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魔王様(幼少期編1)

全3話予定でしたが、2話が長くなったので分割しています。4話目も分割になるかもしれないため、念の為全5話にしています。

 最低目標・アルフレッドと共に生き残ること。そう定めた私は考えた。

 病弱なことを改善することは当然のこと。目標以前の話だと思い直した。これはもうこつこつと頑張るしかない。

 では、生き残る為に積極的に何をするべきか? それが問題で、私は前世と現世……というか主に前世の知識をひねり出して考えた。

 私とアルフレッドはエルフである。私達エルフは、人間よりも魔法に特化している種族だ。

 ゲームのアルフレッドは四大精霊魔法全てを扱っていた。ちなみにこれはエルフといえど極稀のこと。本人の適性と努力の賜物だ。

 まぁ、ゲームのアルフレッドは他者の血のにじむ様な努力も重ねているけれど! 尚且つ四大精霊どころか魔属性すら使える。魔王様だからね!

 ……ゲームの世界のことはともかく。

 四大精霊魔法全て使える適性を持つアルフレッドは、私のいとこだ。もしかしたら血の繋がりのある私にだって魔法の才能はあるんじゃないか?

 そんなことを思いついた私は、村一番の物知りでもある我が父に教えてもらうことにしたわけです。

 魔法を学びたい! 強い思いを伝えたところ、たしか人間でいうと100は超えているはずのうちの父は、20代半ばにしか見えないそのうるわしいお顔をしかめている。

 父とはいえ、転生した私の記憶が蘇ってからだとその美しさに改めて気付かされる程だ。まじまじと見ても全く飽きない。悩ましげに眉間にシワを寄せているところも美しい。

 いや、原因は若干11歳のお子様が魔法を習いたいと言ったことですけど。えぇ、私のことですね。

 11歳は長命なエルフの中では子供もいいところだ。エルフも成人するまでは人間と同じ様に見た目も成長していくので、外見は幼すぎるということはない。

 そういうわけで、残念ながら我がエルフ族には前世で言うところの合法ロリなんかは存在しないのでご了承願いたい。

 人間と同じく成人するまでは外見も成長するといったのでお察しのことだと思うけれど、我が父と母の外見はとてつもなく若い、そして美しい。いや、正確に言うと村人全員なんだけど。正直、美しいものくらいしかこの村にはいない。ご年配の方ですら美しいって凄い。

 本人達は自分たちの美醜を気にしてなくても、周り……他の種族は気にするということなんだろう。老いることが無いなんてことはないけれど、長命で若い時間が長く、総じて美しい容姿。

 エルフが隠れ里に住んだり、人を嫌う理由が転生してようやくわかった様な気がした。

 そんなエルフらしく、若くて美しい父の顔を眺め……じゃなくて、真剣に見つめていると父は唸り声をあげている。

「11歳じゃ、まだ魔法は早い? ユーディ達はもう習ってるのに」

「ユーディは男の子だからなぁ。彼らは狩りを覚えたりする必要があるから、父親に習っているんだよ」

「じゃあ私もお父さんに習ったら問題ないよね」

「俺が教えるにしても殆ど村の外に出ているし……可愛い娘には危ないことをさせたくないんだよ」

 わかってくれと言って、父は私の頭を撫でてくれる。うーん、お父さんのいうこともわからなくもない、けれど。

「じゃあ、お母さんと一緒のときしか読まないから、魔法書読んじゃだめ?」

 私が考える、最大限の譲歩がこれだ。私は最強を目指しているわけじゃない。ただ、生き残る可能性をあげたいだけだ。

 実践で学べるか学べないかの0か100ではなくて、今は本だけでもいいから学びたい。少しでも魔法書を読んで知っているか、前世の知識だけで実際の魔法についてを知らないかは、全くの別物だ。

 今度は真剣にお父さんの顔を見つめていると、じっと私を見つめていた表情は優しいものへと変わった。

 ぽんぽんと頭を軽く撫でられて「絶対だぞ。お父さんとの約束だ」と言われ、私は父に飛びついた。

 魔法無双は目標ではないけれど、魔法を学べる! それだけで私は嬉しくて仕方なかった。




 父との約束通り、魔法書を読むことができるのは母の前だけ。というわけで、私の読書の場は自室ではなく居間だった。

 母は台所に立っていたり、居間で繕いものをしていたり。その合間に私の質問にも答えてくれるし、ついて教えられる時は魔法を使わせてくれる。あ、勿論私もお母さんの手伝いはきちんとしています。

