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Children in the darkness

        *


 六〇〇年前。アルシンハ国王は、完全に悪魔に取り憑かれた。

 そして、その悪意ある絶大の力を有して、王国を完全に制圧していた。地獄の独裁が始まろうとしている。

 このままでは、スーヴァリーガルは滅びてしまうだろう。

 そうなる前に、何か手を打たなければならない。

 そして、それが出来るのは……。

「パル、どうする?」

 と、トゥトゥリスがパルに向かって告げる。

 今、二人がいるのは、王国の外に広がる樹海の中である。王国内は負のオーラが蔓延していて危険であると察したのだ。同時に、タレやマルもその場から消えてしまっていた。彼女たちの目的は、今や完全にパルの殺害にある。

 どこから攻撃してくるのか分からない。

 護衛士として、パルのことをしっかりと守るのが、自身の最大の責務であると感じ始めていた。そして、心の中では、セパの『生きて戻ってこい』という言葉が、何度も反芻された。

「どうするって言っても……」

 と、パルは困惑の表情を浮かべる。

 悪魔に完全に取り憑かれたアルシンハを止めることは、容易なことではない。何か確固たる策略を考えない限り、それは難しいように思えた。

「助言を聞きに行こう」

 と、トゥトゥリスは言う。

 助言というのは、一体誰に聞くのであろうか?

 この時代に知っている人間などいないはず。と、パルは最初そう考えたが、直ぐに自身の考えを否定した。

(いいや、一人いる。僕らが知っている人間が)

「セパの許へ行くんだね」

 と、パルが答えると、トゥトゥリスは冷静に頷き、

「そう。セパの許へ行く」

 と、答えた。

「でも、どこにいるのか分かるの?」

「セパは一〇〇〇年生きる不老者だ。となれば、この時代も同じ場所にいるはず。つまり、ルシルフ村にいるってことだ」

「ルシルフ村、この時代にもあるんだろうか?」

「多分ない。でも、魔法のある村がきっとある。そこに行こう」

 と、トゥトゥリスは言うと、樹海の中を北北西に向かって歩きはじめた。現代のルシルフ村は、スーヴァリーガル王国の城門を中心としてみた時、そこから北北西に一〇キロほど進んだ先にある。

 セパが魔術の制約により、動くことが出来ないのであれば、同じ場所にセパはいるはずなのである。それは半ば必然的なことであると思えた。

 しばし進んで行くと、不意に、トゥトゥリスが歩みを止めた。

「誰か、いるな」

 と、前方に聳え立つ大きなモミの木を見つめながら、トゥトゥリスは言った。

「誰が?」

 と、パルは答える。

「魔法人形だ。この近くで誰かが操作している」

「マルかな?」

「否、マルの魔法は操作系の魔力ではない、自分の体を使う、近接戦闘型の魔法だよ。操作は彼女が最も苦手としてる魔法だから、少なくとも、この魔法を放っているのは、マルではない」

「じゃあ……」

 誰なのか?

 皆目見当がつかなかった。

 敵か味方か、それさえ分からないのである。

「パル、後ろに下がっていろ」

 と、トゥトゥリスは告げると、自分の魔力を高める。

 すると、トゥトゥリスの後方から、千手甲冑戦士が現れる。本日二回の顕現。魔力が底を尽きない限り、何度でも甲冑戦士を呼び出すことが出来るが、一度呼び出すとそれだけで大きく魔力を消費することなる。

 故にパルを守ることが責務であるならば、無駄に甲冑戦士を呼び出すことを避けなければならない。

 甲冑戦士が顕現されると、モミの木のそばから、ふと、数名の魔法人形が現れた。泥で出来たような、お世辞にも高度な魔力で生み出された魔法人形ではない。

 となると、見た目で判断するわけではないが、あまり強力な魔術師ではないのかもしれない。

「さて、やるかな……」

 と、言い、トゥトゥリスは素早く呪文を詠唱する。

 すると、千手甲冑戦士の腕が伸び、一人の泥人形を拘束する。そして、忽ち捻り潰す。しかし、潰した瞬間、泥人形が爆発したのである。

(見境もなく、見知らぬ人形を攻撃するとは、あまり優秀な魔術師ではないな)

 と言う声が聞こえてくる。

 その声には聞き覚えがある。

 そう、セパの声である。幾分か、若々しさを感じさせるが、恐らくこの声の主は、セパで間違いないだろう。

「セパか?」

 と、トゥトゥリスが腕を一本跳ね飛ばされた千手甲冑戦士を前に、そのように告げる。

(如何にも、童はセパル・クレイヴ。お主らを試験しよう)

「試験だと」

(童の泥人形を上手く打ち倒し見るがいい)

「そんなの簡単だぜ」

 と、トゥトゥリスは言い、次から次へと生まれてくる泥人形を攻撃していく。しかし、その報いとして、泥人形は自爆し、千手甲冑戦士の掌を破壊していく。そして、一旦破壊された腕は不思議なことに元に戻らなかった。

「何かあるな」

 と、トゥトゥリスは一人ごちる。

 一見すると、トゥトゥリスが圧倒的に、この場を支配しているようにも見えるが、事実は違う。そのことをパルは見抜いた。

 このままではまずい。

 そんな風に感じたのである。

 恐らくトゥトゥリス事態もそのように考えているだろう。しかし、上手い打開策を考えることが出来ずに、ただただ、後先を考えずに、攻撃をし続けた。

 一〇分後――。

 絶えず攻撃を仕掛けていたトゥトゥリスの千手甲冑戦士の腕は半分ほどまで減っていた。これで使える魔法はほとんど半減したと言っていいだろう。トゥトゥリスの千式魔術の多くは、千本ある腕が健在である時に発動することが出来る類のものである

 つまり腕が半分以上奪い取られた場合、ほとんどの技を行うことが出来ない。少しずつではあるけれど、劣勢状態を迎え始めた。

 そのような劣勢状態を迎え始めたトゥトゥリスのことを、ただ黙って見つめることしかできない自分が嫌になった。

 何とか役に立ちたい。

 でも、何をすれば良いのだろうか?

 セパは、屋敷から動くことが出来ない。まだ、王国を離れてからそれほど歩いていないから、セパがいる位置は、今自分たちがいる位置から、かなり離れていることなる。少ない経験であるが、パルは魔法が術者の手元を離れると、離れた分だけ能力が半減することを知っていた。

 事実、パルが暮らしていたスーヴァリーガルの明かりは、主にブレイルが発生させた光の魔法であるが、広い王国全体をブレイル一人で覆うことは難しいのである。それ故に、魔力を込めた電球を置くことで、ブレイルが持つ魔力を上手く中継して、王国全体を光で覆ったのである。

 それと同じことが、今のこの状況にも言える。

 つまり、どこかで魔力の中継器の役割をしている、何かが隠されているのである。それはどこにあるのか?

 そう思った時だった。

 ふと、パルの額に王族の証である奇翔紋が浮かび上がり、煌々と光を放ちはじめた。

(な、何だこれ)

 と、パルは慌てふためく。

 そもそも、今まで生きてきて、奇翔紋が光り輝いた時は、指で数えるほどしかないのである。王国の定期的な儀式や、様々な役職の即位式など、奇翔紋が光るのは限られている。しかし、今になってどうして奇翔紋が輝くのか?

