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人形少女と少年の話  作者: 高瀬夜
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森の中で

初投稿になります。

 森の朝は早い。

 鳥たちが目を覚まし、美しいその声で朝の歌を歌う。植物たちが目を覚まし、大きくその体を伸ばす。その時に落ちる朝露の音で、森の魔法使いは目を覚ます。

 森の魔法使いの目覚めは正直よくはない。目は辛うじて開いているが、体は寝ているというのが一番的確な表現だろう。起きて30分は使い物になりやしない。そしてキッチンから珈琲の良い香りが漂い始めた頃にようやく目覚める。服を着替え、髪をとかす。先に目を覚ましているマンドレイクなどの薬草達に「おはよう」と挨拶をし、木でできた階段で下へと降りる。

「あら、今日はお早いのですね。オーナー、お早うございます」

 キッチンに向えば、朝食の準備をしている少女が魔法使いに気づいて挨拶をする。

「だから、その呼び方はやめてくださいと何度も……。はぁ、お早うございます。アルエット」

「しかし、オーナーはオーナーでしょう?」

「確かにそうですが、貴女の所有者というような呼び方はあまり好きではありません」

 そんな話をしながら、二人キッチンに並んで朝食の準備をする。

「それでは、今日は帰りが遅くなるのですね」

 朝食の準備が終わり、二人は向き合って朝食をとる。否、正確に言えば朝食をとっているのは魔法使いだけである。アルエットと呼ばれた少女は彼のケープのほつれているところを直している。

「ええ。でも月の昇りきる前には帰ってくるつもりです」

「ではそのぐらいの時間に、夜食を準備しておきますね」

「……何度も言いますが、火の扱いには十分に注意してくださいね」

 かちゃん、と彼はカップをお皿に置き、真剣な蒼い瞳で少女を見て言った。

 その言葉にアルエットは困ったような、それでいていたずらそうな笑みを見せた。

「わかってますよ。私は人形だから火がつけば一瞬で燃えてしまう。それに、私がいなくなったらオーナー、またひとりぼっちになってしまいますものね」

 彼はこほんと咳払いをして、残りの珈琲を飲み干した。

 食器類を片付け、アルエットからケープを受け取り、魔法使いはドアに手をかける。

「それでは、いってきます。店番頼みました」

 ドアにかけた方と反対の手でアルエットの栗毛色の髪を撫でる。アルエットは子猫のようにそのピンク色に輝く瞳を細める。

「店は任せてください。お気をつけて」

 その言葉に魔法使いは頷き、ドアを一息に開けた。春の暖かな風が彼を包み込み、そしてその姿を風景の中に溶かしてしまった。彼はいつもこうして、風になって町まで降りる。

 風を見送り、アルエットは外に出る。庭は春の草花で埋め尽くされている。

 少女はドアにかけてある札をひっくり返し、うんと背伸びをする。

「さて、今日も頑張りましょう」

 鼻歌まじりに閉められたドアには木製の板に『OPEN』と書かれた看板がかけられており、風にふかれ小さく揺れた。


***


『PERDU MAISON』

 その店は町から少し離れた森の中にひっそりとたたずんでいる。二階建ての小さなログハウス。魔法使いは2代目店主である。少年時代にふと尋ねたこの店の美しさに心惹かれ、20歳の時に家をこっそり抜け出し、初代店主に弟子入りさせてもらった。始めはただ店を継ぐだけのつもりだったが、初代の魔法までも継ぐことになろうとは当時の小さい魔法使いは思いもしなかっただろう。しかし、幸か不幸か、彼には魔法使いの素質があった。教えられた魔法はすぐに吸収し、3年後には初代を越える魔法使いになっていた。これが原因ですぐに二代目となるのだが、話せば長くなるのでまた別の機会に話すことにしよう。

 彼は基本一人で店の切り盛りをしていた。一時期、彼を慕う少女が手伝いとして働いていたが、魔法使いと普通の人間の過ごす時間は大きく違いすぎた。それに気づいた彼は少女を追い出し、また一人となった。

