037 戦う私達
まさかの展開に頭を抱えた。中立機関に口利き出来るってどうなの、と思ったが、どうやらギルドマスターの父親が私達の祖父母、四神英雄と知り合いらしい。
「まあだからと言って贔屓はしないがな。こういう要望は稀にあるんだ」
曰く、個人戦闘力はあまり自信ないが、連携は抜群な人達がいて、一人じゃ合格出来ないがパーティ戦なら格上も相手取れたらしい。それから、カードにそれ用のマークを印す事でパーティ限定で受けられるようになったらしい。
但し決まった相手のみで、一人で受けたり他と組む場合は、一人で試験に合格しなきゃならないらしい。この場合は無料らしいよ。
……なんて、現実逃避してる場合じゃないな。
「確かに、お父様達との訓練、コンビネーションが多かったわね」
「パパ上も、冒険者は連携が大事って言って皆と一緒なのを想定した戦いばかり教えてくれたわ」
「リーリアは相変わらずパパ上呼びなんだね。……確かに、うちもそんな感じだし合同訓練ばっかだったよね」
試験に向けての訓練だっつーのに、連携取れなきゃダメだよってごり押しでパーティ戦ばっか仕込まれたのは、これが原因かあ。勿論個人訓練もしたけどね。
「えーっと、じゃあ自己紹介させて貰うわね。私はマーサ、元冒険者の人気受付嬢よ♪」
無言。ウインクしたマーサさんに六対の白けた目が向けられた。
「ちょっ、ちょっとした冗談じゃない! そんな目で見ないでえっ!」
……何がしたいんだろう、この人。
対峙しながら、私達は顔を見合わせた。これならイケるかも?
「―――では、始めッ!」
「んふっ、本気は出さないけど―――手加減は、しないわよ?」
……ま、そんな甘くないよね!
薄く笑ったマーサさんは、右腕を振り一瞬で水の矢を無数に己の背後に出した。それはまさに壁。圧倒的なその量は、本気じゃないって言葉に突っ込みたくなる。
やる前の緩んでしまった空気は一気にピンと張り詰め、私達はすぐさま武器を構えた。
前衛はしぃとリーリアとアズリア。後衛は私とアリシアだ。肉体一本のしぃは遊撃、ナイフとレイピアが得意なリーリアは臨機応変に中衛、剣士のアズリアはアリシアのタンクで、ダメージディーラーのアリシアを護る。私は、本職の援護役として、羽を羽ばたかせた。
しぃが、私は超遠距離からの絨毯攻撃が得意だなんて言っていたが、あれはあくまでもソロの時だ。前衛が二流……さ、三流よりの二流だから、距離を取らなきゃ戦えないのだ。私の流派は流派と言う名の暴挙だし。
パーティでの私の仕事は、弓と魔法による援護である。ダメージディーラーもやるが。
背中の開いた服だから羽はちゃんと出せます。羽ばたきも阻害されず、すぐに天井付近で停滞し構えた。
「行くわよっ! ―――ハッ!!」
「まずは回避力の確に―――、え?」
流石しぃ。飛んでくる水矢を拳で粉砕して進んでる。私の援護いるのかあれ。
「ま、やるけどね」
流石にあの量は裁けないだろう。私は背中の矢筒から矢を一本取り出した。
私達の武器は、五歳の誕生日に叔父様から貰った武器を、私により魔改造されまくった奴だ。見た目は一応面影があるが、あの叔父様がドン引きするレベルの改造は、私が調子に乗った結果だ。周りが囃し立てたのも原因である。
そんな魔改造品の矢はググリア樹って言う巨木の枝と、フェリオ鳥の羽、アダマンタイトの鏃で出来ている。ゲーム時代は、アルヴァリオン樹の幹の中心部、極彩色神鳥の羽とハイリー鉱石の鏃の最高級素材を惜し気もなく使った矢を使っていた。だって手元に戻ってくるように出来るんだから、耐久性に優れた、寧ろ不壊の属性を付与出来る素材を使うのは当然です。
「【降り注ぐ水の矢】」
弓スキルを使い、一本放つ。先端から噴き出すように螺旋を描く水を纏った矢は、放たれてすぐにどんどんと分裂し、しぃに向かうマーサさんの水矢にぶち当たり粉砕した。
「なっ……!?」
「【粉骨砕身】!」
「――っぐ、はぁ……ッ!?」
的確な狙撃に驚き一瞬固まったマーサさんに、しぃの拳がめり込んだ。あの技は、骨を体を砕き粉にする威力がある。因みに四字熟語と関係はない。
吹っ飛んだマーサさんは壁にぶち当たり、そこに更に魔法が迫った。
「―――【ポイズン・ボム】」
「【マグマ・ウェーブ】なの!」
慌てて避けたしぃの横をすり抜けたのは、リーリアの毒爆弾とアリシアの溶岩波である。彼奴等に慈悲はないのか。
完全なダメ押しは、土煙がもうもうと立ち込めるそこに着弾し、毒霧とマグマの柱が発生した。
「……いや、やりすぎじゃね?」
「だいじょぶなの! 死なない程度にしたの!」
「私の麻痺毒よ」
何この子達怖い。特にアリシアよ、お前素直で無邪気な笑顔と口調で何言ってんの怖いよ!
慌ててギルドマスターを見るが、微動だにしない。その様子に眉を顰め―――
「ぜーいん退避イィッ!!」
しぃの悲鳴染みた声に、反射的に全員後ろに飛び退き私は矢をつがえた。
瞬間、ゴォッ!! と突風が毒霧の中から発生し、霧とマグマの柱を吹き飛ばして尚強い風が、私達を襲った。飛行が困難になる程のそれに、つがえていた矢を離しバランスを取るのに必死になった。
「うーん、その年でなかなか……ちょっと甘く見ていたわね」
ピタリと風が止み聞こえた声に、私達は凍り付いた。
声は大きくない。寧ろ、独り言に近い声量だった。なのに、この距離でもやけに鮮明に聞こえ、ぞくりと背筋が粟立ち動機が激しくなった。
「闘拳家の威力もなかなか、弓使いの正確さも目を見張るものがあるわね。あの年でマグマ・ウェーブを使えるのも凄いわ。ナイフ使いとタンカーの実力もみたいわね」
冷静に分析する声の主、マーサさんは軽傷で平然と立っていた。
「―――さあ、第二ラウンドと行きましょうか」
どうやらこの試験、一筋縄じゃいかないどころか。
「……ハードモードってか」




