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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第九色 旅立ちの夜


「準備良しっ、と」


アーサーは茶袋に詰め込んだ荷物を見てよしっと満足そうに頷くと腰に愛剣を吊るした。辺りは暗く、彼の足元を照らすランタンだけが今のアーサーの道筋だった。いつもの軍服とは違い、黒の長袖に濃茶の半袖ジャケットを着、灰色の七分丈ズボン。内側に軽くスリットが入っており茶色のブーツ。肩には肩下辺りまでの長さの焦げ茶色をしたマントとローブが組み合わさった物を羽織っている。本当は大丈夫だと思ったのが、万が一を考えてのことだった。


今夜、俺はこの国を出る。ルシィと共に残り六人の『覇者』を捜す旅に出る。世界の命運が自分達の手にかかっている、なんて大それたうちの一人とは思っていない。ただこれは、そこに至るまでの道筋。平和を求む戦いの幕開けなのだと、そう思うと自らの体が武者震いで痙攣する。大丈夫。何処かで怖いと思っているのかもしれない。でも、大丈夫。そう心の中で何度も唱えれば、震えていた手はもう震えない。アーサーは傍らの机に置かれた置き手紙を名残惜しそうに指で撫で、袋を担いだ。今は真夜中。皆が寝静まる時間帯。友人や家族がせめて見送ると言ってくれたが、魔物や将軍、魔牙にばれずに行動を進めるため、見送りはアーサーから断った。そのせいかお陰か、数時間前まで家族が見送りと称して宴を開いてくれた。大幅に長引いてしまったため、準備が少し遅くなってしまったが、まぁ良い。アーサーは静かに部屋を出ると音を出さないように扉を閉める。シンと静まり返った家は見慣れているはずなのに自分の家ではないみたいでアーサーは少し苦笑した。足音を立てないように細心の注意を払いながら、いつもより長く感じる廊下を駆け、階段を降りる。こんな真夜中に扉を開けて行くにも気が引けるのであらかじめ開けておいた窓を飛び越え、外に出る。静かに窓を閉め、アーサーは両親が夢を見る家を見上げる。


「……行って来ます、父さん、母さん」


そう見送りが出来ずにふて寝しているー多分、魔法で見送っている可能性ーであろう二人に挨拶し軽く頭を下げるとアーサーは二度と振り返ることなく、ルシィとの待ち合わせ場所に向かって走った。

誰もが寝静まった街は自分が生まれ育った街ではない気がして、少しわくわくする。頬を撫でる夜風がこれからの事を予期させて来てアーサーは剣の柄を強く握った。ルシィとの待ち合わせ場所は城下町の噴水広場。アルヴァナ帝国城下町の出入り口にも近く、ペリノアから聞いた裏口にもほど近い。門を守る警備員に事情は話してあるが、それで騒がれてしまっては元も子もないので裏口から行く予定だ。優しくも残酷な夜風から水の匂いがする。もう少しで目的地だ。アーサーは目の前の曲がり角を勢いよく曲がる。勢いが良すぎたらしく、反対側の壁にぶつかりそうになる。ガッと片足で蹴り上げ、速度を上げる。腰辺りで剣がカラカラと鳴る。暫く走ると目的地の噴水広場が見えてきた。噴水にはルシィが座って星空を眺めている。ルシィはアーサーと違い、ローブのような物は着ていないが、必要となったら魔法で視覚的にごまかすとのこと。それを聞いて便利だなぁとアーサーは思った。


「ルシィ、ごめん待たせた?」

「いえ。星空を見ていたので大丈夫です。下から見る星も綺麗ですね」


噴水の平らな場所から飛び降りてルシィは言う。と、アーサーが肩に担いだ荷物に気付いた。


「大変じゃないですか?それ」

「嗚呼、荷物?一応の食料とかだからそんなに重くはないよ。ノア様とルシィが魔法かけてくれたから軽いし。あとで剣の邪魔にならないように巻いておくね」

「お役に立てて良かったです。私もノアさんから一応でお金を支給されましたので、分担ですね」

「無駄遣いしないでよ?」

「アーサーさんこそ」


プッと二人同時に吹き出して夢の中の人々を邪魔せぬよう小さく笑う。そうしてアーサーはルシィに言った通りに袋の余った部分を腰に巻き付け、ウエストポーチのようにする。少し跳ねて見て剣にも当たらず、邪魔にならないことを確認する。


「あのさ」

「?はい、なんでしょう?」

「俺のこと、呼び捨てでも良いんだよ」


アーサーが自分を指差して言えば、ルシィはキョトンと目を丸くした。あと、理解したらしく、ふにゃりと笑った。ペリノアやユーウェイン、パロミデスなど友人達のように呼びたいのは山々だが、恥ずかしいのか「慣れていないので」と顔に書いている。「無理強いはしないけど」とアーサーが笑い返せば、ルシィは友人に嬉しそうに笑い返した。これからの旅が楽しみなのか、それとも友人が嬉しいのか、両方だろう。ルシィの銀色の瞳が夜空に浮かぶ月と同じようにアーサーを貫く。覚悟は良い?そう問いかけて来ているようでアーサーは唾を飲み込んだ。


