警視正
純平と水城は山を下り麓の町まで下りてきた
「ちょっとここで待っててくれ」
水城は公衆電話を使い誰かに電話をかけていた
昭和初期の電話料金は3分間で5銭だった
それから数分後、水城は戻ってきた
「またせたな、それじゃあ行こう」
「それで今どこへ向かってるですか」
「行けば分かるさ」
純平たちは駅へ向かい列車に乗り込んだ
「汽笛一声新橋を はや我汽車離れたり 愛宕の山に入りのこる 月を旅路の友として 右は、」
純平が小声で歌っていると水城が
「そういえばお前、学校の方はどうするんだ?」
「中学の方は休学します」
「それはー、あとで詳しく話すが難しいかもな」
「難しい?」
純平たちは列車を東京駅で降りバスに乗り換えた
バスは都心部に出てきた、純平は都心を少し珍しそうに見ていた
「どうした、そんなに珍しいか」
「都心部に出てくることなんてほとんどないんで」
さらにバスは中心部に行く
「ここで降りるぞ」
そしてバスを永田町で降りた
「まさか、ここって」
「そうだ内務省だ、お前にはここで抜刀隊を統轄するトップである警視正に会ってもらう、まあ簡単に言えば面接だ」
「でもなんで、内務省で」
純平は困惑していた
「言ったろ、抜刀隊は秘密組織でも内務省警保局の管轄だって」
内務省警保局は現在の警察庁に相当する
「確かに集落に戻る時に聞いた説明の中にちょろっとそんな話しがあった気がする」
「それじゃあ行くぞ」
水城は正面玄関から内務省に入って行く純平もその後をついて行く
「内務省の三階か長官室だ」
純平たちは階段を上がり三階の部屋の前に来た
「こっから先はお前一人でた」
「一人で?」
「ああ、警視正殿はお前と一対一で話したいんだとよ」
純平はマントを脱ぎ学生帽を被り直した、そしてドアをノックした
「入れ」
と、声が聞こえたのでドアを開けて入る
「失礼します」
「君が河原木君か水城からの連絡で聞いているよ、私は抜刀隊を統轄している川部利頼だ、まあ座りたまえ」
(さっきの電話の相手はこの人だったのか)
純平が席に座ると机には資料の様な紙が数枚置いてあった
「これは君が来るまでに集めた君の資料だ、だが何せ時間が無かったものだからこの程度しか集められんかったが」
「尋常小学校を首席で卒業、中学校でもトップの成績を収めているのか、勉強は好きなのかね」
「はい」
「何か夢はあるのかな」
「はい、夢は飛行機の操縦士です、英語も日常会話程度なら話すことができます」
「そうか、ならば予科練などの試験は受けたのかな、この成績ならいい線行けそうな感じがするが」
純平は少しうつむき
「はい、予科練の試験は受けたのですが、身体検査で落ちてしまって」
「そうか、それはすまない、では次は動機の方を聞かせて貰おうか」
「動機ですか」