02 【30.01.26】遂に言えた言葉
「ねえ。この後どこいくの?」
「知らない」
「相変わらずよね、あなたは。じゃあ映画を見に行かない?」
「映画か、いいね。そういや前回会ったときも映画見たな、もう三年ぶりか」
「ああ、レジェンドラグジュアリーシネプレックスで?」
「そうそう、酷い名前だったな。あの時のチケットはまだ持ってるぞ。標本バッグに入れて」
「……あなたは本当にとんでもないことするのね。」
「お前と一緒に行ってたあの成績平均100点お菓子屋でもらったティッシュも入れてる」
「……もういい。早く起きましょ」
今年の今日はレジェンドもラグジュアリーもないけれど、隣で靠れていた彼女の、あの変人を見るかのような目は愛おしく、俺は危うく彼女を抱きしめてしまうところであった。
(01.26)
「こっちはもういいぞ」
「わかった。ちょっと待ってて」
「まだか?」
「まだ」
「そろそろ時間やばいぞ」
「もう、急かさないで!」
「え…」
今年の今日は急用がないけれど、チェックアウト迫るあの昼の、女の子の支度は本当長いなと久しく痛感した俺は、苦笑いを零すしかなかっかのであった。
(01.26)
「貴様、昨夜帰ってなかったな」
「そうだ、ちょっと野暮用があって」
「家にでも帰ったのか」
「んなわけあるか。お前、本当に純粋だな。まあ、当ててみろ。当たったら教えてやるから」
「そういえばこいつ、ここ数日よく元カノとやらと電話してたな、それも楽しそうに」
「言われてみれば確かに。こいつに詮索したらニヤニヤしながら『ただの元カノなんだよ』って抜かしやがって」
「まあ、その元カノにノートパソコン貸しててついでに一泊しただけだ」
「「「な、なんだと?!うらやまけしからん!!」」」
今年の今日はルームメイトの面子が変わったけれど、その賑やかな野郎どもに「もう今カノになったから」と言い残した俺は、些か優越感を覚えたのであった。
(01.26)
「着いたら電話しろよ」
「うん、そっちもね」
「…」
「…」
「お前が好きだ」
「うん。わたしも、大好き」
今年の今日は列車運転見合わせがないけれど、あの寒く暖かい南京南駅で遂に言えた、二年四ヶ月もの間ずっと言えなかったその言葉に、俺は涙が溢れそうなのであった。
(01.26)
『見ろ、雪が積もって電車のドアが開かない』
『なにそれ』
『お前は今どこにいる』
『新幹線に乗ったばかりよ。あっ、席見いっつけ!』
『俺はもうすぐ乗り換えだな。まあ、気をつけろ』
『うん。あれ?充電口が逆さまだね、この列車。何でだろ』
『知らないな。そろそろデータ量やばいから家に戻ったらまたかけ直すな』
『うん、気をつけて。大好き』
今年の今日は電池切れていないけれど、その時の他愛ない会話と意味わからない幸せを噛みしめて、俺はようやく失ったものを取り戻したなぁと、口元を緩めたのであった。
(01.26)