 基本的には居間で勉強していても、私には悪いことはない。前世と違って、ゲームなんてものは存在しないからね。それに魔法以上に惹かれるものもなかった。

「お母さん、こう?」

「そうそう。でももう少しやわらかい光をイメージして。夏の日差しじゃなくて、春の様な」

 今試しているのは初歩的な炎の魔法だ。両手の間に小さな炎を出して、灯りにする魔法。

 お母さんの説明はわかりやすい。強い弱いだけだと、私はうまく調整出来なかったかもしれない。イメージで調整を行った結果、手の中の灯りは眩しすぎないやわらかな光になった。

「よくできたわね。さ、今度はこれをこっちに移してみて」

 そう言ってお母さんが私の前に出したのはカンテラだ。中にロウソクが入っているものではなく、魔法の灯り自体が持続できる様に魔力を残して移さなきゃならない。

 外に行く時、村の大人はこのカンテラを持って動いている。周りは森だから落として火事にするわけにもいかないからね。

 ものを燃やす炎の魔法もあるけれど、この魔法の灯りは何かを燃やす炎じゃない。だから森で生きるエルフが最初に覚えなきゃならない魔法だ。

 慎重に、慎重に。そっとカンテラの中に炎を移したけれど、数秒で消えてしまった。

 あっと声をあげた私に、お母さんは苦笑している。

「そんな簡単にリリーができちゃったら、お母さん悲しいわ」

「覚えがいい方が嬉しくない?」

「覚えてくれると嬉しいけど、いっぱいできるようになればリリーはきっとすぐ外へ出ていっちゃうもの。そうなればお母さんは寂しいわ」

 そう言ってお母さんは私を抱きしめた。肩を落としすぎちゃったかなぁ。ちょっと反省しすぎもよくないかもしれない。

「焦らなくてもいいのよ。リリーは魔法と仲がいいもの、ちゃんと練習すればすぐに上手くなるわ」

「ほんと?!」

 それって適性があるってことだろうか。ばっと顔をあげると、お母さんはにっこりと笑って頷いた。




 それから私はひたすらに努力をした。魔法の適性はあったらしく、面白いように腕があがった。

 これは、私もしかしてゲームの中のアルフレッド・クロスビーと同じくらいの才能があるんじゃ?! なんて、調子に乗った時が私にもありました。

 今はすっかりその自信はどこかに行ってしまっています。なぜかと言うと、ご本人登場だから、ですね。厳密に言うとご本人ではないのだけれど。

 私が魔法の勉強を始めると、必然的にアルフレッドと遊ぶ時間は短くなる。元々歳が離れているわけだから、余計に。

 私は朝から昼過ぎまでは村の学校、いや塾みたいなものだろうか。それほど多くないエルフの同年代の子供たちが集まる集会所に行って、簡単な勉強を学んでいる。

 アルフレッドはそこに通う年齢ではないので、自宅でお留守番だ。彼の家は我が家のお向かいなので、私が帰ってくるのは窓から確認しているらしい。

 せっかく急いで遊びに来たのに、私は魔法のお勉強。元々私の体力の問題で外で遊べないこともあり、尚更遊んでもらえない。

 となると、前世でよくみた5歳児なら遊んでと駄々をこねたりしそうなものだけれど、そこはアルフレッドくんだ。

 なんと、私と一緒に魔法の勉強を始めた。絵本代わりに頑張って魔法書を読む5歳なんて、聞いたことがない。

 お母さんにどうしようと相談したけれど、ケガをしそうな危ない魔法を使わせない様にすればいいんじゃないか、ということになった。そうやってアルフレッドは私の隣に座って一緒に勉強を始めたわけです。

 5歳から一緒に学び始めたというのにアルフレッドは流石というか、半年も経てば私と並ぶ程にまでなっていた。そして一年経てば抜き去られてしまいそうになっている。

 今は二人一緒に氷結の魔法をコップの水にかけているのだけれど、上手くいかない私の横で、

「リリー、マリーおばさん、みて!」

「あらっコップに霜がつくまでできてるわ! すごいわね、アル!」

 ……こんな感じで、アルフレッドは私の努力をあっさりと抜いていったわけです。ちなみに私が苦労したカンテラの魔法は一度で成功。

 流石、最強の魔法使いになるかもしれないアルフレッド。悔しくないわけではないけれど、愛らしいキラキラとした目で見られると悔しさはどこかに飛んでいってしまうというものだ。

「アルフレッドは凄いなぁ。綺麗に凍ってるね」

 思わず頭を撫でてしまうと、アルフレッドの若草色の目は気持ちよさそうに細められた。拒絶されないことが嬉しい。

 でも可愛い男児だというのに、ちょっと色気があるってどういうことなの。いやそれ以上に愛らしいけれど!

