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流れ星にのって

作者: 紫ヶ丘

主人公の口が少し悪めです。



昔から何度も同じ夢を見る。

決まって誰かにキスされる夢。

相手の顔は見えないし歯と歯がぶつかった痛みで目が覚めるくらい下手くそなキスがおはようの挨拶代わりに飛んでくる。

初めて見たのは確か四歳。

私が一人で寝るようになった頃だ。

それがキスと分からず上から何かが落ちてきたと飛び起きて鼻血が出ていないか唇は切れてないか鏡で確かめたのを覚えている。

考えてみて欲しい。

毎朝ではないが三日と置かず何かが顔にぶつかって目覚める日々。

ホラー以外の何がある?

高校生になった今でこそ歯がぶつかる程度で済んでいるが小さい頃は顔全体に衝撃がきたのだ。

恐らくキスの相手は大人かそれに準ずる体格の持ち主なんだろうけどねぇ。

もう少しくらい上手くなっても良いんじゃない?

だってかれこれ十三年だよ?

どれだけ不器用なんだ?

あんなキスじゃ間違っても運命の相手だとは思えない。

すっごい勿体ないんだよね。

胸キュンな恋をしてもおかしくないシチュエーションなのにあの前歯直撃の痛みで百年の恋も覚めてしまう。

まぁ現実じゃキスなんて一度もしたこと無いけどね?

私も色々対策したんだよ。

うつ伏せで寝る、横向きで寝る、布団を被って寝る、段ボール箱を被って寝る、着ぐるみの頭を被って寝る、母と一緒に寝る、友人達と一緒に寝る。

全く効果なかった。

何れにもがちんっと音が聞こえるくらいの衝撃が訪れたのだ。

私は祈った。

回避できないならせめてブサメンだけは勘弁してください。

ブサメンでも頑張ればフツメンになれるはず。

いつか出会う日が来るならばその時までにフツメンになっていてください。

イケメンとは言いません。

あんなキスしか出来ない相手がイケメンなわけありません。

ですからどうかフツメンをお願いします。

平凡な顔の私が言うなと思われるかもしれませんが夢とはいえファーストキスを奪いやがった相手の罪は重いです。

恋愛のれの字もない私にどうかご慈悲を!

どうしてそこまで必死に祈ったのかって?

前日友人家で開かれたパジャマパーティーで私以外に彼氏もしくはいい感じの男友達がいる事が判明したのだ。

顔で笑って心で泣いてとはこういう時使うんだなと冷めた頭で考えながら皆の恋ばなで盛り上がりましたよ。けっ。

翌朝空気を読まない夢の相手がぶちかましてきたけどすっごい空しかった。

恐らく未だ嘗てないほど追い込まれていたんだろう。

和室に布団スタイルを小バカにしたリア充な友人を見返すため、何より素敵な恋をするため藁にもすがる思いで祈った。

その結果。







「なんじゃこりゃあああああああああああ!?」


口から勝手に死ぬまでに一度は言ってみたい言葉の一つが飛び出しているがそれどころじゃない。

何か知らないけど物凄く高い塔の先端にぶら下げられてるんだけど!?

しかも荒縄でぐるぐる巻きにされてるし!

エロさ0の効率重視のやつだし!

いや、エロくしろとは言ってないよ?

でもさ私十七才の女子高生だよ?

平凡だけど中の中は固いよ?

も、もしやあれか?

髪が短くて貧相な体してるから男に間違われたのか!?

責任者出てこーい!!

私は女だ!

胸だってBはぎりぎりある!と思いたい!多分ある!いや、あってくれ!


《煩い小娘だのぅ》


「煩いっていう方が煩いんだい!」


《……助けてやろうと思うたが止めじゃ止め》


「あ?……うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?へ、蛇!大蛇!アナコンダが空飛んでるううううううう!?」


《誰が蛇じゃ!どう見ても龍じゃろうが!》


「と、自称龍を名乗る老人が申しておりますがそのフォルムはまさに蛇!でっかい蛇!──あ、小さい手がある。………でっかい蜥蜴か!」


《龍じゃ!!》


「ぐぁ!?──ご、ご老人。こちとら全身ぐるぐる巻きで耳が塞げないんだ。加減してくれないと」


《す、すまぬ》


「いや、わかってくれればいいんだよ」


《……はっ、何で儂が悪者になっとるんじゃ!?そもそもお主が儂を蛇と言うたのが原因じゃろう!この流麗な姿をみて言うに事欠いて蛇?大蛇?蜥蜴?儂は天空の王じゃぞ?誰もが畏れ敬う偉大なる黄金龍じゃぞ!》


