待ち合わせ
「それにしても、あっさりと抜けましたな」
「来る途中丁度レベルアップして覚えたからね。新規スキルは色々一通り
試したからね」
「レベルとかスキルとか理解できませんが、なんとなく通じましたぞ」
つ、疲れた・・・良く考えたら、ずっと歩き通しだったわ。正直足パンで
座ったりしたら立てなくなる自信があるね。
「姫様とは、どこかで待ち合わせですかな」
「なぜそう思うんです?」
「まず、休息も無く急ぐ必要性ですかな。それと警戒している感じがしますぞ」
「それで」
「急ぐと言う事は、時刻的な制限があるのではないですかな」
「まあ、当たらずとも遠うからずって感じです。別に時刻指定なんてしてません
けど急ぐ理由は相手が真希だからかな。あいつは待つのが得じゃないからな」
「なるほど」
ん?来たな。
ずっと、後をついて来てたのは知ってたぜ。短剣を右手で引き抜き逆手にもって
左手には独鈷を握る。
「どこを見てる後ろだ馬鹿」
「ぐえ!」
俺は腹に衝撃を受けて転がる。服を見るとクッキリと足跡が残っていた。
ガキィーン
剣と剣がぶつかり金属音を轟かせて振り返ると真希が大剣をチンさんの剣を受け
止めていた。どういう事だ。受けきったのか後ろに飛び退くチンさんに真希は薄
笑いを浮かべていた。
「馬鹿、健治。あんたにはアレが何に見えてるか知らないけどさ」
再び両者が剣をぶつけ合う。互いに攻防の剣を振るい火花を散らす。そして俺の
横で剣を構えた真希が言葉をつづける。
「あたしには得体のしれない化け物にしか見えないんだけどさ」
そういう彼女とじぃさんを見比べて、考え込む。とりあえず目の前で何方に加勢
すべきかと言う事である。この蹴りがなかったら、おそらく切られていたって事
は理解できる。では、どっちが蹴ったのかだが向きと方向からそれは明らかだった。
「お前誰だ?」
俺は少女の方に尋ねた。
「ボケていると思ったら・・・」
「へその右上に黒子がある奴なら幼馴染にいるが」
「!!!・・・あんたが。なんでそれを知っているのよ」
「禁」
俺は少女に結界を施した。
「ジッとしてろよ」
「ほお、結界拘束ですか」
結界で弾かれて攻撃が無駄と知ると男はこちらを見た。
「束縛じゃなくて保護だけどな」
「ほお」
「もう一度言うぜ、お前誰だ?」
「それは、この私に言っていたのでしょうか?」
チンさんによく似たそれは、不敵な笑いを見せた。
「ああ、この真希は、明らかにニセモンだけどな。敵対意思がねぇ」
「私もですか」
「ああ、本物のじぃさんはどうした」
「さぁ、知りませんよ」
俺に飛びかかって来る男に『炎』をぶつけてスキを作り後方へと飛び退く俺の
後ろで素直に立っていた少女の顔がワニ頭に変わり男の横腹に食い込む歯が彼
の腹部へ容赦なく食い込んでいった。
「お前・・・あん時のワニか。雌だったのかよ」
変身なのか幻惑なのか知らないが、すでに人の形から爬虫類へと変わって行っ
た。大剣と思っていたものは彼女の尻尾らしい。
噛み砕かれて横たわった彼はピクピクと痙攣して消えた。後に残ったのは腕だけ
だった。しかも、その腕はチンさんの腕に間違いなかった。
ワニっ娘は、再び女性の様な形を取ったが爬虫の尻尾が付いていた。
「寄生タイプの魔物。お前の狙ってたから助けたかった」
「んー。確認だけど、治療のお礼ってやつか?」
「まだ、人語は上手く扱えない」
「真希のまねしてたろうが」
「お前の記憶、読んだ。再生しただけ」
「良くそんな事すぐ出来たな」
「記憶ずっと見てた学習するのに時間かかった」
「ん?時間かかったって何時からだよ」
「助けられてから、ずっと・・・疲れた」
そう言って、彼女はワニの様な姿に戻った。仕草で乗れと言うので彼女に乗る
前にじぃさんの腕を袋に詰めてから、跨ると思った以上の速さで走り出した。
こうして乗ると結構広い、畳一畳分くらいはあるかもしれない。
ワニと言ったが、ワニの様な突起はなく、鱗で覆われているので恐竜のチラノ
系の小型版とも言えなくもない。走る時は2本脚で背中は平らな部分があって
座るのに丁度いい。人語を放す時だけ上半身が人型になると言えば解りゆすい
かもしれない。しかも上半身が人型や完全人型は何方も大小あれど魔力を必要
とするので疲れるらしい。とは言ってもそのままだと会話出来ないので、顔だ
けでも人化してくれと言ったら上半身が最小らしかった。つまり頭だけでも出
来るが、それと上半身だけとでは消費魔力は変わらんと言う訳だ。
「まっ正直助かったよ」
俺たちは姫の元へ疾走していた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お休みにならないのですか?」
「・・・」
「あの方を信頼してらっしゃるんですね」
「あいつはさ。ヘタレで不真面目な態度を仮面にしてさ。それでも決めた事は
如何にかするからさ」
真希の横にネフィラも立って同じ方向を見つめた。
「信頼とかじゃないさ。どちらかと言うと『たい』かな?」
「私も同じです。無事に・・・」
真希は担いだ大剣を降ろして腰溜めして目を顰めた。
「来る」
「土竜の様です」
「それってのはドラゴンってことかな」
「そうですが、人を乗せていると思います」
「なぜか聞いても」
「顔が人型をしています。話す相手がいると言う事です」
「その答えだと、普通は人型じゃないって聞こえるけど」
「その通りです」
目を細めて月明かりの中、その影はやがてはっきりとその姿を彼女達の前に
現すと、その人物が誰なのか、わかった。
「あいつ」
「北村様の様ですね」
走り込んできた健治は少しだけ困った顔をしてから袋を差し出した。
「遅いよ」
「待たせた」
「これは?」
「じぃさんの腕だ」
「・・・」
「此方で、詳しく・・・」
健治は馬車に隣接されたテントの中へと進み、状況の説明を始めた。