訪問者
雲は出ているけれど今日もいい天気。
日本では聞いたことのない虫や鳥の鳴き声が聞こえる森の中、私はコロと散歩している。
コロは小さな子犬の名前だ。
弱っていた所を拾ってきたら小屋に住み着いてしまった。
ジイも笑って名前をつけてあげなさい、と言ってくれた。
コロは聞き分けがよく、ジイや私が言うことは何でも聞いてくれる。
時々言葉を理解してるんじゃないか、と思うけどどうだろう。
この頃少しずつジイがいないところにも行けるようになってきている。
今も小屋が角度によっては見えないところまで来たけれど、まだ大丈夫。
ジイが視界からいなくなるだけですごく不安に駆られていた以前より、行動範囲は広がっている。コロと一緒じゃないと来れないけれど。
木の実を集めていると、突然コロが唸りだす。
不思議に思ってコロが見ているを向くと、何かの足音が聞こえてくる。
大きくなっているのだから、こちらに向かってきているのだろう。
「コロ、帰るよ!」
コロを抱いて小屋へ走る。
転びそうになりながらも必死で走り、小屋に入るとすぐに戸を閉める。
「ジイ、何かがいた!」
揺り椅子に座ったジイは、私を見て少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑う。
「大丈夫。ここは安全な場所じゃよ
もしかすると客人かもしれんな」
おいで、と手招きされて私はジイに抱きつく。
いつものジイに、音がうるさいくらいに鳴っていた心臓も落ち着いてくる。
コロもジイに撫でられて気持ち良さそうに丸くなる。
外から聞こえてくる足音はやがて小屋の前で止まる。
すぐに戸をノックする音。
「老師、いらっしゃいますか?」
お客さんはキルクと名乗った。
耳が長くて先がとがっている。
気になってずっと見ていたら、エルフだからね、と教えてくれた。
さっきの足音は馬のものだったようで、驚かせてごめんね、と謝られた。
ジイの知り合いみたいで、小屋に入れてお茶を飲んでいる。
私とコロはジイの膝の上。
「して、老師。そちらのお嬢さんは…?」
「わしの孫じゃよ。可愛いじゃろ?」
嬉しくも恥ずかしくなって、ジイの腕を抱えて隠れる。
「えぇ、可愛らしい。
すみません、話がそれました。この度の成人の義にはご出席頂けますか?」
「ソラと一緒でよければの。あとはソラが行きたくなければ行かぬが」
どうする、とジイが私の顔をのぞきこむ。
「ジイとずっと一緒?」
「一緒じゃ」
「コロも一緒?」
「うむ」
「じゃあ、行く」
小屋の周りの森以外も見てみたい。
ジイの冒険の話を聞いていると、時折こんな欲求もわく。
ジイが感動した景色を、私もその隣で見てみたい。美味しかったという料理店に一緒に行ってみたい。
エルフの里は大樹が素晴らしい、と言っていたので行く気満々であった。
「ということじゃの」
「分かりました。では後日迎えを出しますので、よろしくお願いします」
そうして初めてのお客さんは帰っていった。