「わーすごーい」


《……ちーとも心が籠っとらんし。何じゃ言うてて空しくなってくるのう》


「ドンマイ、わかる人にはわかってもらえるよ」


《こんなに慰めの言葉が嬉しゅうないのは久しぶりじゃ》


「ところでご老人、この縄解いてくれない?」


《──解いても良いがお主死ぬぞ?》


「な、何で!?」


《この高さ人の身では助からん》


「──そこはほら、ひょいっとその貧相なお手手で」


《貧相!?お主、儂のこの愛くるしい手を貧相というたか!?》


「うん」


《そこは否定するところじゃろ!?お主先程から危機感が無さすぎじゃ!儂がその気になればお主なぞ一捻りじゃぞ!?》


「うん知ってる。だからお世辞言わないんじゃん。どうせ何言っても最後はおっさんの心一つで生死が決まるんだしさ。そもそもこんな訳の分からない塔の先端にぶら下げられてるんだよ?龍なんて想像上の生き物が天空の王であーるなんて言ってるんだよ?どうしろっての?おっさん龍のご機嫌とりなんか出来るわけないじゃん!」


《……おっさん龍?いや、ご老人よりはマシじゃがもう少し何とかならんのか?》


「え?だって天空の王なんでしょ?つまり年食ってるって事でしょ?あ、じゃあこうしたら?黄金龍を略しておっさん龍。これなら渾名ってことで問題ない!というか何歳?一万歳くらい?」


《……四十六歳》


「え?四十六万歳?すっごい爺さんじゃん!」


《違う!四十六歳じゃ!この力溢れる儂のどこを見たら万年超えと勘違いできるのじゃ!そんな化石同然の輩と同じにするでない!》


「──父親と同い年とか反応に困るわ。せめて百歳は超えててくれないとファンタジー色が薄れちゃうじゃん」


《……儂に言われても困る》


「何で儂とか言ってるの?俺とか僕とか私とか余とか朕とか色々あるじゃん。若いくせに年よりぶるからおっさん龍なんて言われるんだよ!」


《言ったのはお主じゃがの》


「細かいこと気にしないの!お主って言い方もよくない!あなた、きみ、そなた、お嬢さん、レディ、マドモアゼル、色々あるでしょ!何で語尾がじゃなの?何なの?貫禄だしたいの?だったらおっさん龍でいいじゃん!」


《──儂、偉いんじゃぞ?とてつもなく強いんじゃぞ?世に名高い黄金龍じゃぞ?皆が畏れ敬い道をあける存在なんじゃぞ?ちーとばかし若いがそれもまた素晴らしいと誉め称えられるんじゃ。そんな儂がおっさん龍?そんな呼び方は嫌じゃ》


「でもさ、私からすればおっさんだよ?三倍以上年上なんだから。おっさん龍だよ」


《……お主先程黄金龍の渾名と言っておらなんだか?》


「ま、まあ呼び方は置いといてとりあえず助けてくれない?」


《……》


「……何よ?」


《……》


「──わかった!わかりました!私が悪うございました!おっさん呼びしてごめんなさい!偉大なる黄金龍さん!私を助けてくださいな!」


《やけっぱち過ぎてちーとも可愛くないのう》


「はぁ!?」


《助けることは吝かではないがのう。縄を切ったあとお主を地上に返す事が難しいのじゃ。──何故ならこの塔は儂への祭壇。そこに括られておるお主は儂へ捧げられた生け贄なんじゃ》


「生け贄!?どこの時代だよ!?」


《それじゃ、お主この世界の者ではないのじゃろう?つまり身分がない。ここで助けたとしても地上に下りれば奴隷として生きることになる。それならばいっそ、この儂が──》


「ちょっと待って!龍って肉食なの!?っておかしくないか、龍だもんな。いや待って、まだ若干ベジタリアンの可能性が──ないな。人が生け贄という時点でない。──ああ、せめて一度くらい恋をしてみたかった!お父さん、お母さん、先立つ娘をお許しください!あと弟よ!あまり無駄遣いするんじゃないぞ!あとパソコンのデータの消去を頼む!……さあ、覚悟はできた!おっさん龍!頼むぞ!苦しまないで済むよう一思いに殺ってくれ!」


