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美咲

「おい、美咲いいの?」

「えっ」

弓を引き締めて的に視線を凝らしていると初瀬先輩に突然声をかけられて視線が

先輩とぶつかる。

「そんなに見つめられると恥ずかしいわ」

両手で顔を隠すような、素振りで指と指の隙間を開けて先輩は舌を出す。

「時間。今日は休むって言ってなかった?」

「あっ、御先です」

「おつぅ」

初瀬先輩は手を振って、弓を構えた。その横を蒙ダッシュで弓道部の部室から

急いで、駆け出した私は腕の内側に目を走らせて時計の針を確認して焦る。

「しまったぁ~」

誰に聞かせるでもなく弓道着のままな事に気がつくと立ち止まって、一歩後ろ

に下がってから考えを改める。

「いっかぁ~。着替えている暇無いし」

視界が急に悪くなり1メートル先がまるで薄ボンヤリとしか見えなくなる。

「あちゃ~、間に合わなかったか」

私の住む辺りは、この季節になるとピンクの霧が立ち込める。まっ正体は実は

霧ではなく花粉なんだけどね。

小学生の頃は白い霧とピンクの霧があって白は朝、ピンクは夕方の霧だと本気

で信じていたが大きくなる付け、それが霧ではなく霧の様に花粉が集まって

出来る言わば公害の様なものだと知った。

もうこうなると視界1メートル。走るのも危険なのでゆっくりと歩き出す。

「もし、花粉症だったら地獄ね」

私はそう呟いて、あぜ道から足を踏み外さない様にしながら歩を進めていた。

「よお、美咲じゃん」

「んん?」

影が手を振っている。近づくと、それがクラスメイトの真希だと分かる。

「真希?」

「このビン霧やばいよね」

「だよねってどうしたん?」

「視界が悪くて足踏み外して田んぼにボチャン」

「マジ」

「ちょーやばすぎて、ムカつくぅー。もう靴の中までドロドロだよ」

真希は、私の方を見てビックリしたような顔になる

「って、あんた。なにそのカッコ」

「ああ、部活してて急いできたから・・・着替えてない」

「弓まで担いで、でも良かったね」

「なんで?」

「誰にも見られないよ。そのカッコ」

私は彼女にカバンを握りしめながら指さして見せる。

「ふふふっ、目撃者はあなただけね」

「ん?ああ、私がいるか」

「口封じに・・・」

「み、見逃して下さいましお代官様」

「メルボルンのダブルアイスで手を討ってあげる」

「それって普通、逆じゃね」

「あはははは」

手をひらひらさせて真希が何かを言おうとしてる姿が消える。

「あ?真希」

私は真希が足を踏み外してまた田んぼに落ちたと思い声をかけるが返事が無い。

「ちょっと気絶でもしてるの?」

感覚で田んぼの方に視線を向けて目を凝らすが何も見えない。それどころか

ある筈の田んぼの土手すら見えない。

何が何だか分からないまま田んぼへ降りた。降りた筈だった。


そして姿を探した。


クラスメートである真希の姿を、そんなところにはある筈もないと知りつつも

辺りを確認せずにはいられなかった。

そしてピンクの霧の中、球状の黒い霧がある事に気がつき、その霧から1本の

足が生えていた。その足は真希の靴を履いてスルスルと黒い霧の中へとゆっくり

消えていくのを見て、咄嗟に掴んだ。


私はズルズルと足を放すまいと必死で手繰り寄せていた。

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