 パルの変化に戦闘中のトゥトゥリスはまったく気づかない。自分のことで精一杯なのだろう。回りを見る余裕がなくなっている。それくらい、戦闘は追い詰められていたのである。

 奇翔紋が光り輝いたパルは、その紋章の光線を辿ることに決めた。

 一点の光線が、とある物体に向かって注がれている。

 それは何か?

 石碑であった。

 それもごく最近作られたようなもので、全体的に綺麗であった。人工的に作られた異物。同時に、この樹海にはそぐわない代物であると思えた。

 奇翔紋は、石碑に近づくほど強くなった。同時に、額を熱く刺激している。今、多大なる戦闘中だということを、忘れさせるほど、奇翔紋は熱いのだ。

(何かある)

 と、パルは思考する。

 もう間違いない。この石碑に何か秘密があるのだ。

 果たしてどうするべきなのか? 迷い迷ったパル。もしかすると、セパの策略かも知れない。泥人形に触れた瞬間爆発するように、この石碑にも何か秘密があるということは容易に察することが出来る。

 仮に爆発すれば、魔力を持たない自分は、致命的なダメージを負うことになるだろう。そうなれば、父であるシシ国王を救うことは出来なくなる。志半ばで、野望は絶たれることになるのだから。

 しかし、今は迷っている時間はない。

 ふと、パルは視線を戦闘に向けた。

 依然として、トゥトゥリスは苦戦の一途を辿っている。既に千手甲冑戦士の腕は三〇〇本を切った。まだ、大量の腕があると思われがちだが、三分の一以上が失われたのである。千手甲冑戦士の全体的な体積が小さくなっている。これはもう間違いない。

 もう、時間がない。

 パルは意を決し、奇翔紋が照らし出す石碑に触れた。

 冷たい、石の感触を感じると同時に、しゅっと、僅かに電流のようなものが、手のひらに走った。とはいっても、痛みなどほとんどない。微弱な刺激である。その後、何かが切れたかのような感覚を感じることができた。

 どうやら、爆発はしないようである。

 そのことに安堵したパルであったが、どうやら石碑は一つではないようだ。再び奇翔紋が別の方角を照らしはじめた。泥人形に見つからぬよう、そそくさと行動を始めるパル。勇気を持って樹海を横断し、そしてまた、石碑を見つけた。

 もう一度石碑に触れる。

 すると、やはり同じような現象が起きる。

 微弱な電流が走り。そして糸が切れたような感覚が体内に広がる。その後、再び奇翔紋が光り輝き、別の方角を照らす。その繰り返しが五回続いた。つまり、石碑は五つあったのである。

 この時のパルには気づく由もなかったが、石碑は五芒星を模り、設置されていたのだ。五芒星の形は、魔術発生の大きな根幹を示す大切な形である。よって、多くの魔術師が、魔法を使う際に、五芒星の魔法陣を描くことがある。

 五つの石碑に触れると、今まで光り輝いていた、奇翔紋の光が途絶えた。まるで役目を終えたかのように。どこかこう、緊張感から解き放たれた感覚が、パルの体に広がっている。

 重要な役目を終えた。

 何となくではあるけれど、パルにはそんな風に感じられた。少なくとも、泥人形に降りかかる不思議な魔術が、これで解放されるように思える。もちろん、根拠などない。あるのは、自分に湧き上がる絶対的な自信だけである。

 さて、戦闘に目を向けてみよう。

 千手甲冑戦士の腕は一〇〇本を切り、戦士の腕はスカスカになくなっていた。もう見た目の神々しい心証がまるでなくなっている。やせこけたサルのように、見た目は急速にしぼみ弱々しくなっているではないか。

 しかし、次の瞬間、奇跡じみたことが訪れた。

 それは泥人形に攻撃しても爆発しないということである。

(何が起きた?)

 それまで力の差は歴然としているのに、まるで歯が立たないという、奇妙な戦闘を行っていたトゥトゥリスが考えを巡らせた。

 ようやくではあるけれど、少しだけ事態を冷静に見ることが出来始めていた。以前のトゥトゥリスならば、怒りで我を忘れて、後先関係なく呪文を詠唱したかもしれないが、パルを守るという責務が発生した関係上、彼はギリギリのところで、焦りや恐怖から来る怒りや興奮を抑えることに成功していた。

 そして、視線をパルに向けようとした。

 しかし、後方にいたはずのパルがいつの間にかいなくなっていることに気が付いた。

 何たる不覚。

 泥人形にやられてしまったのだろうか? 最悪な考えが頭の中を過る。

 それでも今は迫りくる泥人形を始末するしかない。早急に始末して、早くパルを探さなければならない。

 そう思った時であった。

 ふと、右方向にある石碑の場所にパルがいることが分かった。

 ホッと胸をなで下ろすトゥトゥリス。どうやらパルは無事のようである。しかし、なぜ、あんな場所に行ったのだろうか? そして、パルの後方にある石碑は一体何の意味を持つのか? トゥトゥリスの脳内は、どんどんと困惑していく。

「パル、大丈夫か?」

 と、叫ぶトゥトゥリス。

 それを受け、パルはゆっくりと頷いた。

 パルの許へ、数体の泥人形が迫る。素早くトゥトゥリスは千手甲冑戦士の、残り少ない腕を伸ばし、そして攻撃を仕掛ける。

 千手甲冑戦士の掌が、泥人形を覆い、そして掘削するように捻りつぶす。やはり、爆発はしない。勝機が見えた瞬間であった。

 劣勢状態が好転し、一気に優勢へと変わる。トゥトゥリスの戦闘力も回復し、そして、縦横無尽に千手甲冑戦士を操る。

 その後は、完全に無双状態であった。千手甲冑戦士の攻撃の嵐が、泥人形を覆い、そして、物の五分程度で、残された泥人形を駆逐することに成功したのである。すべてが終わると、トゥトゥリスはパルの許まで行き、

「心配したぜ。ホントに大丈夫か?」

 と、尋ねてきた。

 パルは「大丈夫だ」と、答え、そして額に浮かび上がる奇翔紋を指さし、「これが光ったんだ」

「奇翔紋、王族の証か。何か秘密でもあるのか?」

「詳しいことは分からない。だけど、奇翔紋が光り輝いた先には、石碑があったんだ」

 ふと、トゥトゥリスは石碑に手を触れる。

 僅かではあるが、微弱な魔力を感じることが出来る。

「魔法がかかっている」

 と、トゥトゥリスは確認するようにそう言った。

「魔法?」

 と、パルが鸚鵡返しに繰り返すと、

「その通りじゃよ」

 と、言う声が頭上から聞こえてきた。

 その声はまず間違いなくセパの声である。泥人形を操作していたセパがどこからか、この状況を見ているのであろう。それは間違いないように思えた。ただ、どこから声が聞こえてくるのかは分からない。

「セパ、どこにいる?」

 と、パルが言うと、唐突に事情に、七色の鳥が現れた。スーヴァリーガルの国鳥『鎮江鳥』。七色の翼を持ち、見ると縁起が良いされる鳥である。但しこんな樹海の中に生息しているなど聞いたことがない。

