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神官02

「私の名はルード。魔王陛下の剣であり盾である。ここから先へは進ませるわけにはいかない」

 真っ黒に一滴青を垂らした色味をした甲冑で全身を包んでいる男から、少しくぐもった声が響く。それ自体は甲冑の影響なのだろう。声はまだ若い男のものだと判じられた。

 その身の半分ほどあるはずの大剣は軽々と男の腕の高さまであげられる。切っ先はぶれることなく、皇子へと向けられていた。

「貴殿は何故魔王に従う」

「何故?」

「そうだ。魔王軍は既に瓦解している。最早世界を滅ぼすことも難しいだろう。ならば、貴殿が従う理由もないはずだ。全ての咎は貴殿らを従えさせた魔王にあるはず」

 皇子の言葉を受け止めて、ルードの空気が吐き出した空気が揺れた。溜息ではない。笑ったのだ。

「カールハインツ・ヴァルハルト。全ての咎は魔王陛下にはない。まだ知らぬとはな」

「何を」

「――魔王陛下の盾であり、剣であることは私の誇りだ。さぁ、始めようか。聖女達」




 ……とかなんとか、ゲームのルードは格好いいんだよね。

 屋根の縁に腰をかけた私はゲームのルードを思い出してため息を吐き出した。思いのほか大きく吐き出してしまったけれど、どうせ誰にも見えないし届かないので問題ない。

 アルの部屋を飛び出した私は近くの尖塔に登っていた。見張り台の役目も兼ねているのだろうけど城壁が役目を果たしているので、塔の上には人が居ないので私の休憩場所になっていた。

 まぁ、ごくまれに人は居るんですけど。お城務めの人達のサボりとか、逢い引きとか。もうちょっとすれば攻略キャラのイベントも起こったりもあったはずなので、その場合は別の場所に逃げます。

 ともかく、ここには人が居ないので考え事には向いていた。私のことを見える人間なんて数えるくらいしか居ないけれど、気配があるかないかは大きい……んだけど。

(帰ったんじゃなかったの)

「敏いなぁ。音を立てずに来たのに」

 私の後ろに立ったのはさっき別れたばかりのユーディだ。

 そのまま隣へと腰を下ろした彼が全身黒っぽい服なのはさっきまでと変わらないけれど、記憶の中のルードとは全く違う。同じなのは色くらいだ。

(気配でわかるよ。知ってる人なら余計にね)

「その状態だからこそ気配に敏感なのかもな。リリーを除外して認識阻害魔法使ってたんだけどなぁ」

(除外って……。私自身がその魔法組み込まれてる様なものだからじゃない?)

「そうかもな。ま、これで理解出来た。除外したのは試してみただけだから気にしないでくれ」

 そう言ってユーディは私に手を伸ばして、肩をすり抜けた。わざとかと思ったけどそうでも無いらしい。ユーディの目と口が丸く開かれていて、その顔を見ていると怒る気が無くなってしまう程だ。

「わ、悪い!」

(いいよ。ユーディが触れようとするなんて滅多にないし、忘れてたなら仕方ない)

「そりゃ普段は、なぁ。すっかり忘れてたけど俺達からは触れられない、これは絶対だ」

 ユーディは懐から紙を取り出してメモを取っている。忘れないようにしているんだろう。昔からこういったところは真面目な幼馴染みだ。

(で、私に何の用ですか。守護者・ユールディード様)

「その言い方やめてくれない? どちらかというと俺がリリーに敬称付けしなきゃならないはずなんだから、今度からはそうしましょうか?」

 わざと以外の何でもないけれど、私は慌てて手を振って否定した。アルよりも昔から付き合いのあるユーディにかしこまられては堪えられない。多分、アルも似たような気持ちなんだろう。

(絶対やだ。私に使わないなら、ついでにアルへもやめてあげて。さっきの帰りみたいなの落ち着かないって言ってたよ)

「あー、あれは……お仕事だから仕方ないんだよ」

(私達しか居ないのに)

「居なくても、だ。普段から気を抜きすぎてるとよくないから、締めるところは締める。さて、と。本題なんだけど」

 ユーディは先程メモをしていた紙を一枚捲った。書き込まれていることはどうやらロイズ神官について。

 ……生い立ちやら立場やら細かく書かれていて、ユーディは騎士よりも諜報員の方に向いているんじゃないか。そう思ってしまうほどだ。

 そのメモを私にも見せて確認したユーディは、再度メモを捲る。今度は先程メモしていたページだ。

「リリーは認識阻害魔法を常にかけていて、許可の下りた者にしか認識できない。また、逆に認識阻害を実行している者を認識することができる。ってことだから、ロイズ神官に考えられることは二通りだ」

(けど、私もアルも許可を出した覚えはない)

「あぁ。だから可能性としては後者なんだけど、認識阻害魔法をかけた者からリリーが見えるかは可能性があるかといった程度だ。その上でロイズ神官が魔法を使った形跡はない。使っているならアルが気がついているはずだからな」

(じゃあ魔道具?)

「の、可能性はある。けれどそんな魔道具はこの国で開発されていないんだ」

 さっぱりわからない。私以上に外のことに詳しいユーディがわからないのだから、尚更わかるわけがない。

「わからないことだらけだから、できる限り人前には出ないでくれ。頼むよ」

 ユーディの言葉に頷いた時だ。  

「――お嬢さん、そんなところに居られると危ないですよ!」

 耳に届いた声に、私は思わずユーディと顔を見合わせた。ユーディも目を丸くしている。

 私は勿論、ユーディも魔法を解除していない。ユーディは首を微かに横に振って、口だけで私に伝えた。

 前者だ。その言葉の意味はわかる。けれど私もアルも一切許可を出していない。そんな記憶は持っていない。

 それなのに声をかけた本人・ロイズ神官は、カンテラを掲げて塔へと続く回廊から身を出し、しっかりと私を見ていた。

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