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名探偵・藤崎誠シリーズ

目玉焼き事件 ― 名探偵藤崎誠の事件簿

作者: さきら天悟

「おいッ」

太田は、低く小さな声で怒鳴った。


藤崎は顔を上げる。


「その下品な食い方をやめろよ」


藤崎は黙々とフォークとナイフを動かす。


「おい」と太田はもう一度注意した。

食べ続ける藤崎を見て諦めたのか、太田はコーヒーを一口飲んだ。

太田はハンバーグにナイフをつけてなかった。


「お前も食べろよ。

それとも、政治家様はもうファミリーレストランの

モーニングハンバーグセットなんて食えないのか?」


「俺はいいよ。

これでもスタイルを気にしているんだ。

政治家だからな。

演説する時、腹が出てると、格好悪いだろう。

それより、その食べ方、なんとかならないのか」

太田は藤崎を見つめた。


「お前もやってみろよ。

美味しいぜ」

藤崎はナイフで皿を差した。


太田は藤崎から視線を外し、首を小さく振った。

「それより、N市の産業振興、何いい案はないのか?」


二人は愛知県のN市に来ていた。

名古屋市ではない方のN市だ。

N市は太田の出身地で、もちろん選挙区でもある。

太田は、N市の商工会長をしている講演会支部長に

地域産業の振興政策を相談されていた。

太田はその事を普段から考えていたが、

決め手となる良い案がなかった。

N市は他の地域より経済状況が良かったから、

頭の隅に置くだけで、後回しにしていた。

それほどに国家の問題は山積みなのだ。

一方、N市はT自動車グループのおひざ元で、

多くの自動車部品の会社や工場があり、

雇用は県内でも良い方だった。

しかし、支部長は10年後を見据えて心配していた。

N市の地域経済が崩壊するかもしれないと。

それは電気自動車の出現だった。

電気自動車はエンジンを持つ自動車に比べ、

圧倒敵に部品点数が少ない。

『電気自動車は軽自動車より小型で安くてエコで良い』

と一般的に言われるが、その分雇用が減るのである。

また簡単に組み立てられるため、

現地で製造する方が安く、日本からの輸出はできないのである。


そんなことがあって太田は、藤崎にアイデアを借りようと思い、

現地の視察に連れてきたのだった。

二人は、これから漁港と魚市場を視察する予定だ。


藤崎はフォークとナイフを置いた。

「一つ案がある。カジノだ」


「カジノだ?」

太田は上擦った声を上げた。

「空港から遠いこんなところで?」



その時だった。

「混んでんな~」

顔が赤い、アロハを着た、若い男が肩で風を切り入って来た。

その後に、男女二人ずつが続いた。

ヤンキーっぽい連中だった。


太田は顔を伏せた。

からまれるのを心配したようだ。


「いかにも田舎のヤンキーだな」

藤崎は太田に漏らした。


「聞こえるぞ」とまた太田は声を落として怒鳴った。


藤崎は彼らを観察した。

「ほ~」と言って、一つ頷いた。



奴らを見るなと言いたげに、太田はテーブルを指で3回打った。



「お前は何も分かっていない」

藤崎は言い切った。



「何ニヤついてるんだ?」

太田は怒った。



「悪い、思い出し笑いだ」



「何をだよ、気持ち悪い」


「俺が一番最初に解決した事件だ」

藤崎は遠い目をして話し始めた。


「大学2年の時の話だ。

こことは違う系列のファミリーレストランで、

ちょうど今ごろの時間帯だったな。

俺はモーニングセットを頼んで、小説を書いていた」

藤崎は今も小説を書いている。

当然、名探偵である藤崎は主に推理小説を書く。

でも、他の分野も書く。理系の藤崎はSFの分野を得意とした。

将来は映画化されて女優と結婚したいと藤崎は妄想した。

竹内結子なら結婚してもいいと。

だから、藤崎が書く小説には30代の女性の登場が欠かせない。



「そういえばお前、昼型人間だったなあ。

深夜まで大臣答弁を作ってった時、

よく居眠りしていたな~」

太田は官僚時代の藤崎を思い出して、笑った。

頭脳明晰の藤崎の弱点は、深夜の仕事だった。

でも、今は少し克服している。


「俺の隣のテーブルの男が、突然、怒りだしたんだ。

そして、店員を呼んだ。

男はナイフで皿の方を差し、わめいていた」


「何があったんだ?」


「聞き耳を立てると、『目玉焼き』がどうのこうのと言っていた」


「目玉焼き?」

太田は藤崎の皿を見た。


「皿にはハンバーグに目玉焼きが添えられていた。

『黄身が崩れている』と言ってたな」


「そりゃあ店の方が悪いだろう」


「でも、俺が見ても崩れてるように見えなかったんだ。

店員もそれで対処に困っていたようだ」


「それでどうした?

仲裁に入ったのか?

多分、その店員、綺麗な人だろう」


「ああ、女子大生のバイトかな。

とにかく、男の怒りが収まりそうなないから、俺は席をたった」


「逃げたのか?」


「ちょっと厨房に行った」


「人を呼んだのか?」


藤崎はニヤリとした。

「席に戻っても、男はまだ怒っていた。

それから1、2分後に男性店員がテーブルに駆けつけて、問題は解決した」

太田をじらそうとした。


「厳しく強い態度に出たのか?

金を返すから出て行ってくれとか?」


「いや、男は上機嫌になって食べ始めた」


「何をしたんだ。

早く種明かしをしろよ」


「俺は、心配そうに様子を伺っていた厨房のやつに、

『すぐに目玉焼きを焼いて持って来い』と言ったんだ」


「それで男は満足したのか?」


「男性店員が俺に頭を下げたのを見て、上機嫌になった男は俺に怒ったワケを説明した。

『目玉焼きをライスに乗せると美味しいだよ』と。

男は目玉焼きを二つライスの上に乗せた。

それでようやく分かった。

こぼれた黄身が皿を黄色く汚していた。

卵かけご飯みたいに半熟の黄身をご飯にかけるのがうまいと男は言った。

それから男は半熟の黄身を崩してライスと混ぜった」


「本当にうまい…」太田は途中で言葉を飲み込み、藤崎の皿を見た。


「ああ、本当に美味いんだ。

俺とお前の違うところは何でも試してみる所だ。

ちょっと下品な食べ方だが、美味しいんだ。

お前もやってみろよ」


「今度な」


「だから、お前は本質が見えない時があるんだ。

見た目で判断するくせをやめろよ。

さっき入って来た、酔っぱらった連中、

一人はちゃんと、しらふだったぞ。

あいつらでも飲酒運転には気を付けてるんだ」


太田は苦い顔をした。

「お前って、そんなに正義感強かったか?

官僚時代、一番出世を目指していただろ。

分かった、その女子大生を狙ってたな」


藤崎は口を結んだ。

痛いところをつかれたようだ。

「いや、そうじゃない。

彼女とは友達になったが…」


「それりゃそうだ」

太田は一つ頷いた。

「お前、女が苦手だったなあ。

だったらなんだ」


「それからも、その店で小説を書き続けた。

長居しても嫌な顔されなくなったんだ」

そう言うと、藤崎はフォークの背に載せたライスを頬張った。


太田は唾を飲んだ。

半熟の黄身がかかって黄金に輝くライスが美味しそうに見えた。


『カジノ作戦(仮)』は、後日投稿する予定です。


先日のクラス会で『愛と死のせつな』が7冊売れた!

やっぱり持つべきものは友だち!!

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