しい足取りがまるで道しるべのように煙の中、浮き上がる。


「ユーウェイン、パロミデス」


煙を切り裂くように二本の剣がリーセイの首を狙って放たれる。片手に魔法を付与したリーセイが同じように煙を切り裂き、ユーウェインの心臓を狙う。しかしその一撃をパロミデスが槍を間に滑り込ませて防御し、後方に吹っ飛ばす。煙を掻き切りながらリーセイは後退し、足を踏ん張りそれ以上吹っ飛ぶのを防ぐ。唇を噛み締めつつ、次なる一手に動こうとする彼の背後で新たな殺気が蠢いた。リーセイが気づき、背後を慌てて一瞥した時にはもう遅く、大剣の切っ先が彼の首を刈るという勢い接近し、殺気に蠢く瞳を燃やしていた。


「マーハウス」


ブンッと勢いよく振られたマーハウスの一撃は空を切り裂き、衝撃波となってリーセイに襲いかかる。間一髪でしゃがみこみかわしたと思われたリーセイだったがはたと気づいてしまった。既に洗脳魔法は魔法と共に消され、形勢逆転の機会も失われた。嗚呼、それでも。リーセイはすぐさま立ち上がり負傷したアーサーを殺すべく、魔法を展開させる。『覇者』十二人とルシィを殺すよりも圧倒的に有利に立てる。だが、リーセイはおそらく忘れていたし覚えていなかった。怒りが思考を遮断していた。


「〈その迷宮に迷(ラビリ)い込めば良い(……)〉」

「ノア様」


想属性の魔法を唱えるリーセイを遮るように淡々とした声が響く。そうして煙が晴れ出した境目に見えたのは無数の大太刀を召喚し付き従えるペリノアだった。仄かに輝く足元の紋様が彼を何処か儚げにそれでいて威圧感に映し出す。リーセイが彼に向かって魔法を瞬時に変え氷の刃を放ったが、動揺していたのか放った直前に有利に立てない属性だと気づいた。しかし、同時に片手で光属性の魔法も放ったらしく、リーセイの顔には笑みが浮かんでいた。大太刀の切っ先に触れ、ペリノアに当たることもなく消滅する氷の刃。光属性の刃がペリノアの死角に入り込み、彼の首を狙う。だが、それらの一撃はペリノアが微かに首を傾げるだけで見えない壁にキィンと甲高い音を立てて弾かれてしまった。目を見開き驚くリーセイを嘲笑うかの如く、ペリノアが口元を抑え威圧感たっぷりに笑う。


「嗚呼、なるほど。先代が遺した意志の意味は、そういうことか……」


そして、可能性は事実となった……誰かに云うように、感慨深いと言いたげなペリノアの独り言は口の中で消え、大太刀がリーセイに向かって突進する。空中を滑るように浮遊する無数の大太刀に、()()()動かぬ足に、絡め取られた手足に、既に決して勝敗に、微笑しか溢れない。リーセイの頬を通りすぎ肩を貫く痺れるような痛みと共に背後から再び抉るように与えられる左胸の痛みに彼は後ろにいるであろうアーサーの胸ぐらを最期の抵抗とばかりに掴み上げれば、案の定アーサーは毒にやられ既に焦点を失った瞳で剣を握りしめていた。無理矢理振り返ったせいでリーセイの左胸の傷が抉られ、血が吹き出るがどうでも良かった。足元から魔物特有の血なのか泥なのか分からない物体が溶け出し、リーセイが最早瀕死であることを物語ってくる。声も絶え絶えに殴りかからん勢いでリーセイは言う。


「残念でしたね。〈毒王よ死ね(デス・ア・ポイズン)〉」


その言葉にアーサーは目を見開き、崩れ行くリーセイを見下ろす。ドロドロと泥と化し消滅していくにも関わらず、ニヤニヤと如何にもこちらが勝利したと言わんばかりの笑みに不快感を感じ、アーサーは咄嗟に口を手で覆った。次の瞬間、死ぬ直前にリーセイがかけた魔法により体の中で燻っていた毒がアーサーに牙を向いた。視界を塗りつぶすほどの毒とドッと来た疲労感が体の自由を奪う。カラン……と剣が手中から落ち、床でバウンドする。リーセイが最後に告げた言葉の意味も分からぬまま、アーサーは歪む視界から奈落の底へと意識を手放した。手放す直前、ルシィが自分に向かって手を懸命に伸ばしているのが見えた。


……*……


第一印象は、騒がしいだった。何処もかしこも明るいものに溢れていて、煩わしかった。自分と違うと云う印象が何処か心地好かったのかもしれない。だからこそ「偽物」と言われ、絶望したのだろう。双神なんて知らないし、自分は神だと云うのは()()()()()。全て壊してしまえばまさにそうなる。違うからと拒絶されても、それが事実となれば全ては自分の思い通りで。怒りと絶望と失望を、与えてやろうと思った。だから決裂を渡した。相手の交渉なんて知りもない。相手の感情なんて、哀れみを持った表情なんて知らない。だって、自分を否定したんだから、自分が壊して本当の神になったって文句はないだろ?だから侵略し、破壊した。全てを。自分を否定する世界も全ていらない。そのうち、目的と少しだけずれてきて、『覇者』たる人物の存在を知った。嗚呼、コイツらのためだけに自分は待たされたのかと。


「殺したい」と心から思った。

どれほど絶えられるのか、ただの遊びになっていたなかで復讐のなかで、対抗出来るのか。興味が湧いた。だから、全員殺しても命を弄んでも意味はない。実際に彼はそうだった。この世界に太古の昔より根付く感情でさえも同じ。だからこそ、この世界を破壊し君臨したいと願う。


「……いつの時代も人間と()()()()感情が破壊を起こす。それを()は、我々は知っている」


さて、情報源であった彼も消えてしまったことだし、本気を出すように立ち上がる。いや、これが本来の自分が求めていた復讐の終わりなのかもしれない。始まりかもしれない。嗚呼、それでも壊せるならば、試せるならば、どうでも良い。例え自分がいなくなったとしてもその感情は、野望は、復讐は、蔓延り続ける。双神だとか云う「偽物」の失態として。……もしかするとあったかもしれない未来なんてもう必要ない。ないから、交渉はすでに壊れ(決裂し)たんだ。


ーー暗闇の中、誰かが蠢く。まるで出番だと云うように。溜めに溜めた感情を破壊でしか発散し表現出来ぬ哀れな化け物のように。『覇者』が本当の意味で存在を証明したその裏で、リーセイの言葉の意味を()()()理解出来た者はいない。


一応、前編後編わけの前編が次で終了です。そこまで上げます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