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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第九十三色 異様を指し示せば


バァン!と大きな音を立てて古びた扉が開けられる。扉が勢いを受けきれずに壁に当たって跳ね返る、かと思いきや壁に吸い付き、行く手を促す。途端に吸い込まれるように生臭さと錆びた鉄の臭いが鼻腔に溜まるように襲い来る。日の当たらない、影を落とす何処か殺風景さえ感じるそこはまるで全ての絶望をかき集めた牢獄のようだった。


「アーサー、無事ですか!?」


観音開きの扉を蹴破るかの如く開け放ったルシィ達は円形になった空間に危険を省みずに飛び込んでいた。窓がないためにまっ暗闇に閉ざされた部屋は円形であることも踏まえてまるで夜の闘技場のようだ。そんな場所に彼らは危険も承知で、罠も承知で駆け込んでいた。数分前まで罠の手中にいたようなものだし、彼らにしてみればどちらも同じだった。此処に来る直前の道で罠に嵌まってしまった両チームだったが各々の機転と能力を生かし、間一髪で脱出することに成功していた。しかし、その代償として怪我を多く負ってしまったが、特に死に直結するものはない。傷は力を振り絞り立ち上がる彼らを罵倒するように酷く冷えた氷のような冷気に当てられ、瞬く間に紅く染まっていく。まるで冷気そのものが吸血の城の最大の罠だと言わんばかりに、長い間魔物が根城にしていたと言わんばかりの威圧感を放っていた。それでも牢屋とも牢獄とも取れるこの場所に友人がいると信じていた。罠の先に差し出された誰かの手を、入念に罠で隠された此処にいると。だが、


「おや、遅かったですね」


薄暗い部屋の中央辺りに裏切り者であり魔牙であるリーセイが余裕綽々とした様子で立っていた。その余裕綽々とした態度がメッセージカードの煽り文を思い出させてきて腹が立つ。本当に腹が立ったらしいパロミデスをユーウェインが「どうどう」と押さえている。リーセイはそんな苛立ちなど知ったことかと見下すように笑うものだから余計にパロミデスが飛び出して行きそうになっている。両者から放たれる殺気が空間を包み込み、正常な思考を無理やり蝕んでいく。リーセイの左目の下辺りにあるひし形の模様と、微かに見える右腕の鱗が彼が正真正銘の魔牙であると物語る。微かに紅い滴を垂らす長い爪が暗闇の中に生え、星のように煌めきを放てばなんだか妖艶だ。だが、その()という存在を目の当たりにしルシィ達は絶望の色を濃くし、固まった。紅、あれは誰の血だ?まさか……そして今、こいつはなんて言った?()()()()?驚き、なにも言えないまま立ち尽くすルシィ達をリーセイは嘲笑うかの如く、口角を三日月に彩り、勿体振りながら体をずらした。リーセイが立っていた向こう側、壁に寄りかかるように力なく座っていたのは見たくなかった現実だった。


「っっっ!」

「っ!アーサーさん!」

「ディナダン!!」


両腕を天井から垂れる鎖に拘束され身動きを完全に封じられており、抵抗さえ出来ぬようにと言いたげな頑丈な二重の手枷と鎖。顔や腕、足、しまいには頭から血を流し、肉が見えているのではないかと疑ってしまうほどに心身共にぼろぼろ。そんな姿を見せ物のように晒されながら左胸に短剣を突き刺された状態で紅い華を咲かすアーサーがそこにいた。拘束された両腕からは血が雨のように降り注ぎ、足元と体に紅い水溜まりを作り出している。ポタポタと静かに響くその音があまりにも儚くて、この惨状がどれほど酷いかを教えてくる。瞳は生気を失い、床を虚ろな色で見つめたまま微動だにしない。首元と拘束された手首に紫色の斑点が見え、毒に殺られたとも言えた。あまりにも残酷な、見るに絶えない彼の姿に誰もが息を飲み絶望した。左胸、心臓を狙った短剣は深く深く刺さっており骨にまで貫通しているのではないかと思われるほどに真っ赤な大輪の華を咲かせていた。ガクッとルシィの体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。間に合わなかった。あれではもう、彼は助からない。いや助かったとしても衰弱死もしくは出血多量で死んでしまう。脳の片隅でぼんやりと考えていたのは()()を何処かで感じていたからに他ならなくて。きっと彼は信じていたのだろう。その証拠に生気を失った瞳から涙が溢れることはない。ディナダンが思わずと言った様子で駆け出すのをガヘリスが肩を強く掴んで止める。嗚呼、これが現実だと目の前に無情にも突きつけられてくる。もう、笑うことも喋ることもない。言いようもない絶望と喪失感に苛まれる彼らを『覇者』達を殺すことを待ち望んだリーセイが嘲笑う。


「無様ですね。そんなに大切なら目を離さなければ良かったのです。だからこそ人間は愚かですよね。コイツも、どちらかを選べなかった」


リーセイはクスクス笑いながもはや用済みとなったアーサーから視線を外し、彼が守っていた本当の邪魔者を振り返る。アーサーの死に狼狽えながらも目の前の敵に殺気を向けるマーハウスとドラゴネット。冷静にリーセイを睨み付けるペリノア、サグラモール、グリフレット。そこには殺気と憎悪と怒りと憎しみ、怨み辛みが詰まっていた。嗚呼、ワタクシはそれを踏みにじり絶望を与えたかった!


