思い
ゆらゆらと揺り椅子がゆれる。
背中からは規則的な心臓の鼓動と、呼吸に合わせてお腹が動くのを感じる。
ジイは揺り椅子でお昼寝するのがお気に入り。
よく寝てるから心配になって揺り椅子の近くをうろうろしていたら、「一緒に寝るかい?」と言って膝の上に乗せてくれた。
それ以来、ジイが揺り椅子に座ったら私も一緒に寝ている。
いつもなら揺り椅子に座ったジイの膝の上に乗っているとすぐに眠ってしまうけれど、今日は眠気が訪れない。
ジイのこと全然知らない。
頭の中はこの言葉でいっぱいになっている。
気がついてみると考えが止まらない。
私はジイにいろいろ話している。
地球の日本に住んでいたこと。突然こちらの世界に来てしまったこと。家族のこと。友達のこと。学校のこと。
上手く話せなくてもジイはニコニコ笑って聞いてくれた。
でもジイの話は聞いたことがない。
例えば、料理が上手いこと。掃除も丁寧で綺麗なこと。魚釣りが好きなこと。薪を籠いっぱいに持てるくらい力持ちなこと。一緒に暮らしていて知ったことは多い。
けれど、ジイが昔何をしていたのか。家族はいるのか。どうして森の中にある小屋に一人で住んでいるのか。ジイから話してくれたことはない。
聞けば教えてくれるとは思う。でもそれを聞いたら私はいらない子になるんじゃないか、と怖くなる。
実は家族がいるんじゃないか。私は邪魔になるんじゃないか。本当はこんな子供となんて一緒にいたくないのではないか。
そんな思いがぐるぐる回る。
思わずジイの服を強く掴んでしまう。
「ソラ、どうしたんだい?」
優しい声に、ぴくりと肩を震わせる。
聞いてみたい。でも、聞きたくない。
そんな相反した思いがぶつかりあう。
何かしゃべらないと、と思っても声が出ない。
今までジイの顔を見るのが好きだったのに、今は見るのが怖い。
無視して怒ってるかもしれない、そう思うと振り返ることなんてできなかった。
「急がなくてもいい。ゆっくり、思っていることを言ってみなさい。
なに、時間はいくらでもあるからの」
私の頭を撫でながら、ジイは笑って言う。
私は堪えきれず泣き出してしまった。
「怖いことはない。わしはソラの味方じゃよ」
「心配することはない。もうソラはわしの家族も同然じゃ。嫌かい?」
たどたどしくも話終わって、ジイはやっぱり笑っていた。
それを聞いて全身の力が抜けてしまったが、すぐに音がなりそうなくらい強く首を横に振る。
「それはよかった。
でも話さないでいたことが不安にさせてしまったのはすまなかったの。
これからは少しずつ話していこうか」
今度は縦に振る。
おそるおそるジイを見上げてみると、いつもの笑顔で笑いかけてくれる。
私はなんだか嬉しくなって、ジイの腕を抱えて頬擦りをする。
「わしの話は長くなるからの、途中で寝てしまうかもしれんからな」
とくんとくん、と規則正しい心臓の音を聞いているとだんだん眠くなってくる。
まだ話聞いてない、と思うも眠気に抗えずまぶたが落ちる。
「おやすみ、ソラ」
ジイの声を最後に私は意識を手放した。