《……覚悟を決めたところ悪いがのう。食べる気はないぞ?儂は美食家なんじゃ。お主のような貧相な小娘腹の足しにもならん》


「……あんた、貧相な手って言われたこと根に持ってるでしょ?」


《儂は偉大なる天空の王じゃぞ?広い心と懐の深さ、慈悲深き黄金龍──それが儂じゃぞ?そのような些細なこと根に持つわけなかろう》


「持ってる!絶対根に持ってるよその言い方!図体ばかりでかくて青二才の弟見てるみたいだわ!」


《青二才!?この儂を青二才じゃと!?何ということじゃ、この類い稀なる美貌と才能、圧倒的な力を持つ次期龍王たるこの儂を青二才と罵るとは!──だからお主は番がおらんのじゃ!言葉は刃!心ないお主の言葉で繊細なる儂の心が泣いておる!何ということじゃ!何ということじゃー!!》


ま、まさか?

この黄金龍って──子龍か!?

薄々その可能性もあると思ってたけどこれ確定じゃない?

万歳超えもいるんだから四十六歳って人間換算で──幼稚園児くらいか?

ぐあああと悩ましげに身をよじる姿が昔母に御菓子を買ってと駄々をこねていた弟と被るし。

つまり女子高生が幼稚園児をいじめてるという事に、なる?

いかん!

ますます婚期を逃してしまう!


「──あー、その、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわ。その……そう!あまりにも私の世界に馴染みのない姿をみて混乱していたの。いじめようとか貶そうとか思って言ってたわけじゃないのよ?ええ、本当に──」


《何ということじゃ!?お主ついに頭がイカれたか!?そのような変な物言いをするなどお主らしゅうないぞ!?どうしたのじゃ、何か変なものを食べたか?──いや、違う!お主何か企んでおるのじゃろう!?なんじゃ!何をするつもりじゃ!?》


「はぁ!?すっごい心外なんだけど!?ただちょっと優しく接してあげようとしただけなのに!それを何?頭がイカれてる!?何か企んでる!?言わせておけばこのがきんちょ龍!あんた次期龍王か何か知らないけどね!少しは女性の扱い方を覚えなさい!私に番がいない云々言ってるけど絶対あんたもいないでしょ!?だってあんたお子様龍だもんね?色っぽいお姉様方から見向きもされていないんでしょ?あっ、それともまだ大人の体になっていないのかなー?ごめんなちゃいね?お姉ちゃん僕ちゃんにひどいこと言っちゃったね?おーよしよし!いい子でちゅねー?」


《……グ、グヌヌ、グルォオオオオオ!ガァアアアア!?ウルァアアアアア!オオオオオオ!!》


ヤバイ。

何か地雷踏んだか?

アクロバットも真っ青だ。

ビュンビュン風がきてすごい寒いし揺れるし荒縄ギシギシ軋んでるんだけど?

それに合わせてアンアンとでも言えば一気に十八禁に──ならないな。

女子高生ブランドがあるにも関わらず圧倒的な色気不足。

お客様の中にお色気担当の方はいらっしゃいませんかー?


「はい!はいはい!はーい!ここに、ここにおるぞ!」


ボインをボインボインと弾ませながら超絶美人が手をあげる。

誰この残念美女?

重力ガン無視で浮いてない?

ま、まさか美人薄命の幽霊!?


「……幽霊様、幽霊様、どうかお帰りください。この度は呼び出してしまい誠に申し訳ありませんでした。どうかこの矮小な我が身を恨むことなく、この世の未練を断ち切り新たなる生を歩まれるよう心からお願い申し上げます。この世界にあの世があるかは存じませんがあなた様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。かしこ」


「なっ!?妾を幽霊というか!?」


「はい、今度は妾来たー!何なのこの世界?一人称が古すぎでしょ!」


はいそこ、さっきボインと言ってたお前が言うなとか言わない!

口に出してないからセーフなの!