 魔法使いは周りの動植物からエネルギーをもらい、それを使って魔法を使う。しかしそのため、人間よりも生命エネルギーが強い。彼らの寿命はおよそ500年から600年。早ければ人の社会が5回替わってしまうぐらいである。そのため、どんなに親しい友人、知人、家族ができたとしても必ず置いていかれる。もちろん消えゆく命をつなぎ止めることも、自ら命を絶つことも彼らにはできないことではない。しかし、それは禁忌であり、使えばその者の命は完全に消滅し、輪廻の輪からもはじき出される。二度と生を与えられることはない。そのため彼らは孤独の中、彼らの生を全うする。

 小さい魔法使いは心やさしい青年だった。だから身近な人が去り、一人になってしまうことが怖かった。だから少しでもその恐怖から目を背けるために、鉱石のエネルギーを借り、人形にその生を与えた。そして生まれたのが、人形少女の「アルエット」である。

 アルエットは腰まである長い栗毛色の髪とピンク色に輝く瞳を持った15歳ぐらいの少女である。彼女は家事全般が得意である。そのため、魔法使いが町の様子を見に行っている間は家事から店番までの全ての仕事を行なう。

「さてと、家の仕事はすべて終わりましたが」

 アルエットはエプロンを外し、上で括っていた髪を下ろしながら、ちらりと店の時計を見る。時計の針は正午を回ろうとしていた。

「……やはり誰もいらっしゃいませんねぇ」

 とほほとアルエットは肩を落とした。

 そもそも、町外れの森の奥。そんなところにある小さな店に訪れる人はそうそういない。たまに店の評判を聞いて、魔法の道具を買いに遠方から訪れる客もいるが、そちらの販売は基本夕方以降であり事前の連絡が必要なので、アルエット一人の時に来店されることはない。

 暇つぶしに作ったクイニーアマンの生地を棚の中で寝かせ、うん、と背伸びをする。それでもまだお茶の時間よりも前だった。

 本でも読んで時間を潰そうか、薬草たちとおしゃべりしようか、そんなことを考えていた時。チチチ、と窓から一匹の青い鳥が入ってきて、アルエットの差し出した指に留まった。

「あら、こんにちは。どうかしたの?」

 鉱石のエネルギーを使うアルエットは動植物たちと会話ができる。そうして外の様子などを教えてもらうのだった。

「え、それは大変じゃない!」

 鳥から何かを聞いたアルエットは急いで外靴を履き、ドアを開けた。そしてドアにかけてある『OPEN』の看板を『CLOSE』にして鳥に声をかけた。

「その子がいるところまで案内お願い」

 鳥は一度、長く鳴くと森のある場所に向かって飛び出した。その後ろをアルエットは追いかけ、森の中に入っていった。


 森の奥深くに入っていくと、だんだんと薄い霧が立ちこめ始めた。

 長居をすると危ない。そうアルエットは思った。

 魔法やエネルギーには良いものもあれば、必ず悪いものもある。特にこのような森の奥深く、太陽の光が届かない暗い、湿った場所には陰のエネルギーが溜まりやすい。森で彷徨い死んだ者の霊やあまりにも長い時間が経ち、そのエネルギーを多く吸い込んだ樹木が新たにエネルギーを得ようと、生ある者を取り込もうとする。

「いそがないと」

 アルエットは青く輝く鳥を見失わないように森の中を駆ける。

 森の中心に程近いところで、鳥は止まった。少しして息を切らせながらアルエットが追いつく。そこには黒髪の少年が倒れていた。瞳は固く閉じられていて、足には近くの蔓が少年を取り込もうと巻き付き始めていた。アルエットはその少年の傍らにしゃがみ込み、蔓に手を当てた。

「だめですよ」

 鉱石のエネルギーは植物のエネルギーよりも強い。アルエットが手に力を集中させれば、バチン、と音をたて蔓は飛び散った。


***


「ううん……」

「あ、気がつかれましたか?」

 少年が目を覚まし、最初に見たのは緑目の白猫だった。驚いて体を起こせば、くらりと目眩を起こす。その体を誰かに支えられる。

「急に起きたりしちゃだめですよ。大丈夫ですか」

「……頭が痛い」

 大丈夫かと尋ねられた声に少年はぼんやりとした頭で答える。

「とりあえず、何か口に入れた方が良いですよ」

 そう言ってその人はスープを渡してきた。少年は渡されたスプーンでスープを少しすくって、口に運ぶ。口に食べ物を入れたおかげで、少しずつ少年の意識ははっきりとしていく。