「じゃ、行こうか」

「はい」


スッとルシィがアーサーに向かって手を掲げる。それに今度はアーサーがキョトンとする番だったが、クスリと笑いハイタッチをかわした。そうして二人は裏口に向かって走り出した。裏口は城下町の反対側、宮殿から直線距離にある。宮殿からは隠し通路で行けるらしいが今は割愛である。ペリノアに教えてもらった道順で向かうとそこは人気のない裏通りだった。案の定、真夜中なので人はいないし、裏口が分からないようにか物がごちゃっと積み上げられている。ルシィに持っていたランタンを小さくして収納してもらう。このくらいの暗さなら月光で問題ない。ごちゃごちゃとした裏通りは何処か迷路のよう。右へ左へと千鳥足のように物を避けながら奥へ奥へと進んでいく。裏通りの奥に到着するとそこには何故か殺風景なほどに物がなく、明らかすぎるほどに「此処だよ!」と物語っていた。しかし、此処からが難しいのだ。アーサーは煉瓦で出来た壁をコンコンとノックしていく。すると一つだけ、中が空洞になっているのかコンコンではない音がした。その音がした煉瓦を奥に押し込むと、ガタガタッと騒々しい甲高い音を立てながら人一人通れるくらいの大きさを作って瓦礫が奥に消えていく。大きく口を開けた壁の奥は暗闇に包まれていたが、二人の後方から差し込む月光でどうやら道があることは目視で確認出来、外に通じていることを示すように二人の頬を冷たい風が撫でていく。


「これって何処に出るんでしたっけ」

「ヤオヨロズ共和国近くの洞窟。洞窟出てすぐ森だからそこで夜明かししようか」

「そうですね、そうしましょう」


アーサーとルシィはうん、と頷き合うとゆっくりと大きく開けられた裏口に足を踏み入れた。二人が足を踏み入れた途端、後方で再びガタガタッと音を立てて壁が再生されていく。一定時間が経ったら元に戻る仕組みらしい。壁の奥、もはや裏口と言うよりも秘密の通路は冷たい雰囲気に溢れている。だが、出口があると教えてくれるような風が何処からともなく吹き、二人を元気付けてくれる。閉ざされた道は、もう後戻りはできないと突きつけてくる。アーサーは大きく一歩足を踏み出すと通路を歩き始めた。それをルシィも静かに、まるで付き従うように続いた。遠くから虫の声が応援のように小さく響き渡っていた。


……*……


「今頃、二人はアルヴァナ帝国(此処)を出たかな」


ランプの仄かな光のみが照らすある一室で鈍い赤い色をしたワインを嗜みながらペリノアは言った。彼の近くには酔い潰れたマーハウスと彼女に寄りかかるようにして眠るディナダン、ガヘリスの姿がある。三人に魔法で付近の棚からタオルケットを取ると彼らの上にフワリと優しくかける。安らかな寝息を立てる友人達を愛おしげに見やり、ペリノアはベランダに視線を向ける。そこには彼と同じようにワイングラスを持ったユーウェインとパロミデスが互いを支え合うようにして立ちながら外を眺めていた。


「多分出たんじゃないですか?まぁ、それでもあの二人なら大丈夫ですよ、ねっパロミデス♪」

「僕に聞かなくても分かってるくせによく言うぜ」


ユーウェインがパロミデスに抱きつくように言えば、彼は少し呆れたように片手でユーウェインを受け止めながらワインを煽った。クスクスとペリノアは笑い、ワインを下から覗き込む。この小さな灯りでは鈍い赤い色のワインだが、多くの光を当てればそれはそれは美しい紅色になることをペリノアは知っている。それはまさに色が合わさることで生み出される新たな色。埋もれているからこそ分からない、神秘と進化を秘めた色だ。


「『覇者』なぁ……」

「?ノア様、どうしたんです?」

「いや、別に」


思わず低くなってしまった呟きをパロミデスが拾い上げ、聞けばペリノアは首を振りなんでもないと告げる。それに二人は本当になんでもないと()()()らしく、二人してベランダの外に目を向けた。そこでは美しいほどの月がこちらを見下ろしている。


「……先代は、何処まで()()()()だったのやら」


いや、それは双神も同じか。ペリノアは足を組み直すと傍らに置いた一冊の本を一瞥した。そうして薄汚れたその表紙を優しく撫でると、まるでその本に語りかけるように呟いた。


「どうか、私達の友人を守ってくれ。『()()()()』と先代方よ」


本の表紙には薄汚れていることなど吹き飛ばすほどに美しい金色の文字で「歴史書『伝説の物語』」と書かれていた。


これは、数十年前から続く……いや、永い時を渡り、続き、巡り、そして受け継がれ届く物語。はてさて、その剣が紡ぐ物語とは?


次からは二部、自覚のない『覇者』を捜す旅となります!次回は金曜日です!

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