 鎮江鳥は、息をするもの難しい、超高山に生息しているのだから。こんな樹海の麓に生息しているはずがないのだ。

「使い魔だな」

 と、トゥトゥリスが言った。

 使い魔というのは、魔術師が従える魔力を宿した生命体である。基本的に、魔術師の命令に完全忠実であり、人によって従える使い魔は多岐に渡る。

 魔獣を使い魔にする場合もあるし、普遍的な猫や犬などを使い魔にするケースもある。この状況のように、鎮江鳥を使い魔にすることだってあるだろう。

「ついて来なさい」

 と、鎮江鳥は七色の翼を羽ばたかせながら、ついて来るように催促した。

 パルもトゥトゥリスも鎮江鳥の後を追う。

 樹海を抜け、二〇分ほど早歩きで歩くと、前方に集落のようなものが見えた。農村と言った方が正しいかもしれない。

「ここは恐らく」歩きながら、トゥトゥリスが言う。「ルシルフ村だな」

「大分外観は違うけど」

 と、パルは答える。

 パルの言った通り、そこはパルやトゥトゥリスが知っているルシルフ村ではなかった。もっと、原始的な集落に過ぎない。農作業をしている人間たちが、突如現れたパルやトゥトゥリスを見て、驚きの目を向けていた。彼らの視線は、パルやトゥトゥリスに注がれている以外にも、使い魔である鎮江鳥にも注がれていた。

 鎮江鳥はやがて、とある屋敷の前で止まる。

 集落の中で一番大きな藁葺屋根の屋敷である。これは今のセパの住まいなのだろうか?

「入りなさい」

 と、セパの声が聞こえる。それと同時に、今まで道案内をしていた鎮江鳥の姿がフッと消えた。

「行こう、パル」

 と、トゥトゥリスが告げ、パルは頷く。

 二人は屋敷の中に入った。

 屋敷の中は薄暗かったが、炎の魔術『ファルス』が煌々と辺りを照らし出していた。パルやトゥトゥリスの視線の先には、一人の幼女が座っている。果たして、幼女という表現が厳密に正しいかは分からないが、その幼女は、セパに他ならなかった。

「ギリギリ合格」

 と、重鎮な声を上げるセパ。

 一体、何が合格なのだろうか?

 気になったパルは次のように答えた。

「何が合格なんですか?」

 すると、セパはにんまりと笑みを浮かべ、

「童の行った試験じゃよ」

 と、呟いた。

 試験というのは、あの泥人形との戦闘のことだろう。考えられるのは、それしかない。

「しかし……」と、セパは続ける。「途中までは無茶な戦いじゃったな。それは反省してもらおう。通常の戦闘であれば、もう勝負はついていた。君たちは死んでいたよ」

 あっさりと言うセパ。

 それ聞いたトゥトゥリスは、むっと来たのか、眉間にしわを寄せながら、

「でも俺は勝ったぜ。それに泥人形の力は弱かった」

「途中まで、追い詰められていたはずじゃ」と、セパ。

「そ、それはそうかもしれないが、もっと強力な技を繰り出せば、もっと早く勝負はついたはずだ」

「本当に、そう思っているのか?」

 ……。

 沈黙が辺りを支配した。

 パルだけでなく、トゥトゥリス自体、仮に絶対的な攻撃魔法『リリトスの目覚め』を使っていても、果たして勝負がついたか分からなかった。すべての魔法力を使う関係上、失敗すれば、戦闘の敗北は必至である。

「沈黙か……」と、セパは言う。「まぁ、それが正しい答えだろうね。良いかね、あの空間は童に有利なように形成されていたんじゃよ。それは分かるね?」

「五芒星に模られたあの石碑ですね?」

 今度はパルが言った。

 やはり、あの五芒星に何か秘密があるようだ。

「その通り」と、セパは続ける。「五芒星の石碑に丁寧に魔術を組み込むことで、お主らとの絶対的な魔法力の差を埋めたんじゃよ。つまり、あの空間では、どんなことがあっても、お主らは童に勝つことが出来ない。しかし、途中まで、お主は見た目の印象に騙されておった」

「誓約の魔術か。確かに、セパが得意とする魔法の一つだよ」

 と、トゥトゥリスが告げる。それと同時に「でも、どうして、俺たちを試験なんてしようと思ったんだよ」

「悪魔憑きの件だろう?」

 と、予言をするかのように、セパは言った。

 確かに、この時代にやって来たのは、六〇〇年後の王、シシ国王を救うためである。そのことを、この時代のセパは知っているのだろうか? 否、知らぬはずだ、過去の人間に連絡する手段など、ないのだから、

「それを知っているんですね?」

 と、パルは神妙に言った。

 どうやって知ったのか? それだけを激しく知りたくなった。

「有無」と、セパ。「予言だよ」

「予言ですか?」

「その通り、王は悪魔に取り憑かれる。しかし、その時勇者がやってくる。古の予言書を見る限り、そのように書かれておるんじゃよ」

「予言書ですか……」

「君たちは、悪魔憑きに関してどこまで知っておる?」

 その言葉を受け、パルは説明を始める。 

 自分が知っていることは、スーヴァリーガル王国の国王は六十六年毎に悪魔に取り憑かれる。そしてそれを解決することで、王国は強く、そして大きく繁栄する。本当にそれは正しいのであろうか? 

 アルシンハを救ったのは、そもそも誰なのか?

 例の予言書に書かれた勇者、というのは果たして誰か? この時代の人間ではないのか? すべてが暗黒に包まれたかのように、謎を大きく深くしている。

 それだけ、問題は大きいのである。

 第一、この時代に勇者が居たとして、六〇〇年後の世界にいるとは限らない。時代を横断することが出来るのなら、既にこの時代から、六〇〇年後の世界にやって来ていなければならない。

 それがないとなると、この時代には勇者はいないという可能性が大きい。

「勇者って誰なんですか?」

 と、パルはこの問題の根幹を尋ねる。

 対するセパは腕を組み、何やら考え込みながら、

「奇翔紋が光っただろう?」

 と、パルに向かって言った。

 そこで、パルは戦闘中の奇翔紋の輝きを思い出す。

 あの石碑に向かって注がれた、奇翔紋の光。あれは幻や夢ではなく、確かに現実で起きたことである。

「光りました」と、パルは答える。「あれは一体なんですか?」

「スーヴァリーガルには勇者が現れるという。そもそも奇翔紋という紋章がなんであるか? 君には分かるかね」

「王族の印の紋章です」

「そう。王族の印だ。しかし、君はこの時代の王族ではない。どこか別の時代からやって来た王族なんだろう。恐らく理由は分かる。君のいた時代の国王も、悪魔憑きにより、王国を闇のどん底に陥れているのだろう」

「その通りです。僕らは六〇〇年後の世界から来ました。そして、この時代の王は、悪魔憑きによって悪魔になった王の中で、唯一、悪魔から解放された王なんです」

「ほぅ」

 と、セパは興味深そうに頷いて見せた。

 現存した王の中で唯一、悪魔から解放された王。そのアルシンハという王のどこかに、何か秘密があるのであるが、パルやトゥトゥリスにはそれが分からなかった。六〇〇年後の世界に勇者はいない。

 しかし、この時代にはいる。否、その可能性がある。

「勇者はね」と、セパは続ける。「君なんじゃよ」

 その言葉を聞き、パルもセパも固まる。

 パルが勇者? それは本当に正しいことなのだろうか?

