3代目ラプンツェルは働かない
かなり貧しい家に生まれた私は、ある日、ついに親に捨てられた。
兄みたいに、力仕事が出来るわけでもなく。
姉みたいに身体を売るには、幼すぎて。
ただの穀潰しにしかならないから。
当然の結果で…。
明け方、魔物が出るという噂の森に連れてこられた。
森の奥に神様がいるから、そこまで行きなさいと送り出された。
神様に会えば、家族みんなでまた暮らせるようになるからと。
そして、干した芋を一欠片渡されたけど。
死んでく私には不要だから。
お腹空いてない。と、嘘をついて。
家にいる、弟にって返した。
…お腹、ぐうぐうなってるけど。
親の言うことを信じてるわけじゃなかったけど。
フラフラと、森の奥を目指して歩いた。
不思議と、魔物には会わなかったけど。
神様とは程遠い、怪しいオババ様に会えた。
薄暗い森に溶け込むような、真っ黒なマントを被って。
歪んだ杖をつきながら。
しゃがれた声で、私に尋ねてきた。
「お前、行くところ無いなら、うちで働くかい?」
三食昼寝付き、綺麗で簡単なお仕事だよ
って。
怪しさ満点だったけど。
ついて行くことにした。
ひょっとしたら、神様が変装しているのかもしれない。
…違う、神様なんているわけない。
そんなに歩いてないのに、薄暗い森の中に突然ひらけた場所が出てきて。
とても高い塔が見えた。
その塔は、不思議と入り方は見当たらなくて。
高い所に、窓が1つだけ。
そして、オババ様がその塔を杖で指して。
「今日から、ここがお前の住む場所。そして、仕事はこの塔の窓から歌を歌うだけだよ。」
そう言いながら、オババ様はニッコリ笑って私の手を取った。
…笑顔、怖いよ。オババ様。やっぱり神様じゃないんだね。
※※※※※※※※※※
あれから、5年。
私は15歳になった。
今日も窓から外を見ながら歌ってる。
オババ様いわく、調子外れのメロディだけど。
「…お前は、ちっとも上手くならないねぇ。声は綺麗なんだけどねぇ。」
ブツブツとそんな事を言いながら、オババ様は私の髪を丁寧に梳いてくれる。
…優しい手。
オババ様と出会えた日から伸ばし始めた髪。
魔法で成長を促したらしく、あり得ないほど長くなってる。
髪の手入れはいつもオババ様がやってくれる。
一度髪を自分で梳かしていた時、絡まったからそのままハサミで切ろうとしたら、ものすごい勢いで、オババ様に怒られた。
…怖い顔が更に怖くなってた。
それ以降、自分で手入れするのを禁止された。
オババ様曰く、髪は女の命らしい。
…髪が長くても、お腹いっぱいにはならないのにね。
歌は、オババ様が教えてくれた。
知らない言葉の歌。
ここではない、異世界の子守歌らしい。
…子守歌。
親が子供に歌ってあげる歌。
私はオババ様から教えて貰った歌が、初めての子守歌。
…親から歌なんて歌って貰えなかったから。
髪を梳かし終わったオババ様は、隣にきて、一緒に窓の外から遠くを見つめながら、私に語りかけた。
…出会った時に私に言ってくれた事をもう一度。
「ここで、歌っていれば、優しい隣国の王子様がお前を助けてくれるよ。」
お前の先輩達も、王子様に見初められて、お城で幸せに暮らしているんだよ。
だから、朝でも、夜でも。
誰かの耳に届くように。
頑張って歌うんだよ。
そしたら、歌声に気付いた優しい王子様が。
悪い魔法使いに攫われた綺麗なお姫様を。
この塔から救ってくれる。
多少調子外れでも、いいから。
頑張りなさい。
ーーーお前の仕事は、お城で幸せになる事だよ。
…優しい、優しい手で頭を撫でてくれながら。
でも相変わらず笑顔は怖いよ。
※※※※※※※※※※
夜、夜空を見ながら歌を歌っていたら。
塔の下から、声が聞こえた。
「姫、やっと見つけた。」
…誰か来たらしい。
「姫、私が貴女の元へ行ける手段はありませんか?」
王子様が来たら、髪をロープのようにして外に垂らすんだよ。
ってオババ様に言われたけど。
オババ様に綺麗にしてもらった髪をそんな事に使いたくない。
私は軽く首を振った。
いいから、早く帰れと、祈りを込めて。
「姫、私は貴女を救いに来たのです。貴女は悪い魔女に攫われたのでしょう?」
…違う、オババ様は悪い魔女じゃない。
なんて事を言うんだ、この人は。
「どうか、私に貴女を救う栄誉を与えて下さいませんか?」
……違う。
私は貴方に救って貰う必要なんかない。
私はオババ様にもう救われたのだから。
「帰って!もう来ないで。オババ様を悪く言わないで。私はここが好きなの。オババ様と一緒にいたいの。オババ様が好きなの!!」
私のその叫びを聞いた王子様らしき人は。
貴女は悪い魔女に騙されてるって、散々説得してきたけど。
私が頷かなかったから。
「…また来ます。必ず貴女を救い出してみせます。」
と、余計な一言をおいて帰っていった。
もう、来るな!と願いを込めて。
窓から塩を撒いておいた。
※※※※※※※※※※
「外に塩が撒いてあるけど、お前の仕業かい?」
朝、オババ様がまた髪を梳きながらそう聞いてきた。
「夜、ナメクジが出たから塩かけて追っ払った。」
私がそう、答えると。
「はぁ、いつになったらナメクジじゃ無くて王子様がくるのかねぇ。いい加減、仕事してくれないかい?」
と、相変わらず怖い笑顔で見つめてくるから。
窓の外に向かって調子外れの歌を歌った。
…王子様なんて、いらないよ。