「本当に、愚かな人間達。せめてもの情けに、楽に逝かせてあげます」

「そんなこと、私達が許すとでも?」

「おや、なにを仰いますか。今まさに助けられなかったと云うのに!」


紅く染まった爪を振り回し、演説の如くリーセイが叫ぶ。彼に反論したペリノアがグッと口を塞ぐ。そう、裏切り者の言い分は合っている。先代のような二の舞を向けられてもなお、『覇者』は小さなものさえ救うことも出来ない!嗚呼、なんて無力だろう。でも、それでも胸に燃やされた闘志は絶対に消してはならない。そして、脳裏に響く()()()()()にも。リーセイの言葉にペリノアは肩を庇うように体を跳ねさせたが、ニヤリと笑ってみせた。それにリーセイは怪訝そうに首を傾げる。


「なにが可笑しいのです?」

「いや?貴様も忘れているんじゃないか?」


なに?とリーセイが眉をひそめる。ペリノア(コイツ)はなにを言っている?ペリノアの言葉にリーセイはよーく『覇者』を見渡した。誰もがその目に絶望を宿していようとも決して希望は消えていなかった。それがリーセイにとってはなんとも愚かだ。だが、()()()()()()()?。リーセイは想属性の魔法を用いて何度も『覇者』を危険な目に合わせて来た。そのなかでもっとも『覇者』が警戒したのは洗脳魔法だ。洗脳魔法は対象者の思考を良いように()()()()()。それが悪夢であっても甘美な夢であっても。だからこそ、彼らは「アーサーが死んだ、殺された」という幻想(嘘と現実)を怖がり見ようとしなかったのではなく、「洗脳魔法が使用されている」と信じた。もう一つの、三つ目の可能性を信じた。だからこそ、絶望しても希望を捨てずに立ち上がった。発狂することも泣きわめくこともうちひがれることもせず。それが、先代が選んだ隠し事(希望)だったから。それを先代も知っていたはずだから。だから、だからこそ、一般人(名も無き英雄)は死に時を選べた。

検討違いも甚だしい『覇者』達の恐ろしくも楽観的な考えにリーセイも辿り着き、ハッと嘲笑った。洗脳魔法という摩訶不思議な存在に希望を託すなんて、馬鹿馬鹿しい。アーサーはこの手で殺した。その事実からさえ目を背けるなんて。現にいまだ一人だけ脱け殻のようにルシィは崩れ落ちたままだ。とその時、満を期したようにルシィが力強い足取りで立ち上がった。その目にも希望は宿っていてそれがなんとも煩わしかった。だから、さっさと殺しにかかる。


「馬鹿馬鹿しい。ならば、さっさと死んでください。〈死体操術者マリオネット・アンデット〉」


彼らの戯れ言と戦意を振り払うように両腕を広げれば、冷たいコンクリートから何処から都もなく影が現れ、人の形を作っていく。青白い肌はもはや血が通った人ではなくまるで死体で、紅い血走った目は爛々と輝きながらも生気を失い、それでも憎しみだけで動いているような状態だった。その様子は『覇者』への恨みを糧に生きる『ヴェグス』に似ていた。まさか、ラヴェイラと同じように死して操られているのだろうか?彼らには分かりっこないが、リーセイにとって人間の命なぞ虫を殺す程度の事なのだと思うと無性に腹も立った。異様な状態の人ならざる者の出現に誰もが警戒し、武器を持つ。先手必勝か、カラドックとフローレンスが武器を手に足に力をこめれば。リーセイは読んでいると言わんばかりに指を鳴らす。


「〈捕らえよ骨の髄まで(トラップ・ボーン)〉」

「っわ!?」


パチンッと甲高い音が響けば、ルシィ達の足元から無数の骨が伸び、彼らを捕らえようと蠢く。それを素早い動きで退避し武器で切り刻む彼らだが、それと同時に数人の操り人形(マリオネット)が罠によって負った傷を抉ろうと爪や刃物を振り回してくる。咄嗟にそれらを避け、防ぐために固まっていた彼らはバラバラに円形の部屋の中、逃げ惑う。


