010 弁当
――今日は、カフェの定休日。だから、お仕事もお休み。好きなことをして良いのだけど。
「これまで仕事仕事で、趣味らしい趣味も見つけられなかったのよねぇ。何をしようかな?」
ベッドの上で枕を抱きかかえつつ、アキミが天井に向かって呟いていると、コンコンと引き戸をノックする音がする。
「アキミさん。フユトです」
「あっ、はぁい」
アキミは急いで起き上がって玄関に向かい、ササッと手櫛で適当に髪を整えたり服のシワを払ったりしてから、鍵を開け、引き戸を開く。すると、そこにはフユトが、青海波の手拭いで包んだ弁当を持って立っていた。
「おはようございます。お休み中、失礼します」
「おはようございます。どうぞ、お構いなく。――そのお弁当は?」
アキミ弁当包みを指差すと、フユトは我が意を得たりという顔で説明する。
「実は、さきほど骨董店のほうから電話がありましてね。これは、ハルキくんの忘れ物です」
「まぁ、あわてんぼうね」
「それで、僕が届けられればいいのですが、あいにく、学校とは反対方面でして。それに、ナツカくんも、もう出掛けたようなんです。ですから」
「わかりました。私が届けます」
「話が早くて助かります。では、お願いします」
「はい。任せてください」
そう言ってアキミは、フユトから弁当包みを受け取った。
*
――物には、実際に使って役立つという価値と、珍しいから何かと交換することができるという価値がある。お米やお魚は、前者に、貴金属や宝石類は、後者になる。
「悪いね、アキミさん。わざわざ、店まで来てもらっちゃって」
「うぅん、気にしないで。ちょうど、暇を持て余してたところだったから」
弁当包みを持って畳に正座するハルキと、上がり框に腰掛けるアキミが話をしている。アキミは、朱で色付けされた壺や、藍で染められた反物など、店内に置かれた骨董品を見渡してから、再び口を開く。
「骨董の価値は分からないけど、なんとなしに目を惹かれるところがあるわね」
「おっ。アキミさんは、お目が高いね。こんなカビ臭い物のどこに価値があるんだって言ってた、どこぞの三等軍官は違う」
――それは、ナツカくんのことかな。価値観は、人それぞれね。
「気に入ったものがあったら、遠慮せずに言ってね。すぐに大旦那さんを呼んでくるから」
「買わないわよ。というより、きっと手が届かないわ。それより、こんなところで油を売ってて良いの? お店の前で、呼び込みとかお掃除とかするものじゃなくて?」
「大丈夫、大丈夫。めったにお客さんは来ないし、大旦那さんが道楽半分でやってるような店だから。それに、俺はココが弱いから、あんまり激しい運動が出来ないし」
そう言いながら、ハルキは心臓の上を拳で軽くトントンと叩く。
――あっ、なるほど。それで、家具の運び込みの話をしてる途中で、いつの間にかいなくなったんだ。
アキミが黙って納得していると、ハルキはお道化たように言う。
「でも、食い意地が張ってるところと、女性を見るとすぐ鼻の下を伸ばすところは、よく注意されるかな」
「まぁ」
二人は、しばらくクスクスと笑い合った。