「そ、そなた見かけによらぬ中々の猛者よのう。先程から我が子を弄するだけある」


「え?我が子?お子さんいらっしゃるの?ちっ……リア充か」


「─ひっく!声ひっく!我が子も真っ青なくらい声が低いぞ!そなた見た目はともかく女子であろう!?」


「あ?」


「いや、違うのじゃ!」


「はいはい、こんな見た目ですみませんねー。女捨てててすみませんねー」


「待て!待つのじゃ!そうではない!そうではないのじゃ!」


というかこの語尾がじゃの話し方。

頭を抱えて唸る残念美女っぷり。

物凄い風が吹いてるのにチラリとも捲れないパンチラ殺しのセクシー衣装。

おまけに空を飛んでて妾ときたら。


「……もしやそこで曲芸してる天空の王の関係者──いや、お母さまでらっしゃる?」


私の質問にハッと動きを止めた残念美女はどこから取り出したのか羽扇を私に突き付け高らかに言い放った。


「左様!妾こそ天空の王の母、この世界の天!全ての生きとし生けるものの頂点に君臨する龍王じゃ!!」


何だろうこの既視感?

似た者親子で微笑ましいと見るべきなのか?


「ちなみに何歳でらっしゃる?」


「え?年齢?そ、そこは──なっ!?なんと龍王様でらっしゃいますか!?と言うところであろう!?」


「百歳は超えてる?」


「ほほ!ほほほほ!妾は左様に若こう見えるか!」


「……いや、そこの駄々っ子が四十六歳って聞いたからお母さんも若いのかと」


「ほほほほ!我が子を駄々っ子と申すか!面白い!面白い娘ではないか!のう!そなたもそう思うであろう?──ええい、いい加減落ち着くのじゃ!」


細腕から繰り出された右フックが黄金龍の頭にクリーンヒット!

効果は抜群だ!


《はっ!?な、何故母上がここに!?》


「ほっほっほ!何故とな?そんなものこの世界の全てが妾の庭!どこにいようともおかしくあるまい!それよりも聞いてたもれ!妾が百歳!百歳に見えるらしいぞ!」


《──それは、……おめでとうございます?》


この反応。

龍王はかなりのご高齢とみた。


「ほっほっほ、妾は決めた!決めたぞ!そなたを息子の嫁にする!何、愛があれば種族の差など些細なもの!我が子よ!ようやく番が決まって良かったのう!」


「はぁ!?ちょっと待って!ちょっと待ってよ!嫁!?番!?ぜーったい嫌!無理!私爬虫類苦手なの!こんなお子様龍ごめんよ!」


《なっ!?お主この天空の王であり次期龍王たる儂の番という最も名誉ある存在になりたくないのか!?》


「うん、断固断る」


《……何故じゃ?》


「無理なものは無理」


《理由を聞いているのじゃ!》


「えーまず寒いし縄が痛いし切れそうだし爬虫類だし一人称が儂だし語尾がじゃだしお子様だし何より父親と同い年だから」


《──相分かった!そなたの望み叶えようぞ!》


しゅるしゅるーっと体が縮み美青年が現れた。

まずい、中身はあれなのに物凄い好みだ。

しかーし!

私は甘くないぞ!


「はい、不合格。話し方がお母さんと被ってる」


「ぐっ、それは親子なのだから似ていて当然であろう?──当然ではないか?──仕方ないのではないか?──うむむ、無理じゃ!そのように簡単に話し方は変えられぬ!」


「大体何でちょっと乗り気になってんの!?ちーとも可愛くないだの、貧相な体だの、心が傷つけられたー!みたいに言ってたじゃない!お母さんに言われたからってあっさり手のひら返すんじゃない!」