 パル自身、今まで自分が勇者であるなんて、微塵も考えたことがなかった。ただ、王国から逃げ出したという感情があるだけで、それ以外、王国には携わりたくなかったのだから。それなのに、深く王国の内部に根付いている。

 その因果が不思議でならなかった。

 同時に、自分の真の役目を自覚した瞬間でもある。

 勇者。まさにおとぎ話の中に登場する、架空の存在であると、今までは感じていた。それに、今この瞬間も自分が信じられない。

 仮に自分が勇者であるならば、どうしてわざわざこの時代にまでやって来たのかが不明だ。アルシンハを救ったがパルならば、きっと、六〇〇年後の世界でシシ国王を救うのもきっとパルになるだろう。

 とはいっても、中々すぐには信じられる話ではないが……。

「僕が勇者なわけないですよ」

 と、パルは素直に言った。

 そう、到底信じられる話ではない。

 それでもセパは辛抱強く、視線をパルに向けながら、

「君には大きな魔力が宿っている」

「魔力?」と、パルは繰り返す。「そんなはずは……。僕は魔法を使えないんですから?」

「うむ、君は魔法を使うというよりも、魔法を解除する力に長けている」

「魔法を解除する力ですか?」

「そうだ。魔法にはそれを生み出す人間と、それを消す人間の二つに分かれる。君は魔法を使えないかもしれないが、魔法を消し去るということが出来るんじゃよ」

「そ、そんなことが」

 俄かには信じられない話であった。

 パル自身、魔法を使うことが出来ない。

 まだパルが小さい頃、学業の他に魔法の修行があったが、魔力の才能がないパルは魔法を使うことが出来ずに、修行は中断されたのである。

 この事実は、若いパルに対し、大きな衝撃を与えた。

 王族は基本的に魔法が使える。

 魔法を使えることが、王族の証であるとでも言うように。

 だから、魔法が使えない自分の才能が嫌でたまらなかった。何故、自分だけが魔法を使うことが出来ないのだろう。深く悩んだものである。あれから時は経ち、パルは完全に魔法を使えない王族として認知された。

 故に、パルは国民からの人気が少ない。否、皆無と言っても良いだろう。

 人気があるのは常に、姉のタレなのだから。

 このような背景があったからこそ、パルは王族になったことを毛嫌いし、自分の宿命から解放されたいと考えていたのである。

 とはいっても、運命というものは皮肉なもので、パルに魔力を与えない代わりに、魔力を打ち消す力を与えた。同時に、この力は何故芽生えたのであろうか? 六〇〇年前の世界にやって来たからなのか?

 パルに魔法を打つ消す力があるのならば、わざわざこの時代にやってくる必要がない。それなのに、まるで神が示し合わせたかと言うように、導かれるようにして、パルはこの時代にやって来た。

 そして、勇者として祭り上げられ、悪魔憑きを解決するための、重要な鍵として、責務を担うことになるのだ。それは不思議な縁であると感じられた。

「パルが、悪魔憑きを解放するのか?」

 と、困惑するパルを尻目に、トゥトゥリスがそのように尋ねた。

「パルと言うんだね」と、セパ。「パルには高い魔法を打ち消す力が宿っている。上手くいけば、アルシンハ国王を、悪魔から解放することが出来るだろう」

「でも、問題があるんだよ」

「問題とは何かね?」

「この時代には、もう二人、異物がいるんだ。俺たちと同じように、六〇〇年後の世界からやって来た人間だ。そして、その人間たちは、俺たちがアルシンハを悪魔から解放することを、全力で阻止しようと考えている」

 そこで、トゥトゥリスはセパに向かって、国王を巡っての争いが、六〇〇年後の世界でも発生している事実を告げた。

「ならば」と、セパは言う。「戦闘は避けられないだろう」

「戦闘って戦うのか?」

「そう。君には大いに戦ってもらわなければならん」

 と、セパはにっこりと微笑みながら言った。

 しかし、次の瞬間、直ぐに表情を崩し、

「とは言っても、今のままでは、例の二人に打ち勝つことは難しいだろう」

 と、告げる。

 短気なトゥトゥリスは、自分が劣っていると言われたと思ったのだろう。声を大にして、

「俺は負けない」

 と、宣誓する。

「気合だけでは戦闘には勝てぬのじゃよ。今日の君の戦い方は、お世辞にも優秀なものではなかった。高い能力を持っているのに、もったいないことだ」

「なら、大丈夫なはずだ。俺はパルの護衛として、この時代にやって来たんだ。どんな人間が相手だとしても、負けるつもりはない」

「その気持ちは分かる。だが今の状況は、頗る君たちにとって不利なのじゃよ」

「不利……だど」

「あぁ。敵は君たちにアルシンハを解放させまいと、策略を練ってくるだろう。敵にとって、既に悪魔によって取り憑かれたアルシンハを、そのままの状態にしておくことは簡単だ。悪魔憑きを解放するよりも、それを維持することの方が楽だからだ」

「それが、戦闘とどう関係があるんだ?」

「悪魔の力を利用できる。敵は君たちを滅ぼすために、恐らくアルシンハの悪の力を利用するだろう」

 それは恐ろしい告白であった。

 タレが悪魔と取引し、そしてパルの前に立ちはだかる。その事実はパルにとって大きな衝撃を与えることになった。

 なんとしても、タレの暴走を止めなければならない。

 きっと、タレ自身ここまで事態が大きくなっていることを知らぬのであろう。つまり、知らぬ間に、足は火に焼かれることになるのだ。悪魔憑きによって、悪魔になったアルシンハ。要危険人物である。

「悪魔の力なんて利用出来るんですか?」

 と、パルが質問をする。

 セパはゆっくりと頷くと、

「利用は可能だ。恐らく六日後、敵は動くだろう」

 と、告げた。

「どうして六日後なんですか?」

「悪魔に取り憑かれた人間は、取り憑かれてから六日後に大きく力を引き上げるんじゃよ。恐らく、敵はその事実を知っているじゃろう。よって動くとしたら六日後と言う線が濃厚じゃよ」

 六日後。

 六日というのは、長いようで短い。

 その間に、悪魔憑きを祓うための策略を考えなければならない。如何に、パルが魔法を無効化する能力に目覚めたとしても、彼は戦闘未経験者なのである。恐らく、実戦ではなんの役にも立たないだろう。

 今回のセパとの戦闘のように、一人自由に動けるという状況が約束されているとは思えない。よって、緻密な作戦を立てる必要があるのだろう。六日間の間に。

「トゥトゥリス。姉さんやマルが戦闘を仕掛けてきたら、勝てる見込みはあるの?」

 と、重苦しい空気の中、パルは尋ねた。

 その質問は、些かトゥトゥリスの自尊心を傷つけたようだ。

「信用してないのか?」

 と、トゥトゥリスは言った。

「そういうわけじゃない。だけど、敗れた時、僕は身の振り方を考えなければならない。君がやられれば、僕は死ぬ。姉さんは僕を殺すつもりだし、王になるためなら、きっと手段を択ばないだろう」