 撫でられていたアルフレッドは、目の前に置かれていたカップに気がついてしまった。それは勿論、私が魔法をかけていたカップで薄い氷しか張られていない。

 はっと目を大きく見開いたかと思えば、すぐにその目には涙が溜まっていって今にもこぼれ落ちそうだ。アルフレッドの頭に触れている私の手には震えが伝わってきている。

「あ、ぼく……リリー、ごめんなさ」

「アルフレッド、謝っちゃだめだよ。君は何にも悪いことはしてないんだから」

「でも」

「それにね、私は今薄い氷を張る練習をしていたの」

 告げると、アルフレッドは目を瞬いた。嘘だとアルフレッドの大きな目が告げている。

「私ね、今は細かいことをやってみようと思って試してたの。治癒魔法は細かいことができた方がいいって言うから」

「ほんと……?」

「ほんと。私がこんな嘘ついたりする?」

 アルフレッドは首を振って、泣きそうだった表情を明るいものに変えた。そうして「リリーすごい!」とぴょんぴょんと跳ねている。未来の魔王様とは思えない素直で愛らしい姿だ。

 まぁ、ちょっとは嘘なんだけど、本当のことも含んでいるので許して欲しい。治癒魔法を学びたいというのは本当だ。

 これから怪我をした時にすぐに治せる様になればアルフレッドの魔法の練習も捗る。治癒魔法を普段からかけておけば、未だにひ弱な私の基礎体力が上がって健康になる可能性もある。治癒魔法バンザイ! ってなれる可能性があるんだ。

 ……それに、起こって欲しくはないけれど、知識通り村が襲われるという事態になれば怪我をした人を助けることにも繋がるはず。

 アルフレッドほどではないにしろ、魔法に適正があったのだから。一つでも可能性を増やすことができるなら、試さないほかはない。

 そんな私の嘘やら思惑には、いくら未来の魔王様になるかもしれないアルフレッドであっても気がついていないらしい。お母さんは私が誤魔化したことには気がついてそうだけど、治癒魔法については教えてくれそうだ。

 お母さんの様子にほっと胸を撫で下ろしていると、アルフレッドが私の袖を二、三度引いた。下を向くと、当然上目遣いのアルフレッドが居る。

 もじもじと言いづらそうにしているアルフレッドに何? と優しく促してみると、彼は少し頬を染めて私を真っ直ぐに見た。

「リリー、あのね。アルでいいよ? お母さんもお父さんもアルって呼ぶから、リリーも同じがいい」

 アルフレッドからそう言われて、私は思わず泣きそうになった。アルフレッドが、アルと呼んでと言ってくれた。これだけでプレイヤーだった私は泣きそうだ。

 ゲームの中でアルフレッドはアルと呼ばせない。それが王子であっても、ヒロインであっても誰であってもだ。

 呼んでもいいかと尋ねられたアルフレッドは左右に首を振り、寂しげな表情を浮かべる。

『今はまだ大切な人達を思い出してしまうから、そう呼ばれたくないんです』

 そんなことを言われてしまえば強要できる訳がなく、ゲームの中で彼は一度も愛称で呼ばせることを許さなかったし、相手のことも愛称で呼ぶことは無かった。

 丁寧な対応に見せかけて、それはきっぱりとした拒絶だった。この世界のものに対して気を許すことはない。呼び名は彼の線引きだった。

 それを今、呼んでもいいと言われたというより、呼んでほしいと言われた。

「……うん、アル」

 今はまだ失われた大切な人になってしまうのか、わからない。けれど、彼の大切な人になることが出来た。

 嬉しくて噛み締める様にしていうと、アルは照れながらも嬉しそうに微笑んだ。

 この笑顔もゲームの中の彼からは奪われたものだ。アルに何も失わさせたくない。

 改めてそう思ったのだけれど。


 ――あの、村に疫病発生なんてイベントきいてないんですが。

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