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俺は今王都に続く道のりを走っていた。
俺の住んでいた村から王都までは、馬車で2、3日ほどで着く距離だ。
なぜ走っているかといえば簡単に馬車より俺が走った方が速いからだ。
初めは、父さんの知り合いの人に馬車を借りて御者をしてもらう予定だったが、俺が『身体強化』の魔法を使って走った方が速かったため走ることにした。それに走れば森を抜ける近道も使えるからだ。
王都に続く道のりを、少し外れた先にある森に入る。
森に入るころには予定通り昼になり、お腹が空いてきたため、走るのをやめて歩くことにした。俺は移動ながら周囲に魔力を放ち周囲の様子を確認することができる、『索敵魔法』を発動させる。
※索敵魔法(無属性魔法)は、自分中心の円状に魔法を放ち、それにより周囲の様子を確認する魔法であり、この魔法の半径は魔法を発動する人の魔力量に比例する。一般的に半径の長さは500m~1kmの間である。
『索敵魔法』の反応で周囲に何もいないことを確認すると、大きな木の下で昼休憩をとることにした。
木の下に座り、俺は出発する前に母さんが作ってくれたおにぎりを『時空間収納魔法』からとり出し食べることにした。
もちろん、休憩中も『索敵魔法』を常時発動させている。
※時空間収納魔法(無属性魔法)は、空間収納魔法の上位変換になり、空間を創り物を収納するだけでなく時間の流れも止めて収納出来る。収納出来る体積は魔力に比例する。(生物は入れれない)
おにぎりを食べ終わると、俺は夜に食べる果物や動物を狩りに行くことにした。
索敵魔法を森全体まで広げる。その広さは半径約30kmまである。
俺はその中から近くにいた3匹のイノシシを狩ることに決め、イノシシに向けて走る。
イノシシが視界に入る位置まで行くと俺は風魔法によりつくった小さな風の弾をイノシシの眉間に打ち込む。
撃たれたイノシシはそのまま横に倒れた。さらに2発撃ち込み、残りのイノシシと仕留める。
俺は、地面に土魔法で穴を開ける。その穴の真上にイノシシが来るように、イノシシを逆さにして持ち上げる。
逆さにしたら、首元を切り血抜きをする。
血抜きし終わると父さんの教えの通りに穴を埋めた。
血抜きし終えたイノシシを『時空間収納魔法』の中に入れ王都に向けて走り出す。
長い時間走り回り、空が薄暗くなってきた。
俺は、『索敵魔法』で調べた、森を抜けた先の川がある場所に向けて走ることにした。
川につくと集めた薪に炎魔法で火をつける。
さらに、昼に捕まえたイノシシの解体をする為に、包丁とイノシシを『時空間収納魔法』から取り出す。イノシシの解体は父さんと一緒にやったことがあるため素早くできた。
解体したイノシシを『時空間収納魔法』から取り出したフライパンで塩コショウをまぶして焼く。
焼くだけのシンプルな料理だったが意外と美味しかった。
夕食を食べ終わると、周りが石だらけのため土魔法で作ったベットをつくり、それに横になり寝ることにした。
次の日の朝は、昨日の残りの肉を食べ終わると王都に向けて走り出す。
昼になり、休憩をとっていると『索敵魔法』に変化があり詳しく見ると、どうやら俺が休憩をとっている近くで、魔物化した動物襲われている集団がいるようだ。いや、正確には1人が馬車を操縦してこちらに来ている。
どうやら、焚き火の煙を目印に助けを求めに来たのだろう。
こっちに向かってきた男性が声を上げる。
「たすけてくれ!」
そう言った男性は、馬車から慌てながら降りてきて俺の服をつかむ。
「ま……魔物化したイノシシの群れに、2人の女の子がいるんだ……」
男はそう言うと気絶した。
『索敵魔法』で確認すると確かに2人ほど魔物化したイノシシと戦っている反応がある。
俺は男に光魔法の『治癒魔法』を発動させて男の傷を治す。馬は、逃げないように近くの木にくくりつける。