「俺は負けないよ」

「うん、君が負ければ、僕らがいる時代のスーヴァリーガルは崩壊することになる。悪魔に取り憑かれた王が、国を支配するのだから……」

「悪魔に取り憑かれた王が、国を支配した例はあるのか?」

 パルは黙り込む。

 しかし、歴代の王の中で十五人の王が悪魔に取り憑かれている。そのうちの十四人は、前述の通り処刑されているのだ。あまり詳しくはないが、処刑された王の中で、知っているのは、六十六年前の王、サドウェルであった。

 サドウェルは、酷く独裁的な政治を取り、国民だけでなく、王族や貴族たちをも苦しめていたようだ。それ故に、処刑された。悪魔と共に。

 その結果、スーヴァリーガル王国は元の状態を取り戻し、以前よりも増して、安寧な月日が流れたのだという。少なくとも、小さな戦闘は起きているが、大規模な戦争は発生していない。平和な時代を、パルは生きていたのだ。

 とはいうものの、それはパルの中だけの話であって、水面下では、悪魔を巡る抗争が巻き起こっていたのである。それをギリギリまでパルは知らなかった。王国のことを何一つ知らないくせに、王にはなりたくないなどと、甘いことを言っていたのだ。

 何も知らずに、王なるよりは、責任をもって事実を知り、その結果、王になるなり、逃避するなりを選びたい。今のパルはそんな風に考えていた。

 それよりも、タレはどこまで事実を見抜いているのだろうか?

 ぬるま湯の中で、真相を隠されたまま生活していたパル。

 けれど、タレはある程度事情を把握していたようである。一体どこで、この悪魔や魔法、そして戦争の事実を知ったのであろうか? そればかりが大きな謎として、しこりのようにパルの心の中に残った。

「悪魔に支配された王は、皆、例によって例のごとく、独裁的になる。そして、結果的に処刑されるんじゃよ。王国の繁栄のためにね」

 と、セパは告げる。

 遠い昔を思い返すように、哀愁じみた声が室内に広がっていく。 

「誰が処刑するんだ? 悪魔の力は巨大だろ。ってことは、その巨大な力を抑えるために、強い力が必要になる。その役目を誰が担うか? ということだろう」

 と、トゥトゥリスが当然も疑問を吐く。

「それは簡単じゃよ」と、セパ。「悪魔を祓う役目。それは不老者が行っていたんじゃよ」

「不老者……。それはつまり」

「そう、童のことじゃ。先の戦闘を覚えているじゃろう。童が敷いた魔力の結界の中で、戦闘は行われた。その結果、君たちは、酷く苦戦することになった」

「あぁ、そうだな」

「それと同じことを、王国でも行う。悪魔を封じ込めるために、緻密な魔法結界を張り、そして悪魔を封じ込めるんじゃよ」

 封じ込める。

 と、言う言葉を聞き、パルは一つの考えにたどり着く。

 それは、

「悪魔を封じ込めるのは、六十六年が限界なんじゃないんですか?」

 と、パルは言った。

 古来、『六』という数字には、神秘が秘められている。

『六六六』という悪魔の数字があるように、六には秘められた不思議な力があるのである。

「その通り」

 と、セパは真剣な眼差しを送りながら、そのように告げた。

 パルの言葉に、概ね満足をしているようにも感じられる。

「確かに」セパは続ける。「童は王国が誕生してから四〇〇年。王国の守護者として、この地を守っている。魔法がある限り、悪魔が消える去ることはない。うまく付き合っていくしかないのじゃよ。そして、悪魔は六の数字に取り憑かれたようにやってくる」

「それが今年なんですね……」

 と、パルは言う。

「そう。童の力は、六十六年しか悪魔を封じ込めることが出来ない。悪魔の魔力は六年を一つのサイクルとして廻っているのだが、童は十一サイクルしか、悪魔を封じ込めることが出来ぬのじゃよ」

「何故、十一サイクルなんですか?」

「それが童の持つ力の限界じゃからだよ。そう言うしかないじゃろうね。さて、話を次に移そう。六日後、敵は確実にお主らを襲撃してくる。その時に備え、準備を整えるんじゃよ」

「準備? それってつまり、魔法の結界を作るってことですか?」

「悪魔を封じ込めるための結界は童が張る。君たちにしてもらいたいことは、童が悪魔を封じ込めるための呪文を使っているとき、攻撃してくる輩を止めてもらいたいということじゃ。少なくとも、君たちの話を聞く限り、そのような攻撃をして来る人間が二人いる」

 そう、二人いるのだ。

 それはタレとマルの二人。

 彼女たちが、確実の邪魔をしてくることは、最早、避けようのない事実である。彼女たちを食い止めることが、パルやトゥトゥリスに課せられた使命なのである。そして、失敗は許されない。失敗はそのまま、自分たちの死に繋がるのだから。

 ただ、六日後に悪魔の力が最大まで高まるのなら、その前に悪魔を封じ込める作戦は取らないのだろうか? 何もわざわざ、危険を冒してまで、六日後に合わせる必要はどこにもないように思えてくる。

 しかし、そこには確固たる理由がある。

「悪魔は顕現してから六日で最も力が高まる」

 と、セパは言う。「同時に、最も力が高まった時ほど、力を封じ込めやすいんじゃ」

「どうしてですか?」

 と、パルは尋ねる。不可解であると感じたからだ。

「理由は簡単だ。力が強いほど、童が敷く魔法結界は効果を発揮するからじゃ。不用意に能力が低い時を選んでしまうと、結界が上手く作用せずに、封じ込めるのに失敗する場合がある。事実、これまでの悪魔を祓う例は、すべて失敗している。故に、国王はすべて処刑され、最終的に、童が死んだ国王の身体を利用し、悪魔を封じ込めている」

「国王が死ぬと、やはり、魔力は弱まるのですか?」

「弱まる。故に、国王を犠牲にすれば、悪魔を祓うことは容易になる。しかし、国王も救い、そして国を繁栄させるなら、悪魔の力が最も高い、六日後に備えて結界を張った方がうまくいくのじゃよ。今度こそ、成功させなければならない。アルシンハ国王のためにも……」

 と、セパは覚悟を決めて、そう告げる。

 セパは高い能力者ではないのかもしれない。

 パルの暮らしている時代、つまり、アルシンハ国王の在位から六〇〇年後の世界では、悪魔に取り憑かれた国王は、アルシンハ国王以外、皆処刑されている。ということは、セパはたった一人の王しか救えていないことになるのだ。

 それではあまりに成功率が低すぎるように思えたし、何故、アルシンハ国王を救えたのに、後の王たちのことを救えなかったのだろうか? それが不可解でならなかった。

「失敗なんて嘘だろ」

 と、徐に、トゥトゥリスが言った。

 その言葉を聞き、セパは視線をトゥトゥリスに向け、そして、訝しい目線を送る。少なくとも、トゥトゥリスは今までの話を聞き、何かを察したようである。

「嘘とは、どういうことじゃね?」

 と、セパは淡々と尋ねる。

「あんたとは出会ったばかりだが、未来のセパのことを、俺はよく知っている。セパは凡庸な魔術師ではない。高度な知性と技術、そして力を持った優秀な魔術師だ。そんな優秀な魔術師であるセパが、何度も悪魔祓いを失敗するはずがない。そこには理由が隠されている」

