029 上げて落とされた私
フローラ久々登場です。べっ、別に忘れてた訳じゃないんだからねっ!
ぞろぞろと外に出て、試し打ちをする事にした。許可を貰いに行ったら、成人組は引っ張られ風呂場に連行されたので、未成年者(100歳未満)だけで庭に来た。許可は貰ったよ。叔父様は未だグロッキーだったので、お礼は言ったがあまり反応がなかった。当然他の皆にもお礼したよ。
どうやら、今から魔法を教えて貰えるらしい。五歳からは魔法を習うから、ちょっとフライングしてもいいだろうって。
私は、魔法スキルが何かを媒介(例えば弓矢に魔法を込めたり)にしなきゃ使えなくなったので、凄く楽しみだ。まあ魔法はアリシアが習うから、私はその序でだけど。
矢筒と10本の矢もセットになってたのでそれを背負う。的はリズ兄ちゃんが魔法で作った土塊の人形。
「アリシアには〜魔法の使い方を教えるからぁ、先にレイかられんしゅーすればいーよぉ〜」
「あいさー」
ぽやーんなカイン姉ちゃんの声にぽやーんと敬礼し、弓を構えた。
リアルでは初めてのはずなのに、体が覚えてる(・・・・・・)って感覚は何度体験しても慣れない。ゲームでの経験のみなはずの矢のつがえ方、構え方が身に染み着いてるように自然と行えた。
人型の土塊に狙いを定め、躊躇いなく矢を発射。矢は肩の辺りに突き刺さった。……あり?
「お〜!凄いなレイ!」
「レイすごぉい!」
「一発目で当たるとはね…」
アイ姉達が感嘆の声を上げ囃し立てるが、私はやっぱり…、と肩を落とした。
「……頭、狙ったつもりだったのに」
「まあ、この体では初めてだし、上出来な方じゃない?」
しぃが肩にポンと手を置き慰めてくれた。でも結構ズレたぞ。スキルなしだからか?
「レイ、凄いわ。よく当たるわね」
「ま、まあなかなかじゃない?すっ、凄いなんて思ってないんだからね!」
リーリアちゃんとアズリアちゃんがそう言ってくれた。アズリアちゃん、素敵なツンデレありがとう。私はぶっちゃけ前世ではツンデレ大嫌いだったが、暴力のないツンデレはなかなか可愛いよね。照れ隠しが可愛いだけの暴言とも言えないものだし。
まあこれから練習すればいいよね、と回収してきてくれた矢をお礼を言ってリズ兄ちゃんから受け取った。
「皆〜アリシアも魔法撃ってみるよぉ〜」
アリシアに魔法をレクチャーしていたカイン姉ちゃんの声にそちらを向く。水晶製の杖を持ったアリシアは、お日様の妖精さんだと思う。何あの可愛さ愛らしさ、母達に滝のような涙を流しながら連行されていったマリ姉ちゃんがいたら、貧血になってただろう。マリ姉ちゃんがいないからカイン姉ちゃんが教師役を請け負ったのだ。
場所を譲り、杖を構えるアリシアにでれっと顔を崩した。目をキラキラさせるアリシアマジ天使。何れ淫魔の尻尾(黒く細長い、先端がハートをくっつけたようになってる尻尾。尖ってる方を先端にしていてちょっとセクシー。淫魔として成長すると生える。収納可能)が生えてくるとは、そして私の妹とは思えない。
「頑張れ〜アリシアー!」
「うんっ、行くのっ!――――【ファイアーボール】なのーっ!」
え、いきなり詠唱破棄?と思う間もなく、突き出した杖の先端から発射されたバスケットボール大の火の玉は、土塊に着弾し火柱が上がるほど一気に燃え上がった。
皆、唖然。顎が外れそうなくらいカパッと口を開きそれを見ていた。土塊は形を保っていられず、ボロボロと崩れ去り、火が消える頃には、土の小さな山だけが残っていた。
……、え?
「わぁっ!やったあ!出来たの!レイー出来たのー!」
純粋に飛び跳ねて喜び、私に抱き付いてきたアリシアに、かわええ…、と遠い目で思った私は悪くないと思う。
……私なんかよりも、アリシアのがよっぽどチートだよな。初めてで詠唱破棄とか天才過ぎるだろ。
詠唱短縮、詠唱破棄、無詠唱と三種類ある。魔法は詠唱と魔法名で出来ていて、詠唱短縮は詠唱を一節だけに出来て、詠唱破棄は魔法名のみ、無詠唱は無言詠唱と言えば分かり易いかな?難易度はどんどん高くなる訳だが、アリシアは……うん、やっぱチート。
「あっ、レイも魔法やろ!」
「ん?あ、うんそう――」
<マスター、残念ですがマスターに皆様と同じ魔法は使えません>
アリシアの誘いに頷き掛け、フローラが被せるように言ったそれにえっ、と固まった。私だけの時以外は話さないフローラは、こういう冗談は言わない。
<マスターは魔力も少々特殊で、普通の方が使う術は使えません。正確に言えば、発動形態が違うので、何かしらの補助が――矢などを経由させ――なければ、発動しません>
「え……、っええぇぇええええーーーっ!!?」
フローラのそれは、私に多大なる衝撃と混乱を与えた。思わず叫び、フローラ(自分の左手)に迫るほどに。
「ちょっ、何でさっ!?どういう事!!?」
<マスターは魔法スキルも使えませんよね?それは補助なしに発動出来ないからです。何故なら、マスターの魔力の在り方、マスターの存在感が独特だからです>
「いや意味分かんないし!う、嘘だろぉー……」
ガックリと膝を突きうなだれた。この仕打ちは酷い。私、マジでガチ弱いんだって。武器がなきゃ二流なんだって。魔法なかったら余計弱体化するじゃんか!
皆にも私達の会話が聞こえていたのか、気まずそうに慰めてくれた。うぅ、優しさが傷に染みるぜ……。ぐすん。
だがしかし。うちのフローラは上げて落とすのも上手けりゃ、落として上げるのも上手いらしい。
<私はマスターが魔法を使えないとは言ってません。皆様と同じ術式が使えないと申しただけです>
「――っえ…!?」
ガバッと顔を上げ、ピコピコ光るフローラをガン見した。どどど、どういう意味だ!?
<要するに、マスターに合った独特の術式なら発動します>
「わ、私に合った…?」
「フローラ、焦らさないで早く教えて!」
しぃが急かす。皆が注目する中、フローラは一冊の分厚い本を出した。純白に漆黒のぷっくりした文字が書かれたハードカバーの重厚な本。
「これは…――?」
<マスターの使える術式が載った本です>
簡潔に述べたフローラ。私はゴクリと喉を鳴らし、本を開いた。
一ページに二つから三つ、魔法陣が描かれその横に見た事ない文字が踊っている。波線と点で区切られているので、結構見易い。魔法陣は丸が多いが、星形や多角形など様々な形のがある。
期待に胸を膨らませドキドキしながら、パラパラと古ぼけた味のあるページを捲り――…、頬が引き攣った。
「……あの、文字読めないんだけど」
<当然です。理解系のスキルも意味ありません。努力あるのみ……勉強必須です>
「……ッ!!ぬあああぁぁぁーーーっ!!!」
……やっぱりフローラは、上げて落とすのが上手い。