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神官01

(まただ)

 最近、私は気になることがある。気がついたらすぐにアルの背後に隠れる様にはしているけれど、あまり意味はない気がする。けれど、気休めくらいにはなるのでついついやってしまう。

「……リリー? どうしたの」

 私にしか聞こえない様に声を出してくれたアルに小さく首を振る。納得はしていない様子のアルには後で説明することにしよう。

 アルに見える様に首を振る為に、少し体の位置を変えた私はやっぱりと確信した。いや、確認したという方が正しいかもしれない。

 ――だからなんでフィラルト様、こっち見てるの!?

 聖女様と愉快な仲間たちの円卓会議。もとい魔王討伐部隊会議の中、姿が見えないはずの私は神官フィラルト・ロイズ様とばっちり目が合っていた。




「へぇ、またそりゃ……リリーはロイズ殿に許可を出してたのか」

(出してないよ。出すわけないじゃない。アルが出してたらわからないけど)

「アルが出すことはないだろ」

「出す訳がないでしょ。そもそも、ユーディの許可ですら無意識に出したことを取り消したいのに」

「酷いなぁ。導師の守護役を務めてるってのに」

 ユーディは頬を膨らませて私を見てきたけれど、全くもって可愛くない。ユーディも勿論エルフなので綺麗と呼ばれる部類ではあるけれど、アルに比べて精悍さがある顔をしているし左頬にある傷痕の様な大きな痣がそれに拍車をかけている。それに

(私と同い年のユーディがやっても全く可愛くない)

「アルならいいのかよ」

(勿論!)

「やらないから。ユーディ、自分の年齢を考えろ」

「人間の年齢でこのくらいならまだ大丈夫だろ」

 そう言って笑っているユーディはアルと同じくらい、人間で言うところの二十歳そこそこと言った具合だ。うーん、ギリギリアウトな気がする……。

 私が微妙な表情を浮かべているとアルが「やめておいた方がいい」と重ねて告げてくれた。笑って頷いている辺り、ユーディも本気では無かったんだろう。

「まぁ、ロイズ神官なら心配する必要はないだろうさ。人格者であるし、他の者達より年が上なこともあり落ち着いている。――さて、今日はこれにて失礼します。導師アルフレッド、貴方に森の加護があらんことを」

 ユーディは雰囲気をがらりと変えて跪き一礼をすると、一瞬のうちに姿を消した。

(……普通に帰ればいいのにね)

「全くだよ。あの挨拶もやめてくれって言ってるのに」

(決まりみたいなものだし、仕方ないよ)

「若輩者の僕には荷が重いんだけど……。とりあえず各村への連絡を済ませてしまうね」

 そう言ってアルは机に向き直した。導師の仕事は意外と多く、事務作業くらいなら手伝いたいのだけれど手伝うことのできない我が身が悲しい。

 だからアルが作業に集中している間、私は近くで大人しくしていることが仕事だ。……と思っている。騒ぎ立てたりしても迷惑だしね。

 導師というのはキルリル周辺は勿論、大陸全土に点在する各村からそれぞれ選ばれたエルフの呼び名だ。アルはその一人に選ばれている。

 ゲームの時にはこんな話は出てこなかったので、どういうことをしているのかはアルが導師になって初めて知った。ついでに、うちのお父さんが導師だったことも。

 うちの村が壊滅したあの日、あの場で生き残っていたのはアルだけだ。私は生きているとも死んでいるとも言いきれない存在だからカウントしない。

 それにキルリルの奇跡……これは私のことになってしまうけれど、死者蘇生に近い様な奇跡を今なお実現している。それに全エルフの中でも他に見当たらない程の魔力量。

 ということもあって、アルは成人したと同時に他のエルフの村々からの推薦もあり、うちの村から選ばれた導師ということになった。

 前導師であったお父さんはというと……生死不明だ。村を出たお父さんは帝国へと入ったことは確認されているけれど、それ以降の確認がとれない。というのは、アルが導師に就任した際に他の導師から聞かされた。

 多分、伝えられなかったんだろう。悲しいけれど、周りのエルフ達が配慮してくれたことは私もアルも痛いほどわかった。もしかしたらどこかで生きているかもしれない、そう考えておいた方が私達としても気が楽だ。

 それにしても……ユーディは生きているだろうとは思っていたけれど、まさかだった。

 ユーディ……ユールディード・フロストは私と同い年のエルフで、実はゲームに登場していたキャラだった。

 顔が見えなかったから仕方ないかもしれないけど、寡黙な魔王の副官・ルードがお調子者なユーディだなんて気が付かないから仕方ない。姿は今の彼とは全く違うけれど、さっきの様に口調を切り替えた瞬間に気がついたなんて……気が付くにしても今更だ。

(はぁ……)

「リリー?」

 思わず声を出して吐き出してしまったことで、アルの集中が途切れてしまったらしい。羽根ペンを止めたアルと視線がばっちりあってしまった。

(ご、ごめんね。ため息まさかこんなに響くなんて)

「いいよ、ちょうど終わったところだったし。それより大丈夫?」

(うん、ほんとに何でもない)

「そう? ならいいけど。あ、リリー。僕これからお風呂に入るけれどいっ」

(散歩してきます!)

 妙なことを口に出しかけたアルの言葉を遮って私が慌てて部屋を飛び出すと、後ろから「あまり長い間出歩かないようにね」と笑いが混じった声が聞こえてきた。

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