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曇り時々雨、のち晴れ。  作者: 笹倉桜
1章
2/6

過去と現在

透き通るような青空を、鳥たちが泳いでいるかのように飛んでいる。

あんな風に飛べたらなあ、と思っても背中に羽などあるはずもなく。

ふと振り返るとジイが笑いかけてくれる。


「ソラ、そろそろ休憩にしようか。

あまり根を詰めてもいいことはないからの」


「わかった。じゃあ、これで最後にする」




奥野空、これが私の名前。

れっきとした日本人だけど、ここは日本ではなく地球上のどこかでもない。

1年前私はなんの前触れもなく、エルカディアの森へとトリップしてきた。学校からの帰り道を歩いていたら、ふと森の中に。

それはもう驚いて座り込んでしまった。実はそこからしばらく記憶がない。ジイが言うには偶然通りかかって声をかけても放心状態で、仕方なく抱きかかえて小屋に運び、ベッドに横にしたらそのまま眠ってしまったらしい。

私は起きたあとも精神状態が安定せず、癇癪を起こしたり急に泣き出したりしていたけれど、ジイに何日もお世話されてようやく立ち直れた。


ここが異世界だと理解したのはジイが魔法を使っていたから。

ここの夜は星や月明かりしかなく、窓がない小屋の中は光がない。本当の暗闇というのはものすごく不安にさせるもので、私は泣いてしまった。

少しするとジイが部屋に入ってきて、大丈夫かい、と光を灯してくれた。無機質な感じのする蛍光灯の光と違う、どこか暖かみのある魔法の光。

部屋の天井に浮いている不思議な光に、ベッドの側に座って頭を撫でてくれるジイの手に安心して、私はゆっくりと眠りについた。


ジイはいろんなことを教えてくれた。

森の中に住む動物たちのこと。食べられる木の実やキノコのこと。この世界にある大きな国や歴史のこと。そして魔法のこと。

ジイの膝の上に座って話を聞くのが何より楽しく、日本での勉強嫌いが嘘のように話をせがんだ。


特に興味のあった魔法に関しては、私は才能があるらしい。

ジイに誉められて頭を撫でられるのが好きで毎日のように練習した。

私が使えるのは光と水と風の魔法。火は危ないからね、とジイが教えてくれなかった。私自身も危ないものは使いたくなかったから、十分満足している。




私の中にある魔力にお願いする。


「光よ」


思い描いた通りに色とりどりの光が現れ、宙へ浮かび破裂する。

まるで花火のような光景に思わず故郷を思い出す。


「綺麗じゃな」


ふとした拍子にわき上がる寂しさも、ジイが撫でてくれるとどこかへ行ってしまう。

どんな言葉より、魔法より安心する大きな暖かい手。

ジイにもたれかかると、疲れに身を委ねて目をつむった。

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