男をその場に寝かせて魔物化したイノシシの群れと戦っている2人を助けに行く。
戦っている場所に着くと2人の女の子が岩壁まで追い詰められていた。
辺りにはいくつかのイノシシの死体があったがまだ、15匹ほどのイノシシに2人の女の子は囲まれている。
よく見ると2人とも疲れ果てており、ほとんど魔力が無いようだ。
俺は急いで2人の前に飛び出す。
急に前に人が来て女の子2人は驚いていた。
「助けに来ました」
俺は、驚いている2人に声をかけるのと同時に、イノシシに向けて雷魔法の『雷撃』を放つ。
前列にいて『雷撃』を受けたイノシシはその場に倒れる。
それを見てさらに驚く女の子達だが、イノシシがこっちに向けて突進しているのを見て我に返る。
女の子達が魔法を発動させようとするが、女の子達の魔力が無いため魔法が発動しない。
「魔力ぎれ……」
1人の女の子がつぶやく。そして、2人イノシシの突進が目の前に来て目を瞑る。
しかし、いつまで経ってもイノシシと衝突した感覚が無く目を開ける。
すると、女の子達の前には土の壁が出来ていて
残りのイノシシも倒れていた。
「 大丈夫でした?」
「貴方がこれを?」
「まぁ……そうだけど……」
俺が質問すると2人は、おどろいていた。
驚きながらも赤髪をポニーテールにした女の子が聞いてくる。
「貴方、強いわね……」
「それほどでもないよ。2人を助けてくれと頼んできた男性が、あっちに寝かせてるんだけど……」
俺はそう言って2人に男性を寝かせた方を指先。
「それって!ガーラさんだ!」
「無事なんですか?」
赤髪の女の子が言うと、その後に銀髪で長髪の女の子が言う。
赤髪の女の子は明るく元気な雰囲気で、銀髪の女の子は、おしとやかで清楚な雰囲気の子だ。
「無事だよ」
この言葉を聞いて2人は、安心したのか笑を零していた。
俺は、2人を男性の所まで案内することにした。
2人話しを聞くと、馬車で移動中に魔物化したイノシシの群に急に襲われ、女の子2人は魔法が使えるので、魔法が使えない御者(助けを求めた男性)を逃がすために戦っていたらしい……
「君達も、王都を目指していたの?」
俺が聞くと赤髪の女の子が少し照れながら言う
「私達は王都の総合技能学園の入学試験に向かう途中だったの」
「俺も総合技能学園の入学試験に向けて王都に向かってたんだよ」
「あなたもですか?
もう既に冒険者なんだと……」
2人は俺のことを冒険者で助けてくれたんだと思ってたらしい。
冒険者じゃないとしると目を開いて驚いていた。
「あなたは辞めてくれ、俺はアレックス。気軽に呼び捨てでいいよ。」
「アレックス……わかりました。私はシャロルといいます。」
「私は、エミリ。 よろしくねアレックス!」
「シャロルにエミリだね。2人ともよしく」
俺達が自己紹介をしていると、男が気絶した俺の休憩地点までついたようだ。
シャロルとエミリは横になっているガーラに気づくと、2人は走ってガーラに近づき声をかける。
「「ガーラさん!」」
「ガーラさん大丈夫ですか?」
シャロルがガーラを、だき抱えるようにして声をかけると、ガーラは、意識を取り出し2人姿を見て目を大きくした。
「2人とも無事でしたか……」
そう言ってガーラは涙ぐんでいた。
ある程度、3人で再会を嬉しがって話していると、落ち着きを取り戻したガーラが俺に気づく。
「俺のお願いを聞いて、助けに行って下さりありがとうございました。」
そう言ってガーラは頭を下げる。
「いえいえ、困った人をほっとけないですから」
俺がそう言うと、また『ありがとう』と言ってガーラは頭を下げる。
少し、恥ずかしながらもやはり人助けはやはり心地よかった。
俺は、神界では得られない経験を沢山して『神界から、この世界におりてきてよかったー!』と心の中で叫んでいた。
4人で少し話をしていると、辺りが暗くなったので、今日はここで休憩する事にした。