039 気合いを入れる私
ふっと浮上した意識。ぼんやりとした視界に映ったのは、薄い白灰色の天井。
ここはあの台詞を言うべきか、とネタが思い浮かんだが、結局止めてむくりと起き上が―――れなかった。
体の節々が痛い。ギシギシしてるわ、何だか痺れている感覚までするわで、気分は最悪だ。
確認しようと顔を横に向けると、同じく横たわるリーリアが目に入った。反対側にはアズリアがいて、重たい頭を持ち上げて見ると、リーリアの向こう側にしぃとアリシアもいた。
どうやら全員目覚めているらしいが、滅茶苦茶表情が暗い。そこで私も何があったか、どうなったか思い出し、落ち込んだ。
私達は、あの魔王に完膚なきまでにメッタンギッタンにされたんだ。有り得ん、冒険者の最低ラインってどんだけレベル高いの。完全に舐め切ってましたマジすんませんッ!!
「全員目が覚めたか」
あーあーうーうー唸っていると、そう声を掛けられた。恐らく最後の攻撃で麻痺しているのだろうが、何とか体を捩り声がした方を見ると、ギルドマスターと顔面蒼白の魔王がいた。
魔王を見るなり顔を強張らせると、魔王は情けなく唸りながらがばりと頭を下げた。
「ごめんなさい! ついハイになってちょっとやり過ぎました!」
あれをついとかちょっとで済ますとか、流石魔王歪みない。つかやっぱりあれ最低ラインではないのか。
「魔王……」
「ごめ……って、魔王!?」
ギルドマスターが顔を背け肩を小刻みに揺らしている。あの強面で意外と笑い上戸なのか?
つい口にしてしまった内心でのあだ名に、マーサさんは慌てている。
因みに、魔王と言うのは此方では魔物の王として知られている。魔族に非友好的な人族なんかは、魔族の王を魔王と呼び所謂王道な勇者と魔王のお伽噺を子に聞かせていて、魔族にもそれは伝わっている。つまり、前世での魔王のイメージはここにもあるのだ。
落ち込む魔王だが、貴様に落ち込む権利はないと言いたい。貴様とか使わんけど。
「うううっ……私、魔王って……」
何だかガチでショックを受けている魔王……げふん、マーサさんは放っておいて、ギルドマスターの方に顔を向けた。
「あの……試験は…」
「んっ……げほっごほんっ。……マーサがやり過ぎてしまったが、君達は個々の能力も連携もなかなかだ。将来有望だな」
「じっ、じゃあ――…!」
「ああ―――合格だ」
思わず、やったあ! と叫んだ。ちょっと体が痛むが、それも気にならないほど嬉しかった。
有効打は一撃も入れる事が出来なかったので少し不安だったのだが、これで一安心だ。
「だが、及第点って所だ。焦りすぎて威力が高すぎる技ばかり使ったな。冒険者は人より魔物を相手にする事が多い。討伐証明部位や素材となる部分まで吹っ飛ばしては意味がない。もう少し冷静に見極めが出来なければならないな」
厳しい評価に、冷水を浴びせられた気分になった。言ってる事が正しいだけに、すぐ落ち込んだ。
その後すぐに、相手が魔物なら違っただろうとか、これはあくまで戦闘力の確認が主だから間違いではなかったとか、色々フォローしてくれた。だが、私としては確かに冷静さを掻いていた部分があったので、要反省だと心のメモに書き込んだ。
「……あの、二次試験はすぐやるんですか?」
反省点を反芻していると、そう問い掛けるしぃの声が耳に入った。そうだ、試験はまだあるんだった。 じっと見ていると、ギルドマスターはそうだな、と私達を見回した。
「まだ麻痺が解けていないようだし、少し休憩を挟む。状態異常回復魔法が使えるなら使え。恐らくはもうすぐ解けるだろうが」
私は体を動かしてみた。確かに、麻痺はもう解けていた。
上半身を起こし、体を確認。傷はない。恐らく治癒魔法で治してくれたのだろう。なら麻痺も治して欲しかった。使えないのかな?
「【麻痺解除陣】なのぉ〜」
いつもより語尾に力のないアリシアにより、私達の麻痺は完全に消えた。ありがとうアリシア。
「……サークル系も使えるのか」
「うう、将来有望にも程があるわよう」
広範囲の治癒はかなりの難易度だ。この年で使いこなすのは、神童通り越して最早神である。…大袈裟か。
驚く彼等を余所に、私達は立ち上がり体を解す。頑張らないと。
正直に言おう。私は、魔法も使えなければ身体能力も中の下か中の中だ(勿論種族の中の話で、前世や人族からしたら超人並み)。生産と遠距離攻撃が優れていなければ、ただの出来損ないだった。
ゲームではプレイヤースキルが高いと言われていたし、私自身システムアシストは殆ど使わなかったが、やはり自分の力とはちょっと誇り辛い。
でも、私は使えるモノは何でも使うタイプだし、努力もしたから。だから私は、皆の足を引っ張らないようアシストに徹する。
(頑張らないと…)
「二次試験は、魔物との戦闘だ。先程言った素材の剥ぎ取りを考慮に入れ挑め」
ギルドマスターのアドバイスに返事を返し、私は弓を構えた。
頑張るぞ、頑張れ、レイハナ!