005 母と私
昼寝から目覚め、ずっと母に張り付いていた私。あの違和感だが、母から感じるような気がするのだ。多分【超直感】スキルが働いてるんだろう。嫌な感じではないから、気長に探っていこう。
一週間程して、日に日に増していく違和感の出所を突き止めた。そして、違和感の正体がハッと分かった。出所はお腹、つまりは――おめでただ。
夜の団欒時、もぞもぞとソファーをよじ登り、母のお腹に耳を当てた。まだお腹は出てないけど、赤ちゃんのいる音って聞こえるのかな?
「レイちゃん?どうしたの?」
「ん?レイ?」
どうやらまだ妊娠には気付いてないようで、皆不思議そうな顔をしている。まあ、いきなりお腹に耳当てたらそうなるか。
私は報せるために、母のお腹、下腹部辺りをぺちぺち叩いた。
「んっ、いりゅーいりゅにょー」
「ん?いる?何がだい?」
「いりゅー」
口が回りません。残念ながら発音がなかなか出来ず、喋るのは得意ではないので、お腹に抱き付いたりさすったりして示すしかなかった。
それが功を奏したのか、母がハッと目を見張り、自分のお腹に手を当てた。
「…いるのね?レイちゃん」
「ん」
「赤ちゃんが、いるのね」
「んっ」
伝わってくれて嬉しい。コクコクと頷くと、父がすぐに医者を連れてくるようそばに控えていたラグさんに指示を出した。
「かあしゃま〜どうしたのぉ?」
「うふふ、家族がまた増えるかもしれないって話よ。皆に弟か妹が出来るのよ」
そう、私達に弟が出来るのだ。レオン以外女の子だし、レオンは特に嬉しがるかもしれない。
私はすでに、生まれてくるのは弟であると決め付けていた。これも直感の恩恵だろう。スキル【超直感】の上ランクのスキル【未来予知】が使えれば確信したのだが……パッシブでも、使えないのがあると分かった。【未来予知】がパッシブでいいのかって議論は常にされていたし、疑問視されてたのは殆ど使えない。
そして検査し、次の日の朝、正式に母の懐妊が告げられた。
「新しい家族が生まれる。特に、レイとアリシアはついにお姉ちゃんになるんだよ」
ついに私もお姉ちゃん。凄く嬉しくて、自然と頬が持ち上がりにんまり笑ってしまった。前世では、孤児院にいたから弟分や妹分はいたが、孤児院を出てからは疎遠になっていたし、血の繋がった兄弟はいなかった。アリシアは妹だが、双子だからお姉ちゃんって気分ではないのだ。兄姉がいるのも嬉しいが、下の姉弟は嬉しさがまた違う。
「それにしても、レイはよく分かったね」
「ふふ、子供って不思議よねぇ」
「れいすごーい!」
「えらいえらい!」
「うーっ!」
両親は微笑み、アイリスとレオンは誉め、アリシアは笑顔でのし掛かってきた。アリシアよ、お前さんはよく分かってないだろ…。そして、私が偉い訳じゃないぞ?母が偉いのだ。 その日は、一歳の誕生日の時に貰ったぬいぐるみ(尻尾が二本ある猫っぽい奴。私が黒い柄の白猫でアリシアが赤いの柄の桃猫)で遊び、あまり外には行かなかった。いや、母に負担を掛けちゃダメだと思って……まだ三ヶ月くらいみたいなんだが、転んだりしたら大変じゃないか。
私と同じサイズのぬいぐるみを持ってコロコロ転がったり、戦わせたりして遊ぶ。
「にゃー!」
「うにゃー!」
ばふばふと叩き合い、最終的に揉みくちゃになって転がった。母はニコニコ微笑みながら、それを見ていた。 あ〜幸せだな〜…、って思う。穏やかで、平和で、ゆったり時が流れて……前世の自分は、大分枯れてたんだなぁ、と思う。暖かい家族がいるってだけで、全然違う物なんだな…。
皆でご飯食べて、お昼寝して、母のお腹に耳当てて、父とお話して。
家族が増えたら、もっと幸せになる。私は、そう思った。
幸せな主人公。幸せなので、スキルの確認は週に一回やるかやらないかの頻度。だって使わなさそうだし…。とは主人公の言です。