「ガヘリス、カラドック、フローレンス、ドラゴネット!操り人形(マリオネット)の対処を頼む!サグラモール、ボールスは援護!他はリーセイ(あいつ)を叩き潰せ!」


ペリノアが背後に大太刀を形作りながら叫べば、その隣にいたドラゴネットが壁を蹴り勢いよく跳躍すると目の前に迫った操り人形(マリオネット)に刀を振り回す。ボールスが杖を掲げ部屋を明るくするために無数の炎を操り人形マリオネットに叩きつける。ボォン!ボォン!と小爆発が起き、操り人形(マリオネット)が吹き飛ばされると共に土煙が充満する。硝煙漂う空間と彼らの抵抗をリーセイは嘲笑う。


「ハッ!そんな状態で出来るんですかぁ?」

「うるっさい!!」


ケラケラ笑うリーセイの懐に煙を利用し接近したユーウェインが潜り込み、双剣を振る。首を挟むように振った一撃をリーセイは華麗な身のこなしで避け、ついでやって来たパロミデスの槍を魔法を展開させ防ぐ。展開させた魔法でパロミデスを弾き、魔法を小さい盾のように扱い、リーセイは上段から振り下ろされたディナダンの力強くも重い一撃を防ぐ。バチバチッと強烈な衝撃に火花が散り、ディナダンの腕に痺れが走る。クッと唇を噛み締める彼女をリーセイが片手の爪で追い払う。クルクルと空中で回転し撤退するディナダンの脇を素早くすり抜けてマーハウスが大剣を振り回す。同時にグリフレットが薙刀をリーセイの死角から振り払う。左右から来た攻撃をリーセイは片方を魔法で弾く。だが魔法の耐久性はマーハウスの前では無意味だったようでパキンと音がして破片が散った。そこにグリフレットが容赦なく攻撃すればリーセイはかわすことが出来ず、肩に一線刻まれる。どちらかというと浅い、反撃にはほど遠い攻撃。それで降参するほど敵は甘くない。


「〈悪魔よわ(デビル・)が敵を捕縛せよ(ザ・キャプチャー)〉」


パチンと指を鳴らしながら後退するリーセイを守るように黒い悪魔が現れ、杖のような剣のような、今にも折れそうなほどに干からびた無数の腕を懐に潜り込んだグリフレットに向ける。後方に一歩後退しかけるグリフレットだったがそれで防げないのは知っている。すでに薙刀が腕に捕らえられている以上、引き寄せられるのは分かっていた。だからこそ〈武器装備(セット)〉を解除し、悪魔の注意を自分に向ける。そして、仲間の気配を消す。


「パロミデス!」

「分かってるっつーの!」


グリフレットの背後でパロミデスが大きく跳躍し、空中に広がる悪魔の腕を槍で全て捌けばさらに後方からペリノアの支援で、無数の大太刀が腕を蹴散らし、リーセイに向かって一直線に突進する。バッと腕をリーセイが振れば彼を守るべく魔法が展開され、大太刀と衝撃波を防ぐ。がそれらもろともマーハウスとユーウェインが切り刻み、リーセイに大打撃を与える。操り人形(マリオネット)の方もカラドック達に苦戦している。リーセイは悪態と『覇者』への称賛を口の中でつきながら左から振り切られたルシィの足技をかわす。ルシィは追撃として足を斜め上に振り上げた後、そこから斜め下に振り下ろす。上体を仰け反らせ、強烈な一撃をかわすリーセイにルシィはルシィらしからぬ舌打ちをかますと片手を体の死角に潜め、魔法を唱えようとする。しかしリーセイに気づかれてしまい、お返しとばかりに蹴りを放たれる。ズザァ、と足を引き摺るようにして撤退し、リーセイを睨み付ければ彼はチッと舌打ちをする。


「アナタたちを過小評価していたようです。ならば」


スッとリーセイが片手を挙げる。挙げた指先に集結する微量な黒い光にルシィは気付き、友人達を振り返り叫んだ。あの魔法はおそらく。あいつは此処にいる全員を消す気だ!魔法で跡形もなく。それは阻止しなければならない。焦燥に刈られるルシィをリーセイは侮蔑の眼差しで見下ろす。


「逃げてください!!」


ルシィの鬼気迫る、緊迫する声に一斉に全員が反応する。逃げろ、その一言だけでリーセイがどのような手段に出るのか容易く想像出来た。けれど、此処にはほとんど逃げ場など残っていなくて、もはや罠だらけと言っても良かった。混乱していたようでルシィにそこまでの意図はない。ないがルシィの警告をリーセイは嘲笑うかの如く指先に黒い光を集め叫んだ。


「無駄ですよぉ?〈暗闇よりいでし渦よ、全てを殺せ!消滅暗黒の渦(ブラックホ……)〉……」


片手を高らかに掲げ魔法を唱えるはずだったリーセイの声が突然止まった。静寂に包まれるなか、リーセイの胸元に華が咲くジワリという音が異様に大きく響いた。そしてリーセイの困惑し、混乱する戸惑いの声が余韻を残して反響し、魔法を打ち消した。

祝・百部!

いつの間にか百ですよ百!いつも読んでくださりありがとうございます。どうぞ最期まで彼らの物語にお付き合いよろしくお願いいたします!

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