030 拗ねてる私
あの誕生日から数ヶ月が経った。上げて落とされた翌日、荒れに荒れた私は海で魚を釣りまくり、料理しまくり、食べまくった。自棄とか言うな。
私はスキルの恩恵により、会話と文字を読むのは全く問題ない。ただ、書くのは全然ダメなのだ。
魔法が使えない私は、文字の練習を始めた。魔法言語(あの魔導書の文字をそう呼ぶ事にした)は、後回しだ。一気にやる気がなくなったからなあ。
そんな私は、八つ当たりの如く色々と作っていった。まあ、うん、元々私は生産特化だし、それだけで十分チートだけどさ?でもやっぱ、魔法とか使ってみたいじゃん。前使った時(襲撃事件)はあまり覚えてないし。
一応これは皆への誕生日プレゼントである。贈り物、にしては怨念籠もってそう……いや、言うまい。
家族には大分心配させたが、大体立ち直ったので最近は作ったおもちゃで兄弟皆で遊んでいる。
マジックアイテム、の魔導ボード。見た目はスノボで、魔力で地面から十センチ浮かび上がる。これで壁だって走れるのだ。ジャンプ台に見立てた何かで、魔力を一瞬爆発させる事により、空だって少しなら跳べる。上手くハマればだけどね。
それはさておき。
もう少しでしぃの誕生日である。私は、叔父様と共謀し(いや、悪い事する訳じゃないけど……)とある物を作成した。しぃに貰った鉱石を使ったのだ。
あの様々な色に煌めく美しい鉱石は、ハイリッヒ鉱石とリーベ鉱石。二つ合わせてハイリー鉱石と呼ばれている。これは、二種類で一つみたいな物だからね。 神聖な愛――そんな意味があるこのセット鉱石は、神に祝福されし鉄の異名すらある。確かにそれだけの物だ。インゴットにさえすれば、トップランカーの生産プレイヤーなら武器に出来るから、唯一インゴットに出来た私は左団扇だった。あれ、他にも居たっけ?
これの性能は、バランスブレイクも甚だしいモノだった。作り手のレベルや腕前に依存するからピンキリではあったが、私や他有名生産プレイヤーは、凄まじいもんばっか作ってた。
フローラの中にある今まで作った武器やアイテムは、大半が材料に分解されてしまっているから、一応これもあったが、数が少なかったからね……見つかって死ぬほど嬉しい。
まず、インゴットにする。両親に許可を貰い、庭の片隅に建設した工房で汗だくになりながら頑張る。この工房、普通に住めるしリビングもあるので、普段は子ども達の秘密基地になっている。秘密じゃないけど。因みに土足厳禁。
建てて数ヶ月の真新しい工房で、熱気に包まれた格闘の末、七色……いやそれ以上の色に煌めく美しいインゴットが数個出来た。……もちっと欲しかったが、贅沢は言うまい。
「さて……問題は、何を作るか……」
<決めていなかったのですか。流石マスター、職人なのに計画性がありませんね>
「うるへ」
毒舌に磨きが掛かったフローラを流しつつ、腕を組み首を傾げ胡座でむぅんと悩む。
叔父様には、しぃは接近戦、特に肉弾戦の鬼神だと言ってあるので、叔父様からはガントレットの類が贈られるだろう。成長の早い子どもへだから、調節可能の小手だと思う。
それならと、私は鎧をあげようかと思ってる。糸状にしたハイリー鉱石を織り、動きやすく、且つ可愛く愛らしく美しい簡単に着脱可能の鎧だ。魔法少女的な。
「変身とか流行ったからなあ……流行らせたの、特撮マニアギルドだっけ?あ、魔法少女マニアギルド?変身マニアギルドだったっけか」
<見事にマニアばかりですね。皆一緒では?>
「彼奴等、マニア連合とかマニアネットワークとかで、協定を結びつつそれぞれの良さを語るライバルだったんだよ。で、私等にゃ分からないが、全部違うらしく……ならば直接分からせようと、それぞれのギルドがバラバラにそれだけの変身武具を注文してきた」
特撮マニアは戦隊モノ、魔法少女マニアは魔法少女の、変身マニアは変身モノ全般で拘りは個人個人で違うが、着ぐるみや悪役も範疇らしくどちらかと言えばコスプレマニアだ。
同じじゃねぇの?とも思うが、彼等にとっては全然違うらしい。マニアの拘りなんて分からない。
<つまりはマスターが変身アイテムの火付け役と言う事では?彼等の満足行く物を作り上げたのはマスターのようですし>
「いや、確かに作ったのは私だけど、デザインは彼等も交えてやったし、初めての変身アイテムだったから運営側にもちょい協力求めたしね。私が火付け役って事はないよ」
しぃも一緒になって考えたんだ。あれは楽しかったなあ……。まあ、作り手の私にゃ負担が凄まじかったが、それも今となっては良い思い出だ。
まあそれは良いとして。魔法少女的な変身アイテムを作るに辺り、まずはデザインだ。ゲームではサイズとか気にしなかったからなあ……子どもはすぐ大きくなるから、ちょっと難しいかな……。
「ぬぅ……あ、前漫画でサイズに勝手に合わさるナノマシンスーツっての見た気がするな。あれ出来ないかな?」
<恐らくは可能かと。変身アイテムを作るためのスキルがあったと思いますが、それで加工すれば出来ます。勿論、余分な鉱石も入れ、明確なデザインを明らかにしておかなければなりませんが>
「……お前、私より詳しいよな?スキルについて……」
ちょっと複雑な気分になりながらも、そうと決まればと早速製作に取りかかった。
アズリアちゃんとシル兄ちゃんの誕生日も近いので、そちらも同時進行で作る。
アズリアちゃんはどうやら釣りをいたく気に入ったらしいので、アズリアちゃんが好きな白薔薇の絵が描かれたこれまたアズリアちゃんが好きなオレンジ色の釣竿をプレゼントに選んだ。
シル兄ちゃんは、王家の家紋のピアスにする。シル兄ちゃんの燃えるような紅蓮色の短髪によく映える、瞳と同色のエメラルドのピアスに、細い銀の鎖で繋がれた月と太陽がなまめかしく絡み合う紋章が揺れる。そんなのをイメージした。ピアスと言うよりイヤリングに近いかも。
因みに、我が家の家紋は十字架に茨が絡み付き大輪の薔薇が一輪咲いてるものだ。
つい先日のマリ姉ちゃんの誕生日では、アリシアの等身大フィギアをプレゼントし、マリ姉ちゃんを危険人物へと仕立て上げた。鼻から愛情が迸っていたよ……。あれはヤバかった、もうあんなプレゼントはしないと自主的に誓っちゃうくらいには怖かった。
「うっしゃ、やるかぁ〜」
<頑張ってください、マスター>
魔法がナンボのもんじゃい!私には生産スキルがあるからいいんだよ!く、悔しくなんてないんだからねっ!拗ねてなんかいないんだからねっ!?負け惜しみなんかじゃ、ないんだからなーっ!!




