決断
「きびきび働けぇ」
ワニの様な顔の男が振るう鞭が、一人の青年の背中を撃つ事で彼が持っていた
籠から大小様々な石が地面に転がる。
倒れた青年は痙攣しながら白目を向いて意識がそこにない事を見て取れた。
「ガラ」
鞭を振るった男は別のものに声をかけられ振り向く。
「これは此れは、如何なさいました」
「進んでおるか」
「はっ予定より2日程の遅れでしたが、ただ今は順調です」
「まて、殺すな」
首を跳ねようと近づくものを止めた。
「しかし、これでは」
「これの家族はいるか?」
「私だ」
「今日のノルマを越えられたら助けてやる、あとは意味はわかるな」
トンテンカン。トンテンカン。
石を叩く音が鳴り響く中。10メートル規模の石造が作られている処だった。
そんな光景を前に老剣士チンは奥歯を噛みしめていた。
「神殿?・・・儀式か」
男は影の中に身を潜めていたが、やがて消えていた。そして彼は王都へ向けて
疾走していた。全力で風の加護であるアイテムを使ってまで走った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なあ、土を盛り上げた、だけでホントに平気かな」
「垂直に五メートルもある壁を登られたらアウトですよね」
「山なりなら意味は無いかもしれませんが、真直ぐな壁面を登るのは難しいと
思いますよ。それにここら辺は粘土層なので仕上げをします」
そう言って王女は、何か赤い魔石の小さなものを壁に沿って置いて行くと
しばらくして真っ赤な炎が噴き出した。そして村を一周しなから炎が出る魔石
を置いては何か唱えた。
「此れで表面が焼けて硬くなります」
「でもこの高さで平気」
「ええ、ですから簡単な結界を張ります。それにただ助けるだけでは意味があり
ません。治癒施設が必要でしょう。それに壁は敵の侵入を一点に誘導する意味
もあります」
「だから門を作らず、ここだけ開けてあるってことね」
村を壁が囲むなか、一カ所だけつまり、この馬車の位置だけ壁が無い。完全に閉
ざしていれば攀じ登る事もあるが、開いてる場所があればそこを目指すのは自然
な事だろう。特に知性らしいものが無ければ疑う事無く。
「問題は、壁を飛び越えて来る者の方にあります」
緊張が4人の口数を奪って行った。黙々と何かわからないものの為に準備を進め
ている中、そうしている間に日差しが暮れかかっていた。
「遅いですね」
美咲の言葉に真希が「ああ」と答え、壁の上に登っていた健治に手を振る。
「ん、まだ何も動かないな」
「・・・そっか」
少女の様子を見ていた王女が、馬車から顔を出した。
「帰還します」
「えっ」
3人がそれぞれの場所で王女を見る。
「このままここに残るのは得策ではありません」
そう言いながらも彼女は唇を噛んで小刻みに震えていた。その姿を間近かで見
た真希は「そうだね」と帰還の為に馬を引き馬車まで連れて来る。
「良いのかよ。じぃさんほっぽっといて・・・」
「保護者した民間人が優先です」
「・・・でもさ、あ」
「健治」
真希は健治に強い口調で言葉を遮り、ジッと見つめて来た。
まるで、その言葉は今、言ってはならないよと諭すように・・・。
壁から降りると真希にだけ聞こえる様に彼女に近づくと、そっぽを向くような
態度で小さく「俺は残る」と言った。その言葉に彼女は振り向いて口を開けたが
何も言わずに閉じた。
「美咲、念のため。もう一度治癒して置いて」
「・・・あっ、うん。わかった」
そして彼女は馬の元へ行き、鬣を優しく撫でる。
「お願い。上手くできないけど許してね」
御者台に真希と健治が並ぶ様に座ると王女と美咲は馬車の中に入った。
「行って」
それは、馬への言葉なのか。彼への言葉なのか馬車はゆっくりと進み始めた時
御者台に真希の姿しかなかった。
過ぎ去る馬車を見つめて、木の影で立つ健治は「任せろ」とだけ言って林の中
へと駆け出して行った。
健治にとって真希は幼馴染というべき存在であった。小学生の後半転校生として
彼女と同じクラスになり、家も2つとなりに住む事になった。お互いの隣の家が
美咲でありるが、彼女は真希と比べれば突然現れた健治には興味が無いような
関係であまり関係を持つ事もなく過ぎた。それは親友を取られた様な、そんな
気持ちが彼女にはあったのかもしれない。それほど健治と真希はうまが合った
様になって行った。だだ中学になり彼女が部活に入ると彼は一人先に変える様
になり彼女が声をかけない限り、彼から話さなくなっていった。
林の中へ入った彼は、短剣を構えて奥へと進む。そこに何かを感じて・・・。