「なるほど……。トゥトゥリスと言ったね。君は中々鋭い」

「訳を教えてくれるかい?」

「その理由はいずれ説明する時がくるじゃろう」


          *


「何故、攻撃しなかったの?」

 と、タレは言った。

 タレの目の目には、一人の護衛士、マルの姿がある。

 彼女ら二人は、王国の外に広がる、樹海の中にいた。そして、タレは先ほどのことに不満を感じていた。

 不満。それは、マルがパルを攻撃しなかったことである。

 チャンスは無数にあった。パルを殺すことが、最終的なタレの目的であるのに、それをマルは自覚していないようである。そこにとらえようのない、不満を感じていたのである。

「慌てないで」

 と、マルは冷静沈着に告げる。そして、木々から葉を一枚もぎ取り、それを丁寧にもてあそぶ。「殺すべき時は今ではないわ」

「どうして?」

「悪魔祓いをする場合、悪魔の力が最も高鳴る六日目に、作戦を実行する場合が多いのよ。つまり、今から六日後、もう一度二人はやってくる」

「悪魔祓いは関係ないわ。私は今すぐパルを殺してほしいの? そうすれば、私は未来で王になれるんだから」

 すると、マルは憐れむような目線を、タレに向かって注いだ。

 当然、その刺すような視線にタレも気づく。一触即発ではないが、ピリピリとした空気が流れる。

「パルはあなたの弟でしょう。そこまで憎いの?」

 と、タレは言う。

「憎いとか、そういう問題じゃないの。だって、パルがいる限り、私はどんなことがあっても王になることが出来ないんだから」

「王になって、何がしたいの?」

 王になってしたいこと。

 そんなことは特になかった。

 タレにとって、王とは生きる目的であり、すべてであった。だから、王になった後、何がしたいかなど、何もないのだ。確かに、王になれば、権力は手に入る。スーヴァリーガルを手中に収め、自分のやりたいように王国を築いていくのだ。

 それが、タレにとっての王だった。

 同時に、タレは気づかなかったが、それは別名独裁という政治であるのだ。

 独裁は、確かに自分の好きなように、国を動かせるが、敵も多く作ることになる。多くの王たちが、独裁をした結果、処刑という末路を辿っている。それは変えようのない事実なのである。

 タレが黙り込むと、それを見ていたマルが呟くように言った。

「私は、戦争をやめてほしい」

「戦争を」

 と、タレは繰り返す。

「そう。今、スーヴァリーガル王国では『魔の巣』と『ルシルフ村』が抗争を続けている。私たちはそれに巻き込まれた。だから、そこから解放してほしい」

「私が王になれば、それも可能よ」

「魔の巣では、シシ国王を悪魔として顕現させ、そして神としようとする動きがあるわ」

「悪魔となれば、きっとお父様は処刑されるわ。だから、神になんかなれない。むしろ、神になるのは、むしろ私なのよ。決めたわ。私がスーヴァリーガルの神になる。王になればそれが可能だわ」

「神に……、あなたが?」

「そう。そのために協力してね。マル。期待しているんだから」

 マルは答えなかった。

 ただ、言えることは、このタレという少女は、危険な思想を持っているということだ。 

 シシ国王が悪魔に取り憑かれた理由には、隠された秘密がある。それは、石狂いを繋がってくる。石狂いの王が、精神を病んだのは、やはり、自分を神だと錯覚し、そして、神ではない現実を受け入れることが出来なかったからだ。

 その弱みに、六十六年周期の悪魔憑きが重なった。ただそれだけなのである。

 果たして、自分は本当にタレに協力するべきなのだろうか? それが分からなくなった。彼女が今日、パルを攻撃しなかったことの理由には、先ほど言った、悪魔憑きの力が六日後に、最も高まるということもあったのだが、それは詭弁に過ぎなかった。

 マルはパルという人間に出会い、王国の未来を感じた。パルならば、きっとスーヴァリーガルの内部に潜む抗争の種を、上手く摘み取ってくれると思ったのである。曖昧な心境のまま、マルは一人、樹海の空を見上げた。


          *


 一方、パルとトゥトゥリスの二人も、セパとの話を切り上げ、樹海の中にいた。

 但し、マルやタレがいる場所からは離れているため、邂逅することはないだろう。パルとトゥトゥリスは、二人、樹海の中で今後のことを考えていた。

 空は青く澄み切っている。まるで、悪魔なんていないように、すっきりとしている。こうしてみると、悪魔憑きの事件が、遠い異国で起きていることのように思えて、なんだか現実感がなくなる。

 そんな中、パルは疑問に思っていることを告げた。

「トゥトゥリス。一つ良いか?」

 トゥトゥリスは、空を見上げることを止め、パルの方を向いた。パルの顔には燦々と日光が降りしきり、白い肌をより、白くさせている。黒い髪と白い肌のコントラストが綺麗で、物語の中に出てくる、王様のようにも見える。

 もしかしたら、パルには本当に王としての素質があるのではないかと思えてくる。

「何が聞きたい?」

 と、トゥトゥリスは聞く。

「マルのことだよ」

「マル?」

「そう。彼女は、元は君と同じだったんじゃないのか?」

「俺と同じってどういうことだよ?」

「つまり『魔の巣』の人間ではなくて『ルシルフ村』の人間ってことさ」

「だったらなんなんだ?」

「同じ仲間なのに、どうして袂を分かつことになったのかなって思って」

「それはな……」

 口ごもるトゥトゥリス、何か理由があるのであろうか?「王国に裏切られたんだ」

「王国に?」

「そう。俺たちは兄妹なんだよ。そして俺たちの両親は、王国で魔術師をしていたんだ。だが、石狂いの王により、処刑を命じられた。シシの扱っていた石を、一つ魔法で破壊してしまったからだ」

「魔法で?」

「厳密に言うと、俺が壊してしまった。その責任を親父は取ったんだ。取るに足らない、ただの石一つなのに、シシは激怒した。その結果、親父は闇に葬られたんだよ。だから、マルはシシに多大な恨みを抱いている。シシが悪魔化すれば、強制的に処刑される。だから、マルは魔の巣に入ったんだ」

「そうなのか」

 そこまで考えると、パルは自分の父がどこまでも愚かなことをしていたのだと、まざまざと感じ始めた。そして、トゥトゥリスにとって、自分は憎き仇の息子なのであるということも理解してしまった。

 どんな気持ちで、トゥトゥリスは自分のことを護衛しているんだろう。

 殺したいほど憎さがあってもおかしくはないのに、トゥトゥリスは冷静にも物事を把握している。背後にどんな感情が潜んでいるのか、パルには理解できなかった。

 そんなパルの心境を、恐らく鋭敏な感覚でトゥトゥリスは読み取ったようである。深く頷くと、次のように言った。

「俺はお前を憾んではいないよ。その点は心配しなくても良い。ただ、俺はシシを止めたいんだ。幼い頃、俺の不注意で、シシの石を破壊してしまった。このようなことが今後もないわけじゃない。事実、シシの石狂いは、日を追うごとに強くなっている」

