外伝第1話 初めての戦闘
城塞の門をくぐると、オサムは自分のステータスを見ることが出来た。
”剣士Lv1 HP25 MP0”まさに最弱の剣士だ。
とにかくレベルを上げないとどうしようもない。
伯爵から貰った革鎧には矢が刺さった後が残っている。
恐らく防御力は着てないよりマシと言う程度だろう。
楯も木の板に革を貼り付けただけの貧相なものだ。
そしてサーベルとブロードソードを装備しているがこれも攻撃力は高くはないはずだ。
ブロードソードは重いため、オサムはサーベルを抜いて周囲を警戒しながら歩いた。
街近くのモンスターなら強さはたかが知れている、そのはずだ。
恐らく動物系の最弱のモンスターやゴブリン等の初級者でも倒せる相手。
しかしわからない。慎重に歩みを進めていった。
出来るだけ城塞から離れない位置で戦う事にした。
注意深く見ていると、遠くに赤い目をした小さな人型の生き物が見えた。
「ゴブリン・・・かな?」
もっと近づく必要があったが、ジリジリとサーベルを構え用心深くゆっくり近寄った。
ふとそのモンスターを見ると
”ゴブリン HP15”だった。
HPはオサムと大差はないがオサムの方が防御力や攻撃力は上回っているはずである。
「やっぱゴブリンか。HP15ね、さて、やりますか」
周囲を気にしつつそのゴブリンに向かっていった。
オサムは実際に剣を扱うのは初めてである。
初撃でどれだけダメージを与えられるか、または被害を被るか調べねばならない。
オサムはサーベルでゴブリンに攻撃を加えた。
ザクッと手に伝わる感触はこれが本物の戦闘であることの証だ。
「リアルだな、やっぱ」切った感覚が手に残っている。
ゴブリンは手傷負った。15あったHPが8に減っている。血も流している。
盾を装備し忘れていたので腰のベルトから楯を外し、装備した。
「おらぁ!」オサムは渾身の力を込めてサーベルを振り降ろした。
ゴブリンは袈裟斬りされ、光を放ち消えた。血すらも消えていた。
そして恐らくゴブリンが所持してたのであろう回復ポーションと光る小石を手に入れた。
回復ポーションは何本も持ってきているが、それも一緒にバッグにしまった・
光る石はグランパープルの革袋に。これはクリューズが言っていた事だ。
これでダメージも無くゴブリンとは戦えることがわかった。
しかし、他のモンスターも出てくるのだろう、油断は出来ない。
サーベルを振るう練習をしていると2匹のゴブリンが現れた。
「厄介だな、2匹も相手出来るのか?」
しかしやるしか無い、相手はすでにオサムに狙いをつけている。
2匹の内1匹はオサムが剣を横に振った時に偶然首に当たった。
いわゆるクリティカルヒットである。そのゴブリンは即死して光となって消えた。
あとはもう1匹のゴブリンだが、今のうちにダメージを見ておく必要がある。
オサムはゴブリンの振り上げる木の棍棒を楯で受けた。
ミシッという音がして腕に衝撃が伝わってきた。
HPが24になった。
「防御してもダメージは食らうんだな?」たかが1ポイントでも貴重な1ポイントである。
しかし盾で受けずに革鎧の強度も知っておきたい。
オサムはわざとゴブリンの攻撃を受けてみた。全力の攻撃だったのだろうが、4ポイント減っただけである。
「そういうことね。大体わかってきたぞ」そう言ってオサムは残った方のゴブリンを片付けた。
「かなり動きが遅いな、防御しなくても避けられる」
オサムは目障りなステータスを閉じることにした。
ただし、複数に囲まれると危険だ。オサムはなるべく1匹で行動している敵に狙いを定めた。
10匹程度を倒すと要領がわかってきた。
そしてゴブリンがドロップするアイテムは回復薬だけだと知った。
「ゲームなら突っ込めるけど命がけだしな、死ぬと終わりみたいだし無理はやめとこう」
オサムは堅実に倒していった。
始めた当初の攻撃では5ポイントから10ポイントしかダメージを与えられなかったが、
今では一撃で倒せる。サーベルも軽く振れる様になり戦闘に慣れ始めたのがわかる。
1匹の単独行動もしくは2匹だけを相手にするようにした。
数十匹を倒し終わってどの程度レベルアップしているかを確かめるためにステータスを見た。
”剣士Lv5 HP90 MPは10”ある
「剣士にMPって必要か?」と独り言を言ったが、恐らく何らかのスキルが使えるのだろう。
「えーと、現在HPは20か」最初のダメージ以外は受けていない。
「ということは、レベルアップで全回復はしない、と」オサムは徐々にわかりだした。