「まあまあ、そう言ってやるでない。そもそも龍種は数が少ないのじゃ。圧倒的な強さと長寿であるゆえの弊害であろうな。しかも今おる雌の龍は枯れたものが多くて幼き我が子に相応しいとは言えぬ。──実はの、龍は番となるものが決まっておるのじゃ。普通なら我が子が産まれたと同時期に番が産まれるはずなんじゃがどういうわけか見つからん。未だ産まれておらぬのかもしれん。龍の番が同じ龍種なら話が早いのじゃがそなたのような人族の場合もあるので候補を絞りきれず困り果てておるのじゃ。幸い龍種はどの種族とでも交配できるゆえ世継ぎの問題はないのじゃがやはり番とそれ以外では受け継がれる力が段違いでのう。是非とも見つけてやりたいのじゃが力及ばず寂しい思いをさせておった。昨夜も妾は己の無力さを嘆いて天を仰ぎ──そして思い出したのじゃ。先々代の龍王から聞いた流れる星に願えば望みが叶うというお伽話を。それほど昨夜の星は綺麗じゃった。──妾は祈った。天空の王たる我が子に相応しき番をと。すると──まるで妾の願いが叶えとばかりに幾つもの星が流れたのじゃ!──ここまで話せば分かろう?そうじゃ。そうして現れたのがそなたじゃ!」


「諸悪の根元はお前かー!!」


「なっ!?なんじゃいきなり!?妾が何をしたというのじゃ!?」


「私がこの世界に来た原因があんただって言ってるの!」


「わ、妾はただ祈っただけじゃ!」


「は?さっき祈ったら私が来たみたいな言い方したじゃん!」


「ぐっ、それは──子を思う母の願望じゃ!大体いくら妾が龍王であっても他の世界からほいほい人を呼び寄せられるわけなかろう!?むしろそなたが来たのではないのか!?」


「──そ、そんなわけないじゃないですか!私普通の人間ですよ?なーんにも取り柄の無い女ですよ?責任転嫁とか止めてくださいよー」


「「怪しい」」


「なっ!?親子揃って失礼ね!どこが怪しいってのよ!?私は無実よ!」


「「──怪しい」」


「怪しい怪しいってさ、私か弱い女子高生だよ!?何が出来るっていうのよ!?」


「言葉遣いが変じゃ」


「声も高く上擦っておる」


「多感な時期なのよ!別に変じゃないし!」


「いいや、そなたのその態度どこからどう見ても怪し過ぎる!」


「やはりお主──自ら儂の番になるべくこの世界に来たんじゃろう!」


「は?違うし!」


「ぐぬぬ、何故じゃ、何故そこまで拒むのじゃ!儂のどこが気に入らん!爬虫類が嫌というから人の姿をとったのにそれでも嫌と申すのか!」


「いや、だから別に気に入らないとかじゃなくて──あー、そうそう!実は私好きな人がいるの!もうキスも済ませてるし!だから彼以外眼中にないの!」


「何!?恋人はおらんと言っておったろう!?」


「恋人はいないけどキスは何回もしてるもんね!」


「何回も!?……なるほど、そやつを消せばよいのじゃな?」


「何でそうなる!?」


「なーに、驚く事はあるまい?古来より雄は雌を巡って争うものじゃ。うう、我が子よ!立派な龍になってくれて妾は嬉しいぞ!」


「お母さん!何火に油注いじゃってるの!?」


「おお!妾を母と呼んでくれるか!」


「そういう意味じゃない!」


「ほっほっほ、照れぬとも良いぞ!嫁姑の仲じゃ!仲良くやろうではないか!」


「話聞いてる!?」


「聞いておらぬな。──そういえば娘、今更じゃがお主の名はなんという?」


「は?名前?……龍崎美琴だけど」


「リュウサキミコト、リュウサキミコト──ふむ、良い名じゃ」


「そりゃどうも。ていうか何で二回言った?」


「言霊で縛るためじゃ」


「は?何それ詳しく!」


「お主他の世界から来たのじゃろう?だから勝手に元の世界に帰らぬよう言霊を用いてこの世界に定着させたのじゃ。さすればお主の唇を奪った輩も二度と手出し出来ぬからな!」


「はぁ!?何勝手なことしてくれやがんだ!ゴラァ!!」


「うむ、やはりお主はそうでなくてはな。殊勝なお主はちと物足りぬ」


「人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるんだよ?」


「ふん、逆に儂を蹴った馬の脚がおれるじゃろうな」


「その前に近づけぬじゃろ」


「──というかね、真面目な話ついさっき会ったばっかりの生け贄を嫁にするってどうよ?確かに他の世界の人間だから毛色が違うかも知れないけどさ、もっとこう相応しい相手がいるんじゃないの?天空の王の嫁が私みたいな貧相な小娘でいいの?駄目っしょ?良くないよ!私でいいならこの世界の人でもいいじゃん!もっと色っぽい人とか女らしい人とか可愛い子がいるよ?そっちの方が絶対いい!同じ世界のもの同士でくっつくべきだよ!」