 それを聞き、パルは答える。

「確かに父上は狂っているよ。石のことで処刑されたのは、何も君のお父さんだけじゃない、他にもたくさんいるからね。だから、国民には石狂いと揶揄されている」

「だから犠牲者を出したくないのだ。そして、しっかりと自分の罪を認めさせる。そのためには、悪魔に取り憑かれて、処刑されてはダメなんだ」

「どうして、ルシルフ村へ?」

「母と共に、俺とマルはルシフル村に移住したんだ。そこには理由がある。それは、ルシルフ村が前世に村と呼ばれ、セパという著名な魔術師がいたからなんだよ」

「セパ……。君はセパの許で修業をしたんだね?」

「あぁ。俺とマルは共に修業をした。その目的は、親父を蘇らせるためだ」

「そんなことが可能なの?」

「セパは前世の記憶に接続することができる力がある。つまり、今俺たちがいるように、過去に行くことが出来るんだ。ここで悪魔祓いの謎の掴み、そして未来に反映することが出来れば、親父が死んだということを解除できるかもしれない。そう思ったのさ」

「父上の前世はアルシンハだった可能性がある。そのアルシンハを救えば、父上の石狂いが治り、お父さんが復活するかもしれないと考えたわけが」

「そういうことだ。だがそれは無理みたいだ」

「何故?」

「前世に行ったところで、それが未来には反映されないからだ。過去のことは過去のこと。つまり、ここで俺たちがアルシンハを救っても、親父は蘇らない。だけど、俺はこの時代に来たかった。そしてアルシンハを救うことで、親父の無念を晴らせるような気がしたからだ」

 そこまで言うと、トゥトゥリスは言葉を切った。

 如何に魔法が発展しようと、人間を蘇らせることは不可能とされている。しかし、

「でも、問題があるんだ」

 と、トゥトゥリスは再び言った。「魔の巣が禁断の魔術を行おうとしている」

「禁断の魔術、それはつまり」

 パルはトゥトゥリスが言いたいことが分かった。

 魔の巣の目的は、恐らく、

「死者蘇生。不可能を行おうとしている。マルが魔の巣に入ったのも、その理由がある。俺はマルを止めなければならない。死者蘇生は不可能なことなんだ」

「でも、どうして魔の巣は死者蘇生なんて」

「六十六年毎の、悪魔憑きの力を利用しようとしているんだ。悪魔の力は、人間が使う魔法とは別物だ。その中に死者蘇生が隠されていると、魔の巣は考えているんだ。でも、そんなことは幻想なんだ。悪魔化したシシを放っておけば、被害はさらに甚大になる。それを止めるのが、俺たちの役目だ」

「あぁ、その通りだよ。本当……」

 と、パルは言った。

 夕暮れ、二人はセパの許へ戻ってきた。

 セパは不老者という都合上、屋敷の外へ出ることが出来ない。屋敷の中心に彼女は一人座っていた。既に四〇〇年、彼女は不老者として、この世界に生きている。これが意味することは一体何なのであろうか?

 トゥトゥリスは疲れているのか、さっさと奥の部屋に引っ込み、残されたパルは、セパと二人きりになった。

 居心地の悪い時間ではあるけれど、何か取っ掛かりとなる会話の糸口を見つけなければならない。そんな風に思えた。

「何かあったかね?」

 と、トゥトゥリスの態度を見たセパは言った。

 そこで、パルは先ほどまでの話をかいつまんで説明する。セパは黙って聞いているが、やがて話が済んだことを見ると、次のように言葉を発した。

「死者蘇生か……」

「そうです。僕の父はあまりに多くの命を奪った。だから、トゥトゥリスが死者蘇生に憧れていることは容易に察することが出来ます」

「悪魔の力じゃよ」

「悪魔の力?」

「そもそも、童の不老者という魔法。これは悪魔の力なのじゃ」

「どういうことです?」

「四〇〇年前。最初の王が、悪魔を封じ込めた。その際、悪魔の力は一〇〇%抑えることが不可能であると察したんだ。その結果、一つの力が生まれた」

「それはつまり?」

「そう、察しの通り『不老者』という力。これは悪魔が封じ込められた時、二次的に、否、副産物的に発生した魔法なのじゃよ」

 二次的に発生した力。それが『不老者』の力。

 確かに、不老者という魔法は、人間が扱うには、規模の大きすぎる魔法のように思えた。だからと言って、悪魔の力が背後に隠されているとは、まったく思いもよらなかったのではあるが。

 そして、不老者と言う死なない魔法があるのなら、死者蘇生と言う蘇りの魔法があってもおかしくはないだろう。仮にそれが正しいとすると、魔の巣側は、それこそ死にもの狂いでシシ国王の悪魔化を利用するだろう。

 彼らには、シシ国王を崇拝するなどと言う気持ちは、最初からまったくないのである。故に、絶対に止めなければならない。悪魔化したシシ国王が利用されれば、どんな不穏なことが起きるか、それを想像するのは難しくない。

「死者蘇生は可能なんですか? 僕がいた時代では、サドウェルという昔の国王が蘇ったらしいんです」

 と、恐る恐る、パルは尋ねた。

 セパは物憂げな表情で、何度か頷くと、

「可能と言う見方が強い。悪魔憑きの力を利用したのだろう」

 と、答えた。

「何故です。人は死んだら、絶対に蘇らない」

「もちろん、それが定説じゃよ。しかし、悪魔の力には、人智を超えた、大いなる力が宿っているのじゃ。故に死者蘇生が隠されていても、何ら不思議ではない」

「死者蘇生が可能になったら、どうなるんですか?」

「死者で氾濫するだろう。それだけは避けなければならない。そもそも、童のような悪魔の力が宿っている人間は、本来消滅しなければならない」

 消滅。

 意を決し、セパはそう告げる。

 果たして、それが正しいことなのか? パルは何度も考えるが、やはり、回答は同じ。つまり、分からない。ただ言えるのは、この世界にとって、スーヴァリーガルにとって、セパは必要不可欠な人間であるということだろう。だから、ここで滅んではいけない。

「あなたは」と、パルは続ける。「僕のいた世界でも存命です。つまり、一〇〇〇年間生きてきたということになります。その間、歴代の国王は十五人悪魔に取り憑かれましたが、あなたは一人しか救えていないんです」

「何が言いたいんじゃね?」

「トゥトゥリスも言っていましたが、本当はもっと救えたのに、わざと救わなかったのではないですか? あなたほどの力を持つ魔術師が、何度も術に失敗するとは考えられない。その背後にはきっと、何か重要なことが隠されているのではありませんか?」

「鋭いね。流石は次期国王といった器じゃ。確かに、童は理由があって、国王を救わなかった。童には悪魔に取り憑かれた王たちが、本当に王としての人間性があるのか、つかみ切れなかったんじゃよ」

「だから、わざと悪魔にさせて、その後、処刑させた。そうでうすね?」

「そうだとしたら、どうするかね? 幻滅するかね?」

 と、セパは言う。

 セパは長い間生きているが、魔術師であることを除けば、普通の人間と変わらない。不老者として生きていくには、強い思念だけでなく、鋼のような精神力が必要なのである。

 もちろん、高い力も必要になってくるのだが。とはいっても、死者蘇生が可能になるということ自体、かなり不穏なことであると感じられる。なんとしても、その禁断の魔術だけは取り除かなければならない。