そしてゴブリンが落とした回復ポーションが10本程あるので飲んでみた。
するとHPゲージが90になった。
「1本でいくら回復するんだろう?とりあえず70ポイントか」
知るべきことは色々あった。
「多分今のままなら死ぬことはないな、時々HPを見ればいいか」
オサムはウィンドウを閉じてさらにゴブリンと戦闘を重ねた。
「ステータスボーナスは職業で自動割振りみたいだな」
ゴブリンを最初に倒した時のようではなく、確実に一撃で倒せるようになっている。
「ストレングスが上がってるんだな?」実際に力が上がっていることに気がついた、装備が軽く感じる。
1回3匹のゴブリンに囲まれ、危険な状況に陥ったが一撃で仕留められた。
「あれ?最後の1匹は強かったな?」
しかしそいつも2撃で倒せた。
「朝までたっぷり時間はある、やりこみ系なめんな!けどおもしれぇよこれ!」
オサムは夢中になってゴブリンを薙ぎ払っていった。
しかし、遠くの方でかなりの集団がいる、しかもこっちに向かってきているようだ。
「ん?あれはさっきの強いゴブリンか?けどでかいな、フィールドボスか!?」
危険なことはしないと決めていたが、どうしても確かめたかった。
オサムは突進し、周囲のゴブリンを倒しきると「あとはボスだけだぜ!」
1対1の勝負なら負けない自信はあった。
相変わらず敵はノロマだが、武器の大きさが違う。
当たればかなりダメージを食らうだろう。
オサムはヒットアンドアウェイで戦ったが、サーベルではあまりダメージを与えられない。
「クソ、サーベルじゃ無理かよ」
そろそろブロードソードを使うか、と持ち替えた。
相手のステータスを見ているとサーベルの倍近いダメージが与えられる。
しかも最初よりかなり軽く扱える。
「そういうことかよ・・・」
恐らくブロードソードの方が攻撃力が高いのだろう。
今の自分のHPを見ると最大235ある。しかし現在HPは90のままだ。
オサムは回復ポーションを1本飲んだ。すると190になった。
「100ポイントも回復するのか、けどもう1本」
と全回復させた。
「しかし強いな、コイツ」オサムは攻撃を避けたり楯で受け止めたりしながら戦った。
それでも一撃食らうと15ポイント前後HPが減る。
自分のHPステータスが半分にならないようにポーションを飲んで戦い続けた。
結局5分以上かかったが、なんとか倒せた。
「舐めてかかったら危ないな、まだ俺のレベルが低すぎる」
オサムは強敵との戦いで危険がわかった。
「かなりポーションつかっちゃったな、街からも遠くなったし戻るか」
オサムは城門の方へ歩いていった。
不思議と疲れはないが、頭を使ったので精神的に疲れが出ていた。
「まだ夜が明けたわけじゃない」
オサムは途中に出現するゴブリンをブロードソードで斬っていった。
最初と比べると簡単に倒せる。
「ザコなら問題ないか」
そう言って次々に現れるゴブリンをかなりの数倒した。
「ふぅ、やっと城門か」
オサムは冒険者用の小さな門をくぐって中へ入った。
「えーと俺のステータスは・・・」オサムはフルステータス画面を開けてみた。
もうすぐ朝日が現れる頃だ。
”剣士Lv21、最大HP524、最大MP40、スキル ウィンドソードLv2”
「おぉ結構上がってるな、21か」
「ってこのウィンドソードって伯爵が見せてくれた剣技だな?」
オサムは謎が解けた。「今度はスキルも使って見よっと」
そう言って城に戻った。
疲れていたが自分の部屋へ行きドアを開けて「ただいま~疲れたぁ~」と力なく入った。
どうせ誰も居やしない。
しかしそこにはリムルが居た。
「ご無事でしたか!エリトール様!」とリムルが駆け寄って来た。
「あ、リムルちゃん、部屋に帰ってなかったの、待っててくれた?」オサムが言うと
「当たり前です!心配で・・・心配で心配で・・・ずっとお待ちしてました、
こんなにボロボロになって・・・」
オサムは自分の鎧を見るとかなり傷だらけになっていた。
恐らくあのボスと戦った時の傷だろう。
「ごめんね、リムルちゃん、心配させて」
疲れていたが腹も空いていたので食事があるなら、とリムルに頼んだ。
鎧はリビングに脱ぎっぱなしにして椅子で休んでいた。
「とは言え、1日で21レベルか、ボスを倒した事が大きいんだろうな」
リムルが食事を運んできてくれたのでかなりがっついて食べてしまった。
HPと疲れに関係性は無さそうだ。腹がふくれたのでオサムは満足した。