 すっかり目を覚ました少年は、ぐるりと自分のまわりを見渡す。

 木製のベッドで、周りには小瓶が並べられた棚やいろいろな本や筆記具、裁縫道具などが散らかったまま置かれている机があり、窓の桟にはピンク色の小さな花が生けてあった。開けっ放しのドアから見えるキッチンでは、栗毛色の長い少女がやかんに火をかけながら、鼻歌を歌っている。

 これはあの子が作ったのだろうか。

 スープをまたすくいながら、少年はそんなことを考えていた。口に運べば、ふわりと広がるやさしい甘さ。こんなスープを飲んだことはない。

「……おいしい」

 気がつけば、そんな言葉が少年の口からこぼれていた。はっとして顔を上げれば、こちらを見ていた少女と目が合う。少女は照れ笑いを浮かべていた。少年は気恥ずかしくなって、目を逸らした。


「それにしても、どうしてあんなところにいたんですか?」

 近くにあった小さな椅子に少女は座り、紅茶を飲みながらそんなことを聞いた。

「……母さんの、薬草を採りに」

「お母様、ご病気なのですね。……どのような症状なのですか?」

 病気と聞いて、少女はごちゃごちゃした机の上のから紙の束とペンを取り出して、何かメモを始めた。それを見て少年は慌てた。

「ここ、病院なんですか?貴女は医者なのですか?」

「いいえ?」

「え」

 まさかの返答に少年は間抜けな声を出してしまった。

 医者でもないのになぜそんなことを聞く?

 そんな気持ちがきっと表情にも出ていたのだろう。

「そんな顔をなさらないでくださいな。オーナーの薬はよく効くと評判なんですよ。……まぁ、よっぽどのことじゃないと、薬は出してもらえないんですけれど」

 最後の方はもごもごと小さくなっていた。それでもやはり信じられないような表情を浮かべる少年に、少女は意地悪そうな微笑みを浮かべながら続けた。

「論より証拠。とりあえず症状を教えてくださいな。そしてそれに合ったお薬を出しますので。あぁ、あとお母様には『ネイ』という名を伝えてください。貴方のお母様ならきっとご存知でしょう」

 疑いつつも、少年は事細かに母の症状について時に少女が質問に答えながら話した。その診断から、少女は棚からいくつかの袋を取り出し小分けにし少年に手渡した。

「これを毎食後必ず飲んでもらってください。症状が良くなっても無くなるまでは必ず。……もし、もし、何かあればまたいらしてください。そのときはきっとそこのスフェンが案内してくれるはずですから」

 スフェンと呼ばれた白猫はニャオンと鳴き、少年の上に飛び乗ってすり寄ってきた。

「……わかりました。ありがとうございます。えっと」

「あぁ、申し遅れました。私は『PERDU MAISON』店員、アルエットと申します」


前々から書きたいと思っていた話なので、一日で5000字というハイスピードで仕上げました。誤字脱字あればすみません。

まだまだこの話は続きますが、どのくらいのペースで上げられるかは分かりません。一週間に1話あげられればいいなぁと思っている次第です。ゆっくりしたい。

個人の趣味で書いているものなので、軽くおにぎり片手にでも読んでもらえたら嬉しいです。

 

次の話は少年の話になるのではないかと思っています。予想です。

なんせ、自分の物語の書き方はキャラたちの行動の記録係のようなものなので、次にどう動くかは自分にも分かりません。急に動くのをやめたり、はたまた急に走り出したり……。記録する身にもなって行動してくれよ。


とこんなもんですかね。なんせ発投稿なのであまり仕方がわかってないのです。ええ。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。良ければ次も見ていただければ嬉しいです。ではでは、また!

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