「儂はミコトがよい」


「世界は広い!あんたの好みの相手が必ずいる!諦めるな!灯台もと暗し!その辺にいる子を誘ってみなよ!」


「──ふむ、何やら誤解があるようじゃの。嫁子、そなた既に普通ではないぞ?こうして妾達と話せることが何よりの証拠じゃ。並みの者なら遠目に見るのが精々で近づくこともましてや会話など夢のまた夢。耐性が無ければ狂い死ぬ事すらあるのじゃ。そういう意味でも嫁子は我が子の番となるに相応しい」


「嫁子呼び禁止!私は結婚しないからね!!年の差三倍とか絶対無理だから!」


「何を言う。息子の父は妾よりもずっと年下じゃぞ?年齢など些細なものよ!」


「私は普通の女の子なの!龍と一緒にしないで!」


「ミコト、安心するがよい。閨の作法は人と変わらぬと聞いておる」


「生々しい話をするな!このお子様龍!耳年増!」


「ほっほっほ、ほんに仲が良いのう。これなら直ぐに可愛い子が産まれそうじゃ」


「産まれないよ!?」


「確かに番に比べれば子は出来にくいじゃろう。が、問題はない。数をこなせば良いのじゃからな!儂に任せよ!」


「こんのエロ龍!!もっとオブラートに包んで言え!お前のせいで十八禁になったらどうする!?」


「お主時折訳のわからぬ事を言うのう。それにお主の言葉を借りるなら母上なぞ歩く十八禁であろう?」


「なっ!?妾のどこが歩く十八禁なのじゃ!」


「そのエロ衣装」


「この見るからに奥ゆかしい装いがエロ衣装じゃと!?」


「はぁ!?どこをどう見れば奥ゆかしいのよ!胸元強調!スリットざっくり!見えそうで見えない鉄壁のコンボ!!世の童貞達に謝れ!」


「す、すまぬ。──じゃが、これでも妾の大人しい方じゃぞ?息子の父を落とした衣装はもっと凄いんじゃぞ?」


「──は、母上、その衣装はミコトも着れるのか?」


「おいっ!そこのお子様龍!欲望に負けてんじゃないよ!このおバカ!」


「ふむ、ちと凹凸が足りぬが閨を盛り上げるには良いかもしれぬの」


「凹凸が足りないとか言うな!泣くぞ!」


「安心せよ、儂が責任をもって育てる!」


「余計なお世話だよ!何得意気に言ってるの!」


「ほほほほ!その意気じゃ!とはいえ息子よ、嫁子は非常に脆いゆえ扱いには充分注意するのじゃぞ?多少の怪我なら直ぐに治せるが先程のように取り乱しては容易く死んでしまうからの?」


「大丈夫、父上からもその旨はきつく言い含められておる!さぁ!ミコト!縄を解くゆえ儂の番になるのじゃ!」


「断る!縄は解いてもらうけど結婚する気はない!!」


「そんな照れずとも良いのに。ミコトは奥ゆかしいのじゃな──見かけによらず」


「コラァ!一言余計だ!というか何でわざわざ言った!?こんの見た目詐欺龍!」


「なっ!?て、天空の王たる儂を今度は詐欺龍呼びじゃと!?」


「はん!だったら中身残念龍の方がいいかしら!?お子ちゃま龍ちゃん!」


「儂はお子ちゃま龍ではない!成龍じゃ!」


「うっそ、成龍!?……あー、龍って実力主義っぽいもんね。どうせ何かの獣とか狩ってこれたら年齢関係なしに成龍ってやつでしょ?」


「ぐっ!?」


「ほら図星!!」


「な、何故分かったのじゃ?!」


「ふ、息子よ!これが愛の力じゃ!!」


「ちがーう!そんなものこれっぽっちも無い!」


「これミコト。そんなに揺れては縄で痛かろう?」


「だったら早く解いてくれない!?乙女の柔肌が傷ついてもいいの?」


「……儂の番になるか?」


「な・り・ま・せ・んっ!」


「ぐぬぬ、ならば──実力行使じゃ!!」



がちんっ!!



