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神官05

「早かったな」

「我が主は鬼の形相でしたからね。早く終わらせないと城が半壊くらいじゃ済まないと思って」

「失礼だな、そんなことにはならないよ」

 アルは少しだけむっとした表情になっているけれど、私としてはユーディの意見に同意だ。あの状態のアルを放っておけば、フィラルト様はどうなっていたのかわからない。城は半壊で済んでいたならまだいい方だと思う。

 いつもの椅子に腰をかけたアルの隙をついて離れると、小さく舌打ちが聞こえたけれど聞いていないことにした。流石にユーディの前で抱きしめられたままで話をするのは嫌すぎる、耐えられない。

(えぇっと、ユーディはどこへ行っていたの?)

「長老達にちょっとお伺いをたてにね」

「返答は?」

 その内容は間違いなくフィラルト・ロイズ神官に関することだと思う。ユーディは苦笑しているから、あまりいい返事ではなかったとアルもわかっているのだろうけれど、念の為だろう。

 案の定、ユーディは首を横に振ってみせた。

「まぁ、長老達の想像の範疇では足りなかったんだろうな。現象がどうこうというよりは魔力が平均値、その上魔法使いで無い俺の説明では納得してもらえなかった」

「うちの守護役では満足しない、と。老人達は実力も測れないほど耄碌したか」

 あからさまに顔を顰めたアルを見て、ユーディは少し目を丸くした。アルはユーディのことを雑に扱うことが殆どだから、確かにこの口振りは珍しいけど。長老達のことを言い過ぎてることは注意した方がいいと思うんだけどな。

「ま、俺は魔法使いで実力があったとしても、これだからかな」

 ユーディは少しだけ笑って、自らの左頬を指で数度叩いた。普段は傷痕を隠すように布で覆われていて見えていないけれど、今は私とアルしか居ないこともあって彼の肌は露出している。

 指先で示された先は、一見すると大きな切り傷の様に見える皮膚は、皮膚が引き攣るというよりも酷く歪みうねっていた。歪んだ皮膚の盛り上がりは血管が浮き上がって何かの生き物が蠢いている様にすら見える。

 新しい皮膚の色が他の場所と違うことも傷痕ではよくあるけれど、ユーディの頬にある痣はどす黒いとまでは言わないが、鈍い赤みを帯びた色へと変わっている。

 血の色ではないにしても禍々しい。そんな印象を受けてしまう色をしていた。

 ユーディは普段、この肌を隠している。その理由は簡単だ。これが自身が堕ちていく先の闇に触れたことのある証だから。

 彼の痣は左頬の一部だけで留まっているので、彼が闇に染まりきってはいないとわかる。それでも、多くの人々は痣を見ただけで恐れてしまう。魔王の配下だと、決めつけてしまう。

 自らの闇に触れ、世界を呪いかけたことのある恥ずべき者。そんな風に決めつけてしまうエルフも、残念ながら少なからず存在する。

 だからユーディは普段隠しているけれど、長老達は勿論ユーディのことも把握している。

 今更この期に及んでそんなことを言ってユーディの言葉を信じなかった? もしそうなら許しはしない。私が文句を口に出すより早く、アルが「わかった」と口を開いた。

 わかった、って何が? アルはユーディの扱いに納得したの?

 戸惑いながら彼を見ると、アルはちょうど髪の毛を払ったところだった。繊細で長い髪がさらりと風で宙を舞う。あ、これは……苛立っている時のアルの癖だ。

 風の精霊と縁がある私と繋がっているからか、アルも風の魔力が扱いやすいらしい。無意識のうちに周囲の空気へとアルの魔力が漏れ出すと、魔力を帯びた空気は風に変わっている。……私の身体があった時にはこんなことは起こらなかったはずなので、魔力量の差が大きいんだと思う。

 そういえばフィラルト様と対峙していた時はしていなかったけれど、あれは苛立つなんて域を超えてしまっていたからなのだろう。

 穏やかに微笑んでいるけれど、アルの目は冷ややかな温度を湛えている。冷やかすぎて痛い程だ。

 私はこっそり、心持ちアルから距離をとる。魔力が繋がっている分、表情や空気へと漏れ出す魔力とは裏腹に、アルの大部分の魔力の波が落ち着いていることが怖くて仕方がない。

「ユーディ、老人達は多分魔力を使い切っているだろう。こちらからの連絡だけで水鏡が強制的に使えるようにするには何が足りない」

「え、そうだな。魔石が光と水、それと風が倍量以上はいる。補整用の装置もいることだろうし、それと向こうの水がさっきの連絡で使用して汚れている可能性を考えて……」

 静かに怒るアルに気圧されているのか、いないのか。ユーディは問われたことを瞬時に挙げていく。

 幼馴染を軽く扱った連中を一泡吹かせたい気持ちは私にもある。けれど、強制接続って普通の魔法使いはそんなこと魔力を増幅したとしてもまずできないし、そもそもやれるなんて考えないからね?! これだから天才とそれに慣れた奴は!

 普通は出来ない。出来るはずがない。なんてことは頭にもない二人の話を聞きながら、私は止めることすら諦めていた。

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