 きっと、セパも同じことを考えているだろう。禁断の魔術だけは避けなければならないのだ。そしてこのことはきっと、トゥトゥリスには言わない方が良いだろう。言えば確実に彼の精神を傷つけ、そして刺激してしまう。

 だから、黙っていることにしよう。

 そう考えたパルであったが、この時、部屋の内部に注がれる視線があったことに、まったく気づかなかったのである。

 翌日――。

 いつもは元気が頗るいいトゥトゥリスであったが、この日はどこか上の空であった。朝食中、何度かパルが話しかけても「うん」とか「ああ」とか、生返事をするだけで、心をどこかに置き忘れたかのような感じなのである。

 直ぐに何かあったと察することが出来た。

 昨日までとは一八〇度違うトゥトゥリスの態度。恐らくその背後には、死者蘇生という禁断の魔術が潜んでいるはずである。それはきっと間違いのないことであろう。となると、昨日のセパとの会話を聞かれたということになる。

 直食後、パルはトゥトゥリスのことを呼び、そして、村の外へ出た。トゥトゥリスはすんなりと承諾し、午前中の穏やかな風景が広がる、外の世界へと、パルとトゥトゥリスは向かって行った。

「なんの用なんだ?」

 と、じれったそうに、トゥトゥリスは告げる。

 やはり、彼の態度は変わっている。

「聞いたんだね」

 と、パルは尋ねる。「死者蘇生のことを」

 ……。

 少し間、沈黙が走る。

 トゥトゥリスは空を見上げると、ゆっくりと嘆息し、そして答えた。

「聞いたよ。死者蘇生と不老者が同じ悪魔の魔法だということを」

「つまり、シシ国王の悪魔化を利用すれば、死者蘇生は可能になるということだ。事実、サドウェルは蘇った」

「お前はそれが正しいと思っているのか?」

「正しいかどうかは分からない。だけど一つの答えではあると思う」

「答え?」

「君のお父さんを蘇らせることが出来る答えってことさ。僕はそれが可能なら、実行しても良いと思う」

「しかし、死者蘇生を行うためには、悪魔の力を利用しなければならない。これは本来なら許されない行為であるし、俺たちと真逆をいく考え方だ。あらためないとならない」

「確かにそうかもしれないけれど、これはチャンスであると言えるよ」

「パル、やめてくれ。そんな話を聞くと、俺の中で大切に築き上げてきたものが、一気に音を立てて壊れてしまいそうだ」

「お父さんを蘇らせたくないの?」

 と、パルは真剣に尋ねた。

 トゥトゥリスは即答できなかった。

 悪魔を祓うということと、自分の欲望が混濁し、考えることを阻害しているのだろう。そうでなければ、トゥトゥリスがここまで変化することはないはずだ。

「パル、死者蘇生は、やっぱり不可能なんだよ」

 と、トゥトゥリスは自分に言い聞かせるように告げた。

 それは果たして何故なのだろうか? どこかに根拠が潜んでいるとでも言うのだろうか? 少なくとも、口から出まかせではないようである。

「何かあるの?」

 と、パルは不思議そうに尋ねる。

「不老者の力は存在する。それと同時に、死者蘇生も存在する。これが正しいとすると、やはり能力は万能じゃないんだ」

「どういうことさ?」

「セパを見てみろ。彼女はあの屋敷から出ることができないんだ。それが悪魔との誓約なんだろう。つまり、死者蘇生にも厳しい制約が待っていることにある。これじゃ蘇ったところで、何の意味も持たない。それは分かり切っている。サドウェルも実態が蘇ったのではなく、魂だけが蘇ったんだ」

 それは正しいのかもしれない。

 不老者は確かに素晴らしい力の一つかもしれないが、厳しい制約のもとにある。生き永らえることは、人類の永遠のテーマかもしれないが、ある一定の場所から動けないのだとしたら、それはストレスにしかならないだろう。

 セパがどんな気持ちで今まで生きてきたのかは、想像するしかないが、きっと、想像を絶する荒波を超えてきたはずである。それだけ、不老者という縛りはきつく、そして儚いのだ。

 パルはこの時、自分の中で一つの道を模索し始めていた。それが自分に出来るのかは分からないけれど、全力でやってみたいという気持ちに囚われていた。

「後五日、そして戦闘は始まる。俺たちは負けるわけにはいかない。修行をしよう。今俺たちが考えるべきことは、死者蘇生のことじゃない。確実にアルシンハを救う。それだけを考えるんだ」

「本当に良いの?」

「気にするな。良いか、人は死んだら蘇らない。だから尊いんだ。この原則を無視してはならない。死者を冒涜することになりかねないからな」

 と、トゥトゥリスは言った。 

 悩みの渦中にいる本人にここまで言われれば、もう、何も言うことはない。

 本当に後悔はしないのか? そう尋ねたいパルであったが、その質問は胸の中で押さえていた。言えば、アルシンハを解放することに躊躇すると思ったからだ。やはり、トゥトゥリスの言う通り、今はアルシンハを救うことだけを考えた方が良いかもしれない。

 同時に、タレの暴走を止めることも考えることが大切だろう。

 血を分けた姉弟が不穏な道に進もうとしているのだから、指をくわえて待っているのは、絶対にしてはならない。行動を起こさなければならないだろう。

「でも」パルは話を変えた。「修行ってどうするの?」

「千手甲冑戦士の強化だよ。技を一つ一つ繰り出し、丁寧に確認していく。初歩的だけど、戦闘を行う上ではとても大切なことさ」

「僕は何をすれば良い?」

「俺はパルに宿った力がどんなものなのか? 上手く理解できない。簡単に言うと、魔法を解除できるということなのか?」

「僕にも詳しいことは分からないよ。ただ、奇翔紋が光るんだよ」

「実験してみよう」

 と、トゥトゥリスは言うと、素早く呪文を詠唱した。

 すると、トゥトゥリスの背後に千手甲冑戦士が現れる。

 前回の戦闘で、腕を大量に消費したが、この日の千手甲冑戦士の腕はすべて元に戻っていた。安堵するパル。これで戦闘力が一気に落ちること言うことはないだろう。 

 同時に、千手甲冑戦士が現れた瞬間、パルの額の奇翔紋が煌びやかに光を放つ。

 不意に現れたこの紋章の輝きに、パルは些か動揺していた。

「奇翔紋、王族の証が魔力に呼応している」

 と、トゥトゥリスは言った。

 彼の言う通り、奇翔紋と魔力は相関関係にある。

「そうかもしれない」

 と、パルは答える。 

 その後、トゥトゥリスが続けて、

「試してみよう」

 と、言った。

 千手甲冑戦士の腕をゆっくり伸ばし、それをパルの前までもっていく。

 魔法で出来た腕が、パルの前に掲げられ、そしてパルが触れてみる。そっと、割れ物を扱うように。

 するとどうだろう。千手甲冑戦士の氷のように解けてしまった。やはり、パルには魔力を解除する力が備わっている。これは間違いないようである。

「全部は消えない。腕だけが消えるのは、恐らく俺が腕に多くの魔力を注いでいるからだろう。強い魔力に、パルの力は反応するんだ。もっと的確に使えるように訓練しよう。幸い、後五日あるからな」

「分かった。やろう」

 二人は頷き合い、そして樹海の奥へ進んでいく。

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