「──いったああああああああ!!頭突きかましてくるとかどういうつもり!?前歯が折れたらどうすんの!?」


「なっ!?どこが頭突きじゃ!情熱的な口付けに決まっておろう!!」


「はぁ!?今のが口付け!?笑わせんじゃないわよ!あんなのが口付けなわけ無いでしょ、この下手くそ!!」


「下手くそ!?儂の初めてを奪っておいて下手くそじゃと!?」


「奪われたのは私でしょうが!!何被害者ぶってんの!?というか私だって初めてだし!初めてがこんな頭突きとかあり得ないんだけど!?」


「何を言う!お主先程何回もしたことがあると言うておったじゃろうが!!」


「したことがあるのは夢の中でだよ!現実じゃ一度もしたことないし!恋人もいないのにしてるわけ無いでしょ!」


「……夢の中じゃと?──まさか、本当に?ああ、なんと言うことじゃ──」


「な、何よ?いきなりトーンダウンしちゃって──って何で泣くの!?ちょっと!どうしたのよ!?まるで私がいじめたみたいじゃない!」


「愛じゃ!まさに愛の力じゃ!」


ぼろぼろと大粒の涙を流す美青年の側で狂喜乱舞する残念美女。

何だこの光景?


「はいはいお母さんは黙ってて。──ってほら!泣き止みなさい!見た目は良い大人なんだから涙をふいて!」


「──やはり、やはり儂の勘は間違っておらなんだ!!ミコト、お主こそ儂の番じゃ!番なのじゃ!」


「だから違うってば!」


「いいや、ミコトよ。そなたは息子の番じゃ。間違いない。……まさか異世界に番がおるとはのう。通りで妾でも見つけられんかったわけじゃ」


「──あのさ、二人で謎に盛り上ってるところ悪いんだけど私は番じゃないからね!?いくら耐性があろうと嫁にもならないからね!?」


「いいや、お主がなんと言おうと儂の番に間違いない。何故ならミコト、儂は卵から孵る前から夢を見ていたのじゃ。小さきものが儂に拙い口付けをしてくる夢をな。産まれた後も毎日のように目覚めの口付けをしてもらう夢を見ている。──本来、龍の番は十年以内に見つかる事が多い。その間に見つからなければ番がいないと判断し他の種の雌を嫁にするのが普通じゃ。それゆえ儂も皆から番は諦めて嫁を探すよう言われたがどうしても諦めることができなんだ。──夢の相手こそ儂の番じゃとそれこそ産まれる前からわかっておったからの。父上や母上のように一度死に別れても万年近い時を経て再び邂逅することもある。夢の相手と番うためなら儂は何年でも待つつもりであったし少しでも早く逢えるよう世界中を昼夜を問わず探し回った。幼き龍と侮り刃向かってくる者共を返り討ちにする事で他を圧倒する力も身に付けた。次期龍王と呼ばれるほどにな。その肩書きにすり寄ってくる者共を蹴散らし、秋波を送ってくる雌どもを振り払い、多少荒んだ生活を続けるうちに何時しか天空の王の称号を得ていた。人族が儂を畏れ敬いこの塔を建てたのもその頃じゃ。見かねた父上と母上から絞め上げられて夢の相手のことを打ち明けたのもその頃じゃったな。──ミコト、儂が今日この場へ来たのは偶然ではない。予感があったのじゃ。どうしようもない胸騒ぎと高揚感。まるで引き寄せられるかのようにこの塔を目指した。そしてお主を見つけたのじゃ。一目みて思った。──儂の番は雄か?雌か?それとも両性か?と」


「おい!おーい!!こんの残念龍!!台無しだよ!!せっかくちょっと運命感じかけたのに!見直しても良いかなって思いかけたのに!一瞬でもそう思った自分を殴り付けたいよ!というか何でわざわざ言った!?最後の雄か雌かってその部分いらないでしょ!?」


「──本にそなたは父に似て女心がわからぬのう。妾の年齢をミコトにバラしてどうするのじゃ!嫁姑のような堅苦しいものではなく姉妹のような関係をと思うておったのに!婆さん扱いされたらそなたのせいじゃぞ!?」


「ちがーう!そこじゃない!年齢とかの問題じゃないの!あんた!私のこと煩い小娘って言ってたじゃないの!内心性別間違ってたらどうしようとか失礼なこと考えてたわけ!?そもそも声が思いっきり女でしょうが!!こんの節穴龍!!」


「ふ、節穴龍!?お主、儂のこの円らな瞳を節穴というのか!?」


「はん!番かもしれない相手の性別もわからない目なんか節穴呼びで充分だ!!」


「ちゃ、ちゃんと当たっておったではないか!大体判別しにくかったのは縄でぐるぐる巻きにされておったからじゃぞ!?縄がなければ即座にわかったとも!」


「いーや嘘だね!というか今さら何を言っても無駄だし!絶対あんたの嫁になんかならないから!!」


「嫁ではなく番じゃ!番になって欲しいのじゃ!」


「どっちもごめんだ!このおバカ!マヌケ!変態!いい加減縄を解け!紳士的な態度を見せろ!この残念龍!!」


「嫌じゃ!!番にならんと言うなら縄は解かぬ!どうせ儂は──っ、おバカで!マヌケで!変態の残念龍じゃからのう!……く、ははは、ふははは──な、なんと言われようと痛くも痒くもないわ!」


「ダメージ受けてんじゃん!すっごい顔に出てんじゃん!どんだけ打たれ弱いのよ!?」


「ううっ、そんな事、ない。わ、わしは、──って、てんくうの、おう、なのじゃ!」


「って泣いてるじゃん!?ちょっと、うわ、ごめん!言い過ぎた!謝るから!」


「つ、つがいに、……つがいに、なって──欲しい、のじゃ」


「ちょっ、それは狡いでしょ!?その顔でそれはダメでしょ!?」


「……ミコト」


雨に濡れそぼる捨て犬のような目。

すがるように訴えてくる。

行かないで、捨てないで、置いてかないで──。


だ、騙されるな!

これは残念龍!

これは節穴龍!

これはお子様龍!

ああ、でも、可愛い──


「があっ!ハア、ハア、危なかった!──ちょ、ちょっとたんま!まずはこの縄を解こう!話はそれからにしよう!ね?ほら!」


「……ううっ、」


「泣くなっ!その目で私を見るんじゃない!ああああ!」


「……ミコト」


が、頑張れ私!

負けるな私!

こいつはド失礼な変態龍!

キスがド下手なお子ちゃま龍!

私のファーストキスを奪った不届き龍だ!


「頼むミコト、儂の番になってくれ。──この通りじゃ」


大粒の涙からはらはらとした涙に変わったことで悲壮感が増す。

ちくしょう、顔が好みすぎてヤバい。

龍なんだからもっと爬虫類顔しとけよ!

というか本当にあんなド下手なキス相手がこの残念龍なのか!?

精々がフツメンでしょう!?

何でこんなにイケメンなの!?

卑怯でしょ!

罠だよ!罠!


「……友達からなら、まぁ、考えなくもない」


「ほ、本当か!?──ああ!ミコト!感謝する!」


言葉と共に縄が解け、そのままがばちょ!と抱き締められる。

ああああああああああああああああ!

何かすっごい良い匂いする!

くっそ!!

仕方ない!

だって顔が好みなんだ!

これは負けではない!

戦略的撤退、もとい、停戦協定だ!


「──見事!うむ、やはり血は争えぬな。妾もそなたの父を泣き落とし、宥めすかし、拐ったものじゃ」


「最後!しれっと言ってるけど最後の犯罪だから!」


「ほっほっほ、ミコトは面白いことを言うのう。龍種を誰が裁けると言うのじゃ?」


「番」


「ぐっ、──ほほほほ!妾の番は優しいからの。そのような事はせぬ!」


「でも母上が山を一つ消した時は反省するまで御飯抜きの刑を課していたのじゃ」


「これ!余計なことを言うでない!妾の威厳が薄れるじゃろう!」


いやいや、最初から威厳は地に落ちてましたよ?などとは言わない。

というか言えない!

だってそれどころじゃないんだよ!

龍って普通に心臓あるんだね!?

すっごいバクバクいってるし!

顔と中身が合ってない!

ああもうダメだ!




私、異世界で恋に落ちました。








美琴は天空の王に絆されて一年と持たず結婚する──はず。

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